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posted:2020.12.10 from:青森県黒石市 genre:ものづくり
〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
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writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
「日本の道百選」にも選ばれ、
伝統的建造物が残る青森県・黒石の〈中町こみせ通り〉。
江戸時代につくられたアーケード状の木造通路「こみせ」や酒蔵、
商家などが建ち並び、風情あるまちなみをつくりあげています。
古き良き津軽ならではの暮らしぶりが感じられる〈古津軽(こつがる)〉のエリアでもある黒石。まちを歩くと江戸時代から今に息づく「ものがたり」が感じられます。時期によっては地元有志が描いた「ねぷた絵」が飾られています。写真は大正2年創業の酒蔵中村亀吉。
そのこみせ通りの一角に、
窓からほんのりとやわらかな光を放つ店〈IRODORI〉がオープンしました!
まつりなどで実際に使用した「ねぷた絵」を再利用した
灯ろうやうちわの販売・制作体験を行う工房です。
こみせ通りに面した窓からも鮮やかな灯ろうの光が見えます。
実際に使用された本物のねぷた絵が使用されているうちわ。同じ図柄はふたつとありません。
各地域でねぶた・ねぷたまつりが開催される黒石市では
毎年7月30日から8月5日まで、約50台の人形ねぷたと扇ねぷたが
「ヤーレヤーレヤー」のかけ声とともに運行されます。
ねぶた・ねぷたの起源は、邪気を払うために川や海に灯籠を流すねぶり流しとされ、
もともとは祭りが終わると描かれた絵を川に流していたものでしたが、
近年は廃棄されていました。
「ほしい人が引き取る場合もありましたが、
大きいから飾ることもできないし、結局畳んでタンスの中にしまわれていたり。
それだともったいないし、もっと有効に活用できないだろうかって考えて」
と話すのは、〈IRODORI〉の店主木村正幸さん。
黒石のまちあるきや体験ツアーでまちづくりを行う
NPO法人〈横町十文字まちそだて会〉のメンバーです。
店主の木村正幸さん。〈IRODORI〉は、まちそだて会で運営しています。
会では5年前からうちわ制作体験を行っていましたが、
さらに活用できる方法とまちをおもしろくする場所をつくりたいという思いから、
〈IRODORI〉をオープンさせました。
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うちわの制作体験は、とても贅沢な体験。
四隅をそれぞれ持っても広げられないほど大きなねぷた絵から
好きな部分を選び(至福の時間!)、うちわ型に切り取ります。
巨大なねぷた絵。どんな絵を切り取れるかは、訪問した日の一期一会。
うちわ型を合わせて好きな場所を切り抜きます。
灯ろうの制作体験では、灯ろうに貼る和紙を、
ねぷた絵を四角く切り分けた専用のパーツから選ぶことができます。
このまま飾りたいほど魅力的なパーツは、どれも本物のねぷた絵の一部。色とりどりで目移りしてしまいます。
黒石ねぷたは、昔から幅の狭い道で運行されてきたため、
ねぷた自体の大きさが小さく、
細かいパーツに裁断しても色や柄の変化が残りやすいのが特徴。
「大きいねぷただと、このサイズに裁断すると図柄が大ぶりになってしまう。
黒石のねぷたは、狭い沿道に人がわんさか来て、
間近で見られるから絵師さんも手を抜けない。
だから昔から絵が繊細と言われています。小さなパーツをつくるのにもってこいなんです」
内装の障子にも切り分けられたねぷた絵が美しく配列されています。
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パーツをつくる際は、絵師へのリスペクトを忘れません。
「絵師さんが描いたねぷた絵を“切り刻む”わけですから、
絵師さんがそれを見たらどう思うか、
余すところなく丁寧に扱いたいという思いでつくっています。
1回役割が終わったものを、別のものに生き返らせる。そういう感覚なんです。
絵師さんは“絵”として描いている。
それをリセットするために切って、それぞれのパーツに生まれ変わらせる。
南部の裂織(さきおり)に似ているなって思うんです。
裂織も、きれいな反物の絵や柄をいったん細い紐状に切り裂いて、
新たな模様のものをつくっている。その過程にすごく似ていますよね」
切り分けられたカラフルなパーツ。新たな命が吹き込まれます。
絵の意味を尊重し、
販売されている灯籠はふたつのコンセプトでつくられています。
ひとつは、いろいろな絵師が描いた絵のパーツを組み合わせている商品。
「あえてミックスしています。いったん切ってリセットしたパーツを集めることで、
この灯籠自体が新しいねぷたという別の命になったらいいと思って」
もうひとつは、もともとの絵の意味を残し、テーマ性を持たせている商品。
牡丹のみで構成した灯ろう(手前)。牡丹は津軽家の家紋で、「皿」「開き」と呼ばれるねぷたの斜めにつくられている部分に必ずといってよいほど描かれます。奥は不動明王を題材にしたねぷた絵でつくられたもの。
「テーマ性があるものは、ひとつのねぷたから切り取ったパーツだけで組み立てます。
ねぷたはひとつの台で物語になっているので、
水滸伝の名場面と源平合戦の絵が混ざっていたら変なんです。
和柄のものは和柄、中国がテーマのものは中国柄のものだけでつくったり。
絵師さんへのリクペストの思いを込めて選んでいます」
和柄のみで構成された灯籠。「弘前や黒石ねぷたは、練り歩くねぷたの鏡絵(表)を見ながら、見送り絵(裏)はきっとあれだな(関羽が描かれていたら、弟の張飛が描かれているとか、源平合戦がテーマだったら平家蟹がいるとか)って予想するんです。当たったら『ほらやっぱり!』、はずれてても『そう来たか!』と、そんな感じの知的な楽しみ方をするんですよ(笑)」。
ねぷたに描かれた絵師の思い。
インスピレーションで選ぶのも楽しいですが、込められた物語もぜひ尋ねてみてください。
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〈IRODORI〉で使用されているねぷた絵は、
町会や関係者から無償で提供してもらったもの。
収益は〈まちそだて会〉の活動費としてまちづくりに還元されます。
会のモットーは、“まちなかにほっとくつろげるサードプレイスをつくること”。
「こういう場所を増やしていけたらいいなと思っています。
サードプレイスってカッコつけていうけど、わかりやすく言えば“店“なんだなと思って」
店内には木村さんがセレクトした青森のつくり手の品も並びます。
青森市〈トヨカワイラスト研究室〉の〈はとぶエッ!〉。無地の鳩笛にユーモアたっぷりなオリジナルの絵付けを施した、津軽の郷土玩具・下川原焼7代目阿保正志さんとのコラボ商品です。
「毎回自分でテーマを決めて絵付けしているみたい。
ガングロギャルの鳩もおもしろいし、
野球のユニフォームを着ている鳩には背番号810(ハト)がついていたり。
あとは、まちでよく見る鳩(そのままのグレー色!)とか(笑)」
「エッ!」と驚くユーモアたっぷりな鳩笛たちです。
〈鉄瓶こけし〉や〈やかんこけし〉は、以前紹介した〈こけしのあたまんじゅう〉のイラストも描いている弘前市〈COOKIES〉の作品。ユニークな創作こけしを手がける人気作家です。あたまんじゅうをデザインしたのも実は木村さん!
「地域の協力でつくるこうした拠点が、
まちあるきの楽しめるポイントになって、その収益で次の店をプロデュースしていく。
まちに楽しむ場所が増えて、それが黒石の魅力につながって、来訪客が増えていく、
そんなイメージで活動しています。
近隣の方もマイクロツーリズムを実践して来てくれていますよ」と木村さん。
ねぷた絵を手に取れるのは、青森県内でもなかなかできない体験。
絵の物語を聞いたり、青森ならではのつくり手の品に出会えたり、
ついつい長居したくなる〈IRODORI〉。
きっとみなさんの第3の場“サードプレイス”になるはずです。
IRODORIを拠点に、黒石はじめ古津軽(こつがる)エリアを
散策してみてはいかがでしょうか。
information
IRODORI
住所:青森県黒石市中町38
TEL:0172-55-6188
営業時間:11:00~15:00、(土日祝)10:00~16:00
定休日:火曜
制作体験
うちわ:2600円(販売価格は2000円)
灯ろう:3800円(1段)、5800円(2段)、8800円(3段)(販売価格は同料金)
古津軽(こつがる)
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