news
〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。
writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
岩手県と接する青森県南部に位置する南部町。
その三戸駅のすぐそばに〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉はあります。
人口約1万6千人の小さなまちでカフェを営むのは、
「次の世代に誇れる故郷を残す」ことをミッションに、
南部町の資源を活用し、魅力発信を行う〈合同会社南部どき〉の
代表・根市大樹さんと奥様の雪奈さん。
店ではコーヒーと燻製のエッセンスが入った軽食や商品を販売しています。
食品を燻すチップは、南部町で育まれた果物の剪定枝を利活用したものです。
山に囲まれた南部町は、
朝晩の寒暖の差が激しく果物栽培に適した土地。
多くの果樹農家がありますが、高齢化もあり、
剪定枝の処理が問題になっていました。
果樹による香りの違いを尋ねると、
「秋冬に収穫するリンゴは実を成熟させるために栄養が枝に残らないため、
クセや香りが少ないんです。
夏に収穫する実の小さなサクランボは、
枝に樹液が豊富に含まれているので甘味が出ます。
ビールやワインにはリンゴやサクランボがおすすめ。
ブドウはタンニンの渋みがあり、
舌にピリッとくるのでウィスキーと合いますよ」と大樹さん。
ウッドチップではナッツのほか、
オイル、コーヒー、しめ鯖や鮭トバなども冷燻。
燻したマヨネーズとナッツをはさんだサンドウィッチや、
オイル・ナッツ・チーズ・ベーコンを燻して
トッピングしたピザなど軽食もテイクアウト可能です。
Page 2
剪定枝の処理は、廃棄することももちろんですが、枝を集める作業がそもそも大変。
剪定のシーズンは冬。
「雪の中、じいちゃんばあちゃんたちが
畑を歩きながら切った枝を集めて1か所に持ってきて処分してもらうんですが、
高齢の方が広い畑を歩いて集めるのは大変な労働で、
それが理由で果樹農家をやめてしまう人もいるんです」
「あるおじいちゃんが、枝を集める作業をしながら
『いや~これ(剪定枝集め)がなかったら、
あと5年ぐらいは(農家)できる(続けられる)』って言ったんですよね」
「そのおじいちゃんはサクランボ農家さんだったんですが、
サクランボは収穫が夏場に終わって、一回農作業が止まっているから、
冬場体が動きにくくなっているんです。
ウォーミングアップがないまま作業するのがすごく大変と言っていて」
当時、200人以上の南部町の農家とともに、
果樹生産のサポートや農業体験の実施など、
地域活性を行う〈NPO法人青森なんぶの達者村〉にも勤めていた大樹さん。
「同じような課題を抱えている農家さんが南部町にはたくさんいる。
剪定枝の問題を、もっとダイナミックに解決できる方法はないだろうか」と考え、
生み出したのがウッドチップでした。
枝集めには、地域の障害のある方たちの力も借りています。
南部町では「農福連携」を掲げ、農業と障害者の就労とが密接。
夏場はニンニクの皮剥きなどで取り合いになるほどですが、
冬場は収穫作業がなく仕事が減るため、win―winの関係が成立しています。
ウッドチップは、店前や公園に敷くクッションとしても活用。
歩くときの足への負担が軽減されるほか、
ホコリが舞わず、燻した後のチップは木炭になり虫除け効果も。
需要がありそうですが、販売は一切行っていないんだそう。
「地域の農家さんがほしい場合は無料で提供しています。
なるべく地域循環できればいいなと思っているんです」
Page 3
南部町出身の大樹さんは、
もともとは新聞記者として地元の農政やまちづくりなどを中心に取材。
社会人になった頃は継ぐつもりはなかったと言いますが、
農家だったお祖父様が引退する際、転機が訪れます。
「両親は学校の先生だったので後継者がいなかったんです。
両親は、畑は売ってしまおうと簡単に言ったんですけど、
(売ってしまうのは)なんかちょっと違うんじゃないかという引っかかりがあって」
大樹さんは新聞記者を辞め、農業を学びに1年間オーストラリアへ。
帰国後お祖父様の畑を継いで農業を始めました。
「ひとりで農業をやっているとすごく大変で、
近所の農家さんが枝の切り方や水のやり方を教えてくれるんです。
農作業しながら話していると『後継ぎがいなくて』とか、
『いいものつくっているんだけど売り先がなくて』という声が聞こえてきて」
「それであればレストランをやったらいいんじゃないかと、
70歳オーバーの農家さんと4人で始めたんですが、
自分たちで育てた素材だけでメニューをつくれるって思っていたら、
実際やってみると2割くらいしか地元のものでできなかったんです」
「レストランで提供する食材は
100%南部町産にしたいというこだわりはもっていたので、
もっとたくさんの地域の農家さんたちと一緒にできないかと話すようになりました。
そうしているうちに〈NPO法人青森なんぶの達者村〉が立ち上がって
所属することになって……」
導かれるようにいろんなタイミングが重なり、
地域のための観光や販売を農家さんと一緒に行うように。
〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉は2018年にオープンしました。
当初始めたレストランは、
弟の根市拓実さんがオーナーシェフとしてフレンチをベースとした料理をふるまい、
大樹さんは南部町の農家さんがつくる野菜を
店へ届けています(店名は農風〈Kitchen Yui〉。八戸の繁華街・番町にあります)。
〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉では、
南部町産の旬の果物を活用したメニューを開発したり、
〈NPO法人青森なんぶの達者村〉での活動を継続し、
果物狩りやフルーツパフェづくり体験などの案内も。
「南部町のコンシェルジュ」として大活躍です。
Page 4
取材中、店の角に〈珈琲館 ケルン〉の看板が置かれているのが目に入りました。
聞くと三戸駅前に昔あった喫茶店のもので、
地域の人が集まって麻雀やトランプをしたり、おしゃべりしたりする場所だったのだそう。
「ここをオープンするとき、ケルンが入っていた建物のオーナーが
『いやなんかうれしいんだよ、なんもできないんだけどこれ持ってって』
って言って渡してくれたんです(笑)。
看板を見ると地域の人も懐かしんでくれますし、
ケルンで出会って結婚したおじいちゃんおばあちゃんが近くに住んでいて、
うちに来た時に『いや~懐かしいな こんなの食べたよな』と昔話になったりして」
コミュニティスペースが少ない三戸駅周辺で、
お年寄りから子どもまで幅広い層の拠り所になっています。
店名の〈南部どき〉に込められているのは、
「ドキドキワクワク」の「ドキ」と
「田舎の時代がこれからくるんじゃないか」という期待をこめた「南部のとき」
「いまどき」の「どき」の思い。
自分の1年後、家族の10年後、
故郷の100年後を思いながら南部町で生きる根市大樹さん・雪奈さんの活動から、
これからの暮らしのヒントをもらえる気がします。
〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉の商品はオンラインでも購入可能です。
自分と家族と故郷の未来を思いながら、
果樹による香りの違いを食べ比べしてみてください!
information
COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI
南部どき
住所:青森県三戸郡南部町大向泉山道9-54
電話番号:0179-20-0710
営業時間:10:00~17:00(日曜~16:00)
定休日:水曜(臨時休業の場合あり)
Web:nanbudoki.com
Feature 特集記事&おすすめ記事