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「ふたりいないとできない」
夫婦で二人三脚、岩手県・二戸で、
昔ながらの木炭で焼く南部せんべい

コロカルニュース

posted:2020.1.7   from:岩手県二戸市  genre:食・グルメ / 買い物・お取り寄せ

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
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writer profile

Haruna Sato

佐藤春菜

さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。

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撮影:安彦幸枝

藤原せんべいの藤原秀俊さん・恵子さん夫婦

炭火で焼かれる香ばしいせんべい

岩手県・二戸に、昔ながらの木炭でせんべいを焼く〈藤原煎餅店〉があります。

金田一温泉郷のすぐそばで店を営むのは、藤原秀俊さん・恵子さん夫婦。
昭和37年に店を始めた秀俊さんの両親から引き継いだ焼き機で、
毎日500~600枚の「南部せんべい」を焼いています。

太平洋沿岸に吹く冷たく湿った東寄りの風「やませ」の影響で、
稲作に不向きだったこの地域では、
古くから小麦粉を原料とする「南部せんべい」が
ごはんやおやつ代わりとして親しまれてきました。

ふたりいないとできない味

せんべい4枚分の型が横に並ぶ焼き機。この列が8列あり、型に生地を流し込んでレバーで回すと、それぞれの型に火が当たり、せんべいが焼き上がります。

せんべい4枚分の型が横に並ぶ焼き機。この列が8列あり、型に生地を流し込んでレバーで回すと、それぞれの型に火が当たり、せんべいが焼き上がります。

店を訪れたのは午後。せんべいを焼き終え、選別・梱包しているところでした。
ガス焼きと違い、木炭焼きは一度火を起こすと止められないため、
午前中いっぱい、火が消えるまでせんべいを焼き続けます。

型を回さないと焦げてしまうため、
秀俊さんが焼き機につきっきりで回し、
その横で生地をつくって秀俊さんに渡すのが恵子さんの役目。
「生地をつくる人と焼く人、ふたりいないとできないんです」と秀俊さん。

焼き機のレバーを持ちながら、つくり方を教えてくれた恵子さん。先代から引き継いだ焼き機は、つくっているところがもう無いそう。「壊れちゃったらもう終わり。」と話します。

焼き機のレバーを持ちながら、つくり方を教えてくれた恵子さん。先代から引き継いだ焼き機は、つくっているところがもうないそう。「壊れちゃったらもう終わり」と話します。

ひとつとして同じものがない

毎朝1時間かけて(冬は寒いからもう少し時間がかかるそう)火を起こします。
「炭は生き物。火が強くなったり、弱くなったりもするの。
ガスのように温度が一定でないから、せんべいも、ひとつとして同じものがないんです」

焼き始めると焼き機から離れられないので、すぐに補充できるよう多めの木炭が準備されています。

焼き始めると焼き機から離れられないので、すぐに補充できるよう多めの木炭が準備されています。

生地の状態も、天気や気温、湿度で変わるため、
水の量を変えたり、冷やしたりして調整するそう。
「その日の焼き機のあたたまり具合でも生地の大きさを変えます。
温度が強ければ、小さくしないと膨れすぎちゃうので、
『今日は少し小さめで』と(秀俊さんから)言われると、その通りにつくるんです」
と恵子さん。

「ふたりいないとできない」、夫婦二人三脚のせんべいづくりです。

焼き場には、〈せんべいの耳〉をとる機械もあります。足元にあるペダルを踏むと、中段の円に置いた耳付せんべいが持ち上がって上の空洞を突き抜け、耳だけがとれて下に溜まっていきます。

焼き場には、〈せんべいの耳〉をとる機械もあります。足元にあるペダルを踏むと、中段の円に置いた耳付せんべいが持ち上がって上の空洞を突き抜け、耳だけがとれて下に溜まっていきます。

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「またおせんべいをやりたい」

10年前まで東京で働き、店を継ぐことはまったく考えていなかった秀俊さん。
お父様が病気を患っていたこともあり、
お母様は、「(夫が)亡くなったら、息子のところに行くつもりなんだ」
と周囲にも話していたそう。
ところが、10年前にお母様が急逝します。

「お母さんがいなくなっちゃったんだけど、
お父さんが『おせんべいまたやりたい』って言ったんだよね。
ふたりいないと焼けないから、じゃあちょっとお手伝いしようかってはじめて。
3か月くらいかな、お父さんが亡くなるまで親子でせんべいを焼けたんだよね」

先代から変わらないラインナップ。味は、ゴマ入りと、ゴマが入らない〈白せんべい〉の2種類。耳だけを袋詰めした〈せんべいの耳〉も人気。おつまみにぴったりです。

先代から変わらないラインナップ。味は、ゴマ入りと、ゴマが入らない〈白せんべい〉の2種類。耳だけを袋詰めした〈せんべいの耳〉も人気。おつまみにぴったりです。

その後も「まさか自分たちが焼き続けると思っていなかったんだけど」、
「今年の暮れに帰ってきてちょうど10年」
「先代と同じようには焼けていないけど、周りのみなさんにかわいがっていただいて」
と、店を守り続けています。

店内で袋に入って販売されているせんべい。日頃のおやつや食事、里帰りした人のおみやげはもちろん、お歳暮やお中元としても人気だそう。

店内で袋に入って販売されているせんべい。日頃のおやつや食事、里帰りした人のおみやげはもちろん、お歳暮やお中元としても人気だそう。

二戸の暮らしとともにある南部せんべい

諸説ありますが、南部せんべいは南北朝時代が起源の説が有名。
南朝の長慶天皇一行が南部地方を訪れた際、
山里で日暮れになり空腹に困ったところ、
家臣の赤松助左衛門が近くの農家からそば粉とゴマを手に入れ、
自らの兜を鍋にして粉を捏ね、せんべいを焼いたのだといわれています。
これを天皇が気に入り、度々つくらせるようになったのがはじまりだとか。

二戸では、昔は各家庭に焼き型があり、
祝い事の際はせんべいの上に赤飯を乗せ近所に振舞い、
葬式の際はせんべい山を供えるといった習慣もあったそう。
今でも鍋の具材にするせんべい汁や、
農作業の合間のおやつとして食べられる身近な食材です。

藤原煎餅店のせんべいの原料は、小麦粉・ごま・塩・重曹のみ。
小麦粉は、香り豊かで粉自体に甘みがある岩手県産の南部小麦100%、
炭は、二戸の名峰・折爪岳の麓で焼いているものを使うなど、
地元素材を生かしてつくられているのも魅力です。
(二戸の土地の特徴は、こちらで詳しく紹介しています)

南部小麦の甘み、炭火ならではの香ばしさとサクサクとした食感に、
藤原さん夫婦の人柄もふくまれたやさしい味のおせんべい。
二戸に出かけたら、ぜひ訪れてみてください。

information

map

藤原煎餅店

住所:岩手県二戸市金田一字八ツ長64

電話番号:0195-27-3847

営業時間:7:00〜19:00

定休日:不定休 ※事前にお電話を

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