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〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
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writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
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撮影:安彦幸枝
〈二戸〉と書いて〈にのへ〉。
東京から東北新幹線で約2時間35分。
青森県・八戸からは、いわて銀河鉄道で約37分と、
青森県と接する岩手県最北端に位置する市の名前です。
聞き馴染みのない土地ですが、
二戸には、実は「ほんもののにっぽん」がある。
東端に〈折爪岳〉、西端に〈稲庭岳〉を有し、
その伏流水や、雪深い気候を生かした「ほんもの素材」が数多く育まれています。
学びある二戸の旅を提案するプロジェクト
〈ほんものにっぽんにのへ〉がスタートしました!
〈稲庭岳〉のすそ野に広がる〈稲庭高原〉では、
雄大な土地に赤茶色の短角和牛の姿を見ることができます。
短角和牛は、日本固有の肉用専用種「和牛」として認定された
岩手生まれの食肉牛。
岩手県がまだ南部藩だったころ、
物資輸送に使われていた在来の〈南部牛〉と
ショートホーン種を掛け合わせ、品種改良を重ねて今に至ります。
短角和牛が放牧されるのは5月から10月の夏場だけ。
夏、穀物や葉タバコ栽培で忙しい農家にとって、
山への放牧は手離れがよく、
雪に閉ざされ農作業ができない冬場に里の牛舎で牛を育てる方式は、
「夏山冬里」と呼ばれ、負担なく営みを続けられる知恵でした。
牛は牧野で自然交配し、
子牛は自然栽培の牧草と母牛の乳だけで育ちます。
運搬につかわれていた筋肉質な南部牛のDNAや、冷涼な気候なため、
放熱しないよう脂肪が外につくこと、
広大な牧野で適度な運動ができることなどから、
健康的で、脂が少ない赤身主体の肉質が育まれます。
科学的にも黒毛和牛に比べてうま味成分の
グルタミン酸やアミノ酸が多いことが証明されているそう。
〈ほんものにっぽんにのへ〉プロジェクトが企画した旅のひとつ〈肉と酒のにのへ〉で、
二戸の食材を調理し紹介するアテンダーのひとりとして参加した
〈Globe Caravan〉の寺脇加恵さんは、
「牛がどこの餌を食べているかで安全性が決まるので、
今後日本の食は、意識がそこへ向かっていくと思う」と話します。
肉の等級は霜降り度合いで決まるのが現状。
「市場に迎合しないで、市が生産者と連携して
きちんとした生育環境を維持・保護しているのはすごいこと」と話します。
健康や食の安全を意識する傾向のなか注目される短角和牛は、
二戸の風土が育んだ「ほんもの素材」のひとつ。
二戸市内では〈Restaurant Bonheur〉や〈短角亭〉で味わうことができます。
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世界40か国・地域に輸出され、
国内外のコンペティションでも数々の受賞歴がある、
つくり酒屋〈南部美人〉があるのも二戸です。
すべての酒の仕込み水に〈折爪岳〉の伏流水が使用されています。
〈特別純米酒〉は、岩手県北でしか栽培されていない
酒米〈ぎんおとめ〉100%で仕込んだ純米酒。
岩手県と共同開発された酒米で、〈金田一営農組合〉と契約栽培し、全量買取しているそう。
2017 年インターナショナルワインチャレンジの日本酒部門で
1245銘柄のなかで1位を獲得するなど、国際的にも評価されています。
〈糖類無添加「梅酒」〉も特徴的な商品。
麹米だけでつくる純米酒〈All Koji〉を使用し、
そこに梅を漬け込むことで、麹の甘みが凝縮した砂糖を使わない梅酒が生まれました。
All Kojiを活用し、二戸産のブルーベリーやいちごをつかった
糖類無添加の果実酒も販売するなど、二戸の気候が育んだ素材を生かした、
二戸でしか生まれない酒づくりが行われています。
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日本各地に漆器で有名な地は数あれど、
実は使われている漆の97%は輸入物。
わずか3%の国産漆生産の70%を占めているのが、二戸市浄法寺地域です。
江戸時代、盛岡藩の奨励で植林をしていた記録があり、
古くからの産地でしたが、一度は衰退。
生産量の減少をくい止めようと、まちが1978年から漆の木の植栽を始め、
国内最大の原木資源を誇っています。
漆を次世代へつなごうとつくられた
浄法寺町にある〈滴生舎〉の店舗スペースには、
浄法寺漆にこだわるつくり手たちの商品が並びます。
併設する工房では、地元の職人が採取した漆を
塗師自ら精製・調合し、漆の魅力が引き出されるような
漆器づくりに取り組んでいます。
漆をとり尽くした木は伐採され、そこから生える新しい芽を、
約10年かけて再び漆採取できる木に育てます。
ゆっくりと再生を繰り返す漆の林は、決して漆に無理をさせず、
生育サイクルに合わせて持続するよう、浄法寺町に守られているのです。
「滴生舎に並ぶ漆器の多くは、あえて磨かず、
漆そのものの質感を生かして仕上げられています。
購入当初はマットな表情の器も、使って、拭いていただくうちにツヤが出てきます。
そんな時間の流れも楽しんでいただきたいです」とスタッフの齋藤さん。
二戸の土地が育んでくれる「ほんもの素材」だからこそ生まれる生活の器です。
短角和牛、南部美人、国産漆と、
ひとつの土地で原料の育成から販売まで行うことができ、
かつ国際的に評価される産品が複数あるのはめずらしいこと。
官民一体となって、古くからの土地の資源や気候を生かし、
無理のない、持続可能な産業を探ることで育くまれてきた二戸のテロワール。
この土地でしかできない「ほんもの素材」から学べることはたくさんあります。
〈ほんものにっぽんにのへ〉では、
今後も二戸の宝を発信。ホームページも開設予定です。
「ほんもののにっぽん」に出会える二戸へ、出かけてみませんか?
information
ほんものにっぽんにのへ
Instagram:https://www.instagram.com/honmono.japan/
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