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東北が誇る美酒と食を、
風土や人の営みとともに感じて楽しむ。
〈東北・美酒と食のテロワージュ〉
が始動!
〈ビールの里〉遠野を巡る

コロカルニュース

posted:2019.9.24   from:岩手県遠野市  genre:食・グルメ

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。

writer profile

Haruna Sato

佐藤春菜

さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。

つくり手と参加者がともにテーブルを囲むような旅

2019年8月、ウェブサイト〈東北・美酒と食のテロワージュ〉が公開になりました!

土地の気候や資源を生かし、特色ある美酒を生む酒蔵・ワイナリー・ブルワリーが
数多く存在する東北。

このウェブサイトでは、美酒を軸に東北を巡る、スペシャルな体験を紹介しています。

ツアー訪問地のひとつ、ビールの原料「ホップ」の畑(岩手県遠野市)。産地の風景は、ただその育つ姿や実りを眺めるだけでも美しい。

ツアー訪問地のひとつ、ビールの原料「ホップ」の畑(岩手県遠野市)。産地の風景は、ただその育つ姿や実りを眺めるだけでも美しい。

「テロワージュ」とは、
フランス語で「気候風土と人の営み」を表す「テロワール(terroir)」と、
「食とお酒のペアリング」を表す「マリアージュ(mariage)」を組み合わせた造語です。

提案するのは、美酒と食を味わうことはもちろん、
産地を訪れ、収穫体験や生産者の話を通じ、
産品が育まれた風土や人の営みをも体感する新しい旅のかたち。

産地である東北だからできる、
「つくり手と参加者がともにテーブルを囲むような旅」を目指しています。

「東北を味わい尽くす」イメージでつくられたウェブサイト。テーブルの上に東北6県の名産品が並びます。

「東北を味わい尽くす」イメージでつくられたウェブサイト。テーブルの上に東北6県の名産品が並びます。

ビールの里・遠野を巡るツアー

どんな体験ができるのか、テロワージュを体感するツアーのひとつ、
〈ビールの里・遠野ビアツーリズム〉(岩手県)に参加してきました!

集合場所の遠野駅舎。

集合場所の遠野駅舎は1950年竣工。レトロなたたずまいが印象的。

柳田国男の『遠野物語』や河童伝説などで知られ、
〈民話の里〉とも呼ばれる遠野は、半世紀にわたり続く、
ビールの原料「ホップ」の一大産地。
後継者不足による減産が問題視されていたなか、
「ホップの里からビールの里へ」という理想を掲げ、
行政・民間・生産者が連携したまちづくり〈Brewing Tono〉が成果を上げ、
国内外から注目を集めています。

遠野産のホップを使用した、遠野でしか味わえないビール

まずは駅から徒歩約3分の、マイクロブルワリーパブ〈遠野醸造TAPROOM〉へ向かいます。

東北電力が遠野市内の店にプランターで提供し、グリーンカーテン運動を行なっている。

店頭で栽培されているのはホップ。東北電力が遠野市内の店にプランターで提供し、グリーンカーテン運動を行なっているそう。

店はBrewing Tonoのプロジェクトの一環で、昨年5月にできたばかり。
県外から移住してきた3人が、ホップの産地遠野に、
遠野産ホップを使用したクラフトビールが飲めるブルワリーを誕生させました。

醸造所の見学後、2種類のビールを少しずつ試飲。
この日提供されたのは、イチジクと熟したイチゴのような甘い香りの〈ESB〉 と、
「畑で夏に飲みたいビール」をテーマに、
遠野のホップ農家と一緒にレシピを考え仕込んだ爽やかな〈サンクスセゾン〉。

醸造しているビールは約20種類。
春先にとれる白樺樹液や台風で落ちたりんごなど、
地元生産者から相談を受け企画するビールも多いとか。

ここでしか飲めないビールを味わいながら、
遠野という地で、ブルワリーと地元農家がつながり、
好循環が生まれていることをうかがい知ることができます。

伝承園でENGAWA BEER

ここからは貸切タクシーで〈遠野伝承園〉へ。

人と馬が同居していた「曲り家」などが移築されており、
かつての遠野の暮らしを垣間見ながら、縁側で3種類のビールを楽しみます。

ここにもホップのグリーンカーテンが。

ここにもホップのグリーンカーテンが。

味わえるのは、園内で販売している〈遠野麦酒ZUMONA〉の〈ZUMONAビール〉。
1789年に遠野で創業した建屋酒造店を前身とした〈上閉伊酒造〉が、
清酒の仕込みと同じ超軟水で仕込むビールです。
語り部が、「むか~し、あった“ずもな”~」と始まる遠野物語。
「むか~し、こんなところにおいしいビールがあった“ずもな”~」と
語り継がれるようにと願いを込めて名づけられたそう。

(左から)バナナの香りが楽しめる〈ヴァイツェン〉、「インターナショナル・ビアカップ2018」のKeg(たる)部門で、ライトラガーのカテゴリーチャンピオンを獲得した〈ゴールデンピルスナー〉、岩手県大槌町の大槌復興米を使用した〈TONO BEER GOLDEN ALE〉。

(左から)バナナの香りが楽しめる〈ヴァイツェン〉、「インターナショナル・ビアカップ2018」のKeg(たる)部門で、ライトラガーのカテゴリーチャンピオンを獲得した〈ゴールデンピルスナー〉、岩手県大槌町の大槌復興米を使用した〈TONO BEER GOLDEN ALE〉。

遠野産ホップを使用した〈ホップアイス〉も見つけました。
ホップをより身近に感じてもらうためのアイデア商品を、住民も日々考えているそう。
かつて廃棄されていたホップの蔓でトレーをつくるワークショップや、
蔓の繊維を利用した和紙も開発されています。

ほんのりとホップの香りがしてピリリと後から苦味が。地元小学生と高校生が協力して開発した伝承園限定商品で、ラベルも児童が描いたもの。ホップ産業が根づいていることを実感します。

ほんのりとホップの香りがしてピリリと後から苦味が。地元小学生と高校生が協力して開発した伝承園限定商品で、ラベルも児童が描いたもの。ホップ産業が根づいていることを実感します。

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いよいよホップ畑へ!

伝承園の後はホップ畑へ。

この日は新しく開発されたホップ〈MURAKAMI SEVEN〉の畑を訪問します。
遠野で栽培されているホップは〈IBUKI〉が主流。
〈MURAKAMI SEVEN〉はまだ収穫量が少ないため、
大手が販売する全国ビールでは使用されていない希少品種です。

ひとつの株を20年~30年使うホップ。3年以上たたないとしっかりと実がつかないといわれています。

ひとつの株を20年~30年使うホップ。3年以上たたないとしっかりと実がつかないといわれています。訪れた畑で育つのは2年目の株で、まだ小さなベイビーホップ。IBUKIより側枝が長くならないのも特徴。

畑では、IBUKIを使用した缶ビールで乾杯の後、
ホップ栽培の工程を紙芝居で教えてくれます。
手作業が多く維持が困難な現状を打開するべく、
今年から日本初となるホップ栽培専用の機械を導入。
遠野を、これからホップ栽培を始めたい人が訪れ
技術を学べる場にもしたいと考えているそうです。

ホップの花が咲くのは7月。遠野名物バケツジンギスカンとビールでお花見をするそう。ビールに使用されるのは、この花を包むように育った毬花。

ホップの花が咲くのは7月。遠野名物バケツジンギスカンとビールでお花見をするそう。ビールに使用されるのは、この花を包むように育った毬花。

ホップ畑でしかできない「追いホップ」

紙芝居を終えると、ホップ畑最大の目玉が待っていました。
その名も「追いホップ」。
今回の行程では、ホップの収穫直前ということで、
特別に自分で手摘みした毬花をビールに割り入れ、香りを楽しむことができました。

毬花の中にある、ルプリンと呼ばれる黄色い粉がビールの香りと苦味の成分。毬花を半分に割るとビールの香りが!

毬花の中にある、ルプリンと呼ばれる黄色い粉がビールの香りと苦味の成分。毬花を半分に割るとビールの香りが! イチジクやマスカット香といわれる〈MURAKAMI SEVEN〉。ユズのような柑橘の香りも感じました。

〈ZUMONAビール〉の醸造所へ

旅の締めくくりは、〈ZUMONAビール〉をつくる〈上閉伊酒造/遠野麦酒ZUMONA〉へ。
また違う種類のビールを楽しむことができます。

(左から)ホップの香りをダイレクトに味わえる苦味の強い〈“IBUKI” HOP IPA〉、フルーティーで爽やかな甘みのセゾン〈遠野のホップ農家から〉、黒ビールより甘みが強く、焙煎されていて香ばしい〈アルト〉。

(左から)ホップの香りをダイレクトに味わえる苦味の強い〈“IBUKI” HOP IPA〉、フルーティーで爽やかな甘みのセゾン〈遠野のホップ農家から〉、黒ビールより甘みが強く、焙煎されていて香ばしい〈アルト〉。

ZUMONAビールには、遠野産ホップが必ず使用されています。
ホップは流通のためにも乾燥させるのが主流。醸造の際、
味をしっかり出すために乾燥ホップを使用するのが基本ですが、
生のホップを加え、より香りを楽しめるビールをつくることができるのは産地ならでは。
遠野麦酒ZUMONAも、遠野産ホップを使用したさまざまな配合のビールに挑戦し、
ビールの里・遠野の魅力を発信しています。

2000リットルのタンクが並ぶ醸造所。ひとりでつくっているためすべてのラインナップを維持するのが難しく、入れ替わりで商品が販売されます。その分、季節ごとに違うビールが楽しめるのが魅力。

2000リットルのタンクが並ぶ醸造所。ひとりでつくっているためすべてのラインナップを維持するのが難しく、入れ替わりで商品が販売されます。その分、季節ごとに違うビールが楽しめるのが魅力。

プライベートツアーならではの寄り道

ツアーは、ZUMONAビールも購入できる〈道の駅遠野風の丘〉を経由し、
遠野駅前の〈旅の蔵〉下車で終了ですが、
頼れるガイドと行くプライベートツアーなのが、この旅のよいところ。

車中、ガイドが教えてくれた遠野産ホップを使用した焼酎〈毬子〉と、
〈上閉伊酒造〉の梅酒の話に参加者が興味を持つと、
下車場所を駅からすぐそばの〈リカーショップ アサクラ〉に変更してくれました。

ここにもホップのグリーンカーテンを発見。〈毬子〉は店主みずからが企画した商品。遠野の魅力発信者のひとりです。

ここにもホップのグリーンカーテンを発見。〈毬子〉は店主みずからが企画した商品。遠野の魅力発信者のひとりです。

決まった行程に限らず、遠野のまちづくりを支える
魅力的な人物も紹介してくれるこのツアー。
ホップ畑へ向かう車窓から〈遠野パドロン〉のハウスが見えてくると、
ビールのつまみとして着目し、栽培を始めた吉田敦史さんがいたからこそ、
ビールの里構想が生まれたというエピソードも教えてくれました。
今回の行程にパドロン畑は入っていませんが、もっと遠野のことを知りたくなり、
また訪れたくなります。

ガイドのMJこと、美浦さん。ツアー後に立ち寄れる店も教えてくれます。この日は駅前の〈DAKKE〉のメニュー・遠野銘菓〈明けがらす〉を揚げた〈あげがらす〉をビールに合う食としてすすめてくれました。

ガイドのMJこと、美浦さん。ツアー後に立ち寄れる店も教えてくれます。この日は駅前の〈DAKKE〉のメニュー・遠野銘菓〈明けがらす〉を揚げた〈あげがらす〉をビールに合う食としてすすめてくれました。

ホップからつながる土地と人の物語が、
ビールの里・遠野にはたくさんあると教えてくれるツアー。
まちを育む熱い思いを持ち、旅人をあたたかく迎えてくれる人もいる。
産地を深く知ると、旅の満足度も高まります。

参加者募集中!

〈東北・美酒と食のテロワージュ〉では、今年度10種類のツアーを販売予定です。

2019年9月28日(土)、〈ワイン収穫祭〉とともに開催される
〈~町に酔え~日本の田舎で夢ワインのある暮らし2日間〉(福島県二本松市)と、
〈伊達政宗のお膝元「荒町」でほろよいまちあるき&仙台初のブルワリー「穀町ビール」で乾杯!〉
(宮城県仙台市)は、現在参加者を募集中。詳しくはこちら

東北には、美酒を中心に、
食と土地と人がつくる物語を体感できる場所がたくさんある。
おいしくて、やさしくて美しい、
東北の知られざる姿を体感しに出かけませんか?

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