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沖縄県・竹富島

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竹富民芸館の片隅に、毎日見かける女性がいた。
果てしなく続いているように見える道を、毎日少しずつ進んでいた。

月の終わりごろ、大山満里子さんが意を決して取り掛かったのは、
約2か月後に行われる種子取祭で息子さんに着せるための着物づくりだった。

縦糸を一本一本、綜絖(そうこう)という装置に通していく。途中で切れたものは両方の切れ端を探し出して結び直し、ほつれたものは針で解き、各々に定められた道を外れることなくまっすぐいくように気を配る。「あなたの道はここですよと、ひとりひとりちゃんと見て教えてあげないといけないの。大変よ」と言うのは島仲由美子さん。大山さんは、その横で黙々と目の前の糸の束と格闘している。メガネをずらして目を凝らし、背中を丸めて、毎日毎日、少しずつ進んでいる。祭りの日までに間に合うだろうか。

夫、恋人、息子。愛する人に、自分で織った布で仕立てた着物を贈りたいという、そのためにどれだけの時間と労力を費やしてもいいと思えるという、それほど深くて熱い感情を自分が持ったとして、果たしてどれほど辛抱強く温め続けられるものなのか。織ったことのない者は知らない。

でもこの島には、目の前の細く儚い糸が美しい着物になるまで、一本の道を少しずつ、毎日指差し確認しながら進んでつくりあげていく、そういう愛を育んできた人たちがいる。