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和歌山県東牟婁郡那智勝浦町

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6 Epilogue エピローグ。

ワクワクするまち、那智勝浦を、
明日に受け継ぐ人たち。

「生まぐろと温泉の町」。
聞いただけでワクワクするではないか。
那智勝浦が誇るふたつの柱こそ、
現代ニッポンにおける大人気コンテンツと言っていい。
そんな観光地としての「鉄板」ネタを持つ
那智勝浦のまちを取材しながら、ホテルや飲食店で
「今年はお客さんが少なくて……」という声を各所で聞いた。
その理由ははっきりしている。
2011年の9月、和歌山県を襲った台風12号。
紀伊半島に記録的豪雨をもたらしたこの台風は
各地で土砂崩れなどによる甚大な被害をもたらしたが、
なかでもこの那智勝浦はもっとも被害が大きかったエリアだった。
それ以来、復旧・復興が進んでいる中でも
未だ観光客の戻りが悪いのだという。
観光産業の占める割合の大きいこのまちにおいては
深刻な話でもあるわけだが、一方で、
もちろん今日も漁港では脂たっぷりの
最高の生まぐろがたくさん水揚げされ、
泉質の良い温泉が各所から次々と湧き出ている。
そして、ここにいる人たちはみな元気だ。
老人も、若者も、子供たちも。
漁港で仲卸として母娘でキビキビと働く熊代さん。
地元の漁業文化を今に伝え
アイデア溢れるまちづくりを提案する立木さん。
矍鑠(かくしゃく)とした仕事ぶりで
ひとりで伊勢海老漁船に乗り続ける遠山さん。
昔ながらの酢づくりに頑固にこだわり
世界を相手に商売をする丸正酢醸造元の小坂さん。
若き仲買人として仕事に精を出しながら
仲間たちと海での遊びも楽しみ尽くしている中さん。
今回の取材を通じて出会った人々は、
みんな前向きに自分の人生とここ那智勝浦のことを考えていた。

もちろん、問題がないわけじゃない。
過疎化も、市街地の空洞化の現状もある。
しかし、何よりここにはずっと変わらない
「いいもの」がたくさんある。そしてそれを受け継ぎ、
次の世代へと伝えていこうとする人たちがいる。
何よりもそのことが嬉しい。
自分の今いる場所を愛せないのは辛い。
どんなに仕掛けに富んだ企画やお金をかけた施設よりも、
ひとりひとりの住民の地元に対する思いが
魅力的なまちづくりに貢献するのだと、
今回の取材を通じて強く感じさせられた。
彼らのような人たちがいる限り、
勝浦はずっと「ワクワクするまち」でいられるはずなのだ。