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連載

マシンメイドのジュエリーブランド
INSTANT JEWEL前編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.043

posted:2015.3.3   from:東京都  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

工業的アプローチをファッションアイテムに。

昔から受け継がれてきたものづくりの技術を、
デザイナーが掘り起こして新しいプロダクトを生み出す。
こうした試みは各地で行われるようになってきたが、
いわゆる手作業の伝統工芸であることが多い。
そうしたなかで、アプローチは同じながら、
機械でしかつくれないもの=マシンメイドを全面的に謳った
アクセサリーブランドがインスタントジュエルだ。

きっかけは、これまでも数々のプロダクトを生み出してきた
デザイナーの大友 学(stagio inc.)さん。
ところが大友さんのメインフィールドはインテリアプロダクトや生活道具であり、
ファッションとは似て非なるものであった。

「これまで、プロダクトやインダストリアル系のデザインを手がけてきました。
いろいろな工場やメーカーを回って仕事をするのが常です。
そんななかで、これまで蓄積していた工業的な知識やネットワークを使って、
“アクセサリーの新しい事業を始めませんか?”と、株式会社元林に持ちかけたんです」

元林とは、のちにインスタントジュエルの生産管理を手がけることになる会社。
同じタイミングで元林は、「デスペラード」というセレクトショップを運営している
ファッションディストリビューター/ショップであるパノラマと、別事業を進めていた。
そこで元林から、ファッションに詳しいパノラマに相談があったという。

「“この案件、どう思いますか?”と聞かれたので、“興味あります”と答えたんですよね」
というのは、パノラマの代表取締役兼クリエイティブディレクター、泉 英一さん。
泉さんは数々の海外ブランドのディストリビューションを手がけてきたバイヤーだ。

「アクセサリーは、ハンドメイドの1点ものや高価な宝石という時代ではありません。
大量生産しながらカスタムメイドして、楽しく遊び感覚で、
しかもお手頃にできないかなと、思っていたところなんです」と
泉さんにとってもちょうどよいタイミングだったのだ。
こうしてstagio inc.、パノラマ、元林の3社による事業が動き始めた。

stagio inc.の大友学さん

stagio inc.の大友学さん。デザイン事務所勤務などの経験はなく、独学でデザインを学んだという。

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機械にしかできないものづくりもある。

機械でできることは何か? 機械でしかできないことは何か?
新しいアクセサリーのあり方を模索するなか、
工業製品デザインに関わってきた大友さんの頭のなかに、
そのような思いが常々、渦巻いていた。

「それらをうまく組み合わせたら、
おそらく見たことのないものができるだろうと考えていました」

それをデザインとして表現していく作業。

「かたちそのものを射ぬくような考え方ではなく、
工業的にできること=機械にしかできないことを探しました。
つくられ方や製法を体現しているようなかたちを探していく作業です。
感情の表現というよりは、設計に近いですね」

機械だからできることと、手作業だからできること。
その違いを明確にしていくと、おのずとデザインの外堀は埋まってくる。

インスタントジュエルの商品は
プラスチック樹脂でできたチェーンやピアス、リングなど、こまかなパーツが多い。
これらは、原料となる樹脂を金型へ高圧で注入してかたちづくる
射出成形という技術でつくられている。
宝石は、削ることでしかかたちをつくれないことに比べ、
樹脂は、中に金属を入れたり、異素材を組み合わせたりできるなど、
かたちづくりの自由度が高い。

〈PLAMO〉の製作工程

プレートからはずして、ピアスやネックレスのヘッドとして使える〈PLAMO〉が流れてくる。

「プラスチックが生まれたということは、
ある意味、デザイン的にも産業革命だと思います。
それまでは、木や石などの自然素材が原料で、加工には限界がありました。
しかしプラスチックは色も付けられるし、いろいろなことができる。
プロダクトデザイナーの力と、進化した工業技術を活かして、
アクセサリーというジャンルで展開していけば、
ファッションはもっとおもしろくなると思います」と泉さんは、
ファッションからの観点で語る。

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反対からの目線が大友さんだ。
「ジュエリーブランドは、きっとこんなことやりませんよね。
逆にいえば、ぼくたち側からしか、
インスタントジュエルのようなものはつくれないのではないでしょうか」

商品を成形する金型自体は、小さいほど安い。大きいと数千万円という世界である。
大量生産可能というマシンメイドの特性を考えた結果、たどりついたデザイン。
大友さんいわく「小さいパーツを組み合わせて、いかにおもしろくするか」

それが固まったうえで、最終的な意匠や色などの
ファッション的なアプローチが加味されていく。
色やセオリー、ブランドとしての打ち出し方などは、
泉さんのディレクションによるものだ。
PVやメインビジュアルもアイデアにあふれている。
実際に製造しているツルミプラという大阪の工場を舞台に、
美麗な外国人のファッションモデルが、チープシックなアクセサリーをつけている。

「工業高校に女性が行ったらどうなるか、というイメージです。
ムービー内に出てくるスイッチや機械類は、すべて工場のリアルです」と泉さん。

商品の軽快さと、工場の重さや本気度のギャップ。
チープシックな商品が、こんなにも重厚な世界から生まれているのがおもしろい。

〈PLAMO〉からつくったネックレス

〈PLAMO〉からつくったネックレス。レーザーカットが美しい。

「最初から、うまく真ん中に落ち着いているものはつまらないですね。
それぞれが反対方向に引っ張っていて、
その真ん中で均衡が取れているようなものに惹かれるし、
そのほうが結果的に強いと思うんです」

同じ“調和”でも、バランスの取り方が違えば、それは別物なのかもしれない。

「新しい価値の創造をしていきたいんです。
ファッションの世界でも、固定概念を壊そうとしてきたひとたちが、
数年後にブレイクしています」と泉さん。

価値の大切さについて、大友さんも続ける。
「物質の価値からいうと、宝石にはかないません。
でもオモチャのようなものでも、“かわいい”という価値観で身につけられる時代。
ユーザーが価値を見出しくれるんです。その価値がほしかった。
それをつくろうとするのは、デザイナーである以上は当然のことで、
“当たり前”より0.1歩でも先に行って楽しめるものにしたいんです」

だからただ買って終わりではなく、バラして組み合わせるという異なる楽しみも仕込んだ。
ジュエルなのにおもちゃのように扱って、楽しく組み合わせることができる。
それにはパーツの種類がたくさんないと楽しくない。
それを実現するには大量生産が必要。
つまり、これもまたマシンメイドならでは楽しみ方なのだ。

現在、全国でポップアップショップを展開し、ワークショップも開催している。
パーツをたくさん持っていって、自由に組み合わせてもらうものだ。

「私たちの想像を超えるものを、みなさんつくっています」と泉さんは感心している。
今後は、自分でも自由に組み合わせられるように、
パーツ売りも強化していくということだ。

シーズンごとに新色や新作も登場予定。まるでファッションのよう。
これからもまだまだマシンメイドの固定概念を壊し、価値を創造していく。

後編:高次元なことを当たり前にこなす日本の工場品質 INSTANT JEWEL後編 はこちら

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