連載
posted:2015.1.13 from:岩手県奥州市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
前編:お米からエタノールをつくる発酵ベンチャー。「ファーメンステーション」前編 はこちら
ファーメンステーションは、岩手県奥州市で、
お米からエタノールを製造している会社だ。
この取り組みは、当時の胆沢町の行政や米農家からの
“休耕田や耕作放棄地をなんとかしたい”という思いに端を発している。
エタノールをつくるうえで、当然ムダは少ないほうがいい。
そのうえ地域の課題解決や循環ができ、ビジネスとしても成り立つ。
そんな環境への配慮や地域循環の理念が念頭に置かれている。
ファーメンステーションの事業としては、
お米からエタノールをつくって販売すること、
そしてオリジナルブランドの消臭スプレー「コメッシュ」や
石けん「奥州サボン」の製造・販売である。
しかしそれ以上の波及効果が地元にもたらされている。
それはこんな循環だ。
米農家がお米をつくる
↓
ファーメンステーションがお米を原料にエタノール、消臭スプレー、石けんをつくる
↓
残渣をにわとりの餌にする
↓
卵は地元でパンやお菓子に使用される
↓
鶏糞は田んぼの肥料になる
このように、地元のみで、すべてが1周しているのだ。
この循環は「♪米im♪My夢♪Oshu♪(マイムマイム奥州)」という枠組みとして
取り組まれている。
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お米を取り巻く現状は、あまり良い環境とはいえない。
高齢化や跡継ぎ問題、さらに国の減反政策などの影響で、
全国的にも3分の1の田んぼは使われていない。
耕作放棄地などの休耕田が増えることで、田んぼが持っていたダム機能や
生きものたちの生息環境も失われてしまっている。
そのうえ米の消費量も価格も、かつてより下がってしまった。
ファーメンステーションにお米を卸している農事組合法人「アグリ笹森」は、
プロジェクトスタートとともに、飼料米用に3000平方メートルの田んぼを借り上げた。
昨年は9000平方メートルにまで増やしている。
「地域のなかで自分たちが働ける範囲であれば、どんどんお米の作付けをしていきたい。
食用のお米は安くなってしまっていますが、
飼料用としてたくさん採れる多収穫米の生産は国も勧めています。
家畜の餌は輸入ものが多いので、
それを国産のお米に代替していくのは私たちとしてもうれしいことです」
と言うのはアグリ笹森の織田義信さん。
今では食用ではない飼料米の生産に対して補助金が出されるようになっているのだ。
とはいえ、いままで食用のお米をつくっていた米農家にとって、
いきなり飼料用のお米をつくることも不安だろう。
飼料用のお米も、買い取ってくれる場所があるから安心してつくれるのだ。
売り先が決まっているだけに、細かいオーダーにも対応しやすい。
「通常採れる多収穫米の半分程度しか採っていません。
あまり大きくなると稲穂が汚れてしまい、ファーメンステーションで加工するときに、
雑菌が混入してしまいます。
だから私たちは無理せず、肥料も少なめで無農薬。自然栽培に近い育て方です。
もちろん最終的に肌にふれる化粧品にもなるので、安全安心も重要ですから。
こういった取り組みも、売り先が決まっているからアレンジできるのです」と織田さん。
同じお米といっても、品種が異なるので、多少の慣れも必要だ。
そのため、アグリ笹森の生産方法に学ぼうと、たくさんの人が視察に訪れているという。
「発酵したお米の残渣のほうが付加価値が高いので、
これをやりたいというひとが結構多いのです」というのは、
ファーメンステーションの酒井里奈さん。
また“ファーメンステーションの石けんや消臭スプレーの原料をつくっている米農家”
というブランドもついて、アグリ笹森では食用のお米も以前より売れているという。
「目指していたカタチのひとつです」と酒井さんも喜んでいる。
同じ現象はにわとりの卵にも表れている。
ファーメンステーションがお米からエタノールをつくった残渣(=もろみ)を
餌として使用しているのが「まっちゃんたまご」。
この餌を混ぜると食いつきが良くなるという。
腸内環境が良くなり、フンも減る。卵は白身が厚くなる。
この卵も、地域循環やトレーサビリティという付加価値がついて、
通常よりも高い価格で売れているという。
この鶏糞を肥料に入れているお米が「♪米im♪My夢♪米(マイムマイムマイ)」。
生産者の及川久仁江さんは胆沢生まれ胆沢育ちで、
「高校生のころから青年活動をしていた」という筋金入り。
このお米を、もみ殻を燃料にしたぬか釜で炊くイベントなどに出展するなど、
ぬか釜を広める「ぬか釜再生プロジェクト」も行っている。
お米からスタートしたこのプロジェクトは、こうしてお米に戻っていく。
また及川さんは「まやごや」という農村民泊も行っている。
ファーメンステーションの活動には視察も多く、
「私がたくさん視察団を連れてくるので、
ほとんど及川さんに受け入れてもらっています」と酒井さん。
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お米への危機感から始まって、そのお米を中心にしながら、
地元で見事に循環し、次々と新しい事業へと派生している。
前述のアグリ笹森の織田さんは言う。
「自分たちだけでは、PRする技術がありませんが、
酒井さんがすごく情報発信してくれるので心強い。
現場にたくさんひとが来てもらえて、生産者と消費者が結びつきます。
6次産業という言葉があるけど、ひとつの会社ではありませんが、
地域をひっくるめて6次産業といえるのではないかと思います」
このような地域循環型の活動がうまくいくと、その仕組み自体を広めていくこともできる。
「誰にでもできる事業になると思います」と酒井さんはいう。
「いまは奥州サボンですが、秋田サボンでも、福島サボンでも。
お米はもちろん、それ以外にも、エタノールが採れるものはたくさんありますから」
ファーメンテーションは発酵という意味。
そこに「発酵を使って駅(ステーション)になりたい」という思いを込めた造語が
「ファーメンステーション」だ。実際にそんな駅になりつつある。
駅にたどり着いて、また新たな場所を目指す。
「チームに名前があって、つながっていれば面白いだろう、
くらいの気持ちだったんですけど、
思いのほか、一緒にやることが面白くなってきました。
関わるメンバーも増えて、自分では考えられないようなことになっています。
サークルでもいいから、ひとが集まって何かをやることは重要。
ひとりじゃないからできるんです。わたしは日々、チームづくりばかりしていますね(笑)」
と地元で活動を続けてきた及川さんは手応えを感じている。
「こんなに楽しく自発的になるとは思っていませんでした。
地元のひとが喜んで売り込めるものがたくさん生まれて、価値づけられていく。
私たちをワークショップに呼んでくれるひとたちが現れたりと、うれしい現象です。
かつては催事などのイベントがあると東京からこちらに来ていたんですが、
最近では“大変だから来なくてイイよ”なんていわれてしまいます(笑)」と
酒井さんは笑う。思い描いていた以上の効果をもたらした。
農業を中心にしながら、受け入れ体制やコミュニティを形成していけば
うまく循環できることを実証したファーメンステーションと
「♪米im♪My夢♪Oshu♪(マイムマイム奥州)」。
最後に及川さんはこう言った。
「農村に未来はあるかもしれない」
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