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連載

森を活かして
伝統技術を進化させる
〈株式会社 飛騨の森で
クマは踊る〉前編

ロフトワーク
ローカルビジネス・スタディ
vol.005

posted:2016.1.4  from:岐阜県飛騨市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどのデザインを手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈株式会社ロフトワーク〉。
東京をベースに活動してきた彼らが、いま地域のものづくりプロジェクトにどんどん参画しているワケとは。
ロフトワークの事例から見えてくる、地域とビジネスのあり方をレポートします。

writer's profile

Akiko Moriguchi

森口明子

もりぐち・あきこ●大阪府枚方市出身、2006年レッドブルジャパン入社。マーケティング・コミュニケーション部にてRed Bull Music Academyなどの世界を旅する音楽学校のプロジェクト、ダンス、アートプロジェクトのグローバルコミュニケーションを担当。 2016年5月よりロフトワークへ入社し、6月より飛騨へ移住。建築家やデザイナーの合宿やものづくり滞在、コミュニケーションワークを主体に行っている。

company profile

Loftwork

ロフトワーク

ロフトワークは、Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの「デザイン」を手がけるクリエイティブ・エージェンシーです。企業や官公庁、大学などのクライアントの課題をクリエイティブで解決するプロジェクトを年間約500件以上手がけています。
http://www.loftwork.jp/

Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの“デザイン”を手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈ロフトワーク〉がお届けする
「ロフトワーク ローカルビジネス・スタディ」。
5回目は、ロフトワークが今年5月につくった
株式会社 飛騨の森でクマは踊る(通称 ヒダクマ)について。
東京から飛騨に移り住んだヒダクマの森口明子が語ります。
2回にわたるシリーズのうち、今回はなぜ飛騨で林業なのか、ヒダクマとは何かについて。
2回目は飛騨移住に至った理由とその後の奮闘記をお届けしたいと思います。

飛騨と聞いて、何を思い浮かべますか?

日本の原風景が残る景色、江戸時代のような城下町の風景、山に囲まれた雄大な自然、
飛騨牛、おいしいお味噌、地酒……。
そもそも飛騨市はどこにあるのかというと、岐阜県最北端に位置し、
富山と高山に挟まれた山深い地域です。

飛騨高山は観光業で成功し外国人にも人気のある旅行スポットである一方、
飛騨市は人々の暮らしが伝統文化の中に息づいている地域です。
「飛騨の匠」とは優れた木工職人を称える総称で、歴史的に見ると、
その職人の技術を都づくりに活用するために中央政府が税を免じてまで
木工職人として京へ派遣し、神社仏閣や平城京、平安京などの造営に貢献し
日本建築士の黄金時代の一翼を担ったと言われています。

飛騨への移住

私自身が、最初に飛騨の地に降り立ったのは2月のとても寒い時期でしたが、
雪景色が幻想的な風景を生み出していました。2度ほど来ると、
”秘境”たらしめる美しさに感動すると同時に、
その美しさを継承し続けてきたなりの難しさも兼ね備えている土地だとも感じました。
良く言えば文化の色濃いまち、でもまちの持続性という観点からすると、現代や都会、
そして世界とのつながりを持って次世代に繋いでいくには、
その趣深い伝統や精神などが足枷になりかねないな、と感じたのです。

しかし、飛騨古川祭りを見たり、何度か通うたびに
自然と土地の持つエネルギーに惹かれていったような気がします。
飛騨古川祭りは、あの武満 徹氏が賞賛し
飛騨古川のために音楽を作曲されたというのも納得の
強いインスピレーションを受けるお祭りです。
まるでスルメイカのように、通えば通うほど味わい深いエネルギーを感じ、
最終的に東京からの移住を決意しました。

林業にテクノロジーとクリエイティブで向き合うヒダクマ誕生

飛騨は市の面積の9割以上を占める森林の中でも広葉樹の割合が7割と、
全国でも広葉樹の豊富な地域です。飛騨市と、林業・地域再生を手掛けるトビムシ
ロフトワークの3社が手を組み、広葉樹の活用を通じて地域活性を目指し、
〈ヒダクマ〉が生まれました。

私は飛騨に移住してヒダクマで働き始め、
何もかもが新しい環境で日々奮闘しているのですが、その話はまた改めて。
ヒダクマは、日本の課題である林業にテクノロジーを駆使して向き合い、
クリエイティブな解決を図り、伝統の知恵や技の伝承のため、
データをオープンにして世界中のクリエイターたちと共有し、
新しいかたちやプロダクトをつくり出すことを目指しています。

森づくり

ヒダクマの正式名称は〈株式会社 飛騨の森でクマは踊る〉。
社名にこめられたメッセージは、クマも踊り出すような健康な森にしよう、という思いから。
森を守ることとは、森を放っておくことではなく、
100年後を見据えた未来の森プランを共有し検討し実行していくことです。
第一次産業である農業や漁業と比較しても取り組みが難しいと言われる林業は、
日本では他の国に比べて国産材使用の流れに遅れをとっています。

例えば、日本もフィンランドも国土の面積に占める森林面積が9割ほど。
でもフィンランドは自給率126%、かたや日本は28%、フィンランドは輸出していますが、
日本は大量に輸入しているのです。
世界に誇る森を持っていながら輸入して資産を有効活用できておらず、
自然災害などさまざまな問題を引き起こしているのです。
飛騨は世界に誇る日本有数の木工技術が集積したエリアで、
高い技術を持つ家具メーカーがひしめき合っているのにも関わらず、
多くの家具メーカーが輸入材を利用。
これほどの資源を目の前にしながら驚愕の事実ですが、現実は厳しい。
そうならざるを得ない構造自体を変えていかなくてはならないのです。

こういった状況に危機意識を持つ人たちの間で、
森という資産を経済的に有効活用しようという動きが出始め、
針葉樹林は活用され始めています。
そんな中、ヒダクマがフォーカスしているのは広葉樹の活用です。

広葉樹というのは、私たちの暮らしにも身近なクリ、クルミ、サクラやケヤキ、キリ、
ミズナラ、ブナ、ホオ、ミズメ、トチ、カツラ、サワグルミなど、
地球上には針葉樹が約540種が存在、広葉樹はなんと約20万種。
広葉樹は育ちが遅く(針葉樹が伐期50年と言われる一方、広葉樹は70年と言われている)、
木の幹が太く曲がっていたり枝や節が多く扱いずらいため市場価値を持たず、
線路の枕木や燃料の薪や製紙用のチップとしてしか利用されていません。

しかし、よく見ると樹種によって色も木目も触り心地も匂いもすべて違う、
広葉樹は個性的な”生き物”であるということに気づきます。
それらを価値化してプロダクトにしていこう! というのが
ヒダクマの取り組みなのです。

以下の写真は飛騨の広葉樹のうち、”栃の実”でよく知られるトチの木を利用し、
東京のデザイナーの設計により、コンクリートを流し込んだカウンター材を
ロフトワークの新しいコワーキングスペース〈FabCafe MTRL〉に導入した例です。
仕上がりはとても自然です。
ただし広葉樹は育成に時間がかかるので、
広葉樹の人工植林も同時に対応していく必要はあります。

ヒダクマは飛騨市が現物出資している森などをベースに、テクノロジーを活用し、
森にある木の樹種、色、樹齢そして森全体の環境状況などをデータ化し、集積する。
さらには製材所にある木材もデータ化し、
オンラインで建築家やデザイナーが発注できるようなシステムを目指しています。
また、マーケットに出たあとの利用状況、
木材の経過観察し特徴などをデータ化することで知見を貯めていきます。 

飛騨の広葉樹のトチを東京の〈FabCafe MTRL〉のカウンター材に。

デザイナーにより、コンクリートを流し込んで完成したカウンター。

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FabCafe Hidaを2016年春にオープン!

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組木データベース

伝統的建築物などに使われている組木の技術は、
日本家屋を何百年も持ちながらえるために生まれた仕組み、構造です。

例えば飛騨は豪雪地帯なので、時代を超えて続く町家の保存は大変なこと。
雪が積もると柱は腐りやすく、その度に柱を丸ごと変えるのは重労働です。
そのため、建て替えずに腐った箇所のみを入れ替える組み木という構造が使われました。
組み木の歴史は古く、時代の流れとともにさまざまな発展を経て、
匠が個人の技量や知恵の見せ合いや表現としてあらゆるかたちの組み木が編み出されました。
組み木の技を使えば、1本も釘を使わずに建築することが可能になります。
匠はひとつの家を木のみで組み上げ、
できるだけ異素材の釘を使わないことにプライドを持っていたそうです。

それが今は建築法で釘を使うことが義務として定められています。
そのため、わざわざ実用性のない難しい技術を学ぶ若者は稀有になり、
現在、飛騨地域で昔ながらの組木技術を有する若者は5人もいないそうです。
博物館という箱の中で過去の遺産になりつつあるそれらの技術、
作品表現をデータ化して世界中の建築家やデザイナー、クリエイターにオープンにし、
実用的なプロダクトや建築に活かし飛騨の伝統を新しいかたちに昇華することが
ヒダクマの取り組みのひとつです。

クリエイターと飛騨のワークショップキャンプを経て生まれた組木技術を使ったプロトタイプの「壁継」。3Dプリンターで出力し接合した組木ハンガーモジュール 。

実験の拠点

東京を中心に世界へ広がるデジタルものづくりカフェFabCafeの日本で2番目、
世界で7番目となるFabCafe Hidaを2016年春に岐阜県飛騨市にオープンします。

FabCafe Hidaでは、他の拠点と同様に、
レーザーカッターや3Dプリンターで楽しくものづくりをして
地域にコミュニティをつくる取り組みと、CNCなど大きな木材を加工できる機械を導入し、
飛騨の伝統的技を有する職人と都市部そして世界中のデザイナー、建築家、
クリエイターとコラボレーションし、実験を繰り返し、製品を生み出す取り組みを行っていきます。

FabCafe Hidaの拠点は江戸時代から続くふたつの蔵を有する古民家。
元々は酒蔵や木工関連の事業を行っていたという慶応時代にさかのぼる蔵と、
明治の大火で全焼したあと、明治と昭和に建て直された母屋という、
3つの時代で構成された建造物。
改装は、建築家 中山英之氏率いる東京藝術大学の中山研究室と
地元の大工さんが連携して進めており、過去の遺産として
その歴史や文化を埋めてしまうのではなく、あるひとつの商家が辿ってきた歴史を敬い、
現代に適応させつつも、次世代へ引き継いでいける表現方法を目指しています。

次回は飛騨に移住して、実際に何を行ってきたのか。その奮闘記をお届けします。

information

map

株式会社 飛騨の森でクマは踊る

住所:岐阜県飛騨市古川町弐之町6番17号

http://hidakuma.com/
FabCafe Hida(2016年春にグランドオープン)
http://fabcafe.com/hida

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