連載
〈 この連載・企画は… 〉
Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどのデザインを手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈株式会社ロフトワーク〉。
東京をベースに活動してきた彼らが、いま地域のものづくりプロジェクトにどんどん参画しているワケとは。
ロフトワークの事例から見えてくる、地域とビジネスのあり方をレポートします。
writer's profile
Akiko Moriguchi
森口明子
もりぐち・あきこ●大阪府枚方市出身、青山学院大学経営学部卒。2006年レッドブルジャパン入社。マーケティング・コミュニケーション部で音楽やダンス、アートコンテンツのグローバルコミュニケーションを担当。 2016年5月よりロフトワークへ入社し、6月より飛騨へ移住。地域おこし協力隊を兼務しながらFabCafe Hidaの女将(見習い中)として春オープンに向け企画進行を行う。
company profile
Loftwork
ロフトワーク
ロフトワークは、Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの「デザイン」を手がけるクリエイティブ・エージェンシーです。企業や官公庁、大学などのクライアントの課題をクリエイティブで解決するプロジェクトを年間約500件以上手がけています。
http://www.loftwork.jp/
こんにちは。ヒダクマの森口明子です。
前回の記事に続き、2回目の連載の機会をいただきました。
せっかくの機会なので、田舎暮らしに興味のある方や
飛騨に興味のある方もいらっしゃるかもしれないので
飛騨の暮らしなどについてもお話させていただきます。
私の飛騨移住のきっかけは、タイミングと出会いと、
前回でもお話したとおり飛騨という土地が持つDNAやパワーに惹かれたことは大きいですが、
最終的に移住に至った理由は、自分が向かいたい方向が
ヒダクマの事業内容やビジョンと沿う点が多く、一緒に歩んでいけそうな気がしたからです。
伝統の文化や芸術を世界に広がる技術やアイデアと融合し、
新しいかたちで次世代へつないでいくこと、オープンな場を持つこと、
そして社会に還元できる持続的な取り組みであること。
伝統の文化を次世代へ発展するという取り組みは、
前回の記事でご紹介した、組木という知恵と技術の結晶をテクノロジーと組み合わせて
発展させていく事業であり、
場づくりはFabCafe Hidaという拠点を持つこと。
飛騨のカフェの平均的客数は平日10人、休日20人というから
都会とはまったく条件が違うわけですが、
都会にはない飛騨の特別な空気感と、
先に見える光景がとてもユニークだと感じました。
例えば、海外から訪問したデザイナーや建築家が、飛騨の職人や大工の方たちと、
木を中心にああでもないこうでもないと談義し、
工具やデジタルファブリケーションの機材を使いこなして実験を繰り返す脇では、
おじいやおばあ、子どもたちが
おいしい水でつくられた食べ物を囲みながら
興味津々にその活動を覗き込んでいるといった光景を想像すると、
その異色な雰囲気がまるでひとつの惑星のように思えてきます。
いろんな人がひっきりなしに出入りする活発な”ヒダプラネット”。
移り住むもよし、夏だけ住むもよし、ひと月ステイもよし。
受け入れてくれる土壌、風土、ひと、環境がある。
そんな環境をFabCafeを中心に生み出していきたい、と。
飛騨に移住したのは2015年6月15日。すべての荷物と住民票を手にいざ飛騨へ。
到着した日は朝の5時。不動産屋のお兄さんを待つあいだ、
ガラガラとカバンを引いて気の向くままに歩いていると
丘の上に悠然とそびえ立つ神社の鳥居が見えました。その圧巻な存在感に引っ張られ、
まるで瞬間移動したかのように、気づいたら鳥居の下にいました。
深い息を吸い込んでから、
飛騨到着の日記でも書こうかと柱に腰掛けてパソコンをカチャカチャ打っていると、
みるみるうちに飛騨の女性たちが増えていき、あっという間に集団に。
その日は女性による“草刈りの日”だったのです。
そしてあるひとりの女性が「お嬢さん何してるの?」と聞いてくれたので、
「今日から飛騨びとです。よろしくお願いします!」と言うと、
そのおばちゃんはとてもフレンドリーにお話してくれました。
それ以来、私は何かにつけて無意識にこの神社にいます。瞬間移動茶飯事。
時には夜中にまで行く始末。
(夜の神社には魑魅魍魎がうじゃうじゃいると言いますが、いうなれば彼らも仲間です(笑))
飛騨の生活は他地域とのコミュニケーションがなかなか骨が折れます。
会議は遠隔で、インターネットの調子が悪いと途切れるし、映像の質は不安定、
何よりもその場の雰囲気から読み取れる空気感や熱量の伝達に
インターネットの限界を感じます。人は対面しているときに無意識で無数の信号を発し、
空気中に投じられるそれらの暗号を読み取り解読しているんだな、と思います。
そして当然のことながら、コトは東京で起きてます。
人が集まれば集まるほどコトは起き、そこを中心につながりが生まれ、発展していきます。
ライブストリーミングなどはまだまだ大変な作業で莫大なコストがかかります。
地方の活性化が叫ばれる中、田舎でコトが起きていないことが
移住につながらない要因のひとつだとも感じます。
今後、都心の波が田舎にも広がっていく流れの必要性を感じます。
例えば、東京で行った都会に住む人同士のトークショーやイベントが、
東京と飛騨に生きる人との組み合わせによってもたらされる違った結果や発展。
複数の地方をツアーのようにまわることで、その地域特性と融合して生まれるマジック。
ツアー後には日本全体にその波紋が広がり、ひとつの新たな連携ができたら、
と考えるとワクワクしてきます。
ここに暮らしていると、毎日神々しい山や大自然を享受できることはとても幸せです。
空気もきれいだし、水もおいしいです。
当然のことながら水は全ての源泉であり、食べ物がとっても美味しいのです。
でも特に美味しいと感じるのは、米、餅、味噌、イワナ、野菜、ふきのとうや日本酒など。
飛騨の名産は今話題の荏胡麻や朴葉でその深みを味わうと、
ぐーっと細胞が目覚める感覚を味わえます。
でもやはり感じるのはやはり自分は都会人であるということ。
時に、「都会っぽさをなくさなきゃ溶け込めないよ」。とアドバイスされます。
半分理解しつつも、完全に都会さをなくすことは必要ないとも感じてます。
完全に溶け込んでしまっては新たな風を吹き込めないから。
でもこれまでに存在することのなかったポジション、中途半端なスタンスに立っていると、
普通に通り過ぎるはずの風が強く当ることもあります。
飛騨は多くの人が家族暮らし、とりわけ移住組みは家族ごと移住しています。
豪雪地帯の冬は雪下ろしや雪かき作業に追われ、車は滑りやすいなど、
日常的に困難が伴うため、支え合える、協力し合えるパートナーがいることは
理にかなっていると感じます。
都会ではひとりでも楽しく暮らせる環境が整っているしある意味自由を享受できますが、
田舎でのひとり生活は修行に近いものを感じます。(笑)
そして冬は冬眠しているかのようにまちが静かになります。
街のひとは寒いので外を出歩くことはあまりありません。
ただ、そんな飛騨も北半球とは違い、冬でもさんさんとお日様が照ります。
雪景色を太陽が照らすと、とても美しく幻想的な景色にあやかれます。
飛騨にはDIYの血が色濃く流れています。家、家具、道具、米、野菜など
あらゆる生活に必要なものをささっとつくってしまうのです。
そもそも不便な環境だからこそ生活必需品は
自らの手を動かして生み出していくしかなかった歴史背景があります。
だから技術も知恵もある!
街を歩くと、あちらこちらでそんな”つくり手”や”職人”たちを目にすることができます。
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〈秋祭り〉
FabCafe Hidaは4月のオープンに向けて工事やカフェサービス設計、
ウェブサイトのリニューアルやイベント企画、合宿準備、製品化など
今まさに準備真っ最中なわけですが、
昨年の10月にはプレオープニングとしてヒダクマ秋祭り”を開催しました。
2日間のイベントで全国から400人ほどの人にお越しいただき、
FabCafe Hidaとヒダクマの今後の展望をお伝えすることができました。
その中で、前職のつながりでアーティストのYosi Horikawaと、
飛騨の家具メーカーの職人によるコラボレーションで
広葉樹によるスピーカーを製作しました。
美しい球体フォルムから紡ぎ出される音楽は目にも耳にも心にも優しい。
また、飛騨にさまざまな建築家が訪れ、製材所で木材を買いつけ、
オフィスのリノベーションやクリエイティブスペースづくり、
新製品の開発などに活用しています。
建築家・佐野文彦氏が訪問し、
自分の目で広葉樹を買いつけオフィスの家具をデザインしたり、
FabCafe Hidaの設計を担当する中山英之氏もじっくりと時間をかけて選んでいきました。
東京芸術大学中山研究室メンバーの製材所での購入の様子は映像でご覧いただけます。
〈森のツアー〉
建築家・益山絵夢氏が、森から製材所、木工房や飛騨の家具メーカーを訪問し、
製品開発に向けたアイデアの種をつむツアーもしています。
クリエイターのバッタネイションがデザインし、
飛騨の職人、KOIVUを運営する鈴木岳人氏がつくったイベント什器も
飛騨の広葉樹から生まれています。
これには組木の技術を活用されており、簡単にばらせて小さくして持ち運べます。
什器本体には車輪がついてるので、どこでもスーイスイと動かせます。
木の香りを放つこの什器は、世界中の展示会を旅しながら
イベントを影で支える存在になります。
そして、同じくバッタネイションがデザインし、
飛騨の木工職人堅田恒季氏が製作した組木テーブル。
足は組木技術を使っているのですが、こちらもばらせるので、小さく収納できます。
木目が美しく触り心地も気持ちよく、香りも良くて邪魔にならないテーブルは、
とってもおしゃれ。でも一番楽しいのはみんなで組木の謎解き遊びができること!
お子さんにとっても頭と手を使った良い教育になります。
こうして続々と製品化のためのプロトタイプが生まれています。
都市部、または海外のデザイナー、クリエイターや建築家などと、
飛騨に根ざし木材の深い知識と技術を持つ職人がタッグを組んで生まれた新しい製品、
そのプロセスや取り組みが、ライフスタイルを変える可能性さえありますし、
技術の継承になるだけでなく、
一見無謀なアイデアにも聞こえる注文に対応することで
職人の技術の底上げにつながり、
これまで視線の先に見えていなかった可能性をもたらすことだって、
それがひいては日本文化のレベルアップに繋がるとだってあるかもしれません。
可能性は無限大です。
先人の技術をコンテンツとして博物館に所蔵したり、
データにしてネット上に遊ばせていてもそれらはやがて忘れ去られていきます。
データベースは手段であって目的ではありません。
技術はその人が長年の経験の中で編み出した固有のもの。
ひとつ手を動かす方法でも角度や強度やタイミングや判断力など
あらゆる要素が組み合わさり、最終アウトプットとして落としこまれた”結晶”。
歴史的文脈から現在につながるその結晶を持つ職人たちが存在するうちに、
生きたものとして、現場で実際に共有し、刺激し合い、さらに昇華していく。
そんな仕掛けをかけ続けたいし、トライアンドエラーで実験しては振り返り、
恐れずにまた新たな挑戦を行う、
そしてそこに誰でも体当たりで飛び込んできてくれるような場所を
FabCafe Hidaを拠点につくっていきたいと思っています。
オープン予定は4月。ぜひ一度ふらっと遊びにきてください。
information
株式会社 飛騨の森でクマは踊る
住所:岐阜県飛騨市古川町弐之町6番17号
http://hidakuma.com/
FabCafe Hida(2016年春にグランドオープン)
http://fabcafe.com/hida
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