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番外編「studio-L IGA」始動!

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.026

posted:2012.8.2   from:三重県伊賀市島ヶ原  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  日本各地で数多くの地方再生プロジェクトを手掛ける山崎さんが、
自身もローカルに新たな拠点を構えることに。
今回は番外編として、その新しい「場」をレポート。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:内藤貞保

フランク・ロイド・ライトの「タリアセン」をヒントに。

JR関西本線島ヶ原駅。
大阪と名古屋のほぼ中間に位置するこの小さな駅に停車する列車は、1時間に1本。
その駅前、徒歩0分の製材所のなかに、山崎亮さんが代表をつとめる
「studio-L」のあたらしい事務所が誕生した。
2007年からこの場所でスタートした穂積製材所プロジェクト、
通称「ホヅプロ」のことは、著書『コミュニティデザイン』のなかにも書かれている。

“70歳を目前に控えた穂積夫妻が経営するこの製材所は、
跡を継いで仕事を続ける人が見つからないため、閉鎖して駅前の公園にする予定だった。
地域の人が集まる場所になると嬉しいという。穂積家は、先代が20年間
島ヶ原村の村長を務めた家だった(現在は合併して伊賀市に統合)。
地域の人たちに大変お世話になったので、息子世代のふたりは地域に恩返しするために
公園をつくろうと考えたらしい。美しい話だ。”

ーー山崎亮著『コミュニティデザイン』より

「もともと、このプロジェクトのための事務所を作ろうというアイデアがあったのですが、
東北大震災を境に気持ちが逆転したんです」と山崎さん。

つまり、studio-L の事務所として、この伊賀がメインとなり、
大阪には数人だけ残ればいいのではないかという発想。
あたらしい事務所のL字のテーブルの奥は壁面がディスプレイになっていて、
Skypeなどの通信手段を使えば、大阪事務所、あるいは「今」山崎さんのいる
どんな場所とも常時つながることができる。

「インターン希望者が増えてきたので、学び舎としての機能をもてること。
ローカルを拠点とすることで、所得の少ない若い所員も生活費が軽減されること。
ただ学ぶだけでなく、地域に若い力が残せること。
そして、公園=ひとが集まる場を作りたいという夫婦の夢を叶えること。
こういった複数の役割を叶える場として、“studio-L IGA”が生まれました」

イメージしたのは、近代建築の三大巨匠と呼ばれるアメリカの名建築家、
フランク・ロイド・ライトの「タリアセン」。
タリアセンは、ライトが生まれ故郷のウィスコンシン州に開設した、
仕事場と住まいを兼ねた場所だが、実際は、
若い建築家を育てるための工房として機能した。

“「ここは、完全な自給自足とまでは行かなくとも、せめて自足はしたかったので、
200エーカーの土地とシェルター、食糧、衣服、娯楽くらいは自前でまかなおうとした」
「タリアセンは、私の子供たちやそのまた子供たち、さらに多くの世代にとって、
クリエーションの場になるだろう」”

ーーフランク・ロイド・ライト

(『GA TRAVELER 002 Frank Lloyd Wright Taliesin』ブルース・ブルックス・ファイファーによる序文より)

「穂積夫妻の力もお借りして、製材所としての機能も取り戻したいと思っています。
“材を欲しいひと自身が動く”という発想で、
訪れるひとがじぶんの手を動かすための製材所。
端材をふんだんに使って studio-L のスタッフがじぶんたちだけで作りあげた
伊賀事務所は、そのショールームとしても役に立てそうです」

「木の家を建てることで、森林も元気になります。
木のよさを実感する経験を通じて、100人にひとりでも
“木の家に暮らしたい”と思ってくださったらうれしい。
加えて、地域の工務店さんや設計士さんがこの事務所に立ち寄って、
うちが所有する膨大な量の書籍や資料を目にしたり、
ぼくらとコミュニケーションすることで、よりカッコイイ家づくりや
グッドセンスなリノベートが島ヶ原内で可能になれば最高だな、
ということまで目論んでいるんです」

JR関西本線島ヶ原駅

JR関西本線島ヶ原駅。運行本数は少ないが、大阪からなら乗り換え1回、所用時間は100分と、意外に近い。

島ヶ原駅前すぐの穂積製材所

島ヶ原駅前すぐの穂積製材所。継ぎ手の不在、業界の低迷という課題を「ホヅプロ」によって乗り越え、「製材所」としての90年の歴史をさらに未来につなぐ。

穂積製材所の代表、穂積享さんと山崎亮さん

穂積製材所の代表、穂積享さんと。「studio-L」スタッフやホヅプロに関わる学生たちにとって、「トオルさん」は、みんなのおとうちゃん的なあたたかい存在。

タリアセンについて書かれた書物

「studio-L IGA」の書棚で見つけた、タリアセンについて書かれた書物。

生活を豊かにしていくためのデザイン事務所。

「studio-L IGA」の始動は5月某日に行われた2泊3日の合宿。
studio-L の所員が一堂に会すのはこれが初めてだという。
これは、非営利株式会社というユニークなスタイルゆえ。

「中にいて外のしごとを受けるのもアリ、
外にいながら距離を置いてうちのしごとを受けるのもアリという
あたらしい働き方を模索しています。
モデルがあるわけではないので、ぼくらも試行錯誤なのですが」

創設メンバーの、山崎亮、醍醐孝典、神庭慎次、西上ありさの活躍に憧れる
スタッフ希望者はあとを断たない。
「この仕事は、ひととはなしができれば誰にでもできる」という山崎さんだが、
あらゆる課題への解決策に「オリジナリティ」と「クリエイティビティ」の
質の高さを求めるのは、studio-L があくまでも「デザイン事務所」だから。

「醍醐、神庭、西上は、自由にのびのびとやっているように見えるけれど、
その背景をきちんと知ることが大事。全員が、設計や建築に長けているわけではないので、
他分野から関わってくるメンバーは、せめて専門用語を理解する必要性もある」

いまのプレゼンテーション、全然オモシロくないよ。笑うところがなかったもんね。
それに、フォントの使い方が全然なってないね……。
メディアでは、おおらかな笑顔が取り上げられることの多い山崎さんだが、
合宿の場において、その口から飛び出すことばはどれも的確で、
細かいけれど肝心な1点を刺すように指摘する。

「初めて訪れるまちでは、ぼくらはヨソモノ。
地元のひとにどんなに叩かれても、大声で帰れと言われても、
へこたれたり諦めたりするのではなく、すぐに次の新しい提案ができる。
そんな精神的なタフさが求められます。
だって、ぼくらは参加者ではなく、ひとを動かす、マネージメントをする側ですからね」

現場での厳しさをいくつも乗り越えてこそ、どんなときも笑顔で
「Yes, and……」と言えるのだ。
「まちのために活動してあげる」ひとではなはく、
「まちを使って楽しませてもらっている」と思えるひとを育てる。
山崎さん自身の経験に基づいているから、その芯は強く揺るぎがない。
「Life(生活/人生)こそが財産である」とは、
19世紀の美術評論家、ジョン・ラスキンのことば。

「個人のしあわせでなく、複数のひとが
相互にしあわせだなと思う気持ちを高めたいですね。
studio-L は、生活を豊かにしていくためのデザイン会社なのですから」

製材所内に設置された「ねどこ」こと、木製テント

ホヅプロの第1弾プログラム「家具づくりスクール」を実行するため、宿泊場所として製材所内に設置された「ねどこ」こと、木製テント。関西で活躍する建築家にデザインを依頼し、建てる作業には学生たちの参加を募った。

「studio-L IGA」での合宿の様子

「studio-L IGA」での合宿の様子。L字のテーブルを囲むメンバーは、仕事の付き合いは長いが初対面、という顔ぶれも多い。

NPO法人「伊賀・島ヶ原 おかみさんの会」

「studio-L」およびホヅプロスタッフの胃袋を支えるのは、同じ製材所敷地内にあるNPO法人「伊賀・島ヶ原 おかみさんの会」。

information

map

studio-L IGA

山崎亮が代表をつとめる会社「studio-L」の5つめの事務所として2012年5月に開設。JR島ヶ原駅前の穂積製材所敷地内にあり、通信手段を通じて、常に大阪をはじめとするほかの事務所、山崎亮本人とつながることができる。

住所:三重県伊賀市島ヶ原5844

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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