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連載

〈酒井産業〉
全国の木工職人との
ネットワークを生かし
自然のぬくもりを暮らしへ

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.053

posted:2015.2.16  from:長野県塩尻市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

writer profile

Hiromi Shimada

島田浩美

しまだ・ひろみ●編集者/ライター/書店員。長野県出身、在住。大学時代に読んだ沢木耕太郎著『深夜特急』にわかりやすく影響を受け、卒業後2年間の放浪生活を送る。帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。

credit

撮影:阿部宣彦

酒井産業からつながる長野県の森のはなし

本州の中央部、日本海側と太平洋側との中間に位置する長野県。
標高3000メートル級の山々が連なり、
南北に長い複雑な地形のため、気候も極めて多彩だ。
県土のおよそ8割、約106万ヘクタールを森林が占めており、
森林面積と人工林面積は全国で第3位。
森林率も全国で4番目に高い、日本有数の森林県である。
民有林率は65%で、その約6割が針葉樹だ。
ただし、全国的にはスギが主体であるのに対し、
長野県では県内全域にカラマツが多くを占めているのが特徴である。
とはいえ、北部にはスギ、木曽や下伊那にはヒノキ、
松本や上伊那にはアカマツが多く見られるなど、
地域ごとに特徴ある資源構成となっている。
そのなかでも県下で最も高い森林率(94%)を誇り、
国有林が民有林の面積を上回る県内唯一の地域である
木曽谷から生まれるプロダクツを紹介したい。

間伐が進み、下草が生える長野県のカラマツ林。同県の民有林のうち約5割は人工林で、その5割強をカラマツが占めている。(写真提供:長野県林務部)

漆器から天然素材の生活用品へ

木曽谷は、日本を代表する木材として名高い木曽ヒノキの産地であり、
古くから漆器の生産地としても知られている。
特に海抜およそ900メートルの高地にある木曽平沢地区は、
漆塗りの下地に適した良質の錆土(さびつち)が産出したことから
小さな集落ながら漆器の一大産地として発展した。
錆土を漆と混ぜることで堅牢な製品がつくられ、
〈木曽漆器〉の名は全国に知られるようになった。

木曽堆朱(きそついしゅ)や木曽春慶といった独自の技法を含めてさまざまな塗り方があり、丈夫で使い勝手がよいとされる木曽漆器。

「当社も、先代の頃は地場産業である漆器問屋として
酒井漆器店の名でスタートしました」
こう話すのは、木製生活用品全般を扱う酒井産業の
営業本部特販課課長の宮原正弘さん。
かつては全国どこへ行っても、木曽漆器独自の塗り方のひとつ、
木曽堆朱(きそついしゅ)の猫足座卓のテーブルが見られるほど
華やかな時代があったという。同社も木曽漆器の卸売業で繁盛したそうだ。

しかし、取引先は徐々にホテルや旅館などの業務用市場から
スーパーマーケットなどの一般家庭用品市場に変わり、
それに伴って取り扱う商品も、業務用漆器から家庭向けの汁椀や箸、
まな板など生活用品に変化していった。
そして、現社長に代替わりした40年ほど前に社名を酒井産業に変更。
いまでは1000アイテムにおよぶ天然素材の生活用品を、
全国150の協力工場で地域材を活用して製作している。

営業本部特販課課長の宮原正弘さん(右)と、社長室長の宮原 肇さん。同姓ながら親戚関係ではなく、地域一帯に多い名字だそうだ。

軽くて持ちやすい木曽ヒノキの箸。木曽のおみやげとしても人気が高い。

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木曽の奥地・飯切工場へ

協力工場のひとつで、長野県の南西部に位置し、
岐阜県と境を接する南木曽町(なぎそまち)で
「飯切(寿司桶)」を生産する工場を宮原さんに紹介してもらった。
酒井産業から1時間30分ほど車を走らせ、
日本で初めてまち並み保存を行った妻籠宿をさらに越えた清内路峠の手前。
山道には慣れているとはいえ、驚くほど山奥にある同社までの道のりは、
まさに島崎藤村が記す通り、“木曽路はすべて山の中”だと感じさせた。

南木曽町の山中に位置する工場。若い職人も多く見られる。

南木曽にはろくろをまわしながら木をくり抜き、お椀やお盆などをつくる木地師が多く、
飯切のような桶を生産している工場もいくつかあったという。
もともと製材屋であったこの工場で飯切をつくり始めたのは35~40年ほど前。
代表の志水弘樹さん曰く「風呂桶などの手づくり桶はつくっていたのですが、
飯切で量産化を考えられるようになったのは酒井産業さんから
声をかけてもらったことがきっかけ」なのだそうだ。

祖父が起こした会社に24歳で入社した志水弘樹さん。同社で飯切の生産が始まったのが28年前のことで、入社当時はすでに始まっていたという。

飯切に使われる木材は、
木曽五木(江戸時代に伐採が禁止された木曽谷の木)のひとつである地元産のサワラ。
宮原さんは「サワラは余分な水分を吸ってくれ、
乾燥すると今度は水分を放出してくれます。材質はヒノキとほぼ同じですが、
ヒノキよりも匂いが少ないので米に木の香りが移らず、
ヒノキよりも使いやすいんです」という。

サワラの木を使ってつくられる飯切。飯切とは寿司屋や家庭で酢飯を調理する際に用いられる桶で、ちらし寿司や赤飯、炊き込みご飯の盛りつけにも使われる。

工場では、丸太のまま仕入れた生木のサワラを製材し、
15%以下に乾燥させて、さまざまな製品へと加工していく。
飯切の場合は、まず“駒”とよばれる側板を専用の機械で切断する。
桶はいずれも円筒形なので、駒の切断面が直角のままではピッタリとくっつかない。
そこで駒に角度をつけていく必要があるのだ。
しかし、専用の機械を使うとはいえ、この微妙な角度は、
職人の感覚によるところが大きいという。

「桶をつくるうえで一番の要は材料です。製材して乾燥した後、
細かく刻む駒の角度は、分度器で測るようなレベルではありません。
機械ではそこまでの精度は求められないので、熟練した経験が必要になるのです」
と志水さん。

サワラを丸太から製材し、乾燥釜に入れて水分を15%以下に乾燥させる。

熟練した経験により微妙な角度をつけて刻まれる駒。この角度が間違ってしまうと、円筒形の飯切ができない。

この駒をのりづけし、3時間おいて固定させる。
ろくろを回して内側と外側を削り、削り残しは職人がカンナで手直し。
そして、箍(たが)をはめて底板をはめ込んだら完成だ。
「気をつけなければいけないのは、箍を締める力。
力の入れ具合は桶の大きさによって異なり、強く締めると桶が縮んで歪んでしまうし、
緩いと箍が落ちてしまう。これも経験で覚えていくしかありません。
新人の職人は返品がきたらどうしようと、
内心ヒヤヒヤしているのではないですかね(笑)」
と志水さん。職人は皆、こうした経験を重ねていまがあるのだろう。

銅製の箍をはめる作業。力の入れ具合も経験によって身につけていく。

ろくろでの削り残しや逆目は手作業で直す。カンナで内側と外側を丁寧に削っていく。

「桶は江戸時代からあり、現代でもその文化を引き継いでいます。
そして我々は、過去の職人よりも品質を高める必要があると考えています。
だから、この仕事は日々勉強できることがやりがい。
時折、“明治何年”と書かれたような古い桶の修理の依頼がくるのですが、
当時は接着剤がなかったことから、中に竹串が入っていたり、駒の幅が均一ではない分、
それぞれの駒の角度もさまざまといった複雑なつくりのものがあります。
そういうものを見ていると、本当に勉強になりますね」

こう話す志水さんだが、桶の流通市場は狭いので、
今後は飯切がなくなる時代がくるのではないかと不安も感じているそうだ。
実際、かつては流通の主流であった業務用の飯切の生産は、
寿司屋自体が少なくなったこともあり、最盛期の3分の1ほど。
親戚同士の集いなど、一般家庭のハレの日でも使われる機会が少なくなった。
「いままでのように寿司桶やおひつだけでは、やっていけない時代がきています。
そこで、桶の類いで違う製品づくりに挑戦していく予定です」(志水さん)

桶以外にも、ヒノキやコウヤマキといった木曽五木の高級材を使った木風呂製作もしている。これらはすべて納入先のサイズに合わせて生産される受注生産の一点ものだ。

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木製品の新ジャンルを開拓

酒井産業もまた、意欲的に新製品を開発している。
そのひとつが玩具。
もともと“自然のぬくもりをくらしの中に”を社是に掲げている同社では
木育に力を入れてきた経緯があり、木のおもちゃづくりは長く続けていた。
そんななかで2012年から新たに発売を開始したのが、
プロダクトデザイナー柴田文江氏が手がけた
子ども向け木製品ブランド「buchi(ブチ)」だ。

「子どもたちに、長く愛着を持って使える良質な木の素材に触れてもらいたい」という思いから、これまで木育教材を開発してきた経験をもとに酒井産業が製品化した〈buchi〉シリーズ。

「『木育』や『木づかい運動』という言葉はここ数年でぐっと広まりましたが、
当社では昔から取り組んでいることでした。
また、OEMでデザインをいただいて製品をつくることもある当社では、
デザイナーやディレクターと知り合う機会も多くあります。
そんななかで、プラスチック系素材のプロダクトを多く手がけていた
柴田さんと知り合い、共通のディレクターを介して話をしているときに、
柴田さんの“木のおもちゃを手がけてみたい”という思いと、
当社の“普通の木のおもちゃとは違うものをつくってみたい”という思いが重なりました。
そして、こちらからお願いして製品化が叶ったのです。
柴田さんとは、自信を持って推薦できるメイド・イン・ジャパンの商品を
つくりたいと話しました」と宮原さん。

酒井産業が島根大学・山下晃功(あきのり)先生の指導で製作している木育教材〈ロボ木ー(ロボキー)〉。ヒノキ材のボディと松ぼっくりや毛糸、ボタンなどを使って子どもたちが組み立てる。

酒井産業がある塩尻市は市全体で木育に力を入れている。塩尻市の商工会議所が主体となって始まった〈木育フェスティバル〉では、多彩な分野の人がボランティアとして参加しているため、地域にイベントが浸透してきている。

こうして「本当にいいものを子どもたちに届けたい」
という思いを掲げてスタートしたbuchiは、
子どもがおもちゃとして使わなくなっても、思い出と一緒に
インテリアとして飾っておきたくなるような高いデザイン性を備えている。
「buchiとは、縁取りにきれいな色彩を施すところからきています。
柴田さんの世界観のなかで製作には相当高いクオリティーを求められますが、
お客様からは大変好評を得ています」(宮原さん)

buchiは、彩色を施した“ふち”を特徴に、多彩な樹種を用いて木々が織りなす自然のハーモニーを表現。大人も楽しめるおもちゃを目指した。

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次に、酒井産業が
「国産の木、できれば信州発の木材をたくさん使った木製品をつくりたい」
という思いを抱いて、新たに柴田さんとのコラボレートで生み出した家具ブランドが
〈LAYERED WOOD(レイヤードウッド)〉だ。
木曽はヒノキが有名だが、信州といえばカラマツがメイン。
酒井産業では、「カラマツの積層された木口の美しさを伝えたい」という
柴田さんの思いも踏まえ、この木を使いたいと柴田さんに提案したという。

細い間伐材などでつくられる集成材の魅力を生かし、自由に木の素材感を楽しむ現代的な価値観を提案した家具「LAYERED WOOD」シリーズ。

最初のコレクション〈LAYERED WOOD BENCH(レイヤードウッドベンチ)〉は、
長野県のカラマツ集成材にプレーンの黒鉄のベースを合わせたもの。
クールなのにあたたかい印象を放つ。
「単純に考えれば、座面の制作は横に5~6本の角材をつなげばコストが抑えられ、
つくり方も簡単です。しかし、あえて座面の木を縦に重ねているので、
かなりの手間がかかっています」(宮原さん)
現在は、松本市にある信州まつもと空港をはじめとする公共空間や
オフィスビルのエントランスなどに設置されている。

信州まつもと空港に設置されたLAYERED WOOD BENCH。長野県産の上質なカラマツの集成材を使っている。

目指すは室内環境の木質化

LAYERED WOOD BENCHの設置だけでなく、実は信州まつもと空港では、
ロビーのカウンターや展示ケース、搭乗橋も酒井産業による木質化施工がされている。
長野県の空の玄関口として、訪問客に対して森林県を感じてもらう空間演出だ。

木質化された信州まつもと空港のロビー。カウンターや搭乗橋、展示ケースやワゴンを長野県産材で製作し、思わず手で触りたくなるようなあたたかなデザイン空間を演出した。

宮原さんはいう。
「当社が目指しているのは、室内環境の木質化です。
いまは、まな板もみそ汁椀もプラスチック製品が浸透し、
人々の生活は木からどんどん離れてしまっています。
もう一度、木にふれる環境を提供することが私たちの役目。
そこで、壁を木質化する〈木かべ〉や木製の生活用品を通じて
木に触れる経験をしてもらい、そこで育った子どもたちが
大人になって木造の家を建ててくれたらうれしいですね。
木かべは当社ホームページのほか、通販カタログでも取り扱いをしているため、
当社の思いに共感された方が手に入れやすいのも特徴です」

天然木のリフォームキット〈木かべ〉。専用粘着テープで貼るだけなので、誰でも簡単に空間を改装できる。

今後はさらに、長野県で育った木を活用して、キッズスペースを中心に
「心地よい木質化空間」づくりに力を入れていくという同社。
すでに白馬五竜スキー場のキッズコーナーには
木の遊具を設置した〈ウッドランド〉を設けたり、
大手自動車ディーラーのショールームに木製遊具を導入しているほか、
長野赤十字病院小児科病棟ではプレイルームの木質化を実施。
他病棟の廊下にも木かべを施すなど、いくつもの施設を手がけている。
適度にやわらかいスギの床、香りのよいヒノキの壁。
子どもたちはこうした地域材のぬくもりを通じて、
地域の森が持つ力を感じるに違いない。

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木のある暮らし 長野・酒井産業のいいもの

木曽紅さわら飯切 蓋付き(3合用/5合用/7合用/1升用/1.5升用)価格:6,800円~(税別) 地元産サワラを使った飯切。余分な水分を吸い、ほどよい木の香りを放つ。

江戸びつ しゃもじ付(6寸/7寸/8寸)価格:11,000円~(税別) ご飯の水分をサワラの木地が調節するため、保存効果も高い。

LAYERED WOOD BENCH 180 Natural 価格:420,000円(税別) カラマツの集成材を使用した新しい家具ブランドLAYERED WOOD(レイヤードウッド)。Natural/White/Blackの3種の塗装で展開している。

木かべシリーズ(6×15/6×30/6×60/11×15ダイヤカット)価格:4,700円~(税別) ヒノキの端材を1枚1枚、薄く強く仕上げた天然木の簡単リフォームキット。板厚は5mm(ダイヤカットのみ15mm)。

information


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酒井産業株式会社

住所:長野県塩尻市木曽長瀬2307-2

TEL:0264-34-3323

http://www.kiso-sakai.com/

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