colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧

連載

再生された元酒蔵で生まれた、
たくさんの縁 
一般社団法人ノオト vol.3

リノベのススメ
vol.077|Page 1

posted:2015.6.26  from:兵庫県朝来市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
4つの都市から週替わりでお届けする、リノベーションの可能性。

writer's profile

NOTE
一般社団法人 ノオト

篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。

http://plus-note.jp

日本100名城のひとつで、雲海の上にそびえ立つ光景から
近年「天空の城」、「東洋のマチュピチュ」などと紹介され、
全国的にもその名前が知れ渡った「竹田城跡」の麓、
兵庫県朝来市和田山町竹田地区。

歴史的なまちの中心にある元酒蔵が、
観光交流拠点として再生され、
一躍人気観光地となった竹田城跡のブームとともに
順調に運営してきました。
しかし、それもひと段落。
すると、地域が抱える課題が見えてきました。
再生された元酒蔵で生まれた、たくさんの縁は広がり、
面白い動きが始まっています。

かつては地域の中心だった大屋敷

「子どもの頃、みんな入るのも怖いくらい、
緊張感漂う由緒ある酒蔵で、ここは遊んではいけない場所だった」

地元の人がそう回想していたのは、本瓦に本卯建を上げた、
城下町の中でもひときわ目をひく重厚な商家、「木村酒造場」。

1625(寛永2)年創業、約400年の歴史を誇る酒蔵でしたが、
1979年に日本酒販売不振のため、醸造業を停止。
以来、建物の老朽化が進み、土壁が落ち、屋根が崩れるほど傷みの
激しかった大屋敷を、城下町の新たな観光交流拠点として
生まれ変わらせるプロジェクトがスタートしました。

今から3年前、2012年の春のことです。
自己紹介が遅れましたが、一般社団法人ノオトの中原と申します。
現在、主に朝来市を中心に但馬・丹波エリアの古民家再生を入口とした
まちづくりの取り組みに関わっています。

半年ほど前にノオトの一員に加わったばかりのルーキーなので、
改修の経緯から現在に至るまで、当時の関係者の話にも耳を傾けながら、
これを機会に私もこの事例を振り返ってみようと思います。

さて、話を3年前に戻しましょう。

大規模な古民家再生プロジェクトがスタート

改修前の様子。元発酵蔵の周辺は屋根や壁が崩れて危険な状態でした。

1998年に兵庫県の歴史的景観形成地区に指定された竹田地区は、
2005年より国土交通省の「街なみ環境整備事業」を活用して、
伝統的な建物を整備する計画をスタート。
竹田城跡が注目される以前から、
木村酒造場は地域の重要なシンボルとして利活用の議論が重ねられていたところでした。

木村酒造場を買い取った朝来市は、約3億6千万円を投じ、
ホテル、レストラン、カフェ、観光案内所などの機能を備えた、
複合観光交流施設の立ち上げを計画。
というのも、普通に文化財として整備し、公開施設にすると、
イニシャルコストとランニングコストばかりがかかってしまうので、
観光交流施設の指定管理者自身がビジネスを行いながら
施設の維持管理を行っていくという、
委託料ゼロ円での指定管理者を全国に公募しました。

これは、自治体が文化財保護の観点から建物改修のイニシャルコストを負担し、
民間が管理運営することでイニシャルコストの一部とランニングコストを負担するという、
自治体が持っている文化財的な古い建物を利活用するための新たな方法でした。

その頃のノオトは、前回紹介した集落丸山の宿泊事業に続き、
地元の篠山市で古民家を改修、サブリース方式で事業者を誘致して
地域の活性化につなげる取り組みで実績を積み重ねていました。
古民家改修を入口とした地域づくりにたしかな手応えを感じ始めていた矢先、
今回の木村酒造場のプロジェクトに出会ったのでした。

これまでのノウハウを結集したノオトの提案が認められ、
木村酒造場の指定管理者に選ばれることとなりました。
地域の観光振興、まちづくりの拠点として人と人との縁を結ぶ場所になってほしい。
そんな願いを込めてこの施設を「旧木村酒造場 EN(えん)」と名付けました。

見上げると竹田城跡、裏手には寺町通り。竹田城下町の中心にある由緒ある酒造場です。

新しい公民連携のカタチ

今回のプロジェクトでは、事業主である朝来市が指定管理者である当社の
古民家再生ノウハウに基づき、地元の松本一級建築士事務所が設計、
株式会社阿野建設が施工を行い、ホテル・レストラン・カフェの運営は、
全国15か所に上る歴史的建築物の婚礼会場、レストランの管理運営実績のある、
バリューマネジメント株式会社が担うという、手法としては新しい、
全国でもほかに例のない公民連携の取り組みとなりました。

木村酒造場の指定管理までの流れ。

これまでは、行政が先行して建物をつくってから、
指定管理者を公募する進め方が一般的でしたが、
設計の段階から構造・間取り・仕上げ・デザインなど、
運営する事業者の意見を取り入れながらも、
竹田城下町のまちなみ景観と建物の歴史性を尊重するかたちで、
可能な限り「そのまま」にリノベーション。
4室の客室に地元の新鮮な食材を使った本格的な
フレンチレストランを併設し、1泊2食付きで2万円台。
心を込めたおもてなしとともに昔ながらの日本の生活空間を体験できる
ホテル・レストラン・カフェに生まれ変わりました。

ホテルの部屋とレストランの内装。

そこに竹田城の魅力と歴史に触れることができる観光案内所と、
地元の農産品やお土産品などが購入できる2軒のチャレンジショップ、
どぶろく醸造所が加わり、2013年11月に旧木村酒造場ENがオープンしました。

ノオトは指定管理者として、古民家の再生活用のノウハウを提供するだけに留まらず、
運営においては、施設に誘致した複数の事業者と、事業主である朝来市や、
地域住民の方々との橋渡し役として、城下町への誘客を促すイベントの企画や、
施設全体のマネージメントを担っていくことになります。

朝来市のまちづくりの1プレイヤーとして現場に飛び込んでいく、
そんな新たな挑戦が始まりました。

竹田城の歴史を紹介する資料館や、朝来市の観光案内所が併設されています。

過熱気味の竹田城跡ブーム

ENがオープンした頃の竹田城跡は、登城者数が3年続けて前年比200%以上と急増し、
年間50万人に届く勢いでした。秋の雲海シーズンの真っただ中、
これまでに経験したことのない多くの観光客をいかにトラブルなく受け入れるか、
とにかくそれに対応するのに精一杯という状況でした。
そんな幸運なタイミングでオープンしたENは、
城跡やJR播但線の車窓からも望める好立地ということもあり、
登城者を城下町や市内へ誘導する呼び水として
予想以上の反響をいただくことができました。

雲海に包まれた竹田城跡は「天空の城」と謡われ、訪れる者を圧倒する迫力があります。(写真提供:吉田利栄)

以降は、宿泊やレストランも順調に予約が入り、
厳しい寒さの但馬の冬も何とか乗り越えて、
オープン1周年には過去最高の来場者と売上を記録。
一見すると全てが順風満帆に進んでいるかのように思われました。

そんな中、ENオープンから2回目の冬に、
朝来市は増え続ける登城者による降雪時のトラブルや、
文化財保護の観点から、冬季期間(12月~3月)限定の
入山禁止措置に踏み切りました。

半年前の2014年12月のことです。
ENの運営は大変なことになりました。

Recommend