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アーティスト、地域の人と共に
更新され続ける空間
「HAGI ART」
HAGI STUDIO vol.4

リノベのススメ
vol.054

posted:2014.12.15   from:東京都台東区谷中  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

Mitsuyoshi Miyazaki

宮崎晃吉

1982年群馬県生まれ。一級建築士。2008年東京藝術大学大学院美術研究科建築設計 六角研究室を修了後、2008年〜2011年㈱磯崎新アトリエに勤務。現在は、東京藝術大学建築科教育研究助手の一方、HAGISTUDIO主宰、HAGISO代表を務め、東京、谷中の木造アパートを改修した施設HAGISOを拠点に、建築、会場構成、プロダクトのデザインを手がけています。

HAGI STUDIO vol.4
オルタナティヴ・スペースとして

みなさんこんにちは!
vol.1vol.2vol.3に続き、東京谷中の最小文化複合施設
「HAGISO」について書いていきます。

解体予定から一転、改修利用の道が開け、工事中イベントや
クラウドファンディングでの資金調達などのプロセスを経て、
ついに2013年3月、木造アパート萩荘が
「最小文化複合施設」HAGISOへと生まれ変わりました。

HAGISOのなかでも、1階の吹き抜けある空間をギャラリーとして使用し、
これをHAGI ARTと呼ぶことにしました。
もともとの木造の雰囲気を残したカフェは、
これからの時間を蓄積していくような空間であるのに対し、
こちらは真っ白な壁で覆い、いつも更新され、変化していく空間としました。

高さ7mの吹き抜けをもつギャラリー“HAGI ART”。写真は伊東宣明個展「芸術家と預言者」。

カフェ同様、ギャラリーの運営ということも僕らにとってはまったく初めての試みです。
ギャラリーとひと言で言っても、いくつかの種類に分けることができます。
ひとつは公益目的のギャラリー。
その中でも、企業や財団が文化事業として運営するものと、
自治体が運営する美術館などの公共的なものがあります。
一方、民間運営のギャラリーとしては、
作品の売買を行うことで運営するコマーシャルギャラリー(企画画廊)と、
日本独特のものですが場所を提供することで運営する
レンタル・ギャラリー(貸画廊)とがあります。
HAGI ARTは民間の施設になりますので、
当然上述のどちらかということになるのですが、
まずコマーシャルギャラリーを運営するには作品売買のための有力な顧客や、
美術事情に精通した知識が必要です。これは持ち合わせていません。
一方レンタルギャラリーは、場所貸という性格上、ともすれば一貫性のない
ただの箱ということになりがち、という難しさがあります。
これは僕らのやりたいこととはちょっと違うようです。

ギャラリー分類図。私の解釈によるものです。

しかし、展示できる場所が必要なのは確かで、
なかなかコマーシャルのマーケットにのることができない若い作家や、
売買を目的としないけれども公的な意義のある企画を実現するためには、
上記ふたつの形式では難しいところがあります。
そこでHAGI ARTは第三の形式としての
「オルタナティヴ・スペース」として運営することにしました。
とはいえ、「オルタナティヴ・スペース」自体は
まだ明確に分類される形式とはなっていません。
あくまで上述の形式「以外の」ものを指し、その運営の方法はさまざまです。
東京では代表的な場所としては、「Live Space plan B」(1982~)や
「佐賀町エキジビット・スペース」(1983~2000)などが挙げられます。
なかでも吉祥寺の「Art Center Ongoing」は、
HAGI ARTを構想するうえでも参考にし、代表の小川希さんにもご相談に伺いました。

Art Center Ongoing

HAGI ARTの場合は、HAGISOが地域の核となるための
開かれた空間として、以下のように定義しています。

HAGI ARTはHAGISOの空間をアーティストと一緒に
再発見、再更新していくための展示空間です。
閉じたギャラリーというよりも、開かれたホテルのロビーのような空間です。
アーティストが『展示することができる場所』ではありますが、
『展示するための場所』ではありません。
一方的な自己顕示の場としてではなく、アーティストが作品を用いて
日常空間に驚きと気づきをもたらし、ここにしかない体験を来場者に与える場です」

このような場所を実現するために、HAGI ART企画の展示に関しては
アーティストや展示者から会場費を一切とっていません。
作品を売ることはありますが、その際も手数料を低く設定しています。
その代わり、HAGI ARTの空間で展示することの意義を重視し、
作家には展示プランのプレゼンテーションを要求しています。

とはいえ、いくら理想を掲げたとしても、場所として運営するためには、
家賃・光熱費・人件費・維持費などの経費が必要となります。
HAGISOの場合はこの経費をHAGI ARTに併設する
HAGI CAFÉの売り上げによって相殺させています。
こうした活動を補助金などに頼ることもできますが、
そうなると補助金ありきの運営になってしまい、
いざ補助金がなくなったときに自立できず持続できない場所になってしまいます。
えてしてそういった場所は企画内容にも緊張感がなくなっていき、
魅力のない場所になりがちです。
そういった意味でHAGI ARTは危機感をもって、地域の人やHAGISOを訪れる人にとって
「必要とされる場所」になっていかなくてはならないと思っています。
ですので、皆さんもHAGISOにお越しの際はぜひCAFÉをご利用ください(笑)。

実際にHAGI ARTでどのような試みが行われているのか、
いくつかご紹介したいと思います。

多様な現代アートや建物、さらには谷中文化発信の場

HAGI ARTは、上述のように作品の売買を目的としているわけではないので、
特定の趣味のクライアントを意識して作品を扱う必要はありません。
とはいえ、最終的には僕たち運営者にとって
魅力的な作品であるというバイアスはかかっています。
通常の現代アートギャラリーは基本的に愛好家か、
それを目的に来た人が観に来るというのが普通ですが、
HAGI ARTの場合はカフェが併設されていることで、
作品との予期せぬ出会いが生まれやすくなっています。
ケーキを食べに来た近所のおばあちゃんが若いアーティストと作品について
「これはなに?」と話している光景が生まれています。

「囚人口 Chop Chop Logic」ミルク倉庫 + 高嶋晋一
何かの道具のようにも見える電気仕掛けの作品がインスタレーションとして配置されています。これらの作品を舞台装置として用いて、会期中の数日間、高嶋晋一とミルク倉庫の共作によるパフォーマンスが行われました。

池田拓馬個展「主観的な経験にもとづく独特の質感/解体」
ギャラリーの空間にあえて壁をつくり、穴を開ける映像と、開けた穴によるインスタレーション。

「東京アカイツリー」宮崎晃吉 + 池田拓馬
吹き抜けの柱を1200本の毛糸と共に大きなクリスマスツリーの幹に見立て、床に池田拓馬による映像を投影したインスタレーション。

「PanoraMarket -books around photograph-」
「写真にまつわる本」というテーマをもとに、アーティストが自費出版する写真集や、海外の出版社によるアートフォトブック、谷中の数軒の古本屋さんのチョイスによる書籍などを一堂に集め、購入できる展覧会として展示しました。

「ご近所のぜいたく空間 “銭湯”」展
HAGISOのような地域遺産としての建築をテーマにした展示も行いました。いまや全国で一日一軒、都内でも一週間に一軒のペースで廃業しているという銭湯。文京区の若い建築家の文京建築会ユースによる文京区の銭湯の調査記録プロジェクトの展示。富士山のペンキ絵のライブペインティングも。

「復活に向けて 谷中のこ屋根展」
2013年まで現存し、谷中で「のこぎり屋根工場」と呼ばれ、親しまれた工場群の建物の記録と、保存された建築部材の活用を考える展覧会。

また、谷根千(谷中・根津・千駄木)エリアで
一箱古本市や、不忍ブックストリートMAPを制作する
不忍ブックストリートの10周年展も行われました。
谷中における文化活動の層の厚さを実感することができました。

「『本と街と人』をつなぐ 不忍ブックストリートの10年展」

展示ではありませんが、HAGI ARTで毎月催される展示と展示の間の期間を利用して、
「やなかこども文庫」と題して小さな子どものための、
絵本を読むスペースとして開放しています。
施設の工事に伴い谷中地区で一時的に図書館がない状態になっており、
「谷中ベビマム安心ネット」主宰の石田桃子さんが絵本を寄付で集め、
不定期の移動図書館として開催しています。

「やなかこども文庫」

まちづくりを世代を超えて考える

また、単なる展示の枠を超えて、何かが生まれる場としても活用されています。
谷中という地域は、古いまち並みを残しているところではありますが、
そうしたまち並みや人と人のつながりを保つためにも、
まちづくりの活動が活発に行われてきました。
しかし、「谷中をもっと良くしたい」という共通の目的を持ちながら、
町会などの組織と、若い人たちによる子育てやまちづくりのNPOなどの活動は
多くの活動があるだけに、なかなか接点が生まれづらい側面があります。
「谷中地区まちづくり交流会」では、谷中地区まちづくり協議会と
特定非営利活動法人たいとう歴史都市研究会の共催によって、
谷中では初めての代表者サミットのような会を催しました。
お茶を飲みながら、フランクな雰囲気で谷中のことを
皆さんで熱く語る機会となりました。

「谷中地区まちづくり交流会」

生活の延長線上にある、文化施設として

このように、「最小文化複合施設」と銘打っていろいろな企画や活動に携わってくると、
公共空間のあり方について考えさせられるところがあります。
普段の日常生活を送る生活空間と、文化的な営みが行われる公共空間。
いつの間にかそのふたつの空間は現代の日本においては
随分遠いものになってしまったなと思います。
美術館や劇場などの「ハレ」の場と、日常的な「ケ」の場が、
空間的・地域的に分けられている。
もちろんこうした大規模な施設もある程度必要だとは思いますが、
これらはもっと混ざり合っていていいのではないでしょうか? 
大げさな公共空間でなくても多様な文化活動は可能です。
空間的に分けるのではなく、時間的に入れ替われば、もっと身近になると思います。
日常空間、生活空間にもっと公共性、文化性を取り戻したい、という気持ちは
HAGISOを始めてからもますます強くなっています。

次回は、まさにこのように、「日常と劇場」を結び付けようとする試みである
「居間theater」や、「谷中音楽室」などについてご紹介したいと思います!

information


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HAGISO

住所:東京都台東区谷中3-10-25
TEL:03-5832-9808
営業時間:カフェ12:00~21:00 (L.O. 20:30)
http://hagiso.jp/

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