連載
posted:2014.11.11 from:東京都台東区谷中 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
Mitsuyoshi Miyazaki
宮崎晃吉
1982年群馬県生まれ。一級建築士。2008年東京藝術大学大学院美術研究科建築設計 六角研究室を修了後、2008年〜2011年㈱磯崎新アトリエに勤務。現在は、東京藝術大学建築科教育研究助手の一方、HAGISTUDIO主宰、HAGISO代表を務め、東京、谷中の木造アパートを改修した施設HAGISOを拠点に、建築、会場構成、プロダクトのデザインを手がけています。
みなさんこんにちは!
vol.1、vol.2に続き、東京谷中の最小文化複合施設「HAGISO」について書いていきます。
木造アパート「萩荘」解体危機からのまさかの逆転、
海外滞在での経験をもとに新しい施設としてのHAGISOを構想し、
改修工事が行われるまでの流れをご紹介してきました。
塗装工事を残し、HAGISOの内部空間がある程度できてきたところで、
工事中にイベントをいくつか行いました。
改装中の現場ならではのライブ感だけがつくり得る体験が
あるのではないかと思ったことと、工事に一般の方を巻き込んだのと同様、
プロセスをできるだけ多くの人と共有したいと思ったためです。
1つ目の企画は、
身体パフォーマンス「描くとは、触れるに近く 踊るとは、今くり返される呼吸」です。
HAGISOの運営にも関わっているpinpin coと、
ダンサーの板垣あすか、暁月によるパフォーマンスでした。
冬の夕暮れから夜にかけて、緊張感のある空間(寒さのせいもありますがw)で
多くの方が鑑賞しました。
映像と身体パフォーマンスとライブドローイングが一体となった作品で、
かたちづくられていく空間を身体で確かめていくようでした。
仮囲いのかかった建物に入っていくと、工事用の材木を積んだ客席があり、
まだ塗装されていない壁の墨付け跡をダンサーが手でなぞりながら舞台が始まります。
床板を張る前の2階で足音をたて、
建物を楽器のように扱った演出なども試みられました。
ふたつ目の企画は、海外留学している日本人建築学生による成果展、
「Japanese Junction」です。
吹き抜けや階段、HAGISOの空間すべてを使って、約20組の展示が行われました。
豪華ゲストを招いた公開講評会も行われ、100名以上(!)の聴講がありました。
実際に会場で毎日出展者の方と来場者を待っていると、
近所のマラソン帰りのおじさんが毎日通ってくれて一緒に話をしたり、
近所の方と大雪の日に雪かきをしたり、
HAGISOオープン前ながら、出展者とHAGISOと地域と不思議な連帯感が生まれます。
今でもたびたびHAGISOを訪れてくれる彼らとこのような時間を過ごせたのは貴重でした。
工事期間にこのようなイベントを挟むことで、
当然工期は延びてしまうし、工務店さんにも気を遣わせてしまうのですが、
大家さんのご理解もあって、
プロセスを大切にする私たちのメッセージを表現することができたと思います。
また、「プロセスを共有し仲間を増やす」ためのもうひとつの試みとして、
クラウドファンディング「CAMPFIRE」を利用しました。
「クラウドファンディング」とは、
インターネットを通してクリエイターや起業家が
不特定多数の人から少額多数の資金を募ることです。
日本において先駆的にサービスを開始していたのがCAMPFIREでした。
僕らに先駆けて場所のプロデュースではco-ba shibuya(コーバ 渋谷)が
CAMPFIREを用いて成功しており、
運営会社である株式会社ツクルバの中村真広くんに相談していました。
彼には、ティザーサイトやクラウドファンディングを用いた、
場を完成させるまでのプロジェクトの育て方を教わりました。
CAMPFIREだけを用いて改修費用全体をまかなうのは、金額的に難しいと考えましたが、
より多様な活動をするために、
映像・音響設備を購入するための費用として出資を募りました。
結果、なんとか目標額に達することができたわけですが、
クラウドファンディングの意義は金額だけでなく、
むしろ出資者との交流のほうにこそあると思います。
オープンに先立ち関係者のみを集めたプレオープンパーティーでの出会いや、
普段の活動を口コミで広げてくれる彼らの支えによって、
HAGISOの発信力のベースが築かれました。
出資をきっかけに家族ぐるみでHAGISOに訪れてくれる出資者の方もいらっしゃいます。
このような縁でHAGISOのスタートに参加してくれた出資者のみなさんとは、
今後も長く付き合っていければと思っています。
さて、その後消防検査、保健所の検査と無事にクリアし、
ハードの準備は着々と進んできていたのですが、
肝心のカフェの開業にてこずっていました。
なにせ僕は設計やデザインしかやってこなかった人間で、
飲食店での経験といえば高校生の時の焼肉屋のアルバイトのみ。
ましてや経営となると全くの素人でした(今もですが)。
それでもカフェがHAGISOに必要であると感じたのは、
飲む、食べる、話すという行為は
いかなる属性や趣味も越えて共通の楽しみであるからです。
だからこそ、HAGISOの活動の基礎はカフェでなくてはなりませんでした。
テナントとしてカフェを誘致するという方法もあったかもしれませんが、
自ら経営することで、ギャラリーでのイベントや展示の内容とリンクさせ、
カフェとしての場の使い方を更新することができるのではないかと思いました。
とにかく一緒にお店をつくってくれる店長さんを探さなければなりません。
しかしまだ見ぬカフェの募集に
本当に応募してくれる人なんているのだろうかと不安でした。
お金もないので、基本的にFacebookとTwitter、さらにカフェ情報サイトさんで呼びかけ、
ご応募下さったかたとは寒空の工事現場という厳しい状況での面接。
なぜか多くの方にご応募いただき、
なんとか「この人は」という方と出会うことができました。
ところがこの方も飲食店での経験のない方だったのです!
それにもかかわらず、僕らは彼女が
HAGISOのCAFEに立っている姿がピンときてしまったのです。
今考えてみても、この選択は間違いではなかったと思えます。
一緒に試行錯誤しながらの準備、決して効率は良くはないのですが、
HAGISOがどうあるべきかを一歩一歩確認しながらお店づくりをすることができました。
メニュー構成はどうするのか、材料はどこから仕入れるのか、
価格はどうするのか……など基本的なことから決めていかなければなりません。
たとえばコーヒーの淹れ方ひとつとってみても、
エスプレッソマシンで大きな音を立てながら鮮やかに素早くコーヒーを提供するのか、
じっくり静かな環境でハンドドリップで提供するのか。
細かいことに思えるこれらのことが、
実はカフェの雰囲気や業態を大きく左右するということにこの時初めて気が付きました。
最終的に私たちがよりどころにしたのは「場から発想する」ということでした。
マーケティングなどを用いた飲食店のコンセプトづくりは、
ターゲットの年齢層を定めて、そのターゲットが好むメニューを決め、
それに合った趣向や内装にする、といった流れが通常かと思いますが、
私たちはそれとは逆の順番、HAGISOの場と、
ここに現れてほしい空気感からメニューや家具を決定し、
それを受け入れてくれる人をお客様としてお招きすることを選びました。
それによって、年齢層や特定の趣向に偏らない、
HAGISOの場としての価値を感じてくれるお客さま
にいらしていただけるようになったと思います。
萩荘は典型的な中廊下型の共同住宅でした。
その構造的な形式を守り、中廊下を中心に入って右手に真っ白なギャラリー、
左手には既存の木材を見せたカフェを配置しています。
ギャラリー部分はもともとの部屋を縦横につなぎ、吹き抜けの空間としました。
天井高は高いところで7m、空間の真ん中に柱と梁が横切っています。
空間を分断してしまうこのような要素は邪魔になると思われがちですが、
かえってこの場所の特徴を際立たせ、使う人の想像力をかきたてると思いました。
吹抜けにはバルコニーを設けたことで、高い位置からも作品を見ることができ、
ギャラリーでコンサートなどを行うときには天井桟敷席として使えるようになっています。
カフェの壁には「木毛セメント板」という、
木の屑をセメントで固着させたものを裏表にして使用しています。
防音性や断熱性に期待しながら、他の木部との調和を図っています。
雨戸の骨組みでカウンターの棚をつくったり、下駄箱で本棚をつくったりと、
各所に元の部材を再利用しています。
照明やローテーブルなどは、元萩荘の住人の仲間につくってもらいました。
2階の美容室やオフィス部分は、ほぼアパート時の設えを残しています。
壁面の塗装や床材だけ改修しただけで、元の雰囲気をガラっと変えることができます。
こうしてさまざまなプロセスを経つつ、2012年のハギエンナーレからちょうど1年後、
なんとかオープン日である2013年3月9日にこぎつけました。
ハギエンナーレという展示をきっかけに生まれ変わることになったHAGISOは、
やはり最初の展示もハギエンナーレ2013でした。
前回の展示に増して参加アーティストは約30名。
この展示には、「Third life」という副題をつけました。
展示を記念した本にそのステイトメントを載せていますので、
そちらを引用したいと思います。
「Third life」
HAGISOは、1955年の竣工より賃貸住宅として使われた時期を「第一期」、
2007-2012年までのシェアハウスとしての時期を「第二期」と考えますと、
2013年、HAGISOとしての今後を「第三期」、「第三の人生」と位置付けることができます。
―中略―
有り得べくもなかった「第三の人生」を歩みはじめてしまったHAGISOにおいて、
どのような余生が送られるのか、今後のHAGISOの活動も含めてご期待ください。
こうしてはじまった「最小文化複合施設」HAGISO。
次回は、オープンからこれまでHAGISOで行われた展示やイベントを通して、
どのように最小文化複合施設なのか、ご紹介したいと思っています!
お楽しみに!!
information
HAGISO
住所:東京都台東区谷中3-10-25
TEL:03-5832-9808
営業時間:カフェ12:00〜21:00 (L.O. 20:30)
http://hagiso.jp/
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