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NO ARCHITECTS vol.3:
下町情緒と
ホワイトキューブのつなぎ方

リノベのススメ
vol.012

posted:2013.12.28   from:大阪府大阪市此花区  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

HIROSHI NISHIYAMA

西山広志

1983年大阪生まれ。建築家。NO ARCHITECTSを共同主宰。神戸芸術工科大学デザイン教育センター非常勤講師。神戸芸術工科大学大学院芸術工学専攻 (鈴木明研究室) 修了後、2009年 奥平桂子と共に活動を開始。2011年事務所を此花区に移すと同時に〈NO ARCHITECTS〉設立。建築をベースに、設計やデザイン、インスタレーション、ワークショップ、まちづくりなど、活動は多岐にわたる。

NO ARCHITECTS vol.3
このはなの建物から生まれた、ギャラリー空間

今回は、2013年3月にこのはなにオープンしたギャラリー、
「the three konohana(ザ・スリー・コノハナ)」の紹介です。
オーナーは、山中俊広さんという方です。
以前は、大阪の西天満にある「YOD Gallery」に勤められていて、
独立後は、インディペンデント・キュレーターとして、
美術に関わる展覧会の企画や執筆活動をしていました。
そして自分のギャラリーを持つという決意のもと、その場所を大阪市此花区と決めた山中さん。

「もともと、ギャラリー「梅香堂」へ訪ねたり、このはなは馴染みのあるまちでした。
このまちに決めた理由は、ひとつは此花で活動している人が比較的同世代であったこと。
ただの若気の至りで色々とやっているのではなく、
社会経験を踏まえた上で行動している人が多いというのは、
今後のこのコミュニティーの継続性という意味でも重要な要素でした。
もうひとつはこの下町風情のまち並みですね」
そんなご縁で、山中さんがオープンするギャラリーのリノベーションを
NO ARCHITECTSがお手伝いさせていただくことになりました。

建物の外観。看板の跡が残っていたので、銀色に塗装。

まずは、物件探しから一緒にスタート。
不動産屋さんに条件を説明し、良さそうな物件は手当たり次第、見て回りました。
そして、出会ったのがこの建物。
正面の玄関は大通りに面しながら、奥の勝手口を出ると、裏通りにも面していて、
そんな風にまちの中に溶けこむように建っているところに惹かれました。
もともとは不動産屋として使われていた物件だそうです。

物件が決まったあと、プランに入る前に、
山中さんが目指すギャラリーのコンセプトについて詳しく説明を聞き、
念入りにディスカッションをしました。建物の生かし方を考えながら、
つぶす部分・残すもの・新しくつくるものを検討していきました。
最初の段階で、明確なヴィジョンを共有していたので、
この先、ほとんど食い違うことなくスムーズに、計画案が決まっていきました。
僕らとしては、信頼関係が築けた状態で仕事ができて幸せでした。

入り口を入ってすぐ左手に、チラシ置きコーナーをつくりました。サイズのバラつきのあるチラシやDMなどをきれいに陳列しやすいように、各々の棚の高さをコントロールしています。

今回、ギャラリーへのリノベーションを手がけるうえで、
一番ていねいに計画すべきだと思ったことは2点。
まちとギャラリーのつながり、展示空間であるホワイトキューブと既存の和室のつなぎ方です。
特に外観のデザインは、山中さんのスタンスやギャラリーのコンセプトなど、
お客さんへの姿勢が顕著に表れてしまうので、最後まで悩みました。
ギャラリーとしての雰囲気は保ちつつ、たまたま通りかかって興味を持った方や、
展覧会を観に来る方が入りやすいようにデザインしています。
コピーライターでデザイナーの古島佑起さんがつくった素敵なロゴを、
ターポリンに印刷し看板をつくったり、
1階の空き部屋の窓にインフォメーションのコーナーをつくったりと、
合わせてサイン計画もやらせていただきました。

床の仕上げは、いろんな会社のPタイルのサンプルを取り寄せて、微妙な色味や質感も、一緒に確認しながら決めました。

入り口から直接2階へとつながる階段を上がると、
手前の部屋をメインの展示室としての真っ白いギャラリースペースに。
奥の和室は、そのまま残して第二展示室に。押入もそのまま備品などの収納として利用。
和室の脇にある、ギャラリースペースから奥へと続く通路は、
事務作業のスペースも兼ねました。

カーペットの下に眠っていた古いタイルを、コテを使って剥いでいるところ。粉まみれになりながらの作業です。

デザインしていない感じ

現場作業が始まると、まずは解体です。
床のタイルとカーペットを剥がして、壁を2か所抜いてます。
施工は、OTONARI(vol.2参照)と一緒で工務店のPOSさんと共同で行いました。
古い木造家屋のため、壁や床の歪みが激しかったのですが、
作品を展示したときになるべく影響がでないように、水平垂直を合わせる作業が必要でした。

リノベーションの工程の中で、歪みを補正する作業は、根気のいる作業のひとつです。左のオレンジのチューブは、光回線のケーブルを壁の中に通すためのものです。

展示空間を考慮し、壁の電源やエアコンなども、
極力目立たないよう、壁に埋もれるように取り付けています。
こうした新しくつくる壁の納まりや、既存部の色の塗り分けなどには、
デザインされていないように見せるデザインを徹底的に施しています。

山中さん自ら壁にペンキを塗っているところ。一緒にできる作業は、共有することが大事です。ちなみにとても上手でした。

既存の奥の和室や建物正面の独特のすりガラスを展示室としてそのまま残して活用することで、
ただ作品をホワイトキューブの中に展示するだけではない、
まちの雰囲気や地域性に対して、いかに作品を定着させるかということも、
作家に対して問いかけるように設計しています。
これも山中さんの意向ですが、そうすることで作家性や作品のもつ強度を、
明確に感じ取ることができます。

Konohana’s Eye #1 伊吹拓展「”ただなか” にいること」2013年3月15日~5月5日 撮影:長谷川朋也

Konohana’s Eye #2 加賀城健展「ヴァリアブル・コスモス|Variable Cosmos」2013年9月6日~10月20日 撮影:長谷川朋也

Director’s Eye #1 結城加代子「SLASH / 09 −回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を−」2013年6月7日〜7月14日 撮影:長谷川朋也

そもそもギャラリーとは、作家による作品の「展示」、
ギャラリストが作品の説明をするなどの「接客」、
お客さんによる作品の「鑑賞」の3つの目的が考えられますが、
山中さんの場合、展覧会の企画や広報などとは別に、
インディペンデントなキュレーター業もされているので、
そのための事務所スペースが必要でした。

事務所スペースのカーテンの製作は、美術家の加賀城健さんによるものです。椅子は、オープン祝いにNO ARCHITECTSとPOSからプレゼントしました。

しかし、誠実な山中さんの性格上、お客さんを一番大事にされているように感じたので、
あえて部屋やブースでは区切らず、通路に机と棚をつくって、
カーテンのみで仕分けてスペースを確保しました。最近ではカーテンも開け放ち、
個人的なスペースにも作品を並べ、より日常的な雰囲気のなかでの作品鑑賞を演出。
作業スペースとしてだけでなく効果的な空間になっているようです。

Gallerist’s Eye #1 岡本啓展「Visible ≡ Invisible」2013年11月8日~12月23日 撮影:長谷川朋也

the three konohana と、ギャラリー名にもまちの名前が入っていますが、
山中さんのまちに対する姿勢や意識の高さは、
「KAMO」というイベントの企画からもうかがい知れます。
KAMOとは、Konohana Arts Meeting for Osaka の略称で、
山中さんと関西アートカレンダーの森崎幸一さんと安川エリナさん、
協力メンバーにデザイナーの後藤哲也さん、
もともと、このはな在住のダンサー大歳芽里さんの5人で運営されています。
月1回、アート関係者やデザイナーなどのゲストを招いてトークするというイベントです。
開催されている場所は、(前回の記事)で紹介した、
まちのインフォメーション兼寄合いのスペース「OTONARI」です。
自分のギャラリー内ではなく、より開かれた場所で行うことで、
このはなに訪れる美術関係の方と、
まちに住む人たちとの交流が生まれる仕掛けをつくっています。

僕らも二回目のKAMOにて、大川さんと一緒に此花アーツファームとしてトークさせていただきました。

下町の風情が残るこのはなに新しくできたthe three konohanaは、
まだ一年も経たないうちに、イベントでの連携や寄合いなどの交流で、
このまちに定着していっています。
それは、the three konohana というスペースの性格を超えた、
山中さんの人柄なのだろうと思います。

ちなみに、2014年9月5日~10月19日の期間、the three konohana にて
NO ARCHITECTSの展覧会をさせていただくことになっています。
このはなのリノベーション物件などを巡るツアーも計画中です。
ぜひ、このはなにお越しの際はthe three konohanaに、お立ち寄りください。

informarion


map

the three konohana

住所 大阪府大阪市此花区梅香1-23-23-2F
電話 06-7502-4115
http://thethree.net/

information


map

NO ARCHITECTS

住所 大阪市此花区梅香1-15-20
http://nyamaokud.exblog.jp/

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