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連載

門脇美巳さん、洋之さん、裕二さん

PEOPLE
vol.012

posted:2012.11.13  from:島根県松江市・安来市  genre:食・グルメ / ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

島根発! 親子3人でつくりあげた世界基準のコーヒーをどうぞ。

某外資系コーヒーチェーン店が、
「島根県には出店したくてもできない」と言ったという逸話があるらしい。
島根には個人経営の喫茶店が多く、新規参入が難しいという意味だ。
その代表格ともいえるのが門脇家である。
ことのはじまりは、門脇美巳さんが1967年、
安来市にオープンしたサルビア珈琲。
もともとはパフェや紅茶、ジュースなどを提供するよくある喫茶店だったが、
1980年頃から自家焙煎を始め、本格コーヒーへと舵を切っていく。

「すでに炒ってある豆を買ってきてもあまりおいしくなくて、
自分で生豆をぎんなん焼きで炒ってみたら、すごくおいしかったんです」
と、美巳さん。
それ以来、サルビア珈琲では余計なメニューはそぎ落とし、
ドリップコーヒーへの道を究めていく。

ゆっくりとコーヒーを落とす門脇美巳さん。サルビア珈琲は昔ながらの喫茶店のたたずまい。

サルビア珈琲は、1階が店舗、2階が住宅。
この家で育った長男・洋之さんと次男・裕二さんは、
毎日、店のなかを通って学校に行き、店のなかを通って家に帰る。
父親の働く背中を見続ける生活が、
彼らをコーヒー道へと突き進ませることになった。

長男の門脇洋之さんは、
現在、父親と同じ島根県安来市でカフェロッソを経営している。
父親の店を見ているうちに、コーヒーを生業にしてみたいと思った。
ただし、店で出すのはエスプレッソ。
洋之さんがその道を考えていた頃、
全国で外資系のコーヒーチェーン店らが流行しはじめていた。
当時の日本にはまだ馴染みの薄かったエスプレッソ文化を持ってきた黒船だ。
「新しいコーヒーが新鮮だったし、若いお客さんで流行っていました。
ライフスタイルが変わる予感がしたんです。
そのルーツを辿るとイタリアだということがわかって、
イタリアにエスプレッソの研究に行きました。
ミラノのあるバールのエスプレッソにたどり着いて、コレだ! と思いましたね」
と目指すものを見つけ、自分の味づくりに邁進する。

ここでひとつの疑問。
父親ゆずりのドリップコーヒーを継承するという道は考えなかったのだろうか。
「昔はいろいろな喫茶店に連れていってもらったんですけど、
結局、父親のコーヒーが一番おいしくて。これは超えられない。
それならば、エスプレッソという未知のものを自分の力で開拓していこう」と、
美巳さんが泣いて喜びそうな、おふくろの味ならぬ“オヤジの味”へのリスペクト。

ミルクを注ぐ瞬間からラテアートは始まる。長男の門脇洋之さんの丁寧な手つき。

現在は通販で豆の販売にウエイトを移している。人気の2銘柄。(カフェロッソ)

次男の門脇裕二さんも、長男洋之さんと同様コーヒー業界へ。
島根県松江市でカフェヴィータを経営している。
息子がふたりともコーヒーの道へと進み、父親も現役。
それも東京などに出ていくわけでもなく、島根県内でしのぎを削っている。
しかも洋之さんはワールドバリスタチャンピオンシップという世界大会で
2003年に7位、2005年に2位に輝いている。
裕二さんも2003年に日本バリスタチャンピオンシップで2位。
このときの優勝は無論、兄の洋之さん。
2008年にはUCCコーヒーマスターズエスプレッソ部門全国優勝という、
コーヒーエリート一家。
こうして門脇ファミリーのコーヒートライアングルは形成され、
3軒ハシゴなんてコーヒー通の観光客も登場するようになる。
愛好家にとっては出雲大社より、“門脇カフェ詣で”なのだ。
“どこがおいしかった”なんて評論しあうのも楽しいだろう。

三者三様のコーヒー飲み比べツアーへ。

同じ血筋であり、同じコーヒーで育ったのに、実は味の嗜好はそれぞれ異なる。
では、それぞれのコーヒーをみていこう。

昔懐かしの雰囲気が漂う喫茶店、サルビア珈琲。
美巳さんはカウンターの向こうで豆を挽く。
それをペーパーに移し、お湯を注ぐ。すべてが手際よい。
カウンターはすこし低く設定され、対面で行われている作業はすべて丸見えだ。

お湯を注いでふくらむコーヒー豆が新鮮な証拠。(サルビア珈琲)

「ネルでもやったんですけど、やはりペーパードリップが一番簡単。
同じようにやってもらえれば、ある程度、味が再現できます」と、
あくまで家庭でおいしく飲んでもらいたいがために、
ドリップの過程を公開しているようなもの。
細かく聞けば、焙煎具合で後味をすっきりさせたり、
お湯の温度、季節ごとの豆の水分の違いなど、こだわりトークはとまらない。
しかし、現在では豆の販売を中心にしているので、
その豆を使ったおいしい淹れ方を普及させようと努めている。
「豆は生鮮食品です」と強く語る美巳さん。一番はやはり豆。
新鮮な豆は、お湯を注いだ瞬間の、ふわっと広がる反応がまったく違うという。
美巳さんの淹れてくれたコーヒーは、やさしくてさわやかだった。

“生鮮商品”であることをハッキリと明示。新鮮さが命だ。(サルビア珈琲)

かわいいラテアート含め、カプチーノが人気なのがカフェロッソ。
洋之さんは、一時はバリスタの大会などに積極的に出場していたが、
あるときから「自分の求めている味を追求すると勝てない」ことが
わかってきた。コーヒー業界のなかにも流行があって、
フレッシュな酸味という今のトレンドは、洋之さんの好みの味ではないという。
それからは、大会よりも自分の好きな味を追求し、
毎日生み出すという活動に変化してきた。
現在、洋之さんがこだわっているのは追熟させた味。
「炒ったコーヒー豆をパックして、
熟成が進むような温度帯を見つけようと研究しています。
エスプレッソは、炒ってすぐだと泡がモコモコになってしまいます。
ある程度時間が経たないとまとまらない」と、
豆をなるべく一番いい状態で保つことが目下の課題のようだ。
いただいたカプチーノには、木の葉のラテアートが描かれていた。
レパートリーは10数種類。きめ細かい泡がとてもやわらかい。

こんなかわいいクマやパンダから、木の葉まで。(カフェロッソ)

裕二さんが経営するカフェヴィータは、
3軒のなかで一番若者のカフェらしい佇まい。
ここでいただいたエスプレッソは、
カップの内側にコーヒーがはねたような跡が残る。
通常は抽出口が二股に分かれているエスプレッソマシンだが、
裕二さんはそれを一か所から抽出する。
そうすると、どうしても内側が汚れてしまうという。
それも裕二さんが求める味を提供するためのことなので、しかたがない。
ひとくち口に含むと、かなり油分を感じ、こってりと濃厚だ。
残りは、裕二さんの勧めで砂糖をたっぷりと1本入れてみる。
するとその味わいはほとんどチョコレート。
裕二さんがつくるパンチ力のあるエスプレッソは、
兄・洋之さんの「赤ワインのように最初のアロマから、
後味の余韻へと変化していく」エスプレッソとは、兄弟でも好みが異なる。

ある意味、見た目通りのワイルドなエスプレッソ。コクがたっぷり。(カフェヴィータ)

三者三様のコーヒー。共通点といえば、島根で展開していること、
そして姉妹店などを出さずに小規模のまま
自分の目が届く範囲で経営していること。
3人とも職人肌で、自分でやらないと気が済まないタイプなのだ。

父親の美巳さんは「ふたりとも、ひとを使うのがへたくそ」と笑う。
それを裏付けるように長男の洋之さんも
「コーヒーをつくるのは自信があるんですけど、
マネジメントとか教育とか苦手なんですよ。あまり器用じゃないので、
いろいろなことをやるとコーヒーから離れていきそうで……」と、
あくまでコーヒーのクオリティを守るための
現状の店舗であり、スタイルなのだ。
「こっちは気楽ですよ。焙煎しても誰からもクレームこないし。
ゆっくりしているから、1杯1杯しっかり出せます。
お客さんが増え過ぎてしまうと、クオリティを保てるかわかりませんから」
と次男の裕二さんも、島根にいるからこその優位性を語る。

島根でなければ飲めないコーヒー3杯。
これを飲むためだけに行く価値がある、親子の物語たっぷりのコーヒーだ。

洋之さんのこだわりが感じられるひとこと。(カフェロッソ)

豆袋には3店舗のネーム入り。同じ業者から豆を購入することも。

Shop Information


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サルビア珈琲

住所 島根県安来市安来町西小路1918
営業時間 9:00〜18:00
定休日 日曜日
TEL 0854-22-2088


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CAFÉ ROSSO beans store+cafe
カフェロッソ ビーンズストアプラスカフェ

住所 島根県安来市門生町4-3
TEL 0854-22-1177
営業時間 10:00〜18:00
定休日 日曜日(祝日は営業)
http://www.caferosso.net/


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CAFFÉ VITA
カフェヴィータ

住所 島根県松江市学園2-5-3
TEL 0852-20-0301
営業時間 10:00〜20:00
定休日 木曜日
http://caffe-vita.com/

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