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4家族で始めた放課後預け合い。
課題は、のびのび遊べる環境づくり

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.041

posted:2017.4.27   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

親が持ち回りで子どもを見守る預け合い、実際始めてみて……

4月に入り、ついに息子も新1年生。
娘は幼稚園に入園と慌ただしい日々が始まった。
わが家が移住を予定している、岩見沢の中山間地・美流渡(みると)の古家は
まだ改装途中ではあるが、息子が通う小学校は移住先の学区と決めた。
現在の住まいからは車で約30分かかるため、
6時30分に起きて7時30分には学校へ送る生活が始まった。

立て続けに学校と園の行事が重なり、4月は目の回るような忙しさ。
前回リポートした札幌でのイベント〈みる・とーぶ〉展に加え、
日々の編集者としての締め切りも迫り……。

そんななかで人口が少なく児童館もないこの地域で、
同じ小学校に通う4家族でスタートすることとなった
〈美流渡放課後あずかりの会〉の活動は、本当に本当にありがたいものだった。
毎週、火曜日から金曜日まで。
美流渡にあるコミュニティセンターの一室を借り、
4家族の親が持ち回りで子どもたちを見守るというもの。
4月11日より開始して約2週間が経ったところだ。

入学式には教室にさまざまな飾りつけがしてあった。在校生である、6年生と3年生の2名と先生とで準備をしてくれたのだろうか。

地元の新聞『プレス空知』では、1面で大きく入学式の写真が! 美流渡地区では6年ぶりの2名以上の入学として話題となった。

預け合いの始まった最初の1週間は、
担任の先生がコミュニティセンターまで引率してくれた。
息子が通う小学校は、山あいにあり全校生徒はわずか6名。
そのうち新1年生は4名で、預け合いに半数以上が参加していることもあり、
先生がきめ細やかな対応をしてくれたのだった。

放課後も一緒に遊ぶことができて、子どもたちも満足そうな様子。
1年生に加えて、3年生のお姉さんも参加しており、
面倒をみてくれたり遊びを教えてくれたりと、頼もしい存在。
しかも3年生は、学期早々から宿題があり、
まずコミュニティセンターについたら率先して勉強に励んでおり(エラい!)、
つられて1年生たちも椅子に座って絵を描いたり、図鑑を見たり。
その後に、みんなで縄跳びや演劇ごっこ(?)などの遊びが始まって、
預け合いの活動は、とても順調なもののように思えたが……。

縄跳びをしたり、鬼ごっこをしたり。

演劇ごっこ(?)。子どもたちは物語の世界に没入し……。

1週間が経とうとする頃から、子どもたちの様子に変化が起こってきた。
子どもたちが、「たいくつ〜」とつぶやく場面が増えてきたのだ。
コミュニティセンターは20畳ほど。
東京生まれのわたしにしてみれば申し分ない広さだが、
子どもたちが充分に走り回れる大きさとは言いがたい。

あるとき学校で参観日があり、子どもたちが体育館ではしゃぐ様子を見て、
預け合いに参加しているお母さんのひとりが、
「このくらい広ければ、もっとのびのび遊べるのにね」と語っていたように、
そんなに広くない空間に、ずっと閉じ込められていることに、
子どもたちは次第に窮屈さを感じるようになっていた。

天井も高くある程度の広さもあるが、子どもたちのパワーはこの場所では収まりきらない?

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子どもたちの学びと遊びをどう育む?

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子どもたちは室内で窮屈そう。学びと遊びに工夫が必要

「なんとか外で遊ばせたい」
親同士で集まると、そんな話がたびたび持ち上がるようになっていった。
しかし現状では、見守る大人は基本的にひとりという状態。
コミュニティセンターのすぐ横には公園があるが、周囲が囲まれておらず、
バラバラに子どもたちが動いたら目が行き届かない。
(公園というより広い野原みたいな感じ。道路に面し、ちょっと危ない印象)

まだまだ1年生たちは小さいので、思いがけない行動をすることもある。
せめて大人がふたりになれば、外に連れ出すこともできるはずなので、
今後は手伝ってくれる友人などを真剣に探さなければならないと思っている。

そのほかのプランとしては、校庭で遊ばせること。
放課後、自分たちの責任で遊ぶ分には使っても構わないようなので、
ここで1時間ほど遊ばせてからコミュニティセンターへ連れて行くのもよさそう。
こちらは周りが囲われているし、預け合いに参加していない子どもたちとも
遊ぶことができるので、ぜひこれからやってみたい。

入学式が終わっても、ときおり雪がちらつく。校庭には、まだ雪が残り使えるのは5月中旬以降になりそう。

子どもたちが遊ぶ部屋のとなりで、毎週水曜、地域の人々が集う手づくりクラブが開催される。子どもたちに巾着や牛乳パックでつくった椅子などをプレゼントしてくれた。

もうひとつ、わたしにはやってみたいことがある。
6月以降に、東京や関西に住む友人たちが、わが家に遊びにくることになっている。
画家、絵本作家、デザイナーといずれもクリエイティブな活動を続けており、
アートやデザインの編集の仕事をする中で出会った古くからの友人たちだ。
彼ら彼女らと一緒に、このあずかりの会を拠点にして、
近隣の子どもたちも参加できるようなワークショップが開けたらと考えている。

絵を描いたりデザインをしたり。表現に関わっている友人たちは、
子どもの頃の体験を創作の原動力としていることが多い。
それは、自然の中で遊んだ体験だったり、大人との強烈な出会いの記憶だったり、
ときには辛く苦しい出来事だったりもするが、
そうしたものをずっと大切に胸に持ち続けているからか、
クリエイティブな友人が家にやってくると、わが子の目はとたんに輝き出す。

おそらく建前や大人の都合を語るのではなく、
生きることとは何かを真剣に伝えようとする気持ちが、
子どもの心にもダイレクトに響くものがあるのだと思う。

こうした友人たちと、絵を描いたりものをつくったりする活動を通じて、
ひと口に大人といっても多様性があり、
子ども以上に自由奔放な生き方を貫く人もいるんだということを
肌で感じてほしいという願いもある(その分、大変な道のりではあるけれど……)。

また、この会が、子どもたちを預け合うという目的だけでなく、
大人たちも一緒にワクワクしたり、新しい発見があったりするような場にしていけたら。
せっかく家族同士、仲間で集まっているので、
それぞれが自分のできることを出し合って、
いろんなことを試す機会になったら楽しそう。

毎年、わが家をたずねてくれるアクセサリーデザイナーの岩切エミさんは、子どもたちと一緒に折り紙で電車づくりをしてくれている。

壁に貼っていった電車の数はすでに20両以上。こんなふうに、気軽に子どもたちも取り組めるワークショップをしてみたい。

古くからの友人のひとり、画家のMAYA MAXXとは昨年すでに、この地域の小中学校の生徒とともに大きな絵を描くワークショップを開いた。今年も初夏に来道予定があるので、この機会にまた何かできたらと考えている。

地域で、こうしたワークショップをしてみたいと思ったもうひとつの理由として、
昨年、人口減少による学校の統廃合の問題が持ち上がったことも関係している。
地元の人々の熱意もあり、現在統廃合は白紙撤回されたが、子どもの数が少なくなると、
行政の手がどうしてもまわらなくなることを実感させられる出来事となった。

また、息子を在校生10人に満たない学校に通わせることに対して、
周囲から充分な教育が受けられるのか? という疑問が投げかけられたこともある。
そんななかで、生徒の数で学校の善し悪しが決まるわけではないし、
学校だけに依存するのではなく、親、地域の人々が、
どんな想いを持って子どもたちと接し、どう行動するのかが、
もっとも重要なんじゃないかと強く感じるようになった。

親や地域の人々が連携して、美流渡ならではの学びの場が生まれていったら……。
それがどんなかたちになるのかはわからないけれど、
こうしたワークショップを開催することが、
新たな取り組みのひとつにつながっていったらうれしい。

先日、小中学校合同のPTA総会があったのだが、
この地域で独自の学びの場ができるんじゃないかという可能性を感じられるものだった。

今年は新1年生が多いと、PTAのメンバーは大歓迎してくれた。
また、新任の先生たちも楽しい芸を披露してくれ、会は大盛り上がり。
先生や親同士の距離がとても近くアットホームな雰囲気に心が和んだし、
何より生徒数が少ないからこそ親や地域が連携して、
学校を盛り上げていこうというエネルギーに満ちていて、心強い想いがした。

この地域への移住の最初の動機は、エコビレッジづくりを模索してのものだったが、
その前に子どもたちの学びと遊びを今後どう育んでいくかが、
自分の大きな課題として持ち上がっている。
しかし、このふたつは、わたしの中で同じ方向を向いているもののように思える。
地域みんなで子育てをしてコミュニティをつくっていくことは、
ゆるやかなエコビレッジのようなものになりはしないか。
そんな期待を持ちながら、〈放課後あずかりの会〉に取り組んでいる最中だ。

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