連載
posted:2014.8.21 from:香川県小豆郡小豆島町 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
小豆島の「醤(ひしお)の郷」と呼ばれる地域に生まれ、蔵人を愛する醤油ソムリエールが
真心こもった醤油造りをする全国の蔵人を訪ねます。
writer's profile
Keiko Kuroshima
黒島慶子
くろしま・けいこ●醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。
「原材料がいちばん大切です」
醤油を造る工程の中でいちばん醤油に影響するのは? と尋ねると
そう答えが返ってきました。
同じ質問をほかの蔵元に尋ねると、多くは原材料ではなく
麹造りやもろみの混ぜ方など、製造工程を挙げるもの。
「そりゃ醤油屋としては、加工する技について語るのがもっともらしいと思います。
でも、材料がいちばん大切です。材料を超えることはできないですから」
会長の植松勝太郎さんに聞いても社長の植松勝久さんに聞いても、
当然と言わんばかりの表情で同じ答えを出しました。
ヤマヒサは、日本で初めてオーガニックの醤油を輸出した醤油蔵のひとつ。
1987年から有機の醤油製造を始め、
1989年にOCIAのオーガニック認証を得て輸出を始めました。
いまは日本のJONA、アメリカのOCIA、ヨーロッパのECOCERTの3つで認証を受け、
それぞれの認証を受けた原材料をすべて木桶に入れて造り、
世界各地の自然食を大切にする人に届けています。
原材料を大切にする姿勢は、オーガニックという単語からもイメージが湧く。
しかし、どのような原材料がいいかという考えは蔵元によって違うもの。
特に多いのは大豆や小麦は醤油の旨味のもとになる
“窒素が多いものが良し”という考え。そんななか
「単純に窒素の高い醤油がおいしいというわけではない」と植松さんは考えます。
「僕がヤマヒサに帰って来たばかりの頃は、
まだ外国産の窒素の高い大豆を一部使っていたけれど、おいしくない。
一方で有機認証の原材料を使った醤油は味がしっかりしている印象がありました」
と、数字では出ない原材料の持ち味の大切さを実感してきました。
原材料は等級の高いものから購入し、生産者の顔がわかるものを使う。
特に有機認証の原材料は、どこでどのようにつくられているかが
細かく記録してあるからいい。
「食べ物ですから。料理する時だって、よくわからない材料を使うよりも、
いいって思う材料を使うほうがいいでしょう」
ただ料理と違う点は、醤油は人間の手だけで造るのではないこと。
「醤油は蔵に住む菌が造ります。
食材そのもののおいしさを、菌が醤油の色や味や香りにしていくのです。
人間ができることは菌の手助けだけ。僕らは職人じゃなく菌の飼育係です」
だからこそ、原材料は価格ではなく品質を基準にして購入し、麹から手がけ、
1年以上菌に寄り添って、じっくりと発酵や熟成させていきます。
そんなヤマヒサには長年変わらない信念があります。
「自分たちが食べたいものをつくる」
利益以前に、自分たちが心からいいと思う醤油を追求してきました。
「安い原材料を買うとか、外から醤油を買ってその醤油を売るとか、
簡単にする方法はいくつもあるけれど、したくない」
と、原材料調達から販売までのひとつひとつを責任持ってすべて行っていきます。
この信念のもとできたヤマヒサの醤油は、香り高く、力強い味。
まるで原材料そのものの力がみなぎっているかのよう。
特に濃厚な旨味と香りがある素材と相性がいい。
先日、ネギトロを9種類の醤油で味比べをしたところ、
全員一致でヤマヒサの醤油が合うと選びました。
マグロの濃厚な旨味を引き締めてより味わい深くなり、
香りはすっきりとまとまり、心地いい余韻が続きます。
ヤマヒサの醤油は主に自然食品のお店に並びます。
食品の市場全体に対する有機食品の市場は、農林水産省の統計情報によると、
欧米では2割だけれど、日本ではたった0.2%以下。
わずかの市場ながら、これまで自然食品を選ぶ何人もの人から
「醤油はヤマヒサさんじゃないといけない」という言葉をいただいてきました。
何度も良さをしっかりと感じてきたのだろう。
その言葉はどの人も力強く、表情は生き生きとしていました。
information
ヤマヒサ
住所 香川県小豆郡小豆島町安田甲243
TEL 0879-82-0442
http://yama-hisa.co.jp/
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