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ねぼけ食堂

日本の食堂
vol.002

posted:2012.2.16   from:和歌山県和歌山市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  日本全国津々浦々、おいしい食堂を探したい! 食通の方々が注目する店、
ローカルの方々からの情報で、安くて、おいしくて、楽しいデータを蓄積しよう!

editor's profile

Yu Ebihara

海老原 悠

えびはら・ゆう●エディター/ライター。埼玉県出身。海なし県で生まれ育ったせいか、海を見るとテンションがあがる。「ださいたま」と言われると深く深く傷つくくせに、埼玉を自虐的に語ることが多いのは、埼玉への愛ゆえなのです。

credit

撮影:五十嵐隆裕

お客さんと一緒につくる食堂。

このユニークな店名は、
マスターの吉田純治さんがむかし見習いで働いていた割烹料理屋の奥さんから、
高知の老舗料亭“祢保希(ねぼけ)”にあやかって、と勧められたことが由来という。
「それに、ほら、二人ともねぼけた顔してるやろ」
とマスターと、ママ・吉田輝美さんは笑う。

JR和歌山駅から徒歩5分。10人入ればいっぱいになってしまう「ねぼけ食堂」は、
マスターとママが脱サラして始めた。
31年前のことだ。
4人の子どもを育てながら、市内はもとより、
近くに停留所がある高速バスで大阪や東京へ行き来する
旅行客やビジネスマンの胃袋も満たしてきた。
とはいえ、お客さんの中心は常連さん。
営業時間は朝7時から夜10時までという、
働き者のマスターとママを頼ってお客さんはやってくる。
ひとりで来てもみんななんとなく顔見知りで、
いつの間にかテーブルがにぎわっているのもこの店の特徴。
モーニングやランチなど、決まった時間でのメニューのくくりもないせいか、
「ねぼけ」に流れる時間はちょっと不思議だ。
つまり、朝から飲む人も、歌う人もいるということ。
常連さんはお店に入るなり、まずは入り口近くの冷蔵ケースに向かう。
そこには、缶ビールや缶チューハイなどのお酒と、
ひじきの五目煮や煮魚などのお惣菜があって、
みんなそれを手に取ってテーブルに着くのだ。
つまみを口にし、一杯やり始め、中にはマイクを手に取る常連さんもいる。
この店はカラオケがあり、一曲100円。しかも、営業時間中ずっと利用できる。
歌声はお店の外まで丸聞こえだが、誰も気にはしない。
いつ来ても「ねぼけ」は「ねぼけ」なのが心地よいのだろうか、
温暖な気候に育まれた陽気な県民性が垣間みられる場所なのだ。

お店につり下げられたメニューに目をやると、
中華そば(和歌山ラーメン)、うどん・そば、和洋中の定食、丼ものがずらり。
その他に一品もののメニューも並ぶ。
「なんでも屋さん」というマスターの言葉のとおり、
とにかくメニューが豊富なので、
お客さんはあれもこれもと、随分悩むことになりそうだ。
「お客さんが“あれ食べたいな”“これほしいな”って言ったものを
つくらせていただいてます。
だからどんどんメニューが増えてしまってね(笑)」
と、お客さんのリクエストがあれば、まだまだ増えていきそうな気配。
「このだし巻き卵もね、料亭みたいに格好よくは焼けないけれど、
みなさん“お母ちゃんの味や!”言うて食べてくれはるんですよ」
この“お母ちゃんの味”が恋しくて、みんな「ねぼけ」に集まってくるのだ。

「おかいさん」のある風景。

朝食に、ほうじ茶でお米を炊いた“茶がゆ”を食べる文化がある和歌山では、
茶がゆのことを、親しみを込めて「おかいさん」と呼ぶが、
ここねぼけ食堂では、一日を通してそのおかいさんも味わえる。
夜お酒をたらふく飲んだあとでも、二日酔いの朝でも、
おかいさんならサラサラといただける。
「有田(有田市)、日高(日高町)、十津川(十津川村)などの山間部では
今も昔も変わらずに食べるけど、
他のところでは今は若い人はおかいさんを食べなくなったからね」
と、マスター。
時代の流れと共に、食文化も移り変わっていくが、
だからこそ、マスターもママもおかいさんを出し続けるのだ。
「若い人にも食べてもらいたいから」と、
ひとりひとつの小鍋に、たっぷりとおかいさんを盛りつけ、
数種類のお総菜を添えて「満腹セット」という名で出す。
小鍋から自分でおかいさんをすくって器に盛りつけて食べるのだが、
一杯目は自家製の梅干しと、二杯目はこんぶと、
三杯目は金山寺味噌と一緒にいただく、というように
味の変化も楽しめるので、あっという間に小鍋の底が見えた。
「暑い日も、寒い日も食べてもらえるように」と
おかいさんは常に温かいものと冷たいものを用意されているのもうれしいし、
「まずは、やっぱり、健康作りは朝食から」
というメニューに添えられた言葉も説得力と気づかいがあっていい。
店を出てからも、あの豊富なメニューを思い出し、
次来たときには何を食べようかな、と想像しては幸せな気分になれるのも、
「ねぼけ」だからなのかなと思う。

営業は朝7時から夜10時まで、休みは月に1回という働きもののマスターとママ。

じゅっと卵の焼ける音もごちそう。

今年の正月に張り替えたというマスター手書きの新しいメニュー。

茶がゆと総菜の「満腹セット」は店の看板メニュー。ほうじ茶の味が濃く、水分が多いのが特徴。

information

map

ねぼけ食堂

住所 和歌山県和歌山市黒田1丁目1−15
TEL 073-473-5090
営業時間 7:00 〜 22:00
定休日 毎月18日

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