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鍛冶橋食堂

日本の食堂
vol.003

posted:2013.2.5   from:岐阜県高山市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  日本全国津々浦々、おいしい食堂を探したい! 食通の方々が注目する店、
ローカルの方々からの情報で、安くて、おいしくて、楽しいデータを蓄積しよう!

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

飛騨高山の食事を支えてきた、毎日の食堂。

京都や富士山、知床などとならび、
ミシュランガイドから三ツ星観光地を獲得している飛騨高山。
いまでは世界中から観光客が訪れるこのまちが、
そうなるずっと前から、訪れるひとのお腹を満たしてきた食堂がある。

鍛冶橋食堂は、高山駅から徒歩10分弱、宮川沿いに店を構えている。
創業は昭和31年。
「ここはもともと卓球場だったの。
おとうさんが海とか川とか好きだったからこの場所を選んだのよ。
周りには何にもなかった」と語るのは、
いまも現役で店頭に立っている90歳の清水口たづさん。
もともとは近くで農業をやっていたが、高山へ出てきて食堂を始めたという。
いまでは、お嫁にきた笑子(えみこ)さんと一緒に店を切り盛りしている。

店を切り盛りする清水口たづさん(奥)と笑子さん(手前)の名コンビ。

外のカウンターではソフトクリームを販売したり、
看板にも「飛騨牛丼」や「飛騨牛朴葉味噌定食」などの派手なネーミング。
飛騨牛ブームの高山の、賑わう一角に店舗を構えるだけあって、
観光客目線の商品が表に並んでいる。

でもこれらは最近増えたメニューなだけで、
一歩店内に進んでみると、昔懐かしい定食屋さんの雰囲気だ。
メニューも、とうふ、野菜の煮物、焼き魚、煮魚と、
なんだかホッとする品揃え。
「昔からほとんど変わってません」と、
日本人なら毎日食べても飽きないような、うれしい食堂なのだ。

こもどうふ、野菜、イカなど、一品ものがすべて定食になる。

かつてのお客さんは、土木工事の作業員が多かった。
周辺でダムや河川敷の建設などが盛んに行われていた時期。
鍛冶橋食堂は、その作業員たちの、「毎日のメシどころ」となっていた。
それはこんなエピソードにも表れている。
「まちの外から来ていたひとたちが、
昼ごはん用にお弁当をつめてくれということもよくありました。
朝持って行って、夕方またお弁当箱を置いて帰るんです」と、
たづさんの味は、彼らのおふくろの味となっていた。

出汁は炭火でじっくりと。

「おかあさんは、炭火でにぼしの出汁をとるんです。
ガスの強い火でパッととるのではなくゆっくりじっくり」と
鍛冶橋食堂の味を守るのは、お嫁にきた笑子さん。
このダシで煮た野菜や魚は、特に年配のお客さんに喜ばれるそうだ。
しょうゆやみそも、昔からずっと同じものを使っている。
いつ“帰ってきても”いつもの味が待っているのだ。
変わらずに同じ味をつくり続ける。
変化がないことは決してマイナスではなく、
守り続けるという意義もあるし、それを求めるニーズもある。

七輪を使って炭で出汁をとる。ふたを開けてくれた瞬間に、にぼしの香りがひろがった。

観光客は、夕食で飛騨牛を食べることが多いので、
日中、鍛冶橋食堂に来る観光客には、こもどうふや野菜の煮物、魚の煮物が人気だ。
特に野菜の煮物は絶品で、
ひとくち噛めば、じっくりと時間をかけてとられた出汁の味が、
野菜の旨味とともに染み出す。
どの定食にもこの野菜の煮物が小鉢としてつく。
主菜以外に副菜まで充実している定食は、得した気分になってしまう。

ほかに、飛騨高山の伝統料理「こもどうふ」も鍛冶橋食堂の定番。
豆腐をこも(すのこ)で巻いてゆでる。
正月やお祭りのときに食べられていたものだ。
これもじっくりと煮ていて、中まで出汁がしみ込んでいる。
飛騨牛に飽きたなら、もうひとつの飛騨名物を堪能してみてはいかがだろうか。

鍛冶橋食堂の目の前では、宮川朝市が行われている。
朝市に出店しているひとたちは、大体がひとりで出店している。
そこで鍛冶橋食堂では、昔から出店者に朝ごはんを配達してきた。
観光客がまだ少ない7時頃までに注文を取り、9時頃までに配達する。
もちろん地元のひとたちへの毎日の食事なので、特別なものではない。
野菜の煮物とみそ汁とごはん。こんな定食が20〜30人に配られる。
笑子さんが、1軒ずつコミュニケーションをとりながら朝ごはんを配る。
朝市は、こんな昔ながらの“近所付き合い”で支えられていた。

この朝市も現在では観光化がすすんでいるが、
かつては、地元のひとたちが買い物する場所だったし、
遠くから汽車に乗って八百屋さんや魚屋さんが仕入れに来ていた。
そういったひとたちが朝食を食べたのもまた、鍛冶橋食堂だった。

今はたまたま観光地になってしまっただけで、
たづさんいわく「ええものはない(笑)」。
しかし、飛騨牛もおいしいけど、
鍛冶橋食堂の煮物は、思わずおかわりしてしまう、とても「ええもの」だ。

飛騨牛朴葉味噌焼きは、飛騨高山各地で食べられるが、鍛冶橋食堂は味噌がポイント。

Shop Information

map

鍛冶橋食堂

住所 岐阜県高山市下三之町1
TEL 0577-33-0474
営業時間 6:00〜15:00
定休日 無休

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