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連載

きたもとアトリエハウス

ローカルアートレポート
vol.039

posted:2013.6.21  from:埼玉県北本市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●東京都出身。エディター/ライター。美術と映画とサッカーが好き。おいしいものにも目がありません。

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撮影:ただ(ゆかい)

みんなでつくりあげていく場所。

埼玉県北本市。
北本自然観察公園という、公園というよりは森林といったほうがいいような、
自然豊かな公園に隣接する「きたもとアトリエハウス」。
一軒家を改装し、市民型アートプロジェクトの拠点、
またアーティストの滞在施設として、開かれた場所になっている。
ここで、人が集まる場所や空間をつくる活動をしているユニット
「L PACK」が中心となり、さまざまなアーティストや地域の人たちとともに
「OUR ATELIER HOUSE PROJECTS」が展開されている。

L PACKのふたりは、昨年の秋頃からこの場所に寝泊まりしながら改装を始め、
今年2月に完成。説明会を開いて改装を手伝ってくれる人を募集するなど、
つくりあげる過程からいろいろな人に関わってもらった。
「屋根裏にアライグマがいて、追い払ったこともありました。
朝は鳥のさえずりが聞こえたり、すごくいい環境です」と、L PACKの中嶋哲矢さん。

すぐ隣にある北本自然観察公園。うぐいすの鳴き声も聞こえた。

緑の中を抜けてアトリエハウスへ。

ここではイベントやワークショップのほか、
4月からコーヒーショップとマーケットを開いている。
もともとL PACKは、コーヒーを淹れることで
コミュニケーションを生み出す活動をしてきた。
「いろいろな人が簡単に使えたり、過ごしたりできる場所にしたかったんです。
まず僕らはコーヒーを淹れることができるから、カフェをやろうと思いました。
たとえばここでピザ窯をつくりたいという人がいれば、
その人が主導でつくってピザを出したらいいし、
お菓子をつくりたいという人がいれば、つくってもらいたい」

まずはコーヒーとフレッシュジュースでスタートしたコーヒーショップだが、
現在はメニューになるようなお菓子やスープの試作が行われている。
そうやっていろいろな人が参加しながら、少しずつかたちになっていく。
お客さんはまだそれほど多くはないが、ほぼ毎日来てくれる近所の人がいたり、
コーヒーを飲むだけでなく、話をしに立ち寄ってくれる人もいる。

マーケットでは、いろいろなものを売っている。
L PACKの友人の作家がつくったもの、近所の人が葡萄の木でつくったかご、
自分で組み立てることのできるオリジナルのスツールなどなど。
売りたいものがある人に、ものを持って来てもらう。
マーケットもみんなの手でつくりあげるスタイルだ。
季節ごとに入れ替えをする予定で、夏には「サマーマーケット」になる予定。

L PACKの中嶋哲矢さん。コーヒーショップのメニューは、コーヒー 320円、カフェオレ 370円、フレッシュジュース 350円など。

4月から開いている「SPRING MARKET」。積み重なっているのは組み立て式スツール「OUR CHAIR」。

この場所は、アーティストの滞在場所にもなっている。
取材時には、アーティストの狩野哲郎さんが滞在中だった。
このときはL PACKと長野で行う展示を控えており、打ち合わせも兼ねての滞在制作。
「こういう環境で長い時間を一緒に過ごせると、
形式的な打ち合わせでは出てこないアイデアも出てきます。
本を読んだり、散歩をしたり、本棚をつくったり、絵を描いたり。
描いた習作を壁に架けてみたり。半分展示のような環境で制作していると、
人に見せないで制作していたときとは明らかに違うものができますね」と狩野さん。

その狩野さんが滞在中、制作以外で力を入れていたというのが、料理。
その腕前は、中嶋さんが「リストランテ KANO」と絶賛するほど。
北本市には市内に80軒ほどの野菜の無人販売所があるといい、
きたもとアトリエハウスのすぐそばにある販売所で買った無農薬野菜で、
野菜のグリルなどをつくった。
こんなに楽しそうな滞在制作からは、きっと豊かなものが生まれるはずだ。

アーティストたちが作業したり食事をしたりするスペース。奥では狩野さんが制作中。

狩野さんが制作した作品をなんとなく仮展示。自作の本棚に、狩野さんがここで読むために持参した本が並ぶ。

動物を作品に取り入れることもある狩野さん。果物を設置すると鳥がついばんでいく。「インスタレーションまでいかなくても、作家がこういうふうに痕跡のようなものを残していってくれるのが面白い」と中嶋さん。(撮影:狩野哲郎)

ある日の夕食。柳宗悦の本を参考に、庭に食べられる草があるのを見つけて調理してみた。(撮影:狩野哲郎)

また取材時は不在だったが、食をテーマに活動するアーティスト、
EAT & ART TAROさんもここでプロジェクトを展開中。
参加者を募ってきたもとアトリエハウスの前にある畑に野菜を植え、
収穫できる頃には畑の畝をテーブルにして、
とれた野菜を畑で食べる「畑ダイニング」をつくろうとしている。
畑そのものが作品になってしまうというユニークな試みだ。

本格的な農業ではないけれど「畑ダイニング」の参加者たちは、このちょっと変わったプロジェクトを気軽に楽しんでいるよう。(写真提供:キタミン・ラボ舎)

作物に水をやるEAT & ART TAROさん。まずはここでビアガーデンを開くのが目標。(写真提供:キタミン・ラボ舎)

緩やかにつながるコミュニティ。

きたもとアトリエハウスを運営しているのが、北本市のNPO「キタミン・ラボ舎」。
越後妻有のような大型の芸術祭はできなくても、
アートによるまちづくりの取り組みであれば、
北本でも面白いことができるのではないかと、
2008年に「北本ビタミン」というアートプロジェクトが立ち上がり、
日比野克彦さんによる「明後日朝顔プロジェクト」や、
藤浩志さんによる「北本アーツキャンプ」、
市内に多く残る雑木林でのプロジェクトなどが行われた。
また「おもしろ不動産」というプロジェクトでは、古い空き家や空き店舗を、
活動の場を探している人に紹介し、面白い活動をする人をまちに呼び込んだ。
きたもとアトリエハウスの敷地内にある「ナヤノギャラリー」という
納屋を改装したギャラリーも、そのひとつだ。
このような活動のなかで、2009年にキタミン・ラボ舎が設立された。

きたもとアトリエハウスの敷地内にある「ナヤノギャラリー」は古い納屋を改装したもの。

取材時には展覧会は開催されていなかったが、これまで多くの作家たちが展示を行った。

キタミン・ラボ舎事務局長の五十殿(おむか)彩子さんは、
まずは北本を面白いと思ってくれる人が増えれば、と話す。
「北本市って埼玉県民にもあまり知られていなくて(笑)、
特に有名なものもないんですが、とてもいい景色や環境があります。
日本にはこういうまちのほうが多いと思うので、
ここで面白いアートプロジェクトができれば、日本中どこでもできるはず。
そういうモデルになれればと思っています」

大きい効果があるわけではないが、じわじわと手応えは感じている。
若いアーティストや面白い人たちがいるのを聞きつけ、
コミュニティを求めて、実際に北本市に引っ越してきた人もいるそうだ。
「こういうまちでは若い人が横のつながりをつくりづらい面があって、
なかなか地域とのつながりもなかったり、気軽に入れるコミュニティがないようです。
このきたもとアトリエハウスでは、いろいろな人が少しずつ関わっていけるような、
郊外ならではの緩やかなつながり方ができると思います。
そうやって少しずつ、滲むように広がっていくといいかなと。
これからもスクールやワークショップなどのイベントを、
いろいろなジャンルでやっていきたいです」
天気のいい日に散歩をしながら、ふらっとコーヒーを飲みに行く感覚で訪れてみてほしい。
面白いものや人に、出会えるかもしれない。

「日常ベースで面白いことが広がっていったり、アーティストとそうでない人の境目がなくなっていくような感じが面白いと思っています」と五十殿さん。

「僕らはホストでもあるけど、ゲストとしてここに来てみたい」(中嶋さん)
「ここは誰かの場所のようでもあるけど、よくわからない感じがいい。面白い関係が生まれると思う」(狩野さん)

information


map

ATELIER HOUSE
きたもとアトリエハウス

埼玉県北本市荒井5-164
COFFEE SHOP / SPRING MARKET 10:00~18:00(不定期オープン)
http://atelierhouse.net/

profile

L PACK

小田桐 奨(おだぎりすすむ、1984 年青森県生まれ)と中嶋哲矢(なかじまてつや、1984 年静岡県生まれ)からなるユニット(2007年結成)。臨機応変な空間演出で「コーヒーのある風景」をつくり、まちの要素の一部となることを目指し活動を続ける。2010年秋より2012年春まで「竜宮美術旅館」(横浜)を運営。2013年はあいちトリエンナーレ期間中の長者町に、まちと共同で運営する「ビジターセンター&スタンドカフェ」をアーティスト青田真也と共にオープンさせる予定。
http://lpack.exblog.jp

profile

TETSURO KANO
狩野哲郎

1980年宮城県生まれ。植物や動物などの自然物と人工物を組み合わせたサイトスペシフィックなインスタレーション作品を多数発表。さまざまなマテリアルによるドローイングも制作する。2011年に狩猟免許取得。2013年7月26日より札幌、モエレ沼公園にて個展「ガラスのピラミッド開館10周年記念展 狩野哲郎『Abstract maps, Concrete territories /あいまいな地図、明確なテリトリー』」がオープン。プレ・イベントとしてL PACKとともにワークショップ「氷山・コーヒー」を札幌市円山動物園で開催。
http://www.tkano.com/

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