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連載

「テマヒマ展〈東北の食と住〉」
佐藤卓さん×深澤直人さんインタビュー

ローカルアートレポート
vol.008

posted:2012.6.21  from:東京都港区赤坂  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor profile

Ichico Enomoto
榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

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撮影:ただ(ゆかい)

東北から、日本のものづくりを見直す。

東北に脈々と受け継がれる「手間」と「ひま(=時間)」がたっぷりかけられた、
ていねいなものづくり。
たくさんの行程を重ね、繰り返し続けられる手作業によって生み出されたものの数々が、
東京・港区の21_21 DESIGN SIGHTで開催中の
「テマヒマ展〈東北の食と住〉」に展示されている。
ここでは昨年、東日本大震災を受けて
「東北の底力、心と光。『衣』、三宅一生。」が開催された。
その「衣」に続き、今回は「食と住」がテーマ。
ディレクションを、グラフィックデザイナー佐藤卓さんと、
プロダクトデザイナー深澤直人さんが手がけている。

展覧会制作にあたり、佐藤さんや深澤さんらは実際に東北を訪れた。
会場には、佐藤さんが仙台で訪ねた明治時代から続く駄菓子屋さんの駄菓子や、
会津の農家の寒干し大根、深澤さんが青森で出合ったりんごの剪定鋏、
そのほかさまざまな保存食、道具など、東北6県の55種の品々が、美しく展示されている。
アクリルケースの上から照明が当てられ、その影を利用したユニークな見せ方など、
展示方法にも趣向が凝らされている。
中庭の吹き抜けに高く積み上げられた青森のりんご箱は、
まるで現代美術のインスタレーションのようにも見えるが、
これは現地でもそのように積み上げられているそう。
映像展示もあり、熱い鋼を何度もたたいて強くしながら剪定鋏をつくる熟練の職人の手や、
きりたんぽや麩をみごとな手つきでつくっていくおばあさんたちの笑顔も印象的。
長い時間をかけたものづくりを、コンパクトに編集した映像は秀逸だ。

色鮮やかな麩。こうしてみるとお菓子のよう。このほかにも油で揚げてつくる「油麩」など、東北にもさまざまな種類の麩がある。

青森県下北地方に伝わるいわしの焼き干し。頭と内蔵を取り除いて天日干ししてから串に刺して焼き、その後3日間乾かす。串に刺したように見える展示もユニーク。

展覧会スタート翌日の4月28日。
佐藤さん、深澤さん、企画協力で参加しているフードディレクターの奥村文絵さん、
ジャーナリストの川上典李子さん、それに東北芸術工科大学文化研究センターの
共同研究員である岸本誠司さんによるオープニングトークが開催された。
佐藤さんは
「われわれはデザインの仕事をしていて、
この施設にもデザインという名前がついていますが、
デザインというのはまだまだ誤解されているところがあります。
かたちや色をあたえることももちろんデザインですが、それ以前のことがすごく重要。
戦後、日本は高度経済成長によって物をたくさんつくって売り、
その過程で合理的であることが何より求められてきた。
でも実は、それによって失われてしまったものも多い。
では何を大切にしなくてはいけないのかということが、
震災後あらためて問われていると思います」と、
ものづくりの原点に立ち戻る重要性について話すと、深澤さんは
「ここに展示されているものは、人に売るためにつくられたものではなく、
自分たちが生活していくためにつくられたものです。
夏のあいだに蓄え、あるいは冬の寒さを利用してつくる。
そうしないと冬が越せないというところから始まっています。
大量生産ではなく、まず自分たちの生活から始まっているんです」と話した。
また、川上さんが
「ていねいにつくられたものは長くもちます。
りんご箱も、回収されて再利用されています。
長い目でみると、それはとても合理的なものづくりですよね」と言うと、佐藤さんも
「本来の合理性というのは、そういうことを指すのでしょうね。
近代の合理主義とは違う、理に適ったという意味での“合理性”がありますね」と
賛同するなど、この展覧会がさまざまな議論を重ねながら
構成されたことをうかがわせた。

弘前でいまも昔ながらの手打ち式でつくられるりんごの剪定鋏。明治中期に開発された剪定鋏が、りんごの生産性を高めた。部品の影が顔のようにも見えて愛らしい。

青森でりんごを出荷する際に使われるりんご箱。段ボールが主流だが、木箱は再利用され、りんごの色づきもよくなるという。名人は1日に100箱ほどつくり上げる。

東北で感じたことを展示する。

今回の展覧会では新たに知ることが多く、
驚きの連続だったという佐藤さんと深澤さんに話を聞いた。

――それぞれ東北を旅されたということですが、
特に印象深かったことを教えてください。

深澤

ほとんど意図を持たずに東北に行きました。
現地で起きたことに対して自分たちがどう反応するかという偶発性がないと、
その驚きを伝えることができないと思ったんです。
そうしたら、すごいものが出てきたので、
あとはそれを肉付けしていくというやり方でした。
手間がかかる作業や同じことの繰り返しをしている人たちに、
なんでもっと便利なやり方を考えないのか、というような意地悪な質問をすると、
間があるんですよ。

佐藤

簡単に言葉にしたくないんじゃないですか。

深澤

それよりももっと、なんでそんな質問するんですか?みたいな感じ(笑)。
彼らにとっては当たり前のことなんです。
こちらが朝早くお邪魔しても、お茶を出してもてなしてくれて、
最後は仲良くなって、ものを買って帰ってくる。
そんなインタラクションを崩さず表現するというのが、
この展覧会においていちばん重要でした。

佐藤

僕は仙台の駄菓子をつくっているお店に行きました。
駄菓子といっても和菓子の原型のようなものです。
みなさん黙々と繰り返し繰り返し作業をされていて、
話しかけるタイミングがわからなかった。
でもある瞬間に声をかけたら、そのまま作業を続けながらお話してくれました。
身体に動きが染みついているんですね。
どうして毎日これができるんでしょう、
もっと別のことをやりたいと思わないんですか、と聞くに聞けませんでした。

深澤

東北は生きていくうえで、経済的というより、気候など環境的な厳しさがある。
そうすると欲望の前に、クリアしないといけないものがあるのでしょう。

佐藤

でも同じことを繰り返しているように見えて、
実は、編んでいるざるの外側の線を2本にしてみたりとか、
改良を加えて微妙に進化しているんです。
会津の干し大根の農家でも、先代はこれとこれをつくっていたけど、
私はこれはつくり続けるけど、これはやめて花をつくるんですとか、変化もある。
厳しい自然環境とともに生き延びていくための工夫が、
現在進行形であるのを感じました。

駄菓子は、江戸時代から水飴や黒砂糖を用いてつくられる庶民のおやつ。仙台駄菓子は京都伝来の製法で、種類の多さは日本一という。

凍みと乾燥を繰り返してつくられる寒干し大根は、古くから東北でつくられてきた。輪切り、縦割りなど地域によって形態はさまざまなだが、福島県会津地方では1本まるまるのかたち。

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日本人のDNAに含まれた美学。

――おふたりがこのような展覧会をディレクションすることによって、
デザインや日本のものづくりに違う光が当たったように思えます。

深澤

今回、東京ではないローカルの点々としたところに、
日本の根源的なものがあるということを感じました。
これは矛盾なんですが、マイナーだから価値があるけれど、
そこに光を当てて本当にメジャーになってしまうとつまらなくなってしまう。
だからぜひマイナーでいてほしいという気持ちもあります。
エッセンスだけを引き抜いて提示することはできますが、
本質的なところには簡単に触れられないようにしたほうがいいんじゃないか
という思いがありますね。

佐藤

それはすごくありますね。
そこに行ってみないとわからないことがあるほうが、地球環境って豊かですよ。
行ってみて初めて出会えるものがあったほうが、わくわくするし、面白い。

深澤

手の触れられない、手垢のついていないものに崇高さを感じるというのは、
日本人の美学だと思います。

佐藤

わからないということが、いかに豊かであるか。
いまの時代は何でもわかりやすくすることが病のように社会に浸透していますが、
“わかりやすい”を繰り返しても、“わかる”には絶対至らないんです。
わからなくていいものはいっぱいある。
わからないということ、わからなくていいんだということの大切さを
考えなくてはいけないですね。

――あらためて、ものづくりには、何が大切なんでしょう。

深澤

それこそ「テマヒマ」でしょうね。
大根を干すのも、りんご箱をつくるのも、もっとバラバラでもいいのに、
ぴっちり揃っていて統制がとれている。
この手間のかけ方はすごいことですよ。
これは東北だけではなくて、日本人的な何かだと思いますけど。

佐藤

DNAに入ってるんですよ。

深澤

日本人のDNAの中にあるんでしょうね。
機械で切ればもっときっちりできるけど、そうはしない。
不揃いの大根が手仕事できちんと整理されている。
揃えるけど崩すみたいなところが面白いですよね。
それはこの展覧会に表れているんじゃないかと思います。

佐藤

展覧会場にバナーを吊ってあるんですが、
今回の展覧会のキーワードでもある「繰り返す」ということを
バナーに落とし込んでみました。
コンピュータだったらバーッと簡単に同じものができるけど、
ひとつひとつパターンを変えているんです。
それぞれ違うけど揃っているというのを表現しています。

深澤

毎日同じことを繰り返すというのは、
たとえば東京でも毎日朝食をつくって食べるとか、そういうことと同じ。
その中に隠れた美学のようなものがあるのであって、
どこかにこんなきれいなものがありますよ、ということよりも、
そういったことをなんとか思い起こさせるほうが、価値があるのではないか。
まず自分たちの日々の単純なことの中に、
気持ちいいものや美しいものがあるんだと思います。

会場には、佐藤卓さんデザインのバナーが。模様のひとつひとつが少しずつ違っているのが、手間ひまかけられた東北のものづくりを物語っている。

Information


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テマヒマ展〈東北の食と住〉

住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内

TEL:03-3475-2121

2012年4月27日(金)~ 8月26日(日) 21_21 DESIGN SIGHT

11:00 ~ 20:00(入場は19:30まで、火曜休館)

http://www.2121designsight.jp/

Profile

TAKU SATOH
佐藤 卓

1955年東京都生まれ。電通を経て84年に佐藤卓デザイン事務所設立。「ロッテキシリトールガム」「明治おいしい牛乳」など数多くのパッケージデザインを手がけ、グラフィックデザインの第一線で活躍中。またNHK教育テレビ「デザインあ」の総合指導、国立科学博物館「縄文人展」(2012年7月1日まで開催中)の企画を手がけるなど、その活動は多岐にわたる。

Profile

NAOTO FUKASAWA
深澤直人

プロダクトデザイナー。1956年山梨県生まれ。Naoto Fukasawa Design 代表。卓越した造形美とシンプルに徹したデザインで、ヨーロッパ、北欧、アジアなど世界を代表するブランドのデザインや、国内の大手メーカーのデザインとコンサルティングを多数手がける。米国IDEA金賞、ドイツif金賞、英国D&AD金賞、毎日デザイン賞、織部賞、Gマーク金賞など受賞歴多数。

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