colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

odekake

〈近藤染工場〉
彩り鮮やかな大漁旗に宿る
刷毛引き本染めの伝統と心

おでかけコロカル|北海道・道北編

posted:2016.2.3   from:北海道旭川市  genre:旅行

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

photographer profile

YAYOI ARIMOTO

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。2015年に写真集『わたしの獣たち』(青幻舎)が発売した。
http://yayoiarimoto.jp

writer's profile

Akiko Yamamoto

山本曜子

ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/

credit

取材協力:北海道観光振興機構

職人の手で、ひと刷毛ひと刷毛、心を込めて刷られていく染め物。
旭川市と同じだけの歴史を重ねてきた〈近藤染工場〉では、
創業以来117年間守られ受け継がれてきた
昔ながらの染め技法〈刷毛引き本染め〉を伝える、
全国的にも数少ない染め物工場です。

刷毛引き本染めとは、下絵、のり置き、刷毛引き本染め、水洗い、縫製の、
染めの工程である5つのすべて手作業で行う手法のこと。
その製品の美しさは、見る人に鮮烈な印象として残ります。

近藤染工場が手がける染製品のメインは大漁旗。
ほかにもはんてん、のれんなどの大きなものから、
コースターや手ぬぐいなどの小ぶりなものまで、
幅広く染め製品を生みだしています。

左から、おめで“たい”にあやかった〈本染手ぬぐい 鯛の鯛〉(1080円)、縁起のいい柄が踊る〈福招き手ぬぐい〉(1404円)、北海道の魅力をあつめたイラストがかわいい〈北海道手ぬぐい〉(1296円)。

工場に併設された売店には、ぱっと明るい気持ちになれる色合いの手ぬぐいや、
落ち着いたトーンのあずま袋、コースターなどが、
色や種類も豊富に並べられています。
ひとつひとつ手でつくられるオリジナル商品は、
どれも独特なにじみが味わいになっていて、まったく同じものはありません。
旅のおみやげにもちょうどいい、
北海道や旭川にちなんだ手ぬぐいも揃っています。

〈雪の紋章コースター〉(各432円)。北海道になじみ深い雪にまつわる家紋を染め上げています。

大漁旗製作中の工場で、
この美しい発色の染めがつくられるところを見学させてもらいました。

まずは市内の下絵屋さんに下絵を発注。
大漁旗の特徴である細かい図柄や力強く勇壮な文字は、
職人さんによるフリーハンドで描かれています。
その下絵に、口金から絞り出されたのりで地の色を残す部分をなぞっていく
のり置き作業を終えた布地が、ぴんと張られて作業場に揺れていました。
のりの材料は、もち米・米ぬか・石灰・塩ととってもシンプル。
昔と変わらない配合だそうです。

マイのり絞り袋が並ぶコーナー。もとは渋紙製でしたが、現社長が工夫をこらして布製袋を開発。持ちもよくなり、ぐっと使いやすくなりました。

次の工程は刷毛引き本染めです。若い職人さんが4人がかりで、
大小の刷毛を使いこなしながら生地に色をのせていきます。
バランスがとりにくい作業のはずが、
なめらかな動きであっというまに仕上がっていくその姿は、まさに匠の技そのもの。

生地が反らないように、ぴんと張って乾燥場へ運びます。

染め上がった生地は乾燥室で乾かして色止めし、水洗いを経て、
はじめて裏まで鮮やかな発色が姿を現します。
若い方も多い職人さんひとりひとりが、
のり置きからここまでの作業すべてをこなしているそうです。

一人前になるまでに染めで約5年、のり置きはもっと難しく約10年ほどかかると言います。

その後、生地をあわせて縫製し、大漁旗は完成。
一枚をつくるのに約1週間かかるのだそうです。
この工程のうち「機械にとって変われる作業はひとつもない」と、
5代目にあたる近藤弘社長は胸を張って話してくれました。

こちらが、完成した大漁旗の表。裏返してみると……

ご覧のとおり、裏も表とまったく変わらない、美しい仕上がり!

でき上がった大漁旗の、堂々として色の鮮やかなこと!
刷毛で染めるため生地の裏まで色が抜け、
裏も表同様に美しい染め上がりになるのです。
これが機械プリントでは決して出せない、
近藤染工場にとって一番の誇りです。

大漁旗は、仲間が船を持つときのお祝いとして漁師が贈りあうもので、
漁師の結束の証ともいわれます。
本州では染物屋さんにおまかせでつくってもらう大漁旗ですが、
近藤染工場では大漁旗デザインをカタログにまとめ、
選んで注文できるという独自のスタイル。
毎年その数を少しずつ増やし、現在は約80種類ものデザインがずらり。
インターネット上でも注文できるので、道内をはじめなんと沖縄まで、
全国各地から注文が寄せられているそうです。
最近は結婚お祝い用の大漁旗という、ユニークなオーダーも受けているんだとか。

もとは藍染めからスタートした近藤染工場は、
徳島から旭川へ開拓移民として入った初代の近藤仙蔵さんが、
1898年に現在の場所で〈近藤染舗〉として創業。
鉄道が旭川まで開通したのも同年のことです。
徳島は藍の産地だったこともあり、
冬はとてもしばれる(冷え込む)旭川でも、1936年まで藍染めをしていました。
軍都旭川の発展とともに繁栄した近藤染工場は、太平洋戦争のさなか、
綿が使われなくなり職人たちが徴兵されていくという困難を乗り越えて、
家業を守り続けました。
戦後には大漁旗の仕事を手がけることで、大きな発展を遂げます。

色とりどりに使い込まれた刷毛。これだけで絵になる美しさです。

染めの伝統技術とともに継承されているのは、家業への誇り。
「私はこの仕事が好きだし、旭川が一番いいところだと思っています。
この土地で永遠に続けていくんですよ」と語る近藤社長。
店頭に飾られた初代からの家訓「家業永遠」の精神は、
スタッフや職人すべてに宿り、近藤染工場を支えています。

「利益を追っていくのでなく、手間をかけていいものをつくる」
という思いは染め上げられた製品にも宿り、
見る人を惹きつける力になっていくのでしょう。

旭川駅からほど近い街角に、威風堂々と建つ蔵造りの工場。入ってすぐが売店です。前身で大正期に建てられた店舗兼住宅は、歴史的建造物として札幌の〈北海道開拓の村〉に移築保存されています。

information

map

株式会社 近藤染工場

住所:旭川市1条通3丁目右1

TEL:0166-22-2255

営業時間:平日8:00〜17:00

定休日:日曜日、祝日(土曜日不定休)

※駐車場あり

http://kondo-some.co.jp/

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ