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odekake

北海道〈八雲町木彫り熊資料館〉
お土産の定番だった、
木彫り熊が大集結!その歴史を知る

おでかけコロカル|北海道・道南編

posted:2017.12.1  from:北海道二海郡八雲町  genre:旅行

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

photographer profile

YAYOI ARIMOTO

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp

writer's profile

Akiko Yamamoto

山本曜子

ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/

credit

取材協力:北海道観光振興機構

あの、熊の木彫りを集めた資料館

大木を割っただけのような熊、スキーに乗った小さく愛らしい熊、
丸みがあってお地蔵さんのようなたたずまいの熊。
昔はよく親戚の家に置かれていた、北海道土産の代表的な〈木彫り熊〉のイメージは
鮭をくわえた熊の姿。でも、実はその形や表現は幅広く、
ここ数年は北海道オリジナルの工芸品として再評価され、注目を集めています。

道南の八雲町にある〈八雲町木彫り熊資料館〉は、
お土産品から芸術作品までさまざまな木彫り熊をまとめて見られる、
道内でも唯一の施設。その誕生にまつわるエピソードとともに、
八雲独自の木彫り熊文化にもふれることができます。

茂木多喜治の親子熊。(写真提供:八雲町木彫り熊資料館)

渡島半島の北にある八雲町の市街地には、函館から車で1時間半ほど。
2014年にオープンした木彫り熊資料館の入り口では、
立派な木彫り熊が出迎えてくれます。
2階の展示室には八雲でつくり続けられてきたさまざまな作家の木彫り熊を中心に、
旭川など道内から集められた個性豊かな作品が、
時代を追って解説とともに並べられています。

特に見ておきたいのが、八雲で初めてつくられた木彫り熊と、
そのモデルとなったスイスの木彫り熊の2体。
八雲の熊がスイスの熊をよく真似てつくられていることがわかるはず。

1924年、八雲で初めてつくられた木彫り熊(左)と、スイスから持ち込まれた木彫り熊(右)。現在の木彫り熊から見ると長さ10センチ程度と意外な小ささ。道具のなかった時代、八雲の熊は目がクギで、毛並みはコウモリ傘の骨を研いだもので彫られたそう。(管理:八雲産業株式会社)

八雲に込められた歴史

スイスの木彫り熊をお手本につくられた第1号の木彫り熊の作者は、
芸術家ではなく、八雲に暮らす酪農家の伊藤政雄さんでした。
そもそも、木彫り熊をスイスから導入したのは、
尾張徳川家十九代、徳川義親(よしちか)公。
尾張徳川家は、十七代慶勝公が主導し、
明治維新を機に職を失った旧尾張藩士族の新天地として、1878年から
八雲町の遊楽部(ユーラップ)へ入植させ、八雲地域の開拓にあたります。

尾張徳川家19代目 徳川義親公は文化や芸術に明るくより良くするための注文をつけることもあったそう。農民たちに制作を奨めるため、自らもお盆に彫刻をしていたと伝えられています。

人々の貧しさを憂いた義親公は1922年、
ヨーロッパ旅行中に立ち寄ったスイスで
ペザントアート(農村美術、いわゆる民芸品)に触れ、
持ち帰って八雲の農民たちに見せ、
冬季間の副業として家庭での民芸品づくりを奨励しました。
スイスの木彫り熊はその中のひとつです。
続く1924年、八雲を中心とし、全国からも参考品として各地の民芸品が出品された
〈八雲農村美術工芸品評会〉が開催され、木彫り熊が出品されます。

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つくり手によって異なる、熊の顔形

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特別展に並ぶ柴崎重行作品。クマをモチーフとした芸術家として大成した作家で、初期の精巧な彫りから後期の「柴崎彫り(はつり彫り)」と呼ばれる、斧で割った面を残した技術にも注目。

昭和初期、全国的なブームに

八雲では農民美術研究会を発足し、
農民に技術を伝える〈熊彫〉の講習会を開くなど、
多種多様なペザントアート制作から
木彫り熊を中心とした制作体制に変化していきます。

「八雲では制作だけでなく販売にも力を入れ、
道内だけでなく全国に木彫り熊を持っていき、
北海道物産展で販売するほか店舗での委託販売もしていました。
その結果、戦前の1932年には八雲の木彫り熊が北海道の土産品として認知されます。
一方、旭川でもアイヌによる木彫り熊制作が始められ、
1935年頃には有名になっていたようです。
そして戦前の観光ブームで、たくさん売れていきます」
と話すのは、同館学芸員の大谷茂之さん。

しかし、これも第二次世界大戦が激しくなると、需要は激減。
八雲では昭和18年には農民美術研究会が解散状態となり、
彫っているのは茂木多喜治ひとりのみになりました。
戦後には柴崎重行も制作を再開し、ほかにも新たに彫る人が現れるとともに
昭和46年から公民館講座で木彫り熊講座が始められ、
八雲の木彫り熊は受け継がれてきています。

なお、今では有名なサケをくわえた木彫り熊の形は、
戦前に八雲でもごく少数つくられていたようですが、
戦後になって旭川などほかの地域で多くつくられ定番となった形といわれています。
そして八雲では制作者が少なく、
産業として木彫り熊が成り立っていなかったこともあり、
戦後は旭川を中心とした作家や問屋、店によって木彫り熊が販売されていきます。

資料館では茂木と柴崎ふたりの作品はもちろんのこと、
それに影響を受けたのちの熊彫り作家たちの作品、
また旭川をはじめとした道内各地の作家作品や木彫り熊量産用の機械の写真まで展示され、
木彫り熊の移り変わりを知ることができます。

徳川農場が収集した、第2次世界大戦以前につくられた貴重な世界各地の民芸品は、ここの隠れた見どころのひとつ。

「最初の八雲農村美術工芸品評会で、参考品として
全国の農民から送られてきた作品の中には、愛知からは切り干し大根が、
道内からは形のいいかぼちゃがありました。
『民芸品』という言葉もまだ生まれておらず(大正15年頃に提唱されます)、
農村にまだ美術も工芸も定着していなかった時代に、木彫り熊やペザントアートは、
副業としての意味はもちろん、農民の趣味の世界を切り開き、
教養を身に付けることにもひと役買ったのでしょう」

大谷さんはそう話してくれました。

その原型となった、ヨーロッパを中心にした
貴重な戦前の民芸品も合わせて展示されているので、ぜひチェックしてみて。

現在は木彫り熊をつくる作家は少なくなり、
八雲町では2003年に休止していた木彫り熊講座ですが、
2013年に4代目となる講師、千代昇さんを迎えて再開され、
現在は12名の方が参加して木彫り熊の伝統を学んでいます(受講は町民限定)。
最年長は91歳、最年少はなんとうら若き女子高校生だそう。
八雲に生まれ、まちに根づき、そして未来へとつなげてゆく
木彫り熊の歴史と文化に、触れに来てみませんか。

information

map

八雲町郷土資料館・木彫り熊資料館 

住所:二海郡八雲町末広町154

TEL:0137−63−3131(内線231)

営業時間:9:00〜16:30

定休日:月曜、祝祭日、12月29日〜1月5日

入館料:無料

駐車場:あり

Web:http://www.town.yakumo.lg.jp/modules/museum

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