連載
posted:2014.5.13 from:京都府京都市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
前編:「食べ物と暮らす場所」をつくるKYOCA FOOD LABO「株式会社ウエダ本社」前編 はこちら
五条通に株式会社ウエダ本社のふたつのビルがある。
京都発のコミュニティデザインの拠点であり、
コワーキング(Co-working)といわれる働き方が可能なスペースを提供している。
コワーキングとは、事務所スペース、会議室、打ち合わせスペースなどを
共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイルを指す。
株式会社ウエダ本社は京都で「事務機のウエダ」として知られる
オフィス用事務機器のディーラー。
文具の卸しからスタートし、今年で創業77年目をむかえるオフィス事務用品の会社である。
働き方と働く場から考えると、本当に良いオフィス環境とは?
こんな問いかけからはじまった。
株式会社ウエダ本社の岡村充泰社長にお話を伺った。
「もともとうちの会社は事務機器のディーラーなんです。
チェンジワーキング(ワークスタイルの変革)のようなことは、
メーカーさんもみな言っています。
でもメーカーのチェンジワーキングは“器”ありきなんです。
しかしそれでは“働き方のチェンジ”にはならない。
“器”ではなく、いろんなひとが出入りすることによって“場”の価値が高まるんです。
そんな仕掛けをしていきたい」
さっそく事務機のウエダビルと南ビルを見せていただいた。
1968年につくられたレトロなオフィスビルをリノベーション。
SOHOを意識したデザインで、現在22の団体が入居している。
入り口はアートスペース。そして多種多様な植物が印象的だ。
「リノベーションするときに、上のほうは住めるようなオフィスにしたんです。
これはなぜかというとSOHO、つまり住みながら働くということを意識しました」
と岡村社長。
住めるオフィスとはどういうことなのだろう。
「極端にいうとオフィスは無くなるよ、ということに立脚しているんです。
築四十数年たったビルを“レトロでかっこいい”と感じる層はどんなひとかなと考えた時に、
それはクリエイターだと思ったんですね」
そんなひとが集まり、働きやすいオフィスにしたいと考えた。
いわゆるノマドワークやシェアオフィスなどの視点だ。
「クリエイターの働き方は9時〜5時ではないですよね。
ゆっくりめからスタートして夜通しとか。そんな仕事の仕方がイメージできます。
そういうひとが集まる場所。
そうするとそれは寝泊まりができるオフィスだな、と」
南ビルは古いレトロなエレベータをあえて残し、可動部分だけを最新式に変えた。
オフィスにはバス、キッチン、トイレなどを充実させ、そのまま住める空間にしている。
仕事と暮らしがひとつになった働き方を前提とした創造空間。
店舗と住まいがつながり、いくつもの軒が連なる
京都の町家的生活の新しいカタチともいえる。
入居した団体が、有機的につながり創発し交流できるようなスペース。
フリーアドレス的な発想。そこにひとが集い、風合いが生まれる。
Page 2
実際にビルに入居しているひとたちを見てみよう。
南ビル1Fにあるのは、HACOBU KITCHEN (ハコブキッチン)。
「街の社員食堂」というコンセプトで、新鮮で安心な食材を使ったカフェを展開。
入居しているさまざまなひとが、ゆるやかにつながることができる空間になっている。
もともといろんな会社にケータリングサービスでランチを届けていたオーナーが
はじめたお店。身体にやさしいスローフードを提供している。
3Fには工芸ギャラリー「うつわ京都やまほん」がある。
「人とモノ」「作り手と使い手」とを繋ぐ場となっている。
もともと三重県の伊賀にあるこだわりの陶房からはじまるギャラリーで、
器の世界では知る人ぞ知る存在。
ここを目指してこのビルにくるひとも少なくない。
3Fには本のセレクトショップ「大喜書店」がある。
もともと一級建築士の岡田良子さんと写真家の岡田大二郎さんの夫婦が
事務所スペースとして借り、そこに建築家や写真家の感性で厳選された
書籍や写真集を扱う書店が隣接する。
「建築事務所って普通入りにくいでしょう?
本屋に訪れたひとと、話をしているうちに仕事に繋がることもあります」と岡田さん。
セレンディップな出会いの空間だ。
Page 3
このビルに集まるひとびとは食・住・デザインだけではない。
社会課題の解決のための社会起業家が集まる拠点でもある。
4Fに拠点を置くNGOが「テラルネッサンス」。
ウガンダやコンゴ民主共和国、カンボジアなどの紛争地で起こる
「地雷」「小型武器」「子ども兵」という3つの課題に対して、
現場での国際協力と同時に、国内での啓発・提言活動を行っている。
もともとひとりの学生、鬼丸昌也さんが始めた任意団体からスタートした。
活動は14年目をむかえ京都を拠点とするNGOの代表的な存在となった。
現在の理事長小川真吾さんにお話を伺った。
「90年代以降、紛争地で子どもが誘拐されて兵士にされるということが増えています。
そのなかには女性もいる。
誘拐されたあとは強制結婚させられたり、地雷原を無理矢理歩かされたりしている。
その紛争の原因はめぐりめぐって先進国にあるのです」
紛争の原因はさまざまで、原因がいくつも重なっていることが多い。
その背景には資源をめぐる争いがあり、
先進国の大量消費社会に起因するといわれる。
また気候変動による食糧危機や水不足なども
先進国のライフスタイルが招いたものとも言える。
「まず知ること。そして消費行動を変えることで
現状を少しでも改善させることができます」
ウエダビルでは社会起業家を応援するさまざまな仕組みをつくっている。
想いはあるが資金面の不安で踏み込めないひとへ
提携財団による融資が受けられる相談窓口を設けている。
プロジェクトを運営する不安や疑問や課題に対するアドバイスを提供。
またプロジェクト単位でオフィスを借りることもでき、
シェアオフィスでのつながりを育む仕組みをつくっている。
社会課題に関する映画上映会「ソーシャルシネマ」にも会場を提供。
有機的に参加者が交流し、学ぶ場をサポートしている。
5月16日には映画『幸せの経済学』上映などが予定されている。
株式会社ウエダ本社が全国的に知られるようになったのは、
京都流スタンダードを考えるイベント「京都流議定書」の開催。
毎年3日間にわたっておこなわれ、今年で7年目。
岡村社長が最も力をいれているイベントだ。
「京都流スタンダードを探求する」をテーマに開催されている。
京都の暮らしに根付いた「文化」「産業」「教育」などを
再認識するフォーラムで京都のキーパーソン、
そして時代のキーパーソンが集まる。
この「京都流」とは何か、岡村社長に聞いた。
Page 4
「まず価値観を変えていかなければならない、と思っています。
モノや数字に置き換えられる価値から、目に見えない、数値化されない価値へ。
そんな数値化されない価値を評価する気風が京都には残っている。
それが「京都流」。本来の日本のスタンダードが京都には残っている。
グローバルスタンダードって、結局アメリカンスタンダードでしょう?
それも大切かもしれない。しかし、われわれは京都スタンダードで行きたい」
数字に置き換えられない価値こそが「京都流」だと岡村社長は言う。
しかしなぜ事務機の卸し会社が「京都流スタンダード」なのか。
「なぜ仕事としてやっているか。
その理由はふたつあって、ひとつはディーラーだからこそ、
数値化されない価値を見つけていかなければならないんです。
値段の安いものを捜すだけならネットで買えばいい。
メーカーが直販できる時代です。
でも数値化されない価値を見いだせれば
中間にいるディーラーでもやっていけると思ったからです」
数値化されない価値とはなんだろう。
「具体的には“ひと”です。
たとえばひとのパフォーマンスとか、モチベーションとか。
数値化されないですよね?
いくら建物が立派で設備があっても、
そこにいるひとが“やらされてる感”で仕事しているのと、
そこにいるひとがモチベーションを高めて、意欲満々で仕事しているのでは、
後者のほうがいいに決まっているじゃないですか。
でもそれは数値化されてないですよね。
日本のオフィスはまだプロダクトアウトから逃れられていないんです」
それをクリエイティブに転換していくオフィスづくりをする。
数値化されない価値を見いだせれば中間にいるディーラーの役割がでてくる、
と岡村さんは言う。
「ふたつめの理由は企業のトップへと伝えること。
たとえばオフィスには、無駄な空間が必要です。
ギチギチに詰め込んだら、効率はいいかもしれない。
でもひとのパフォーマンス向上や、メンタルには無駄なスペースが必要なんですよ。
そういう考え方は、“価値”を判断できるトップマネージメントが必要です。
だからこちらから発信することが必要なんですね」
たしかに前編で紹介した市場のリノベーションKYOCAにしても
今回取材したウエダ本社ビルも、
通常の複合ビルの常識を覆すさまざまなアイデアが埋め込まれている。
あえて昭和レトロな風情を残したエレベータもしかり。
暮らしのなかで仕事が行われ、
建築家と本屋と陶器のお店とNGOが食堂やアートで結びつく。
最後に岡村社長に将来の夢を聞いてみた。
「いつか自分が死んだとき、自分の成し得た仕事だけが残る。
そのとき悔いのない、やってよかったと思える仕事をすることですね」
数値化されない価値を見いだしていく。
京都ではそんな生き方が歴史、文化、暮らしのなかで続いてきた。
それも含めて「京都流」というのだ。
information
株式会社ウエダ本社
住所:京都府京都市下京区五条堺町角塩釜町363番地
京都流議定書2014
信頼資本財団
ソーシャルシネマダイアログ
5/16 映画『幸せの経済学』上映+ワークショップ
https://shinrai.or.jp/event-info/
うつわ 京都やまほん
住所:京都府京都市下京区五条高倉角堺町21 Jimukino-Ueda Bldg. 301
TEL・FAX:075-741-8114
ハコブキッチン
住所:京都府京都市下京区五条高倉角堺町21 Jimukino-Ueda Bldg. 1F
大喜書店
住所:京都府京都市下京区五条高倉角堺町21 Jimukino-Ueda Bldg. 302
TEL:075-353-7169
NGOテラルネッサンス
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ