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地域プロデューサー・本田勝之助のしごと

本田勝之助 Think Global, Act Local
vol.001

posted:2012.1.17   from:福島県会津若松市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  日本の地域を拠点にしてさまざまなプロジェクトを仕掛ける地域プロデューサー、
本田勝之助さんから地域活性のヒントを学びます。いま、ローカルビジネスが注目されるその理由とは?

editor profile

Masayuki Sawada
澤田真幸

さわだ・まさゆき●東京生まれ。幼少期より国内外を転々とし、現在は東京在住。ジャンルはとくに問わず、面白ければオールOKのスタンスでライター稼業を邁進中。旅好き。仕事でもプライベートでも、ここではないどこかに行けるならどこへでも。

credit

撮影:武藤彩

会津発、地域を経営するという視点。

古くから東北の要所として栄え、激動の幕末期には戊辰戦争の舞台となり、
白虎隊の悲劇や新撰組との関わりなど、数多くの歴史ロマンに彩られた会津若松。
そこかしこに重厚な時間の堆積を感じさせるこのまちはまた、
恵まれた農業資源を背景に豊かな食文化が花開き、
会津漆器をはじめとしたさまざまな伝統工芸品の産地としても知られる。

本田勝之助さんは、その会津若松を拠点に活動する地域プロデューサーである。
大正時代から続く青果商の家に生まれ、
大学卒業後は会津と東京を拠点にしたIT関連会社を起業し、
順調に業績を伸ばしていたが、
父親の勝美さんが病で倒れたのを機に家業を継ぐ意思で、
2004年に食と農業のプロデュースを行う「会津食のルネッサンス」を設立した。
「僕は経営が専門なので、この仕事を始めるにあたって重要視したのは、
地域を経営するという視点でした。
会津にはたくさんの特産品がありますが、
県外、ひいては海外にも通用するポテンシャルを持っているものは何かと考えたとき、
それは農業、しかもお米だと思ったんです。
お米ならすぐに賞味期限が切れることはないから、1年かけてじっくりと売ることができる。
幸い父が青果市場の経営者だったこともあり、農業関係の人たちをたくさん知っているし、
わからないことがあればすぐに聞けるので、その点も心強かったです」
米づくりを始めるにあたって、勝之助さんはまず何よりも土にこだわった。
よい土をつくることで、稲は健康に育ち、美味しいお米ができるとの思いからだ。
そのことを父の勝美さんに相談すると、旧知の信頼できる農家を紹介してくれた。
勝美さん自身、40年来、青果の流通に従事してきたプロフェッショナルであり、
みずからが組織して「会津の伝統野菜を守る会」を立ち上げるなど、
地域の食文化の継承と発展に尽力してきた頼れる先達である。
「勝之助が考えたように、美味しい米をつくるためには土づくりは欠かせません。
そしてその土をつくるのは人です。
知り合いの農業家の中には、
高い技術を持ってマジメに農業に取り組んでいる人たちがいるから、
お互いをつないであげました。
私も長いあいだ流通をやってきて、消費者が何を求めているのか、
どうしたら消費者に買ってもらえるのか、ずっと考えてきたので、
彼がやろうとしていることの意義はよく理解できたし、頑張ってほしかった」
こうして5年の月日をかけ、丹念に土づくりを行って2007年に生まれたのが、
「会津継承米 氏郷」である。
そもそも会津は、財団法人日本穀物検定協会が行う米の食味ランキングで
最高値「特A」を得ている地域だが、
その中でも甘さとモチモチの食感を兼ね備えた「氏郷」の評価は高く、
今や寿司の名店「銀座久兵衛」や老舗料亭の「金田中」が、
こぞって採用するほどの人気ブランドとなった。

そのぶんチャンスは限りなく大きくなった。

お米から始まった勝之助さんの事業は、同様にお酒やりんごなどにも広がっていき、
近年はホテルや伝統産業のプロデュースやコンサルティングといった分野にまで及ぶ。
「お米をやろうと決めたときから、これからのものづくりは、
“もの”自体のコンテンツよりも、“もの”が生まれた地域やバックグラウンドを含めた物語、
コンテキストが大事になってくるだろうと考えていました。
だとしたら、地方にはコンテキストがいっぱいあるんですよね。
それらを地域経営の視点からきちんとデザインして、
あわせてひとつひとつのコンテンツもしっかり磨き上げていけば、
マーケットは必ず開かれていくはずです。
おかげさまで、ここ数年で取り扱うものはかなり増えましたので、
まずは会津でモデルケースをつくって、それを他の地域にも応用し、
そのうえで地域間のコラボレーションなど、大きく展開していければと思っています」
さらに3.11の震災を経て、東日本の食の復興が関心事となっている現在、
勝之助さんの活動は以前にも増して重要な役割を担うようになり、
そのフィールドも加速度的に拡大している。
「震災の問題はやはり重たいです。
特に福島にはいろいろな課題がどーんとのしかかってきています。
ただ、見方を変えれば、そのぶんチャンスは限りなく大きくなったとも言えます」
実際、個人や企業を問わず、「福島だからこそ力になる」との声は多く、
復興に向けたプランは次々と動き出しているという。
この地域から次の社会のあるべき姿を創り上げていく。
その思いを胸に、勝之助さんは今日もどこかで奔走中。

会津の名産「緋の衣」を使ったリンゴジュース「復古三兄弟」も、勝之助さんがプロデュースしたもののひとつ。

ワークショップで話す勝之助さん。手にしているのは、からむし織(昭和村の特産)で、日本を代表する帽子デザイナー平田暁夫氏が復興支援のために制作した帽子。

Profile

KATSUNOSUKE HONDA 
本田勝之助

ほんだ・かつのすけ●福島県会津若松市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。会津食のルネッサンス代表取締役。ヒルサイドコネクション代表取締役。地域を経営するという視点で、会津地方や福島県内を中心に食やモノづくりのプロデュース、ならびに伝統産業のコンサルティングやリノベーション事業を展開している。福島復興のキーパーソン。

会津食のルネッサンス http://www.a-foods.jp/

株式会社ヒルサイドコネクション http://hillsideconnection.jp/

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