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子育て世代を応援する
暮らしづくり複合施設
〈みちくさくらす〉が新宿にオープン

Local Action
vol.147

posted:2019.4.29  from:東京都新宿区市谷柳町  genre:暮らしと移住 / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer

Nao Sakaguchi

坂口ナオ

さかぐち・なお●東京都在住のフリーライター。2013年より「旅」や「ローカル」をメインテーマに、Webと紙面での執筆活動を開始。2015年に編集者として企業に所属したのち、2018年に再びライターとして独立。日本各地のユニークな取り組みや伝統などの取材を手がけている。nao-sakaguchi.com

photographer

Nanami Nijo

二條七海

にじょう・ななみ●写真家。湘南生まれ、東京育ち。高校卒業後にホームレスを経験後、フリーのフォトグラファーへ。ファッション、ポートレートなど幅広く活躍の場を広げ、近年はストリートフォトグラフィーに挑戦。グループ展『#tokyospc』の開催、同名写真集を出版した。自然な人物写真には定評がある。知らない土地をフラフラするのが好き。Twitter

2019年2月1日、奥神楽坂と呼ばれるエリアに、
子どもの笑い声が漏れる、かわいらしい空間が誕生しました。

その空間の名前は〈みちくさくらす〉。

〈みちくさくらす〉外観

「共働き家庭の小学生が安心して過ごせる空間を」
との想いから生まれたこの場所は、2階は子どもの教室、
1階は飲食店として営業できるシェアキッチンになっています。

両フロアとも、レンタルスペースとしての利用も可能。
夏休み頃の始動を目指し、子ども向け講座や教室の準備もしているそう。
現在は土曜をカフェ、日曜はお弁当屋さんとしても営業中です。

この場所をつくったのは、
現在、0歳と3歳の姉妹を子育て中の、並木義和さん・優さん夫婦。
ふたりが情報収集に動き出したのは昨年(2018年)1月。
義和さんは平日、会社に勤めながら、優さんは次女を身ごもりながら、
約1年という短い期間で完成までこぎ着けました。

並木ご一家

時間や体力が十分でない状況のなか、どのように
〈みちくさくらす〉オープンまでの道のりを歩んだのか、また、
「もともとこの地域にほとんど知り合いがいなかった」と振り返るおふたりは、
どのようにして地域との関わりをつくっていったのか、お話をうかがいました。

放課後に子どもが集まる場所を

1階のシェアキッチン

自分のお店を持ちたい人が誰でも利用できる、1階のシェアキッチン。

「放課後に子どもが集まる“場”を、私たちでつくってみない?」

優さんがそんな提案を義和さんに持ちかけたのは、2017年の年末のこと。
きっかけは、その年の頭に行った、世田谷区から新宿区への引っ越しでした。

「世田谷区には、子どもを連れて遊びに行けるお店や場所がたくさんあり、
とても暮らしやすかったんです。でも新宿区には、公共の施設以外、
そういった場所がほとんどありませんでした。
オフィスが多いまちなので仕方ないんですけどね」(優さん)

並木優さん

こうした施設の少なさは、いずれ小学生になる娘さんの
「放課後の過ごし方」を考えたとき、不安の種となりました。
並木さん夫婦は共働きで、祖父母も遠方に住んでいるため、
公立の学童クラブか民間の教室、塾などに通わせることになりますが、
前者は狭いスペースに定員以上の人数がひしめき合うような状態、
後者は高額な費用がかかり自由度が低いなど、子どもにとって
いい環境ではなさそうでした。

こうした声を、ほかの共働き家庭の小学生ママさんたちからも聞くようになり、
優さんのなかで「自分たちがその場所をつくれないだろうか」との思いが
日に日に増していったそう。

ディスプレイされた花

「おそらく、原風景には、私の実家で祖母と母がやっていた
学習塾の光景があったように思います。
離れの建物に、ピアノと黒板、子どもの学習机が置いてあって、
そこに子どもが集まってきて祖母がおやつを出すんです。
物心つかないころから、その空間でよく遊んでいたので、
『子どもが集まる場を自分たちでつくる』アイデアは、
とても自然に生まれました」(優さん)

1階のテーブル席で寛ぐ並木さん一家

もともとふたりとも建築の仕事に携わっており、「いつか自分たちで場をつくりたいね」
と話していたため、義和さんはすんなりと優さんの提案を受け入れたそう。

「僕の実家は転勤が多かったので、もともと、人が集まる場に漠然とした
憧れがありました。妻の実家で、塾だったスペースを見せてもらったときにも
『すてきだな』と思っていたので、彼女の提案にすぐに同意しました」(義和さん)

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とはいえお店をやるのは初めて。情報収集をして立てた道筋は…

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経験も時間もない、
なら、仲間をつくろう!

窓際に飾られたドライフラワー

ただし、ふたりとも場所を運営するのは初めて。
やると決まってからは、とにかくいろんな人に話を聞いたそう。

「それこそ、前に住んでいた世田谷区の子ども向け施設のオーナーさんなどに、
話を聞きに行きました。なかには私たちと同じように
夫婦で運営されている方もいて、彼らのアドバイスのおかげで、
かなりオープンのハードルが下げられたと思います」(優さん)

そうして見えてきたのは、
「コンセプトに賛同してくれる人を巻き込んで、みんなでお店をつくっていく」
という方針。内装工事はDIYイベントとして行い、
運営は自分のお店を持ちたい友人や知人に依頼。仲間の力を借りることで、
本業を持ち、子育てもしながらのチャレンジを乗り切ることにしたのです。

もともとあったクリーニング店の看板

もともとあったクリーニング店の看板は、その趣が気に入って取り外さずに残したそう。

同時並行で進めていた物件探しが落ち着いたのは、2018年4月のこと。

「駅が近いからたくさんの人に利用してもらえそうだし、
路上に面しているから誰でも入りやすい点が決め手でした。子どものための
空間ではありますが、地域の人にも利用してほしいと考えていたので、
条件にピッタリだったんです」(義和さん)

〈みちくさくらす〉の1階が飲食店としても機能するシェアキッチン、
2階が子どものための空間となっているのは、
そんな「地域の人にも入りやすいように」との意図が反映されているからだそう。

2階の大きな窓にお絵描き中

2階の大きな窓は、子どもたちのキャンパスとして大人気。

設計を担当したのは、建築家である義和さん。
古い建物でしたが、遊びざかりの子どもが利用する空間になるため、
構造的な補強はかなりしっかり行ったのだとか。
一方、古いからこその個性を生かすため、規格外の大きな窓や
クリーニング店の看板、ダムウェーターやレトロな手すりなどを
そのまま残すことに決めました。

2階の小上がりスペース

2階スペースには、子どもが自由に遊べる小上がりを準備した。(画像提供:〈みちくさくらす〉Facebookページ

それから、素人ではできない下地補修・設備工事を地域の工務店に依頼。
ようやくDIYの準備が整ったのは、物件が決まってから約半年後の、
2018年10月のことでした。

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思いのほかたくさんの人が来てくれたDIY。でも、それで苦労したことも!?

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たくさんの人に手伝ってもらったDIY

内観

「DIYの人集めには苦労するかと思っていましたが、
意外にも、たくさんの人が集まってくれました」(優さん)

土日開催のDIYイベントには、多いときには1日20人もお手伝いに来てくれたそう。
友人・知人がメインではあったものの、
なかには「張り紙を見てきました」という地域の方も。

「告知は主にFacebookで行っていましたが、
店頭にも『DIYやります!』と日程を張り出していたんです。
そこに『飛び込み歓迎』と書いていたのが良かったのかもしれません。
地域の方はコンセプトに共感して来てくれた子連れファミリーが多く、
うれしかったです」(優さん)

1階のカウンターコーナー

ただ、そこまで人が集まることを想定していなかったため、
苦労したこともあったそう。

「作業してくれる人に対して、やり方を教えるのは僕らだけ。
人数が多い時にはレクチャーが行き届かず、あとから修正作業が発生してしまう
箇所もありました。それはそれでおもしろい経験だったと思っていますが、
もしまた似たような機会があれば、レクチャーの準備と人数の配分に
力を入れたいと思っています(笑)」(義和さん)

手づくりの棚

こちらの棚も手づくり。簡単に分解して持ち運べるそう。

結局、予定よりもかなり時間がかかってしまい、
平日の仕事終わりに友人を集めて、お酒を飲みながらDIYをした夜もありました。
しかし、12月に開いたオープニングパーティーには、DIYに参加してくれた友人や
地域の方がたくさん遊びに来てくれ、喜びもひとしおだったとか。

「マネジメントの大変さはありましたが、
たくさんの人に関わってもらえてうれしかったですし、
大学時代の友人とママ友のような属性の違う友人同士がつながって、
仲間の輪が広がっていくおもしろい経験ができました。
DIYをしなければ体験できなかったはずなので、
今では、やって良かったと感じています」(優さん)

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一番の変化は、まちに頼れる人が増えたこと

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「誰がいるかわからないまち」
から「顔が見えるまち」へ

1階飲食スペース

1階飲食スペースは、優しい青色と木の風合いが落ち着く空間。

「このお店をオープンしたことで、
自治体や周辺の店舗さん、DIYに来てくれた方、お店のお客さんなど、
地域の人の顔が見えるようになったのは大きな変化でした。
以前はこのまちにどんな人がいるか、知る機会がほとんどありませんでしたから」(優さん)

〈みちくさくらす〉をオープンして4か月。DIYには来ていなくても
「なにやってるのかなってずっと気になっていました」という人が来てくれたり、
「自分もこういう活動がしたいと思ってたんです」という子育て世代が
通ってくれるようになったりと、うれしい反響が続いているそう。

手づくりの部屋飾り

今では、歩いていたり、買い物をしているときに
知り合いに会うことも増えたのだとか。

「まち自体は変わっていませんが、お店づくりを通して
地域の人と関わるようになったことで身近に頼れる人も増え、
いつの間にか居心地の良いまちに変化したように感じています」(優さん)

現在は、2階で開催する教室の準備や、
1階キッチンの利用を増やすために奔走中とのこと。

「オープンまでの道のりも予想外の出来事の連続でしたが、
開店してからも暗中模索の日々を過ごしています。
ひとつ課題を乗り越えたと思ったら、また次の課題が生まれる感じですね(笑)。
私たちふたりでは力不足なので、今は、想いに共感して
力を貸してくれる仲間を大募集しています」(優さん)

1階飲食スペースで4人一緒に

誰だって、大なり小なり、自分が住んでいる地域に何かしらの不満があるはず。
でも、実際にその解決に向けてアクションする人はほとんどいません。

だから、「子どもが集まる場がほしい」との想いを〈みちくさくらす〉オープンまで
昇華させた並木さん夫婦の行動力は、やっぱりすごい!

でも、そんなふたりだって、時間も経験もないなかでのチャレンジでした。
そのことは私たちに、無理だと決めつけていることだって、人に話を聞いたり、
仲間を募ったりすることで突破できる可能性を示してくれているよう。

同じように、夫婦でお店を始めたい方や、地域に場を持ちたいと考えている方は、
まずは並木さん夫婦に会いに行ってみてはいかがでしょうか。もしかしたらそこで
〈みちくさくらす〉への関わりしろが見つかるかもしれませんよ。

information

map

みちくさくらす

住所:東京都新宿区市谷柳町7(牛込柳町交差点そば。交番のおとなり)

TEL:050-5359-5328

オープン時間:みちくさcafe(土曜)10:00〜16:00 takiben(日曜)11:00〜15:00

Web:みちくさくらす

Instagram:@michikusakurasu

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