連載
posted:2018.12.28 from:長崎県佐世保市 genre:旅行 / 食・グルメ
PR 長崎県佐世保市
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Yuki Hashimoto
橋本ゆうき
はしもと・ゆうき●長崎県出身。これからの社会や暮らしについて考えるフリーペーパーの発行や、地元タウン誌の編集長などを経て、2016年よりフリーで活動。現在は長崎県西海市に移住し、より地域に密着しながら、豊かな暮らしのあり方を模索中。
photographer profile
Tada
ただ
写真家。池田晶紀が主宰する写真事務所〈ゆかい〉に所属。神奈川県横須賀市出身。典型的な郊外居住者として、基地のまちの潮風を浴びてすこやかに育つ。最近は自宅にサウナをつくるべく、DIYに奮闘中。いて座のA型。
credit
長崎県佐世保市本土から、西へ約12キロの沖合いに浮かぶ黒島。
400人余りの島民のうち、約8割がカトリック信者で、
人々の信仰の歴史を物語る「黒島の集落」は、
2018年7月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の
構成資産のひとつとして、世界文化遺産に登録されました。
しかし、黒島の魅力はそれだけではありません。
釣りやサイクリングを楽しみたくなる、ダイナミックで豊かな自然。
半農半漁で暮らす、昔ながらの営みの風景……。
ガイドブックには載っていない、よりディープな黒島の楽しみをご案内します。
これまでの連載でもご紹介してきましたが、黒島周辺の海域は、
複雑に入り組んだリアス海岸と島々が織りなすダイナミックな景観が特徴で、
大小208もの島々が点在する〈西海国立公園 九十九島(くじゅうくしま)〉として、
国立公園に指定されています。
黒島は、その九十九島の中で最も大きな島。
樹々が黒々と生い茂る姿から「黒島」と呼ばれるようになったという説もあり、
1周12.5キロほどの小さな島ながらも、
特徴的な地形や地質、動植物が、さまざまな表情を見せてくれます。
火山性のゴツゴツとした岩肌と、澄んだ美しい海。
この豊かな海を求め、遠方から訪ねてくる釣り人も多いそう。
ひじきなどの海藻、貝なども採れます。
こちらは黒島西端の海岸部に広がる、串ノ浜岩脈。
岩脈とは、地層や岩石の割れ目にマグマが入り込み、板状に固まったもので、
この串ノ浜岩脈は、800万年前の地殻変動によって形成されたといいます。
干潮時には総全長300メートル以上にも及ぶ岩脈が現れ、
長い年月がつくり出した壮大な自然の造形を間近で見ることができます。
次は、黒島随一の絶景スポット蕨(わらべ)展望所へ!
黒島は島全体が標高100メートル前後の台形状の地形となっており、
南側の海岸線は、高さ50〜100メートルの切り立つ浸食崖となっています。
断崖絶壁の長崎鼻と、その向こうに続く五島灘……。
黒島特産の御影石のベンチに座って眺める景色は、息を飲む雄大さです。
そして、黒島の海の恵みを体感するなら、ぜひ釣りにチャレンジを!
九十九島周辺、なかでも黒島は、
多種多様な魚が釣れることで有名で、全国から釣り人が訪れます。
釣り具を持参しての磯釣りはもちろん、
島内の民宿や漁師さんによる、漁船のチャーターも可能。
島旅ならではの思い出づくりにおすすめです。
information
船釣り体験・漁船のチャーターに関する問い合わせ
黒島ウェルカムハウス
住所:佐世保市黒島町8-4
TEL:0956-56-2311
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黒島の自然の魅力は、海だけではありません。
暖流の対馬海流の影響を受け、
年間を通して比較的温暖な海洋性気候の黒島には、
亜熱帯植物も多く自生しています。
たとえば島内のあちこちに自生する暖地性の植物、アコウ。
島では防風林としての役目も果たしており、
宙に伸びる気根が、どこか神秘的な雰囲気を醸し出しています。
また、推定樹齢250〜350年と伝えられる〈根谷(ねや)のサザンカ〉も
温暖な黒島の環境を象徴する巨木。
白い花が満開になる姿で、人々の目を楽しませています。
その美しさもさることながら、
このサザンカの種から採れる貴重な油が、
かつて潜伏キリシタンの人々の生活を支えていたという歴史も。
400年もの長きにわたり、黒島の自然と人々に寄り添い続けた銘木です。
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さて、黒島では約10年前から、
島を訪れた人々に、島の暮らしや食文化を体感してもらおうと、
〈島豆腐づくり〉や〈ふくれ饅頭づくり〉を体験として提供しています。
今回は黒島独特の製法でつくる、島豆腐づくりに挑戦。
とってもチャーミングな、中村さんご夫婦に教えていただきました。
まずは、事前にひと晩水に浸け、
さらにお湯に浸けて柔らかくした大豆を、
ミキサーにかけてなめらかにしたもの(生呉・ナマゴと言うそう)を、
大きな薪釜でふつふつと沸騰するまで煮込み、
沸騰したら水を加えるという工程を3度繰り返します。
焦げつかないように、木べらでかき混ぜながら!
「昔は大豆から育てよったとよ〜」と、お母さん。
それだけでなく、使っているかまどや木ベラといった道具も
お父さんのお手製というから驚きです!
「暇と材料さえあれば何でも手づくりたい!」これが、島のDIY精神。
火を止めて布で絞ると、
しぼり汁が「豆乳」、しぼりかすが「おから」になります。
次は釜に海水を入れ、先ほどつくった豆乳を流し入れます。
これが、黒島の豆腐づくりの最大のポイント!
通常の豆腐づくりで使われる「にがり」ではなく、
黒島周辺の海水を使って豆腐を固めるのです。
「昔から黒島では、海水ば使うとよ。
昔はどの家でも、冠婚葬祭の時や、家で食べる豆腐は自分たちでつくりよってね。
私も、山から薪を拾ってきて……小さい頃から手伝いよったね」
30分ほど煮ると、ほろほろと豆腐が固まっていきます。
これをざるですくうと、「ざる豆腐」のできあがり!
さらに、布を敷いた豆腐箱に流し込み、
重石を乗せて水分を抜いていきます。
水分がしっかり抜けると、黒島名物の島豆腐が完成!
黒島豆腐1丁分は、なんと市販の豆腐約4丁分のボリューム。
固めに仕上げる島豆腐はずっしりと身がつまり、
大豆そのものの風味や甘み、海水のほどよい塩気が感じられます。
お醤油や薬味片手に
「あったかかうちに、はよ、食べてみんね〜!」とお母さん。
お父さんお母さんと一緒につくったアツアツのざる豆腐や島豆腐は、
じんわり沁みるしあわせの味です。
もちろん、お土産にも島豆腐を1丁ずつ。ほくほく、うれしい重みです。
黒島豆腐づくりは手間ひまもかかり、
12丁分の豆腐箱ひとつで、5キロもの大豆を使う重労働。
最近では各家々でつくることが難しくなり、
中村さんご夫婦がご近所さんの分をつくることも増えたといいます。
豆腐づくりに限らず、
畑仕事をしたり、季節の果実を山から採ってきたり、
干し芋や切り干し大根といった保存のきく加工品をつくったり……。
「こつこつと、自分たちが生活するために、ね」
そう語る中村さんご夫婦の暮らしは、生活の知恵やチカラで溢れています。
今でこそ定期船が通い、本土との行き来がしやすくなったとはいえ、
島という環境は、生活のあらゆる面で不便が伴います。
さらに黒島は、かつて潜伏キリシタンの人々が、
少しでも安住できる地を求めて移り住んできた島、という歴史的背景もあり、
人々が暮らし始めた当初は、決して住みやすい場所ではなかったはずです。
そんな歴史や地理的条件を持つ黒島だからこそ、
時にサザンカの種から油を採り、時に海水で豆腐をつくる、
そんな、島の恵みを最大限に生かす、暮らしの知恵や文化が生まれたのでしょう。
島の豊かな自然と、そこに息づく暮らしを見つめると、
祈りの島・黒島のより深い魅力を感じられる旅になるはずです。
information
黒島豆腐づくり体験・ふくれ饅頭づくり体験に関する問い合わせ
黒島ウェルカムハウス
住所:佐世保市黒島町8-4
TEL:0956-56-2311
黒島豆腐づくり
体験料:1人3,000円
所要時間:4時間程度
定員:2〜10名まで
※6〜10月は、豆腐の持ち帰りはできません。
〈ふくれ饅頭づくり〉
体験料:1人2,000円
所要時間:3時間程度
定員:5〜20名まで
いずれも1週間前までに要予約。
予約は0956-56-2311(黒島ウェルカムハウス/黒島観光協会)まで。
information
黒島天主堂、改修工事の実施
時期:2019年2月4日から2020年10月末を予定。
工事の進捗状況によっては、工事期間は延長されることがあります。
詳細は、こちらから。
http://www.city.sasebo.lg.jp/kankou/kankou/kurosimatensyudoutaisinn.html
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