連載
posted:2017.12.28 from:岐阜県飛騨市 genre:暮らしと移住
sponsored by 飛騨地域創生連携協議会
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Tatsufumi Shiraishi
白石達史
しらいし・たつふみ●2010年に飛騨に移住。世界中から旅人が集まるガイドツアー、SATOYAMA EXPERIENCEの立ち上げに関わり、2017年に独立。編集・企画・広報・珈琲を柱に、新しい暮らしを実践中。
photographer profile
Fuko Nagasaka
長坂風子
ながさか・ふうこ●愛知県生まれ。大学卒業後、映像制作会社に勤務。地域の“今”を残したいと思い、岐阜県白川村に移住。好きなことは、映画を観ること、食べること。
飛騨への移住は何が違う? 仕事、住居、暮らしを支える飛騨コミュニティ 一覧はこちら
世界中から集まる、多くの旅人の心を掴んで離さない飛騨。
観光地として有名な飛騨は、高山市・飛騨市・下呂市・白川村の
三市一村からなる広域エリアだ。
伝統に触れつつ、新しい生き方を実践できるこの地域には、
観光客だけでなく移住者が増えている。
地域で暮らすうえで、大きなポイントとなるのが、人とのつながり。
縁を感じられる地域には、移住者は自然と集まってくる。
コロカル×未来の地域編集部でお届けする、飛騨の魅力に迫る連載。
外の人々を迎え、つながりを強くする。そんな飛騨のコミュニティを訪ねていく。
岐阜県の最北端にある飛騨市。
中心街である飛騨古川は、富山市と高山市に挟まれた山深い地域で、
まちなかには風格ある古い町家が残っている。
映画『君の名は。』の舞台となったことで注目を集めたこのまちには、
飾らない暮らしがあり、日々の小さな幸せがあふれている。
そんな飛騨古川で、地域と深く関わる吉城(よしき)高校での取り組みについて、
話を聞いた。
飛騨古川の古いまち並みと、下校中の小学生。
〈吉高地域キラメキプロジェクト(YCKプロジェクト)〉がある。
YCKプロジェクトとは、地域と連携して学びの場をつくっていく、
地域課題解決型キャリア教育のことだ。
2015年からスタートしたこのプロジェクトは、
「観光」、「教育」、「福祉」、「防災」の4分野で24項目の地域活動があり、
生徒はこの中から希望する活動に参加することができる。
地域に飛び出し、社会と関わることで、今後の自分たちのキャリアについて
考えてもらうことが目的だ。
このプロジェクトに、キャリア教育コーディネーターとして関わることになったのが、
地元出身の関口祐太さんだ。
関口さんは、吉城高校卒業後、名古屋の大学に進学。
卒業後、家業である〈有限会社関口教材店〉を継ぐため、
2006年に飛騨市に戻ってきた。
現在は、教材販売業と並行して、メンタルコーチとしても活動中。
教育、経営、スポーツの分野で、さまざまな方の夢の実現を支援している。
飛騨古川出身の関口祐太さん。吉城高校は自身の母校でもある。
「最初話をいただいたときは、高校教育についてわからないことばかりだったんです。
でも、僕自身の出身校でもあるし、学校で困っていることがあるなら、
役立ちたいという思いでスタートしました」
キャリア教育とは、従来の進路指導教育とは異なる。
卒業後の進路にかかわらず、生徒が将来就く仕事をはじめ、
今後の人生をどう生きていくか、指針を与える教育方法だ。
文部科学省によると、これからの高校教育では、
「学ぶこと」や「働くこと」への意欲を育むと同時に、
自らのキャリア形成ができる力を育成しておくことが重要だという。
(参考:高等学校におけるキャリア教育の論点と基本的な考え方)
進学についてアドバイスをする進路指導と比べると、
キャリア教育とは、生徒がいずれ社会で自立して生きていくために、
必要な能力や態度を育てること、自分らしい生き方を実現していくことを
支援する教育といえるだろう。
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飛騨古川の山腹に位置する吉城高校は、2017年度の全校生徒数が363人。
10年ほど前から定員割れが続き、生徒数は年々減少していた。
従来型の指導方法に手詰まりを感じていた学校では、
今後の学校教育をより良くしていくため、
「社会と連携し、生徒の生きる力を育むこと」、
「人口減少のなかでも教育を持続可能なものにしていくこと」を目指し、
「地域連携」を掲げたという。
2011年に立ち上がった学校の活性化委員会は、その後、地域とともに生きる方向に舵を切った。
多様な社会と向き合う現代。押しつけではなく生徒の価値観を大切にしたい、と話す。
「YCKプロジェクト自体は2年前から続いている活動ですが、
より効果を高めるための打ち手が必要な状況でした。
どうしても、学校が主体的に動くだけでは、これまでの教育方法と変わらない。
生徒自身が何を学んだのかを考え、振り返りの時間を持つことを取り入れました」
この指針となったのが、関口さんの関わっている
「ドリームコミュニティ」(現:ローカルエピソードシアター)だ。
関口さんはもともと、〈ローカルエピソードシアター〉と呼ばれる
地域交流活動を主宰していた。
地域の人々と一緒に、1か月間に起こったことを振り返る対話の場だ。
日々起こっている何気ないことを、参加者同士で共有することで、
自身の心境の変化を客観的に捉えることができる。
たとえば、ある参加者は、いつまでも移住者と言われることに対して
疑問を持っていたが、その場で参加者とエピソードを共有し、
本音で対話できたことで、気持ちに変化が生まれたという。
適切な進行があって、アイスブレイクのゲームがあって、
ワークシートにエピソードを書き出す。
話すことが苦手な人でも、話しやすくなるよう配慮されている。
なかには、地元の人らしい笑い話や、失敗してしまった話もあるそうだが、
地域性のあるエピソードを大切にしたい、と関口さんは話す。
ローカルエピソードシアターは、多いときでは30名以上の地域住民が集い、
吉城高校の先生や生徒も参加するようになっていた。
参加した生徒の提案により、学校でも同様の手法で振り返りの場が設けられた。
「ドリコミュ」と略されたこのイベントは、飛騨市と福井市の2か所で開催されている。リピーターも多いのだとか。
こうして、関口さんが開催していた地域交流活動の手法と、
学校と地域の連携が少しずつ実を結んでいった。
関口さんがサポートに入ったことにより、これまでよりも、
生徒たちが自分の気持ちを言語化し、書き出すことが増えた。
なかには、受験のときに、どういったことを自分が取り組んできたのか、
自信を持って話すことができたという生徒もいたという。
この日の授業でも、主体的に動く生徒にアドバイスを送る姿が印象的だった。
生徒にとっては、参加したプロジェクトに何の意義があったのか、
何を学んだのか、振り返りを取り入れることの意味は大きい。
自発的に考える時間を持つことで、これからの自身のキャリアを意識する
取り組みになっていくだろう。
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吉城高校では、生徒がより自主的に行動できるよう、2017年度から、
〈YCKプロジェクト〉を推進していくための中心的役割を担う
〈YCKプロジェクトリーダー〉を置くことにした。
2年生と3年生の15名が参加するこの取り組みは、
これまで学校側が行っていた課題設定やゴールまでのプロセスも含めて、
生徒がすべての役割を担う。
関口さんとともに、このプロジェクトに深く関わっているのが、
飛騨市にIターンした、盤所(ばんじょ)杏子さんだ。
盤所さんは、北海道の出身で、結婚を機に2015年に飛騨市に移住。
子育てをしながら、吉城高校キャリア教育サポーターとして、関口さんの右腕となった。
現在、盤所さんが関わっている大きな活動として、
生徒主導の〈三寺ミッション〉というプロジェクトがある。
飛騨市に来る前は、広告代理店や人材紹介企業に勤めていた。
「もともと、私が飛騨市観光協会にいたこともあって、
関口さんから、〈三寺まいり〉の課題について聞かれたのがきっかけです」
〈三寺まいり〉とは、飛騨古川で毎年1月15日に行われるお参りで、
町内にある本光寺、円光寺、真宗寺の3つの寺を詣でる伝統行事だ。
300年以上続く歴史ある行事だが、近年では、地元住民や観光客が
着物を着てまちを闊歩する、華やかな側面も見られるようになってきた。
当時は、信州へ糸引きの出稼ぎに行った女性たちも帰ってきて、着飾って巡拝した。若い男女の出会いの場にもなったことから、「嫁を見立ての三寺まいり」と歌われている。
「三寺まいり自体は、歴史もある伝統行事なのですが、
もっと観光客の滞在時間を延ばしたり、
地元の方の参加を増やすことができないかと感じていました。
今回生徒が主体で取り組む〈三寺ミッション〉では、
観光客や地元の方に『ありがとう』と言ってもらえることを目標にしていて、
それを私たちがサポートしています」
具体的に出ている案としては、子どもたち向けの
スタンプラリーを行うことが決まっている。
3つのお寺に高校生を配置して、それぞれのお寺のストーリーを聞くと
スタンプがもらえて、本部で商品と交換できるという企画だ。
華やかで、歩いているだけでも楽しい行事だが、本来の三寺まいりが始まった背景を、
次世代に伝えていくことを考慮している。
そのときに、楽しく参加できるような工夫はどんなものか、
生徒たちがアイデアを出していくのだ。
ターゲットが決まったあと、何をどうすべきか、課題解決までのプロセスも含めて、
生徒自身に考えてもらうことが大切だと、盤所さんは話す。
あくまでも、大人はサポート役だ。
生徒が進めやすいように、プロジェクトの方向性を伝えていくことは大人の役割だという。
「子どもには、自分が育った環境に誇りを持ってほしい。
私もひとりの親として、子どもたちの可能性を広げてあげたいし、
自分でも広げる力を身につけてほしい。
受け身ではなく、考えて自発的な行動を促せるように。
人生には無限の可能性があることを伝えるのは、大人の責任だと思います」
盤所さんは、自身の出身校ではないものの、生徒たちとまっすぐ向き合う。
将来、自分の子どもが通う可能性がある吉城高校だけに、
魅力を持ち続けてほしいと感じている。
自分の意志で人生を選択していく、その前段階の
高校のキャリア教育に携わる盤所さんは、
未来の生徒たちの姿を見据えているように思えた。
YCKプロジェクトリーダーが集まった授業の様子。生徒たちの表情も真剣だ。
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2017年度、〈YCKプロジェクトリーダー〉に立候補した生徒は、
2年生と3年生を合わせて15名。
現在、高校3年生の坂下拓夢(たくむ)さん、東田杏奈さんは、
それぞれYCKプロジェクトに参加してきて、
卒業前の総まとめとしてリーダーに立候補した。
三寺ミッションはやりがいのある活動だと話す、坂下拓夢さん(左)と東田杏奈さん(右)。
「YCKプロジェクトが掲げる地域連携について、
当事者である自分たちは、いったい何ができるのか。
リーダーとして関われるなら、先生がやっていたことを
自分でもやってみたいと思いました」(坂下さん)
「私は、もともと教育に興味があったので、
3年間、小学校の学習サポーターを続けてきたんです。
将来は教師になりたいと思っています。
夏休みに、勉強が苦手な小学生と向き合ったことで、
自分の将来をより意識するようになりました。
リーダーになると担うべき範囲も広がるので、後輩たちに
自分の経験してきたことを伝えたいと思っています」(東田さん)
ふたりは、自分たちが経験してきた地域活動に、
大きな手応えを感じているように見えた。
YCKプロジェクトリーダーとなり、これまでは大人たちが考えていた
ゴールやプロセスを、自分たちで考えられるようになった影響は大きい。
大人と同じ責任の重さを感じることは、生徒たちのさらなる成長につながるのだろう。
何かを決めるときは、すべてを多数決で決めるわけではない。決める方法、どうしてそう思うのか、各自が意見を出すことも忘れない。
「お祭りのボランティアで、外国人旅行者を案内していたときに、地域の方から、
『吉城高校のボランティアのやつか』と声をかけていただいたんです。
そのまま、旅行者の方をおもてなししてくれて。
地域の人と触れ合えて、外国人観光客が喜んでくれたのはもちろん、
何よりも、地域の人が喜んでくれていることに気づきました」(坂下さん)
ファシリテーションに挑戦する坂下さん。意見の引き出し方など、難しく感じることも多いそう。
この日は、三寺ミッション作戦会議と題して、集まったメンバーが議論を重ねていた。
最初の20分は坂下さんの進行、後半は盤所さんの進行で、
今回の取り組みについて話が進む。
「進行は、慣れていなくて難しかったです(笑)。
でも、みんな前回と比べて多く発言していて、
回を重ねるごとに意欲的になっていると思います」(坂下さん)
「三寺ミッションでは、地域の子ども向けスタンプラリーの実施や、
高齢者の方々のケアを考えています。
観光客をはじめ、来てくれる人への配慮も、
何をどの程度できるか検討しないといけません」(東田さん)
教師を目指す東田さん。学習サポーターとしてボランティアを続けたことで、想いはより強いものとなった。
「YCKプロジェクトは、ただボランティアをやるだけの
プロジェクトではないと思っています。リーダーである自分たちは、
主体的に関わらせてもらっていますが、それ以外の大多数の生徒も、
将来自分の進路やキャリアにつなげるプロジェクトに関わっているはずです。
地元のためだけではなく、自分にとっても意義がある。
ボランティアで得た経験をもとに、これから自分が進む方向を
少しずつ決めていければと思っています」(坂下さん)
坂下さんは大学で地方創生を学び、
東田さんは、教師になる夢を叶えたいと話す。
ふたりとも、キャリア教育に触れられたことで、
これまでにない視点でものごとを捉えるようになり、人生設計の幅が広がったという。
大切なことは、キャリア教育がきっかけをつくるということだ。
「なぜ学ぶのか」、「学んでいる内容を理解しているか」、
「学んだことをどのように使っていくのか」ということを、
生徒自身に気づかせるような指導が、これからは必要になってくるのだろう。
地元出身者である関口さんと、移住者の盤所さん、
挑戦を続ける学校と、それに呼応する生徒たち。
吉城高校の教育革命は、まだ始まったばかりだ。
「未来の地域編集部」が発信する、
グッとくる飛騨
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