連載
posted:2016.11.22 from:長野県長野市 genre:食・グルメ
sponsored by JA全農長野
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Hiromi Shimada
島田浩美
しまだ・ひろみ●編集者/ライター/書店員。長野県出身、在住。大学時代に読んだ沢木耕太郎著『深夜特急』にわかりやすく影響を受け、卒業後2年間の放浪生活を送る。帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店〈ch.books〉をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。
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撮影:水野昭子(イベント風景)、内山温那(生産地風景)
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Supported by JA全農長野
ケーキにたっぷり盛られたおいしそうなフルーツ。これらはすべて長野県産。
長野県はりんごをはじめ、ぶどうや桃など、さまざまなな果実を
多く全国に供給している全国有数の果物王国です。
そんな長野県産の果物の魅力を知り、味わうイベントが、9月下旬、
銀座の一角にある長野県のアンテナショップ〈銀座NAGANO〉で開催されました。
イベントにはまず、長野県出身で、全国第1号の野菜ソムリエでもあるKAORUさんが、
フルーツの楽しみ方や、フルーツをどう暮らしにとり入れたらいいかを提案。
KAORUさんの解説のなかで特に多く語られていたのが、長野県産りんごの魅力。
長野県では野菜なども含めた農地の標高がおよそ300~750メートルと高く、
その約8割は標高500メートル以上。
そのため夏でも昼間暑くても夜には気温が下がり、
その寒暖差が果物をおいしくするというのです。
また、長野県は典型的な内陸性気候で、果物の生育期である夏場は雨が少なく、
日照時間も長いため、より糖度の高いりんごが収穫されるのだそう。
確かに、ここで食べたりんごのおいしさといったら!
また、さまざまな品種を栽培していることも長野のりんごの大きな特徴。
長野県生まれのオリジナル品種だけでも〈秋映(あきばえ)〉、〈シナノスイート〉、
〈シナノゴールド〉、〈シナノドルチェ〉、〈シナノピッコロ〉など多様な品種があり、
8月から2月までの長期にわたって旬のりんごが採れるというわけ。
続いて、〈銀座三笠曾館〉のフレンチシェフによる
フルーツの飾り切りワークショップも。
先ほどのケーキも銀座三笠曾館のパティシエによるもの。
そこまで本格的でなくても、家庭でも簡単にできる「飾り切り」を教えてくれました。
長野の果物の魅力に触れることができたイベント。
そのおいしさの秘密を探って、次はりんごの産地を訪ねてみることに。
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向かったのは、長野県北部に位置する長野市豊野町。
「北信五岳」とよばれる北信濃の山々を見渡せ、
一面にりんご畑が広がる県内有数のりんごの産地です。
中心部を走る国道18号は通称「アップルライン」とよばれ、りんごの直売所がずらり。
高原に上れば「高級りんごの里」として知られる旧三水村にたどり着き、
小高い丘の上にはりんごづくしの博物館〈いいづなアップルミュージアム〉が
建っています。さらに、その先にはワイナリー〈サンクゼール〉があり、
農村リゾートの雰囲気が漂います。
こうした長野県のりんご農家たちは、全国に先駆けて味の追求に努めてきたといいます。
従来、りんごの栽培方法は病害虫から果実を守り色づきもよくなる
有袋栽培(果実が小さいうちから袋をかける)が主流でしたが、
食味が劣るとされてきました。
そこで長野県では、見た目は荒削りながらおいしさは際立つ無袋栽培を推進。
これにより果実は太陽の光を充分に浴びて育つため、
糖度が高く蜜が詰まりやすくなります。
長野県では、そんな濃厚な味わいのりんごが生産されています。
畑に実っていたのは赤い果実だけでなく、黄色いものも。
これは〈シナノゴールド〉という長野県のオリジナル品種で、
同じく長野県から生まれた新品種〈秋映〉、〈シナノスイート〉と合わせて
「りんご三兄弟」と呼ばれています。
そんな長野の地で、まるで垣根仕立てのワイン用ぶどう畑のような
りんご畑を見かけました。一般的なりんごの木に比べて
細く低木で、直線状に整然と並ぶこの栽培方法は
「高密植わい化栽培(こうみっしょくわいかさいばい)」というりんごづくりだそう。
手がけているのは、榎田重彦さん。長年、JA全農長野生産販売部果実課で
同栽培方法の技術普及を担当し、その有用性を実証すべく、
自らもその方法に取り組んでいるりんご農家です。
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そもそも「わい化」とは、一般的な大きさよりも小さなまま成熟すること。
りんごのわい化栽培は側枝が多くて木が大きくならない専用の苗木を用います。
これによりコンパクトに栽培できるので、
面積あたりに多くの木を植えることができるそうです。
そんなわい化栽培、通常は樹間が200センチほどの間隔ですが、
長野県果樹試験場では、より樹間を狭めた新技術「新わい化栽培」を開発。
さらに、榎田さんは一層の収量アップをねらい、樹間をよりコンパクトに仕立てた
高密植わい化栽培に5年前から着手しました。
これは、りんごの品種にもよるそうですが、なんと樹間の目安を
50~80センチにしているというから驚きます。
こうした高密植わい化栽培のメリットのひとつが、
よりおいしいりんごが生産できる点です。
普通栽培はどうしても枝が重なり日陰ができてしまうため、色づきが悪く
商品価値が下がってしまうことが多いそうですが、高密植わい化栽培なら
1本1本の木の日当たりがよくなり、糖度が増して甘いりんごができるといいます。
また、すべての果実が均一な条件で成長できるので、
ひとつの木でもムラなく日が当たり、高品質のりんごが多く収穫できるという
利点もあります。これにより、規格外品が圧倒的に少なくなるそうです。
さらに、苗木を植え付けてからりんごが実るまでの年数も、
普通栽培は4~5年かかるのに対し、わい化栽培の場合は植えつけた年から果実が実り、
2年目から収穫量が見込めるといいます。つまり、新規就農者も栽培しやすいのです。
そもそも、榎田さんがこの高密植わい化栽培に取り組むようになった理由のひとつが、
高齢化や後継者不足による生産者減少に対する危機感。
「I・Uターンの新規就農者も結構いるんだけど、
それ以上に栽培をやめてしまう生産者が多いから、
相対的に生産量もどんどん減っているんです。
だから、この高密植わい化栽培は今後普及させていかなきゃいけない。
新規就農者にも、このパターンで指導するつもりでいます」
栽培方法としても特別な技術が不要で初心者でも始めやすいのだとか。
加えて収量も多いので、若い生産者のモチベーションになっているといいます。
現在、長野県では少しずつ高密植わい化栽培に興味を持つ農家が増えてきていて、
専用苗木の生産も増えているといいます。
まだまだ栽培樹の寿命が短いといった課題は残っているものの、
着実に生産者の高齢化が進み、生産量も減少している現状の打開策としては、
熟練した技術が不要で効率がよく早期多収が図れる高密植わい化栽培は、
起死回生の栽培方法といえそうです。
ところで、11月22日は主力品種〈ふじ〉の旬、
「11・22(いい・ふじ)」とかけて、「長野県りんごの日」だそう。
そして、整腸作用があって免疫機能を向上させる
抗酸化物質などが含まれるりんごの栄養面も踏まえて、
「An apple a day keeps the doctor away(1日1個のりんごで医者いらず)」
というイギリスの諺にちなみ、「11・22(いい・夫婦)」の日と合わせて
「ありがとう」の感謝の気持ちとともに、親しい人にりんごを贈ることを勧めています。
おいしい食べ物は、人を幸せにします。
そのおいしさが夫婦で力を合わせてつくられていたら、
幸せはより一層広がるのではないでしょうか。
「そんな大げさなものではなくて、うちはご先祖様から受け継いでいる畑を
守っているだけだから」と照れくさそうに笑う榎田さん夫妻を見ていると、
旬の贈り物として蜜がたっぷり詰まったりんごを届けてみるのもいいものだな、
なんて気持ちに包まれました。
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