連載
posted:2016.10.31 from:愛知県名古屋市 genre:活性化と創生 / エンタメ・お楽しみ
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〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
editor’s profile
Takatoshi Takebe
武部敬俊
たけべ・たかとし●岐阜出身。名古屋在住。出版/編集職に従事した後、ひとりで雑誌『THISIS(NOT)MAGAZINE』を制作・出版。多数のイベントを企画制作しつつ、現在は『LIVERARY』というウェブマガジンを日々更新/精進しています。押忍!
http://liverary-mag.com
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撮影:今井正由己、橋本紗良
名古屋のまちを舞台に、名古屋の歴史、伝統文化を
新しい感覚で楽しむことができる一大イベント〈やっとかめ文化祭2016〉が、
今年も10月29日(土)~11月20日(日)までの約1か月間、名古屋市内各所で開催中。
いまでこそ自動車産業を中心とした
工業都市というイメージの強い名古屋(及び愛知県)ですが、
実は江戸時代から尾張徳川家のもとで豊かな文化を育んできた、“芸どころ”でもあります。
やっとかめ文化祭は、その名古屋文化に裏づけられた優れたコンテンツを一堂に集めた祭典。
4年目となる今回はさらにプログラムも充実しています。狂言のストリートライブ〈辻狂言〉、
都心の真ん中にモダンな茶室が出現する〈街茶〉、有名料亭での〈お座敷ライブ〉、
まちなかで歴史やカルチャーを体験する〈まちなか寺子屋〉〈まち歩きなごや〉など、
約150もの企画がさまざまな場所で同時多発的に開催されます。
担当するのは、初回からずっと関わってきた名古屋市職員の吉田祐治さんです。
そして、もうひとりのキーパーソンが、
名古屋のまち中をキャンパスとして活動する団体〈大ナゴヤ大学〉学長の加藤幹泰さん。
彼は、名古屋市の中心部に位置する名古屋テレビ塔周辺のまちの活性化を図る
〈ソーシャルタワープロジェクト〉などにも携わってきた、名古屋のまちをおもしろくする、
若きリーダーのひとり。
これまでどおり、歴史・文化を掘り起こしその魅力にあらためて気づかせてくれるだけでなく、
さらに、さまざまなイベントが行われる、
いわばこの文化祭の舞台となる名古屋のまちの魅力を見つめ直すきっかけをつくりたい……。
そんな主催者たちの思いがこのイベントには込められているようです。
やっとかめ文化祭の人気イベントのひとつである〈まち歩きなごや〉。
実際は、それぞれのまちのガイドさんがちょっと誇らしげに
自らのまちを案内するツアー企画となっていますが、
今回は、吉田さん、加藤さんそれぞれがおすすめのコースをチョイス。
まずはおふたりにまち歩きガイドをしてもらい、
その後やっとかめ文化祭にかけるその熱い思いについて語ってもらいました。
まず、最初に訪れたのは〈まち歩きなごや〉のコースのひとつに含まれる荒子観音。
名古屋市中川区荒子町にある天台宗の寺院で、
世界中にファンを持つ円空仏が1200体以上保管されていることでも有名です。
吉田: こちらの多宝塔、実は名古屋市内で一番古い木造建造物なんですよ。
この塔の中から円空仏が発見されて、現在保管、展示がされているんです。
加藤: 円空ファンの間では有名なお寺で、
円空仏を彫るワークショップも行われていたりするそうですね。
荒子観音寺の住職から、円空がなぜそこまで人々を惹きつけるのか、
お話を聞かせてもらいました。
住職: 円空像は庶民のための仏像であることがまず大前提にあります。
生涯において、全国さまざまな土地へ赴き、村人たちの声を聞き、
その悩みを解決するために仏像を彫っては手渡していたと言います。
円空と交流が深かったこの荒子観音には、数多くの木彫が残されていました。
加藤: なるほど。円空仏を見るポイントはありますか?
住職: 本来、仏様は高いところに祀られます。
なので、下から見上げるような角度で見るといいです。
円空ならではとも言える、髪の毛が逆だった怒りに満ちているような木彫も、
口角が上がっていることがわかります。この独特とも言える、
微笑みの表情が円空仏最大の魅力です。
加藤: 本当だ! 角度によって、怒っているようにも笑っているようにも見えるんですね。
引き込まれそうな深い魅力がありますね。
吉田: こちらに展示されている円空仏は、
木片からつくられたわずか2センチの小さな木像から、
大木を彫ったであろう3メートル級の木像までバラエティ豊かで、
円空仏の魅力に一度で触れることができるんですよ。
住職: 円空は、一本一本すべての木の中に神様が宿っているとし、
ひとつひとつ彫り出しています。
小さな木片から生まれた木像は、子どもたちのためにつくられたものだそうです。
お参りを済ませたふたりは、寺のすぐ近隣に店を構える老舗和菓子店〈もち観〉さんへ。
創業90年を数えるこちらの店は、もともと荒子観音寺の門前通りにあった、
古くから地域に愛されてきた和菓子店。
そして、おみやげとしても人気なのが、この〈円空大黒天もなか〉です。
ほどよい甘みのあんが口の中に広がります。
あんにこだわり、菓子によって、あんの種類や炊き方も変えているそうです。
ちなみに、店主・野呂憲司さんの楽しみは、名古屋市内の和菓子青年会の集まりなのだそう。
「名古屋和菓子業界は、他県から不思議がられるほど、同業種同士で仲がいいんです」
と野呂さん。
そんな店主との会話も楽しみつつ、和菓子をほおばるふたり。
こんな風に、直接まちの人と対話できるのも、まち歩きなごやの醍醐味。
ただ何となく歩いて見ているだけではわからない小さな発見の連続は、
知的好奇心をくすぐるはず。
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和菓子に続いて、お次は駄菓子……(名古屋人は菓子好きなのかもしれません)。
ふたりが続いて向かった先は、まち歩きなごやのコースのひとつ、
新町・明道町の菓子問屋街。
加藤: なかには、建築科の大学教授も研究対象としている建物も含まれているらしいですよ。
吉田: このエリアには、名古屋城も近くにあって。
城に仕えていた武士たちが副業として菓子づくりをしていた、名残だなんて逸話もあります。
昔懐かしい駄菓子たちがひしめきあう様子は、ふたりを童心に返らせてくれたようです。
今年4回目を迎えるやっとかめ文化祭。そこにかける思いについて語ってもらいました。
吉田: 4回目となる今回のやっとかめ文化祭の目標としては、
ちょっと幅をもたせたいなと思いました。
やはり、歴史・文化だけでは、名古屋のまちのことは表現しきれないなと、
回を増すたびに感じていました。
まちのおもしろさは多様でとても幅が広いので。
そこで、もうちょっと若い層に広げていきたいという思いもあって、
大ナゴヤ大学の加藤さんたちにも企画や運営から携わってもらうことで、
いろいろと可能性が広がっていくのではないか、と考えました。
加藤: もともとやっとかめ文化祭って、
歴史や文化だけを伝えるっていう名目じゃないんですよね。
大前提として「名古屋のまちそのものの魅力を伝える」っていうのが大きなテーマとしてある。
吉田: そうなんです。でも、根幹としては、このイベントのオリジナリティである、
名古屋の歴史、伝統文化というところを大切にしていきたいとは思っています。
ただ、歴史・文化・伝統って文字が並ぶと、
それだけで特に若い方なんかは一見とっつきにくいものと思いがちで。
一歩踏み出してもらって、知ってくれさえすれば、きっとおもしろがれるはずなんですが。
だからこそ、名古屋をおもしろがる人を増やすってことを提唱してきた
大ナゴヤ大学にもサポートしてもらって、
その周りに集まっている好奇心旺盛な若い人たちと一緒に
このイベントをつくっていきたいと思ったんです。
加藤: 自分の知らないことも興味を持っておもしろがるってことはすごく大事で。
いままでは当たり前に存在していたけど、見過ごしてしまっていたまちの風景も、
そういう気持ちで見れば景色は違って見えてくるはず。
それを気づかせるきっかけをつくってくれているのが
やっとかめ文化祭なんだと僕は思います。
まち歩きツアーのガイドさんから話を聞いて巡れば、
他者の視点も感じることができるわけですしね。
吉田: そういう意味では、大ナゴヤ大学さんもやっとかめ文化祭も性質は似ているんです。
あらためて、何かおもしろいものを自分で納得しながら発見していく、という点で。
加藤: 狂言とか若い人じゃなくても見る機会あまりないですからね。
僕らからすると敷居の高い高級料亭で食事をしながら観たり、
まちなかで観ることができるのって、やっとかめ文化祭ならではの体験です。
でも実際のところ、伝統芸能って楽しむ側の努力もある程度必要で(笑)。
きっと、古いものとか昔のものに興味を持つきっかけがないと、
若いうちからなかなか触れられないものです。
吉田: そうですよね。
日本では、すっかり自分の国のことがわからなくなってしまったのではないか?
と思うことがあります。でも、20代後半か30代前半くらいで、
そういった日本の歴史や伝統文化に興味が湧く、1回目の波が来るって僕は思っています。
そもそも、僕自身もこのやっとかめ文化祭に携わるようになって、
すっかり日本文化のファンになってしまったんです。
加藤: 海外旅行に行って、単純にすごいな〜! って感動して帰ってくるのもいいけど、
帰ってきた時に、じゃあ自分の国はどうなんだろう? っていう発想が大事で。
その視点で見つめたときに、もうどこが良いとか悪いとか、
おもしろいとかおもしろくないとかじゃなくて、
とにかく興味関心を持って、その文化に触れるっていう行為自体に
おもしろみを感じるようになったんです。
吉田: まちの持つ歴史文化って、自分の住んでいるまちの一部だと思います。
歴史文化に触れるって、そんなに大それたことじゃなくて、
身のまわりに転がっているものなんです。
でもちょっとそれを知るだけでいつもの風景が違って見えたり、
すばらしい出会いや発見があって、
そういう体験をすると、そこから次々に興味が湧いてくるきっかけになるかもしれない。
自分のまちの歴史文化を知ることで、
まちそのものも好きになれたら日々の暮らしがもっと楽しくなると思います。
加藤: 伝統文化を若い人たちにアピールするだけのイベントではないということですよね。
吉田: そうですね。でも、もちろん若い世代が支えなければ、
文化は途絶えてしまうとも思いますので、
老若男女、幅広い世代の方に届けたいと思っています。
いろいろな世代の方が出会い、交わることができるのもやっとかめ文化祭の特徴のひとつです。
加藤: やっぱり地域文化のことを考えると、
どうしても経済のことを意識せざるを得ないというか。
吉田: 文化にしても、観光にしても、消費と無関係ではいられないですし、
これからどのような消費を選んでいくかが問われているのかなと思います。
住んでいる人が自信をもって自分のまちのことをすすめられて、
長く続いていくまちの魅力を育てていけるといいですね。
加藤: 僕は名古屋の喫茶文化ってすごく好きなんですが、
それはおじいちゃんおばあちゃんから若者まで
みんな同じ空間に混ざって存在しているっていうのが理由のひとつで。
それってすごくいいことだと思うし、
どんどん文化が多様化していけばいくほど、
みんな混ざりあうことから避けていく世の中になっていっていると思っていて。
盆踊りがなくなっていくのもそういうことかな。
盆踊りや、まちのお祭が消えていくのは単純に寂しいことだし、
何より、世代間の交流の場が失われていっていることだと思っています。
だから、まちにとって祭は必要だし、
やっとかめ文化祭という祭もずっと続いていってほしいですね。
まちのなかに、異文化だけでなくて、異世代が交流できる場としての祭として。
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