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ラ・ターブル&雫ギャラリー

Local Action
vol.005

posted:2012.9.11   from:鹿児島県熊毛郡屋久島町  genre:旅行 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

屋久島生まれの新しいカルチャーを発信したい。

屋久島を一周巡る県道の南部を走っていると、
白を基調とした都会的なデザインの建物が現れる。
ラ・ターブルというレストランと、ジュエリーと絵画を扱う雫ギャラリーだ。
典型的な“屋久島らしさ”からは少し距離を置いたたたずまい。
ナチュラルでウッディな建物が多い中で、異色の存在だ。
ここを仕掛けているのは、ジュエリーデザイナーの中村圭さんと
画家の高田裕子さん夫婦、料理家の羽田郁美さんの3人。

中村さん、高田さん夫婦は、もともと大阪で活動をしていた。
自然のなかで創作したいという思いをずっと持っていたというふたりは、
たまたま訪れた屋久島に惚れ込んでしまった。
最初は屋久島に通いながら創作活動していたが、
次第に1か月、3か月と滞在期間が長くなっていったこともあり、
思いきって屋久島へ完全移住することにした。
「常に模索しながら、作家性を深めたいと思っていた」(中村さん)
「それまで想像で描いていた森のイメージが、屋久島に全部ありました」(高田さん)
というように、屋久島で田舎暮らしをしたいからというよりも、
自らの創作をより深めたいという思いのほうが強い移住だった。

屋久島で感じたことを作品に落としていくというスタイルで創作していた
中村さんと高田さんにとって、
それらの作品を東京や大阪だけで発表することに違和感を感じ始めていた。
「この土地で感じたことを、この土地で共有したいという思いがあって、
そういう場所があったらいいなとイメージしていたんです」(中村さん)

そんなとき、羽田さんの自宅に遊びにきた中村&高田夫妻は、
裏にちょうどいいサイズの小屋を発見。そこをギャラリーとして定め、
「そのときに横にくつろいでもらえるようなカフェやレストランがあれば
いいなと思ったので、郁ちゃん(羽田さん)に相談しました」(中村さん)

その頃、羽田さんはその自宅をアトリエと兼ねてケータリング業を営んでいた。
もともとは東京都出身だったが、山や川、海のある環境に住むことに憧れていた。
社会人になって数年経ち、食の世界へ進むうち、
住む場所と自分の追求したい食の仕事が屋久島にあると感じ、移り住むことに。
ホテルや料理家のもとなどで料理の修業を積みつつ、
移住して3年目でケータリングを始めた。
こうした流れで、羽田さんの裏庭にあった小屋はギャラリーに、
自宅兼アトリエはレストランへと生まれ変わることになった。

右がジュエリー、左が絵画エリア。温帯植物とのコントラストがまぶしい白亜のギャラリー

雫ギャラリーのジュエリーと絵画のフロアは、入り口は別だが内部の窓でつながっている。

あえて“屋久島らしくない”仕掛けを。

このラ・ターブルと雫ギャラリーは、白い。
いわゆる“屋久島らしさ”はあまり感じられない。
彼ら3人が都会からの移住者だからとはいえ、屋久島の中では不思議な空間となっている。
都会的な要素があったほうが、地元のひとは喜んでくれるのではないか
という思いから生まれたコンセプトだ。

「屋久島にいると、自然があるから
昔に戻らないといけないのではないかというような気がしてくるけど、
今あるいいものを紹介するかたちがあってもいいと思います」(中村さん)
「屋久島は、オシャレしてヒールを履いていくような場所が少ないんです。
今までの洋服が着られないとか、移住者同士だとそういう話で結構盛り上がる」
と高田さんも笑う。

そういった目論見があたって、
ラ・ターブルには特に地元のひとが多く訪れているという。
“フレンチベースのレストランで、平日は一組限定”という、
屋久島ライフからは想像し難いスタイルであるにも関わらず、
「島民の方たちがパリッと着替えて何回もリピートしてくれたりしてうれしいです」
と、その思いがけない利用法に羽田さんも喜んでいる。

しかし、レストランも、ジュエリーも、絵画も、
屋久島の通常の生活から考えたら、決してお手軽ではないかもしれない。
少し背伸びして通ったり、買ったりしなくてはならない。

「使う素材、仕込みの手間、自分の提供したい料理の方法を考えると、
今はこの価格設定になってしまいますが、
思いきってやってみたいことに直球で向かってみようと思いました」(羽田さん)
「幅広いひとになんとなく広めるよりも、
それぞれがやりたいことを突き詰めれば、
共感してくれるひとたちが、例え少人数でもいると思うんです」(中村さん)

屋久島の食材を中心に、今の島では珍しいメニューを提供。前菜は毎週のように変わる。

デザートには、ラ・ターブルの定番バナナチーズケーキ。

彼らは作家であって、ものをつくり、
そこからカルチャーを生み出したいという思いが強い。
それは観光資源が豊富な屋久島からは、なかなか生まれてこない発想なのだ。

「今は、屋久島という島を消費したり、
切り取ったりするような観光がどうしても中心になりがち。
そうではなく、ゼロから何かをつくり出したい。
屋久島から得たインスピレーションを元に生み出された新たなカルチャー。
そこにお客さんに来てもらうという仕組み」(中村さん)
「屋久島らしさって何だろう? と考えたときに、
屋久杉や豊かな自然のイメージが強すぎる。
自然はもちろん素晴らしいし影響を受けているんだけど、
それに頼ってばかりでは、山も森も消耗して自然が壊れていく方向しかない。
でも、屋久島らしい美術や音楽、文化が生まれれば、
それが新たな資源になるはず」(高田さん)

シダのブローチなど、屋久島の自然をモチーフにしたジュエリーの数々。

屋久島の雄大な自然を感じさせる大きな絵が飾られている。下のボトルは、高田さんの絵がラベルに使われている焼酎「水丿森」。

屋久島は自然が豊かな島、というだけの認識でひとを呼ぶことが、
この先どうなんだろうという違和感があるのかもしれない。

「森にばかり重荷を負わせるのもね。私たちが森からもらっているパワーを、
違うかたちに変換して、少しずつ返していきたい」(高田さん)

屋久島への大きなリスペクトは払いつつ、
しかし彼らは、自給的な田舎暮らしに憧れて移住して来たわけではない。
中村さんが言うように、今はもう
「ライフスタイルをそのまま持ってくることができる」時代。
若者はどうしても、一度都会に憧れ、島外に出ていってしまいがちだ。
しかし屋久島にも都会的なカルチャーが生まれれば捨てたものじゃない。
屋久島の高校生ががんばって「ラ・ターブル&雫ギャラリー」へ行くことが、
都市のカルチャーへの第一歩となり、
新たな屋久島カルチャーとして進化していくのかもしれない。

購入しやすいように小さな絵も売られている。白い壁に色が映える。

ちょっとしたオブジェもかわいい。モダンなセンスを意識的に。

information

map

La table & shizuku gallery
ラ・ターブル&雫ギャラリー

住所 鹿児島県熊毛郡屋久島町平内225
TEL [La table]0997-47-2550
[雫ギャラリー]0997-49-8670
営業時間 [La table](平日)ランチ12:00〜15:00 ディナー18:00〜21:00
※平日は1日1組限定予約制
(土日)ランチ12:00〜15:00 ティータイム15:00〜17:30
[雫ギャラリー]土・日曜日11:00〜19:00
http://latabledeikumi.info/
http://shizukugal.exblog.jp/

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