連載
posted:2014.12.27 from:岐阜県高山市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:松木宏祐
オークヴィレッジからつながる岐阜の森のはなし
岐阜は県土面積の82%が森林で、全国2位の森林県。
平成18年度から間伐を強化し、毎年1万5000ヘクタール以上の間伐が実施されている。
木材としては、スギがもっとも多く、14万3000立方メートル生産されている。
次いでヒノキが11万立方メートル。
ヒノキは国内シェアの5.4%に上り、全国7位の生産量である。
製材工場の数は減少傾向だが、それでも314工場があり、
全国で2位の工場数となっている(平成22年)。
ただし1工場あたりの原木消費量は、全国平均の3分の1程度で、
小さい加工規模の工場がたくさんあることがわかる。
コツコツ木を植えながら、会社をつくる
岐阜県の高山駅から20分程度、クルマを走らせた緑豊かな敷地に
オークヴィレッジはある。
しかしこの場所には、「かつてはまったく木が生えていませんでした」と
代表の稲本正さんは語る。
オークヴィレッジは今年40周年。40年前に荒れ地同然だったこの場所に会社を構え、
40年かけてコツコツと木を植えてきた結果、
現在のような森と社屋が融合したような心地よい雰囲気になった。
数人で農家の納屋を借りて家具づくりをはじめたのが1974年。
木工で有名な飛騨で技術を学び、自給自足の工芸村を目指した。
農業や織物、養鶏もした。
実は30歳頃まで原子物理を研究していたという稲本さん。
オーストリアのエルヴィン・シュレーディンガーという
物理学者の著作『生命とは何か』にあった
“唯一、植物圏だけが、地球をきれいにする”という一節に感銘を受け、
森での生活をスタートさせた。
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中心にすえる3つの企業理念
オークヴィレッジには、設立当初からの3つの理念がある。
ひとつめは〈100年かかって育った木は100年使えるモノに〉。
原材料となる木が生きてきた年月と、同じ年月使えるものづくり。
木は製品となって生き続け、その間に人間は新たな森を育てることができる。
ふたつめは〈子ども一人、ドングリ一粒〉。
山から木を1本もらったら、1本返す。
NPO法人「ドングリの会」を発足し、植樹・育林活動にも力を入れている。
日本では戦後、たくさんの木を植えてきた。
それが生長し、現在ではどんどん使っていく時期がきている。
育てるだけではなく、同時に使っていかなくてはならない。
稲本さんは〈恵みの森づくりコンソーシアム〉の代表も務める。
岐阜県の森林づくりにおいて、森の保全をしながら、資源を使い、
産業を育成することが目的だ。県と企業とNPOが連携し、使いながら育てている。
そうした思いが、3つめの理念につながる。
〈お椀から建物まで〉。
オークヴィレッジでは、つくるものを限定せず、適材適所の木を選び、
小物から家具、内装、木造建築まで、暮らし全般に関わるものづくりを行っている。
木材を使い切るための、全方位的ものづくりでもある。
つくるものがたくさんあれば、それに適した木材を使うことができる。
家具に向かない木材であれば小物に、表に向かない木材であれば裏側に。
どんな木でも対応できる。一般に発売されているものから、
飲食店や学校の内装、ノベルティ製作など、
多岐にわたって木のある暮らしを普及させているのだ。
自分たちの木を使ってほしいという特注品のオーダーも増えている。
「東京の千代田区では、お堀のサクラ並木の枯れてしまったサクラ材を使って、
箸やスプーンをつくりました。千代田区はその売り上げで、またサクラを植えるのです」
どんなものでも対応できるスキルと、森を大切にしたものづくりへの意識の高さから、
こうしたオーダーもたくさん舞い込んでくるのだろう。
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プロダクトから、実際の森へと思いを馳せる
プロダクトに森への思いを込めた最たるものが、森のスピーカー「Forest Notes」だ。
かつては枕木などに使われていた飛騨のクリ材を使い、
釘などの金属を使わず、「蟻型千切留組(ありがたちぎりとめぐみ)」や
「挽込留接(ひきこみとめつぎ)」という日本の伝統工法で接合している。
飛騨の森の中にマイクが置かれ、
インターネットを経由してパソコンやスマートフォンでその音を受ける。
そこからブルートゥースでこのForest Notesに飛ばし、
スピーカーから森の音が流れてくるという仕組みだ。
小鳥の鳴き声、雨が葉を打つ音、虫の音など。
時間帯や天気、四季による飛騨の森の音をリアルタイムで楽しめるもの。
クリのキャビネット全体が震える仕組みで、
どこかやわらかい“共鳴”を感じることができる。
Forest Notesは一辺31cmの立方体。このサイズには意味がある。
この立方体の体積は約30リットル。
1本の木が1日につくりだす酸素の量も約30リットル。
「人間が1日呼吸するだけで、木が15、16本必要とされています。
日本人の文明的な生活をすると300本以上。
アメリカ水準の生活なら800本以上になります」
つまりこの箱16個程度の酸素がないと、人間は生きていけない。
酸素の量を視覚化し、酸素を生んでいる木や森への感謝を抱きながら、森の音も聴く。
森の大切さに気がつくようになるスピーカーだ。
トイでも、木育や五感を鍛えるプロダクトが多い。
「寄木の積木」は日本の森で育つ10種類以上の木を詰め合わせた積木。
ピースひとつひとつに木の名前が焼き印で押されている。
シラカバなど、あまり製品としては使われない木から、
スギやヒノキなどのおなじみの木まで、樹種も色も多様だ。
「森の合唱団」は木琴。通常、木琴は音盤の長さを変えて音程を調整しているが、
こちらは同じ長さなのに、樹種の違いで音程を変えている。
つまり木は樹種によって密度が異なるので、叩いても音が違う。
個体差があるので一概にはいえないが、
例えばドはヒノキ、レはナラ、ファはサクラといった感じ。
「小さな森の合唱団」は、音盤が8つしかない。ファとシがないのが童謡版。
ランダムに叩いても、なんとなく童謡らしく聞こえるのだ。
レとラがない琉球版もある。
木育の観点で考えると、木はいろいろなことができる。
その可能性を大いに広げる商品開発にも積極的に取り組んでいる。
これからの木を使った社会へ
これからは「木造を知る建築士をもっと増やさないといけない」という稲本さん。
「デザイン感覚はいいけど、木のことを知らなかったり、その逆だったり。
森から伐採、製作、エンドユーザーまで、
トータルにわかる人材の育成が重要だと思います」
オークヴィレッジでは、まさに「お椀から建物まで」、木製品を手がけている。
木によるものづくりの良さを、こう続ける。
「木のものづくりは、常温でできることが利点ですね。
金属も、陶器も高い熱を使いますから」
木をもっと使っていく利点は大きい。
オークヴィレッジは、トータルで
木のある暮らし=木のある社会を感じさせてくれるのだ。
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木のある暮らし 岐阜・オークヴィレッジのいいもの
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