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オリジナルの「ちいさな映画館」
をつくって、映画を上映できる
〈popcorn〉のサービスとは?

KAI 先端研究所
vol.006

posted:2019.2.5  from:東京都江東区  genre:エンタメ・お楽しみ

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  創業110周年を迎えた貝印。歴史ある企業こそ革新を怠らぬことが肝心。
7シーズン目となるKAI×colocalは、未来的な思考、仕組み、技術(ソリューション)を持つ
新進スタートアップ事業者を訪ねます。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:石阪大輔(Hatos)

映画館だからこそできる、コミュニケーションの場づくり

地域のコミュニケーションのあり方が多様になってきている。
そう感じさせてくれるのが〈popcorn〉。
簡単に映画の自主上映を行うことができるサービスが、
ローカルにおける場づくりにかなり寄与しているようだ。

ローカルにおいては、コミュニティスペースのような場所がどんどんできている。
しかしそこで何をするのか。
たくさんのコンテンツに可能性が広がっているなか、映画上映というニーズがあった。

〈popcorn〉代表のナカムラケンタさんは言う。
「人口が減っているエリアでも、人が集まる機会は求められています。
映画は好きな人も多いし集まりやすい。
しかし本格的な映画館をつくってもなかなか黒字で運営していくことは難しい。
そんな状況において、自主上映をうまくやっていく手段がないかと考えていました」

ナカムラケンタさんは求人サイト『日本仕事百貨』を企画運営するほか、いろいろな生き方・働き方に出会うことのできる場所〈リトルトーキョー〉や多分野で活躍している方をゲストに招くイベント〈しごとバー〉も監修している。

ナカムラケンタさんは求人サイト『日本仕事百貨』を企画運営するほか、いろいろな生き方・働き方に出会うことのできる場所〈リトルトーキョー〉や多分野で活躍している方をゲストに招くイベント〈しごとバー〉も監修している。

ナカムラさんは、身近で一番映画に詳しそうな人=大高健志さんに相談を持ちかけた。
大高さんは、東京藝術大学大学院で映画製作を学び、
その後、クラウドファンディングサービス〈MotionGallery〉を立ち上げた人物だ。

「ナカムラの話を聞いていると、たしかにポテンシャルがあると感じました。
まちづくりが建築や場づくりの側面で盛り上がっていることは理解していましたが、
映画と重なるとは思っていませんでした。
これは映画業界が“お客さん”として捉えていなかった層なので、
新規顧客という意味でも開拓できそうでした」と言う大高さん。

同時に、難しさや問題点もすぐに浮かんできた。
自主上映であっても、映画配給会社から映画上映の権利を借りるのに、
10〜20万円という金額がかかってしまう。カフェやバー、コミュニティスペースなどで、
20人や30人の規模で上映するには苦しい金額だ。
お客さんに払ってもらう金額では足りないと、
企画者が自腹で補填していくようなやり方だと当然、続いていかない。ここが問題点だった。

「映画配給会社に作品提供の交渉をしに行くと、その点を指摘され、
“以前にもそういう取り組みに挑戦したけどダメだったんだよね”と
言われることが多いです。
しかし今の社会は地方のマスが融解して、小さな集まりがたくさん生まれています。
そこに届けられるのであれば、これまでの仕組みとは、文脈も届け方も変わってきます。想定しない動きが生まれてくるかもしれません」(大高さん)

〈popcorn〉代表の大高健志さんは、クリエイティブと資金のより良い関係を目指してクラウドファンディングサービス〈MotionGallery〉を立ち上げている。

〈popcorn〉代表の大高健志さんは、クリエイティブと資金のより良い関係を目指してクラウドファンディングサービス〈MotionGallery〉を立ち上げている。

来場者が何人でも絶対赤字にならない〈popcorn〉の仕組み

実際に〈popcorn〉の仕組みを見てみよう。
ホームページには上映可能な157作品(2019年2月現在)の映画が並んでいる。
利用者は上映場所を登録して、これらを上映することができる。
上映場所はカフェやバー、イベントスペースなど。
インターネット環境とスクリーンやオーディオが整っていればどこでも構わない。
なんと“自宅”という上映場所もある
(自宅を登録する場合は、住み開きをしている場所に限定している)。

ひとり当たりの手数料が作品ごとに設定されていて、
利用者はそこに上乗せするかたちで入場料を設定できる。〈popcorn〉からは後日、
売上から、ひとり当たりの手数料×来場者数を差し引いた金額が支払われる。
だから来場者が10人であれば10人分。30人であれば30人分の手数料を支払えばいい。
とても明朗会計でわかりやすい。

前述のように、通常の自主上映では、権利を借りるのに10万円以上かかる。
仮に10万円であったとすると、それをペイするにはひとり1800円(平均的映画料金)の
入場料を取っても50人以上の集客が必要になる。
自主上映としてはハードルが高いし、ローカルが求めている上映スタイルではない。

「ひとりからお金が発生するモデルをつくりました。
それを配給会社にもご理解いただいて運営しています」(ナカムラさん)

2017年4月にサービスを開始して以来、
上映回数の合計は1000回を超えた(2019年1月現在)。
2年弱と考えると、1日1回以上、全国のどこかで〈popcorn〉を使って映画が
上映されている計算になる。小さな映画館がどんどん増えている。

〈popcorn〉が入るリトルトーキョーでは、これまでたくさんの「しごとバー」が開催されている。

〈popcorn〉が入るリトルトーキョーでは、これまでたくさんの「しごとバー」が開催されている。

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眠くなる環境をわざわざつくったのに…!

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企画性が楽しい、新しい映画体験を

自主上映における契約の煩雑なやりとりと
金銭的な仕組みを簡略化してくれた〈popcorn〉。
それだけでなく、自分たちで場をつくり、
演出していくことができるという側面が〈popcorn〉の最大の特徴である。
キャッチフレーズでもある“みんなでつくる、それぞれのマイクロシアター”のとおり、
自分たちだけの小さな映画館をつくれる。
各地で、さまざまな企画が生まれているようだ。

「いねむりシアターという企画がおもしろかったですね。
この主宰者は(ジャン=リュック・)ゴダールや(レオス・)カラックスの映画を
もっと観てほしいけど、“難しいし、寝てしまいそうだから観ないのではないか”
という仮説のもと、気持ちよく寝ましょうという
逆説的なコンセプトの上映会を開催していました。
会場はハンモックカフェで、寝転がって観る。眠くなる環境をわざわざつくったのに、
みんな意外と寝なかったらしいです(笑)」(大高さん)

三鷹の〈Cafe Hammock〉で開催された上映会では『モバイルハウスのつくりかた』が上映されていた。〈Cafe Hammock〉オーナーの小長谷有さんと地元でリノベーションなどを手がける〈空間工房〉の白石尚登さんをゲストに迎えたトークショーも行われていた。(写真提供:popcorn)

三鷹の〈Cafe Hammock〉で開催された上映会では『モバイルハウスのつくりかた』が上映されていた。〈Cafe Hammock〉オーナーの小長谷有さんと地元でリノベーションなどを手がける〈空間工房〉の白石尚登さんをゲストに迎えたトークショーも行われていた。(写真提供:popcorn)

〈popcorn〉で取り扱っている映画はドキュメンタリーからコメディまでさまざま。
あまり長い上映期間でなかったり、全国公開されていないものも多い。

「ヒットはしなかったけどこの映画を観てほしい、というDIY的な感覚を大事にしたい」
と大高さんは語る。ナカムラさんも、いい上映会にはふたつの法則があるという。
ひとつはコミュニケーション。

「映画館というのは、コミュニケーションが成立しづらい場所ですよね。
映画館で話すと怒られるし、隣の知らない人に話しかけることもできない。
いい映画を観た後の、共有したくてもできない、帰りのエレベーターの雰囲気。
通常では難しい、上映後に会話するという機会を提供することが
〈popcorn〉では可能です」(ナカムラさん)

映画上映前後では、自然とコミュニケーションが生まれる。(写真提供:popcorn)

映画上映前後では、自然とコミュニケーションが生まれる。(写真提供:popcorn)

もうひとつはコンテキスト。これを映画に合わせるか、外すかのどちらか。

かつて高円寺〜阿佐ヶ谷の高架下で実施された映画祭は、
意外な場所での上映を実現した、コンテキストを外した例。
一方、映画の舞台になった場所で上映したり、
カレー映画を観た後にカレーを食べようというのは、
映画の世界を連続させることでコンテキストを合わせた例といえる。

このように〈popcorn〉は、単なる映画上映という枠を超えて、
コミュニケーションという側面で大いに利用されているようだ。

「映画会社、配給会社はそもそも儲かればいいという
ドライな感情をもっているわけではありません。
過去に偶然立ち寄った飲食店での上映で、
来場者の方がみんなおしゃべりしながら食事をしていて、
誰ひとり映画を観ていなかったということがあったそうで。
映画を大切に扱ってくれていない人がいることに傷ついている部分も
彼らにはあるんです。
ただ映画上映して収益があがればいいというわけではなく、
魅力あるイベントを開催していくということも大切です」(大高さん)

映画は芸術作品であり、表現活動である。
つくり手や扱っている人たちはビジネスマインドばかりではないのだ。
〈popcorn〉の上映会には映画監督からも喜びの声が届いているという。

「トークイベントのゲストとして監督をお呼びするような上映会も多く、
参加した監督からは『とても良かった』と感想をいただいています。
今は配給会社から応援の気持ちを込めて作品を提供いただいている状況でもあり、
ビジネスという観点からはまだまだですが、
エモーショナルな部分ではポジティブに捉えてくれていると思います」(大高さん)

みんなでつくる映画館

上映会には継続性も大切だ。人を集めることも、簡単ではない。
しかし派手さや独自性がなかったとしても、定期的にやることで認知され、
だんだん人が集まってくるようになる。

「継続していくと、”みんなで”続けていこうという気持ちになっていきます。
いまは体験を提供する人と受ける人が混ざり合った場所がおもしろい。
だからお金を払って整えられた場所で受け身になって映画を見るよりも、
みんなで上映会をつくることを提案していきたい」(ナカムラさん)

〈サイボウズ〉という会社の社員用飲食スペースでは、
月1回くらいのペースで〈popcorn〉を利用した上映会を社員が開催している。
そうして定期的に開催することで“映画を上映する場所だ”と知ってもらえた結果、
持ち込み企画が増えているという。

「参加できる“余白”をいかにつくるかということが重要。
知識を披露するよりも、体験してもらうこと、
『自分も企画に参加したい』と思ってもらうことが大切。
過程に関わることで起こる変化を、いろんな人に楽しんでほしいんです」(大高さん)

完成された体験だけで満足するのではなく、
自分たちで自分たちのほしいものをつくっていくこと。
〈popcorn〉には、上映体験に参加できる“余白”がある。
そこに価値がある。

「出会った人と楽しい時間を共有することが、人生の一番の喜びじゃないかな」と語る
ナカムラさん。その役割を担うことができるのが〈popcorn〉の上映会といえるだろう。

「多くの地域で週1回くらい、映画上映が行われるようになっていけばいい。
最近は特に病気でなくても
コミュニケーションのために病院に行くという高齢者も多いようですが、
そうした場所と同じような役割を担っていけると思います」(ナカムラさん)

単純に、自分の映画館をプロデュースするって楽しそう。
好きな映画を上映してもいいし、逆にやりたい企画に映画をあてはめてもいい。
映画は“シネフィル”だけのものではないのだから。

「まだ発明・発見されていない自分だけのスタイルの映画館があると思います。
未開のフロンティアが目の前に広がっているので、
みなさん、どんどんオリジナルの映画館をつくってください」(ナカムラさん)

information

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popcorn(株式会社ポップコーンシアター)

住所:東京都江東区三好1-7-14 リトルトーキョー

https://popcorn.theater/

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貝印株式会社

1908年、刀鍛冶の町・岐阜県関市で生まれた貝印は、刃物を中心に、調理器具、化粧小物、生活用品、医療器具まで、生活のさまざまなシーンに密着した多彩なアイテムを製造・販売。現在は、日本だけでなく、欧米やアジア諸国など世界中に製造・販売拠点を持つグローバル企業に発展しています。
http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/issue/3/

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