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コミュニティを
つくるためのカフェ空間
カフェ・カンパニー前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.013

posted:2015.7.21   from:東京都  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

writer's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//

スタイルがコミュニティをつくる

〈WIRED CAFE〉などのカフェをはじめとして、
いまや全国に86店舗を数える〈カフェ・カンパニー〉。
代表取締役社長の楠本修二郎さんは、2001年当時、
〈コミュニティ・アンド・ストアーズ〉という社名で、
東急東横線渋谷駅の高架下に複合店〈SUS〉をオープンした。
そしてもうひとつ、〈スタイル・ディベロップ〉という関連会社があり、
2社を融合させて現在のカフェ・カンパニーとなった。
元の2社の社名、それぞれからわかることがある。

「カフェであれ、なんであれ、コミュニティをつくっていくことが、
考え方の基本にあります。もうひとつは、スタイルをつくること。
このふたつが、車の両輪になっていて、どちらが欠けても真っすぐ走りません」
と楠本さんは言う。

コミュニティ形成というフレーズは最近ではよく謳われていることだが、
10年以上前からカフェ・カンパニーはそれをコンセプトにしていた。
会社説明のパンフレットにも、表紙に大きく書かれている。
“style makes your community”と。

「いまでこそ、いい意味での“暑苦しいおせっかい”みたいな風潮が増えてきたと思います。
しかし90年代は、シャッター通り商店街という言葉も出始めてきた時代です。
やはり商店街が元気なまちは好きなんですよね。
最初につくったSUSも、高架下に商店街のようなにぎわいを復活させようという
発想なんです。だから1店舗ではなく、3つの業態を入れた複合店にしました」

みんなのアニキのような存在の楠本修二郎代表。

そうはいっても、カフェ・カンパニーの店舗にレトロ回帰主義な雰囲気はない。
むしろ、時代を先取りしてきた存在だ。

「未来の若者に向けた価値提案をしたい。
僕が始めた頃はインターネットがどんどん伸びてきた時代。
たとえば最初にやったカフェは、iMacを窓際のカウンター席に並べました。
ただ当時のiMacはすごく大きいから非効率極まりない。
でも無理してでも5台くらい置きたかった。
1台では意味がなくて、5台がずらりと並んだなかで食事する。
いまとなってはナンセンスですね(笑)。
でも、空を飛び交うコミュニティが形成されていくほど、
同時にリアルな場所での共感が大事になってくると思っているんです。
自分がこだわるスタイルをとことん突き詰めていくことが、
結果的にいろいろな人たちの共感を呼びます。
そういう意味では、食はわかりやすい。
“これ、おいしいよね”と五感でシェアできるものだし、
そういうものがコミュニティをつくっていきます」

スタイルに共感したものが、コミュニティをつくっていく。
そしてそのコミュニティがまたスタイルを生む。
これが「style makes your community」という言葉の意味だ。

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〈MOJA in the HOUSE〉が梅田にオープン!

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まちと風景にあわせた店舗をつくる、独特の業態論。

大阪・梅田に〈MOJA in the HOUSE〉という店舗が開店し、
そのオープニングパーティにお邪魔した。
手前にはスタンディングバースペース、奥にシートスペースがある。
待ち合わせに使ったり、お酒を楽しみながらしっかりと食事もできたり、
使い勝手がよさそうだ。
カフェというよりは、夜の雰囲気があって、大人のお店になっていきそう。
実はMOJAという業態は渋谷にもあって、梅田で2店舗目。
86も店舗があるのに、同じ業態は決して多くはない。
メインとなるWIRED CAFEですら、
同じ名前でも4つ程度のバリエーションがあるという。
出店する地域、場所によって業態を使い分け、
内装、メニューなど細かな内容も店舗によって変えている。

「久しぶりの高架下」というMOJA in the HOUSEは、ある意味で原点回帰。

「周辺にいる人を見て、その一歩先をいく提案をしたい」と楠本さんは言う。
「まちを見て、においを感じる。
まちを定点観測していると、波のように寄せては返す、そんな移ろいがわかります。
特に人を見るのが好きなんですよ。ずっと見ているうちに入り込んでしまうんです。
この人とか入っちゃうなぁ」と、外を歩いている梅田の若者を見てつぶやく。

「どういうところに住んでいて、どうしてここに来て、どうやって帰るか。
どんな家族がいて、どんな友だちがいるか。
そしてここにどんなデザインのどんなお店があったら、彼は話が弾むだろうか。
そんなことをずっと想像しています」

本来ならば、“どれくらいの年齢層が、何人くらい通るか”、などの指標をもとに
店舗のコンセプトを考えるのだろう。しかしそのような業態論ではなく、
楠本さんいわく「まちと風景のマッチング」。
業態をあてはめるのではなく、まちに素直にしたがっていく。

「いろいろな地方に行きましたが、人の気質も違えば、空気感も料理も違う。
でも同じ日本であるという共通点もある。地域っておもしろいなと思ったんです」

だから画一的な業態をあてはめるのではなく、
土地ごとにあった業態をつくりあげていく。それがローカルのおもしろさ。

グリル料理、アペタイザーなど、シャンパンやワインに合う料理の数々。(写真提供:カフェ・カンパニー)

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地域性を強く提案するプロジェクト

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100マイルを新たなる文化圏に!

こうしてより地域性を強く提案したプロジェクトが〈100 MILE CAFE PROJECT〉だ。
100マイル=約160キロメートル。
160キロメートルは、電車やクルマで3時間程度で行ける範囲。
これをひとつの文化圏の単位と考えている。
この圏内で食材の調達を行い、ひとつの文化を発信していくという考え方だ。

「隣人意識をコミュニティ化できれば、
もっと日本はいいつながりができるのではないでしょうか。
コミュニティ化というのは、横の関係をつくること、あるいはチームをつくること。
それぞれでやってしまっている現状は、ちょっともったいないので、
もう少し大きな文化圏や経済圏として発信したほうがブランド化できると思うのです」

絵やライティングなど、シックなムードのMOJA in the HOUSE店内。

地方での活動は活発になってきてはいるが、
それぞれが独立したかたちで行われてしまっているという。
日本は、チームワークがいい国。
その特徴を生かさない手はない。それに対する美徳もある。

「ただし、文化圏を大きくしながらも、
県単位よりも、まち単位でコミュニティを形成したほうがいい。
たとえば九州なら、
九州にたくさんあるまちという多様性のなかで表現していくのがいいと思います」

多様な価値観を持つコミュニティの集まりが大きなうねりとなっていくのだろう。
昨年、岡山にGENERAL FARM’Sというお店を出店した。
そこは100 MILE CAFE PROJECTのコンセプトで徹底的につくりあげたという。
また来年、宮城県多賀城市にできるレストランも、100マイル以内でやる予定だとか。

ただし、「肝心なのは『◎◎の野菜を使っています』ではなく、
二人三脚の体制をつくること」と楠本さんは言う。
いい農作物や食品をつくっていても、売る/広めるのが苦手な人もいる。
チームを組むことで、そういう人たちに光を当てることもできそうだ。

MOJAの外壁にも絵を描いた画家スズキタケシの作品。店内にも飾られている。

「東京や都心部の人の役割は、生活者としての役割です。
社内では、消費者という言葉を禁止しています。
“消して費やす”と書きますよね。それでは何も生みださない。
生産者が“生あるもの”を生んで、流通を介して、消費者に届く。
これではワンウェイですね。まさにサプライチェーン=供給のチェーンですよ。
100 MILE CAFE PROJECTの発想で大事なのは、
大企業の社長も、農家も、僕も、消費者であり、その目線が同じであること。
だから消費者ではなく生活者という位置づけにしたいんです。
消費ではなく、生んでくれた物を生かす。生かし方を生産者に返す。
その循環が起これば、コミュニティになると思います」

国民の100%が消費者だ。カフェ・カンパニー流に言い換えれば生活者。
その循環が実現したときのコミュニティやライフスタイルは、とても魅力的に聞こえる。

「もっともっと、日本のライフスタイルが海外から称賛されて、ブランド化されて、
いろいろな人が交流するようになったらいいなと思います。
日本はライフスタイル大国になれるはずです」

カフェ・カンパニーは、カフェというものが持つ機能を、
食やコーヒーの場から、コミュニティの場へと、どんどん拡張してきた。
その先に、どんな未来が待っているのだろう。

「将来の夢は、世界中のカフェとつながって“ハーイ!”とできること。
そうしたら、イデオロギーとか宗教とか関係なく、
楽しめる場所がつくれるのではないかと思っています」

カフェと呼ばれるものは世界中にある。
スタイルに共感する人が集まるコミュニティになっていけば、
もしかしたらそのような場所になれるかもしれない。

後編【チームで新しい東北の食をつくる カフェ・カンパニー後編】はこちら

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カフェ・カンパニー

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