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社会をちょっとよくする
プロジェクトのつくりかた
ソーシャルデザインのヒント
並河 進さん (電通/社会の新しいしくみ研究室)後編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.002

posted:2015.4.28  from:東京都港区  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

editor’s profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

credit

写真提供:並河 進さん

前編【お金では売らないオンラインセレクトショップ WITHOUT MONEY SALE 並河 進さん(電通/社会の新しいしくみ研究室)前編】はこちら

並河 進さんのソーシャルデザイン

「ものづくり」「ことづくり」のヒントはコミュニケーションのシフトにある。
ものを計る価値は「お金」だけではない。
前回はそんな話を並河さんにお聞きした。
今回はさらに一歩進めて「ソーシャルデザイン」について伺った。

「ソーシャルデザインとは、世の中のひと、ひとりひとりが、社会のために自分にできることがあるんじゃないかと考えていくこと。
プロジェクトとかアクションとかを考えていくということなんです。
ソーシャルデザインが政治家などの
限られているひとだけが関わるものだったら
ソーシャルデザインって言葉はいらないですよね」

社会を良くするためのコミュニケーションへ

並河さんの仕事はコピーライター。
本業の広告の仕事においては
「コミュニケーションをシフトさせる」ことを提唱している。
それは、シンプルに言えば
モノを売るためだけのコミュニケーションだったのが、
社会を良くするためのコミュニケーションへの変化ということだ。

今年の3月11日、ヤフーで「3.11」を検索すると、
検索した人ひとりにつき10円を、ヤフーが東北復興支援に寄付する
「検索は応援になる。Search for 3.11」プロジェクトが実施された。
昨年に引き続き、2回目となる今回も、
300万人近くの人が参加したこのプロジェクトに、
並河さんはクリエイティブディレクターとして関わった。

ヤフー「Search for 3.11」で掲出されたポスター。

3.11は、誰もが震災の記憶を呼び覚ます日。
並河さんは「検索」をきっかけに、東北の支援へとつながる広告を考える。
実際に「検索」によって被災地復興のために寄付されるが、
それ以上に「共有」することに何かを感じたひとが多いのではないだろうか。

「お金とものだけでない、いままで見えてないさまざまな矢印を
加速させていくようなことが広告でできたらいいなと思っています」と並河さん。

そして広告は「お金とモノのサービスの交換を促進するもの」から、
「さまざまな価値と価値の交換を促進する場」へ変化していくという。

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大きい話と身近な話

そもそも並河さんがソーシャルデザインの領域に関心を持ったのは
どんなきっかけだったのだろう。

「大きい話と身近な話があるんですが、
大きい話だと、たとえば途上国に行って、
この世界が生み出している『歪み』を目のあたりにして。
そもそも社会のしくみは、いまのままでいいんだろうか、
と考えさせられたりしました。
そうした疑問が、東ティモールの『nepia 千のトイレプロジェクト』にも
つながっていきました」

千のトイレプロジェクトは内戦が終結したあとの東ティモールで、
2008年から毎年1000以上の世帯でのトイレづくりや安全な衛生習慣の定着を
支援しているプロジェクト。
並河さんの電通ソーシャル・デザイン・エンジンが手掛けている、
王子ネピアの社会への支援活動だ。

「広告の仕事は、CMをつくるとかそれ自体、大事な仕事なんですけど、
ある枠の中で良いものをつくるということを求められることも多い。
その枠を超えて自分にできることはないかと考えていくことで
ソーシャルデザインは生まれます」

東ティモールでのユニセフの活動を支援するnepia「千のトイレプロジェクト」。ネピア商品の売上の一部で、家庭でのトイレづくりなどを支援し、病気の原因となる屋外排泄の根絶を目ざす。

「仕事って、たどりたどっていくと
本当の目的って誰かを幸せにすることだったりするわけです。
本当は“いのちが大事”“平和が大事”なんですよね。
でも会議で突然そういうことを言い出すと変な顔をされたりする。変ですよね」

本当に大切なことについて考えること。社会に関しての身近な違和感を持つこと。
大きな社会の歪みに気づくこと。
それが並河さんが社会について考え始めたきっかけ、
ソーシャルデザインへの入り口だったという。

ソーシャルデザインのヒント1 「アイデアでみんなが集まる広場をつくろう」

並河さんの考えるソーシャルデザインとは、
社会をちょっとよくするプロジェクトをつくるということ。
そのためのいくつかのヒントがあるという。

「プロジェクトは協賛をもらうだけではなく、
企業とともに社会に働きかける必要もある」と並河さんは言う。
そんなアクションのひとつが、
日本ユニセフ協会が複数のボランタリーパートナー企業とともに行った
「手洗い」のキャンペーンだ。

子どもたちの命を守るユニセフの手洗い支援活動。アフリカ・ウガンダでの取り組みをSARAYAがサポート。

「手洗いって実はとっても大切で、
日本では手洗いしなくても『きたないな〜」ぐらいの話なんですけど、
世界では病気になったり命を落とす子どももいる。
石鹸を使った正しい手洗いをするだけで
毎年100万人の子どもたちの命を守ることができるとも言われているんです」
「手洗い」というのは一番簡単にできる子どもたちの命を守る方法なんだと語る並河さん。

ユニセフなど水と衛生に取り組む13の組織からなる
「石鹸を使った手洗いのための官民パートナーシップ」は、
国際衛生年であった2008年に、
毎年10月15日を「世界手洗いの日」(Global Handwashing Day)と定めた。
並河さんは、日本と途上国の子どもたちが楽しみながら、
手洗いの習慣を身につけることができる方法として、
「世界手洗いダンス」を考えた。
そして日本でも多くの人に途上国の現状を知ってもらおうと動き始めた。

キャンペーンとして使われた「世界手洗いダンス」。

しかし、このキャンペーンに参加するボランタリーパートナー企業を集めることに
当初苦戦したという。

「いろんな企業をまわってみるんですけど、
最初は断られたりもするんですね。

そうすると、逆にこのプロジェクトはこの企業に
どんなメリットを与えられるだろうか、と考えたりするんです。
そういうことを考えることがプロジェクトをつくる上で、
とても大事だということがわかってくる。
むしろ手洗いダンスや途上国の問題について学べる教材を
“使っていいですよ”と提供することにしました。
ダンスとか、遊び方をつくって、みんなでその遊び方で遊ぶ。
ひとりのコントロールを離れて、
みんなが楽しめるような楽しみ方のルールをつくっていくのが、
ソーシャルデザインのひとつのかたちだと思うんです」

手洗いダンスは世界で40万回近く、再生されている。
国によっては国営放送でオンエアされているところもあるとか。
参加企業のひとつ、SARAYAは、これがきっかけになって、
ウガンダでアルコール手指消毒剤を製造販売するビジネスにまでつながった。
いわゆるCSV=社会共有価値による市場創造である。
そのためにはまず企業やNGOや消費者が
みんなで参加できる「広場」をつくることが大切だという。

SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト。本業と社会貢献が結びついたCSV=社会共有価値の好事例となった。

「世界手洗いの日」プロジェクトは、(公財)日本ユニセフ協会が主催し、ボランタリーパートナー企業とクリエーティブサポートのひとたちの協力によって運営されている。

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ソーシャルデザインのヒント2 「自分のものから、みんなのものへ」

並河進さんは持続可能な社会への転換をめざす
ワールドシフトネットワークジャパンの
クリエイティブディレクターとしても活動している。

ワールドシフトは「あなたはどのような世界を望みますか?」という問いかけの
ソーシャルムーブメント。
それぞれのひとが、どんな世界を望むかを空白に書き込むことでつながる。
自ら「世界を変える」ことを宣言することで、
社会変革を「じぶんごと」にしていこうというもの。

「WorldShift」=持続可能で平和な社会への転換へのためのソーシャルムーブメント。並河進さんは、デザイナーの石田沙綾子さんとともに、誰もが参加できるデザインへと落としこんだ。 ソリューションやアクションを生み出していためのメディア「ワールドシフトプレス(press.worldshift.jp)」を5月オープン予定で準備中。

「ソーシャルデザインの場合はみんなに参加してもらうことが大事で、
みんなのものにするためにはどうするのがいいかなと常に考えるんです。
今の世界をよりよく変えていきたいという気持ちをひき出せるような
『空白』があるロゴをつくり、参加することで完成するということを考えました」
と並河さんは語る。

2010年に始まったワールドシフトのプロジェクトは数万人がアクセスし、
宣言することでつながるプラットホームとなっている。
現在、並河さんはその次のステップとして、
社会を良い方向に変えていくための方法論を共有したり、
そのソリューションを集めることで実際に社会の変化を促していきたい」と考えている。

並河さんが監修したアースデイ2010ワールドシフトフォーラムの映像。参加者とつくるシンプルなメッセージでムーブメントを創出。提供:一般社団法人ワールドシフトネットワークジャパン

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ソーシャルデザインのヒント3 「迷ったらひとりのために立ち返る」

「ハッピーバースデイ 3.11」というプロジェクトがある。
2011年3月11日に被災地で生まれた子どもたちと
その家族の写真とストーリーを通して、
命の大切さと未来への希望を伝えると同時に、その瞳にうつるこれからの日本を、
日本中のみんなが考えるきっかけをつくりたい、と並河さんが始めたプロジェクトだ。

「3.11の直後、南三陸にボランティアで行ったんです。
ずっと瓦礫のなかを歩いていって、ある家を訪ねたんですが、
その壁に『3月11日生まれ、命名、佐藤春晴』っていう紙が、
貼ってあったんです。
『たくさんの命が失われたあの日にも、産まれた赤ちゃんがいる』ということを知り、
ほかにもいるんじゃないかと思ったんです」

並河さんは3.11の日に産まれた赤ちゃんを探して、
写真家小林紀晴氏とともに撮影を始めた。
11人の赤ちゃんが見つかった。
まだ震災直後で、まわりでいのちを失った方も多いなか、
子どもが産まれたことを周囲に言いづらかったり、
誕生日にお祝いができなかった人も多い。
その子たちに「ハッピーバースデイ」って言ってあげたいな、
と言う気持ちだったという。

「しかし震災からまだ日も浅い7月で、がれきもまだあって、
復旧作業のなかでまだガスも水道も止まっていて。
そんなときに子どもたちを探していて、
何やってんだろおれ……みたいな気持ちになったりもして。
でも喜んでくれたお母さん、お父さんがいて。
この子が産まれたことを肯定することをやってくれてうれしい。と」

迷ったらひとりのために立ち返る。
みんなを幸せにしようという前に、まずひとりをイメージする。

並河さんはそのときそう考えたという。
社会に対してのメッセージの前に、
まずは子どもたちとその家族のためにプロジェクトを続けていこうと考えたという。

「迷うこともあります。
社会のためになにかするなんて、
正義みたいなことを振りかざしたりしていいのだろうか、と考えることもあるんです」

そのときには「迷ったらひとりのために立ち返る」という。

子どもたちは、いま4才になった。11人の子どもが震災の記憶を乗り越える
「希望」となって成長している。

「ハッピーバースデイ 3.11」より。

『Social Design〜社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』並河 進著)

Information

電通ソーシャル・デザイン・エンジン
http://sodejin.jp

nepia 千のトイレプロジェクト
https://1000toilets.com

SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト
http://tearai.jp

「世界手洗いの日」プロジェクト
http://handwashing.jp

ワールドシフトネットワークジャパン
worldshift.jp/

ワールドシフトプレス
press.worldshift.jp

ヤフー「Search for 3.11」
http://search.yahoo.co.jp/searchfor311/2015/

ハッピーバースデイ 3.11
http://happybirthday311.jp

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