連載
posted:2021.5.19 from:全国 genre:活性化と創生
PR 総務省
〈 この連載・企画は… 〉
地域を見つめることで新しい日本が見えてくる。
新しい視座で日本の地域を再発見していく人にインタビューする新ローカル論。
writer profile
Satoshi Tomokiyo
友清 哲
ともきよ・さとし●フリーライター。神奈川県出身。旅、酒、遺跡を中心にルポルタージュを著述しています。著書に『日本クラフトビール紀行』『片道で沖縄まで』『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』ほか多数。
photographer
石阪大輔(HATOS) [NEC×大林組分]
日本でも5Gサービスがスタートして、約1年が経った。
まだその恩恵を実感する人は少ないかもしれないが、
高速大容量通信、低遅延、多接続など、
従来の通信インフラにないさまざまな特性を備えた5Gは、
これから人々の生活様式を大きく変えることになるはずだ。
5Gとは
5th Generation Mobile Communication System(第5世代移動通信システム)の略。
つまり、1G、2G、3Gと連綿と進化を遂げてきた通信システムの最新規格である。
しかし、数年前に3Gから4Gにアップデートした頃と比べ、
今回の進化はより劇的だ。
よく語られる「2時間の映画が3秒でダウンロードできる」ことは、
あくまで5Gが持つポテンシャルの一端に過ぎない。
例えば低遅延性は自動運転車の普及を強力に後押しすることになるし、
多数の端末への同時接続が可能になることで、
家庭内のめぼしい電化製品がインターネットでつながり、
スマートな暮らしを実現する一助となる。
そしてもちろん、社会システムに及ぼす影響も計り知れない。
5G通信が日本全土を埋め尽くしたとき、私たちの暮らしはどのように変わるのか。
各分野で活発に行われている実証の様子からは、
みんなでアイデアを出し合い、協業しながら実現する姿が見られた。
Page 2
5G通信がもたらす恩恵のひとつに、遠隔教育の普及がある。
例えば入院生活を余儀なくされ、登校が難しいケースでも、
教室にいるのと変わりない授業が受けられるようになれば、
SDGsに設定される
「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供する」という目標を、
大きく前進させることになるだろう。
そこで昨年2月には、東京の院内学級と沖縄を5Gで結び、
「VR水族館」の実証が行われている。
関西学院大学と富士通が共同で実施したもので、
〈東京都立光明学園そよ風分教室(国立成育医療研究センター病院)〉と
〈沖縄美ら海水族館〉をオンラインで結び、
院内学級にいながら水族館の展示を観察できる遠隔校外授業が実現した。
沖縄美ら海水族館といえば、世界でも有数の大水槽を有し、
ジンベエザメやナンヨウマンタなどが泳ぐ姿を間近に見られることでよく知られている。
実証では水族館側に4Kカメラや全天球カメラなど複数の機材を設置し、
その映像を子どもたちがスクリーンなどで“見学”。
また事前に収録した水中ドローンやダイバーによる手撮り全天球映像を配信し、
VRゴーグルで視聴した。
まさに高速大容量通信、低遅延、多接続の特性を持つ5Gインフラが
物を言ったかたちである。
実証を手がけた関西学院大学・教育学部の丹羽登教授は、次のように語る。
「病気や障がいなど、何らかの理由で外出が困難な子どもは、
どうしても体験的な学習が不足してしまいます。
映像を駆使した遠隔教育は、そうした子どもたちをフォローするうえで理想的で、
5Gの登場が遠隔教育に大きく寄与することを今回の実証は証明しています」
子どもたちの側からすれば、
沖縄に足を運ばずして沖縄美ら海水族館の展示を体感する、またとない機会。
さまざまな魚が水槽内を遊泳する姿や、
魚類最大サイズを誇るジンベエザメの餌やりシーンが映し出されると、
「普段はあまり感情を表に出さない子までが、目を輝かせて歓声をあげ、
臨場感たっぷりの体験学習になりました」と、
光明学園の副校長・秋本友美さんは手応えを口にする。
こうした仕組みの確立は、遠隔地での体験をバーチャルに共有することで、
教育の分野から距離を排除できる可能性を示している。
それは内閣府が掲げる未来社会、「ソサエティ5.0」への明確な前進だ。
「ソサエティ5.0は、バーチャルな社会とフィジカルな社会を融合させ、
機能的な未来を目指すもの。今回の遠隔授業もその第一歩であり、
こうした仮想体験をいかにフィジカルな体験と紐づけていくかが
次のテーマになるでしょう。
また、たとえば病気で入院している子どもが、
退院後に行ってみたい場所やあこがれの場所を仮想体験することで、
病気に立ち向かう元気を得るきっかけにもなるのではないでしょうか」(丹羽教授)
5G通信網の拡大により、さらに質の高い遠隔授業を浸透させるためのアイデアが、
今後も続々と生まれてくるに違いない。
Page 3
高精細な映像をスピーディーに受信できるのは、
基地局から端末へ向かうダウンリンクが高速であればこそ。
しかし、逆にデータを送信する際に求められるのはアップリンクの通信精度であり、
この両者のスピードアップが実現して初めて、高速な双方向性は保たれることになる。
そこで注目されるのが、産業の現場である。
5G時代の到来は、産業のさまざまな局面に
DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術を採用すること)化の波を
もたらしており、
それは旧態依然としたイメージの強い土木業の現場においても例外ではない。
静岡県御殿場市で進められている境沢川調整池工事の現場では、
NECと大林組の共同で重機の遠隔操縦や自律運転の実証実験が行われている。
「重機の遠隔操縦に関する実験自体は、2017年から実施しており、
例えば重機に搭載するHDカメラを6個に増やしたり、
2Kから4Kに解像度をアップしたりと、
インフラの進化に合わせてさまざまな実験を行ってきました。
それが5Gの登場により、情報を送るアップリンクの大幅なスピードアップが実現。
今後はAIや画像解析をあわせて活用することで、
工事現場の効率化や省人化が進むことになるでしょう」
そう語るのは、大林組・技術研究所の古屋弘さんだ。
5Gインフラが重機などの建設機械と拠点を結ぶことで、
土木業はこれから大きく変わることになるという。
このプロジェクトは、遠隔操縦、重機の自動化、そして重機の自律化という、
3つのフェーズで実験計画が立てられている。
重機を遠隔地から操縦できるようになれば、操縦者は工事現場にいる必要すらなくなり、
たとえば真冬の寒冷地での作業をオフィスの中から実行したり、
生身の人間が立ち入りにくい危険を伴う現場での作業が、安全に行えるようになる。
これは大きなメリットだ。
さらにこうしたシステムが定着することで、
労働力不足という将来的な社会課題の解決につながる点は見逃せない。
「例えば、従来は肉体労働に対応することができなかった高齢者や障がい者の方々が、
オペレーターとして土木工事の現場に携わることが可能になるかもしれません。
あるいは、これまではどうしても男性中心にならざるを得なかった土木作業の現場ですが、
今後は女性にとっても働きやすい仕事になると期待しています」(古屋さん)
これはきっと、土木業だけに限った話ではないだろう。
5Gによって産業のあり方、労働のあり方が大きく変わろうとしているのだ。
Page 4
これらの事例は、
従来型の施設や産業が最先端技術と結びついたからこそ生まれた取り組みだ。
そして、5Gが架け橋となることで、
まだまださまざまな領域にドラスティックな変化が訪れるに違いない。
実際、日本で最初に5GサービスをリリースしたNTTドコモでは、
2年前から5G時代を見据え、
さまざまな社会課題に対応する新たなソリューションの共創プラットフォーム、
〈ドコモ5GオープンパートナープログラムTM〉の提供を進めている。
それにより実現したのが、
ストリーミング技術の先駆者的存在である〈リアルネットワークス〉との共創だ。
リアルネットワークスは世界でもトップクラスの顔認証技術を有し、
いち早く携帯電話のプラットフォームに参入した強みを持っている。
同社が保有する、世界中の人種や性別、年齢などを網羅した
1000万以上の顔サンプルをベースに開発されたのが、
99%超という高い認証精度を誇るAI顔認証ソフト〈SAFR®(セイファー)〉だ。
「マスクを着用した状態でも閾値を下げることなく
99.8%の精度で認証できるのがSAFRの大きな特徴です。
また、100msという認証速度は業界最高値で、
これにより駅改札のウォークスルーや施設の入場ゲートなどにも
無理なく対応できるでしょう」
そう語るのは、リアルネットワークスのアジア太平洋地区副社長・高村徳明さん。
同社はこのSAFR®の技術を生かし、
NTTドコモとソリューションの共同開発を進めてきた。
そのひとつが、顔認証入退場管理ソリューション〈EasyPassTM powered by SAFR®〉だ。
これはスマートフォンやタブレット端末で入退場管理を可能とするシステムで、
従来の入退場管理のような大掛かりな配線の敷設などが不要となるため、
コスト・導入スピードの面でメリットがある。
「極端な話、スマホを三脚で立てるだけで運用でき、あとは事前の登録さえ済ませれば、
従業員が社員証やIDカードを持ち歩く必要もありません。
複数の顔がフレームインしても個別に認証できるので、
大幅な時間短縮につながるでしょう」と話すのはNTTドコモの高 聖明さん。
こうした特性を生かせば、たとえば1台のバスに関係者を乗せる際、
ひとりずつチケットをチェックしなくても、
スマホのカメラを客席に向けるだけで認証ができるようになる。
ビルや乗り物、イベント施設など、活用の幅は無数に広がっているはずだ。
また、NTTドコモでは昨秋、長引くコロナ禍に対応し、
〈AI温度検知ソリューション〉をリリースしている。
こちらは顔認証による個人認証と温度測定をあわせたもの。
NTTドコモ・藏本裕司さんが教えてくれる。
「想定しているターゲットは、出勤が必要な企業です。
出勤時に設置されたタブレットの前を通過するだけで、
個人、測定温度、マスク着用の有無などが通知され、社内システムとの連携も容易です。
出勤が求められながら、社員ひとりひとりに最大限の感染症対策が求められる
昨今のニーズに、いち早く対応したかたちです」
5Gはあくまでインフラに過ぎない。
つまり、それをどのような場面でどう活用するのかはアイデア次第。
ここで取り上げた事例はあくまで5G活用の一角であり、こうしている今も、
さまざまなプレイヤーが既存の技術、あるいは独創的な視点で可能性を模索している。
そして、そこで生まれる製品やソリューションはすべて、
未来の社会を形成するパーツとなるものだ。
そしてさまざまな社会課題を解決するポテンシャルを持っている。
課題解決に向けては、
多くのプレイヤーがワンチームとなって取り組んでいくことが重要だ。
今回紹介したすべての実証で、インクルージョンやダイバーシティともいうべき、
「多様性のある社会参加」が関連していたことは単なる偶然ではないかもしれない。
これから加速度的に拡大していることが予想される5G通信網。
社会課題がひとつずつ解消され、
働きやすく暮らしやすい環境が整っていくプロセスの先に広がっているのは、
果たしてどのような世界なのだろうか。
期待は尽きない。
information
ICT地域活性化ポータル
Web:ICT地域活性化ポータル
Web:5G未来ビジネスガイドブック
Feature 特集記事&おすすめ記事