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連載

星野佳路さん

Innovators インタビュー
vol.003

posted:2012.6.1  from:東京都中央区  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  地域を見つめることで新しい日本が見えてくる。
新しい視座で日本の地域を再発見していく人にインタビューする新ローカル論。

editor’s profile

Yu Ebihara

海老原 悠

えびはら・ゆう●エディター/ライター。埼玉県出身。海なし県で生まれ育ったせいか、海を見るとテンションがあがる。「ださいたま」と言われると深く深く傷つくくせに、埼玉を自虐的に語ることが多いのは、埼玉への愛ゆえなのです。

撮影

星野さんの写真:後藤武浩(ゆかい)

星野リゾート・星野佳路さんは、
どう「日本の観光をヤバくする」のか?

アメリカの旅行情報専門誌、コンデナスト・トラベラー誌が
2012年の優れたホテルに贈る「HOT LIST 2012」。
この権威あるアワードに「星のや 京都」が選出された。
「星のや 京都」がエントリーされたのは「8 Favorite Hot List Hotels」という部門で、
「宿泊したエディターに“帰りたくない”と思わせた」ホテルに贈られるアワードだ。
世界中のセレブ垂涎のホテルと並ぶ日本の旅館。

その旅館を手がけたのは、「星のや」・「界」・「リゾナーレ」ブランドで、
全国28か所にホテルや旅館を展開する、星野リゾート社長の星野佳路さんだ。
地域の潜在力を信じ、既存のビジネスの枠組みを守りながらも新規拡大を続ける星野さんは、
観光庁が認定する「観光カリスマ」にも選ばれ、
日本の観光産業振興の鍵を握る経営者として注目されている。

その星野さんの目に、今の日本の観光はどう映っているのだろうか。
「日本の観光の良いところは、お客さんの満足度が高いところです。
細やかで繊細な心遣い、ホスピタリティは世界に誇れる観光資源です。
しかし、国内需要が20兆円あると言われているのに、実は生産性が低い。つまり儲からない。
ここが日本の観光産業の弱みと言って良いでしょう。
そこには構造的な課題があります。

ひとつめは、日本特有の休暇スタイル。
365日のうち、土日・ゴールデンウィーク・夏休み冬休みなどの
長期休暇の期間を足した100日しかホテル・旅館が稼働をしていないところが多いのです。
そのため、265日間は暇ができてしまう。
逆に100日間にお客さんは殺到するが、宿泊する部屋が足りず、断らざるを得なくなるため、
利益率が低くなってしまうのです。

ふたつめは、国内交通費が高いこと。
新幹線で東京から1時間で軽井沢に着くことができますが、
1時間あれば飛行機を使って青森や北海道にも行けるはずです。
かかる時間は一緒ですが、交通費は軽井沢だと5千円で行けるのに、
飛行機だと3万円かかりますよね。
結果、東京から遠い地域はどんなに魅力的でも努力をしていても
お客さんが来ないということになってしまいます」

星野さんの問題意識は、ホテルや旅館経営に留まらず、
休日の平準化、地方空港経営といったテーマを、行政に投げかけたりと、日々奮闘が続いている。

「HOT LIST 2012」に選ばれた、「星のや 京都」。選出したエディターからの評価には「ぼうっと夢見心地の気分」とある。こんな夕暮れの風景を見たのかもしれない。

「星のや 軽井沢」のある軽井沢は、星野さんが生まれ育った地でもある。自然との共生をテーマにし、親子で楽しめる「ピッキオ エコツアー」が人気。

“温泉旅館なのに、温泉で勝負しない”?
リゾート運営の達人が手がける、伊東の温泉旅館。

その土地、風土の魅力を引き出し、サービスに導入することも星野さんの哲学。
2012年4月1日に「いづみ荘」から名前を変え、誕生した「界 伊東」の試みも面白い。
戦後から温泉遊技場として栄えた伊東温泉にちなんで、
卓球場や射的場が、大人の社交場として賑わっていたころの風情を残した
「卓球ラウンジ」を設けた。

「旅館に求められるものは、おいしい食事、心地よい宿、温泉、それと、和の文化。
でもそれだと日本全国の旅館はどこも同じになってしまいます。
どこでも、海の幸山の幸を求めるし、いい温泉を求めるのは一緒。
温泉旅館が温泉で勝負していたら他との差別化ができないのです。
そのためにもっと強い地域色を出さないと」

星野リゾートのスタッフは、ホテルや旅館で働きながら、同時に、
その地域の文化を身につけるというミッションを背負っている。
例えば、青森県の「界 津軽」で働くスタッフは津軽三味線を習得し、
京都の「星のや 京都」で働くスタッフは庭師のノウハウを身につける。
“温泉旅館なのに、温泉で勝負しない”とは目から鱗だ。
それ以上に、“地域らしさ”を見出し、それをホスピタリティに換えて提供しようとする。

温泉と卓球は切っても切れない高相性。「今後卓球専用の部屋をつくりたいですね」(星野さん)

大切なのは目先の利益ではなく、長期的な集客プラン。

開発・流行・衰退を急ピッチで駆け抜けた国内のリゾートの例は枚挙にいとまがない。
「集客を昨年比何%プラスか、という目先のことで考えていくと、
ルールなき地域開発という罠に陥り、結果廃れてしまうということがあまりにも多いと思います。

私が考える“観光”とは、50年100年で集客を最大にするという
長期的な集客プランを実現するために、今なにをすべきかということ。
観光開発とはいかに地域ブランドのイメージを長く守るかだと思うんです。
そのためにはぜったいに観光開発のルールづくりが必要」

そんな観光のあり方を訴え続けていた星野さんのもとに、ある相談が持ちかけられる。
それは「島に土地を取り戻したい」という沖縄県竹富島からの相談だった。

「島には“竹富島憲章”という、島の憲法のようなものがあります。
『売らない』『汚さない』『乱さない』『壊さない』『生かす』。
島の人々はこれを何十年何百年と守り、暮らしてきた。
しかし戦後、アメリカから領土返還されるときに、一部の土地が本土企業に買収され、
近年、外資系ファンドが所有したり、転売するという動きになってきた。
これをどうにかしないとということで、
借金を返しながら土地を買い戻し、生かし、守っていく、
“竹富島方式”という計画を提案しました」

これはまず、竹富土地保有機構という会社をつくり、ここが土地を買い戻す。
ホテルはこの土地を借りるかたちで地代を払い、
それで借入金をなくしていくというシステム。
完済すれば、土地は島のものになる。

2005年に初めて訪れたときから、
持続可能性を持つ観光地として竹富島に注目していた星野さんが、
島のルールを守りながらも観光事業を通じて
この問題を解決できないだろうか、と考えた方式だった。

「島の文化や景観や生活様式を経済よりも優先的に守ろうとしてきたことで、
人口減少・経済的な衰退を招いてしまったのですが、
それでも大衆化せずに、竹富島だけは今ある島の文化を頑ななまでに守っていて、
そして島民たちは、これからも文化を“守る”モチベーションがあると感じたのです。
本当に大事なものを壊してまで集客しようという人たちではない。
ですから、持続可能な観光のあり方ができそうだと思いました」

だが、当初は島民からの反発もあったという。
「まず、一から島民と話し合うことを求められました。
ひとりひとりの名前を覚えて、婦人会や老人会に行って考えを聞いて。
企業としての信頼を得るために必死でした」

ときには島民と酒を酌み交わし、腹を割って話をした。
結果として、この時間をかけた対話が、
星野リゾート28軒目のリゾート施設である「星のや 竹富島」実現に結びつく。
6月1日にオープンとなった「星のや 竹富島」。
最初に相談を持ちかけられたときから、実に5年半の歳月が経っていた。
竹富島という土地に対する思い入れが強いだけに、星野さんにとっても特別な場所となりそうだ。

6月1日オープンの「星のや 竹富島」。7ヘクタールの敷地内には、48棟の客室が竹富島の伝統的なデザインマニュアルに合わせてつくられている。

この春、島内の話題は、竹富島の小学校に久しぶりに新入生がふたり入学することだったという。そのうちのひとりが、「星のや 竹富島」総支配人の澤田さんのご長男。「現時点での星野リゾート最大の貢献です」(星野さん)

豊富な観光資源、充実した交通インフラ、高いホスピタリティを誇る日本。
だが、実は世界的にみると日本の観光競争力は30位前後と振るわない。
「日本の観光をヤバくする」という星野リゾートのミッションには、
「日本の観光産業を世界のトップクラスへ」という野心もこめられている。

「海外旅行者は年々増え続けていて、年間1700万人もの人が渡航する一方で、
国内旅行は、集客の減少と生産性の低下という問題に突き当たっています。
もっと日本人に日本を旅してほしい。
そして、今までみたことのない日本を発見してほしいですね」

profile

YOSHIHARU HOSHINO
星野佳路

1960年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。
1991年、(株) 星野リゾート社長に就任。以来,「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、「もう一つの日本」をテーマにする滞在型リゾート「星のや」、高級温泉旅館「界」、ファミリーをターゲットとするリゾートホテル「リゾナーレ」などのブランドを全国に展開。

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