連載
posted:2012.1.11 from:東京都杉並区 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
地域を見つめることで新しい日本が見えてくる。
新しい視座で日本の地域を再発見していく人にインタビューする新ローカル論。
editor's profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと-いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。
credit
撮影:後藤武浩(ゆかい)
撮影協力:ラ・ケヤキ
デザインオフィス「リビングワールド」代表であり、
『自分の仕事をつくる』などの著書で、働き方研究家としても知られる西村佳哲さん。
震災後に東北と九州をめぐり、地域と密接に関わりながら
働く人たちへのインタビューを中心に綴った『いま、地方で生きるということ』は、
どこで働くか、ひいてはどこで生きていくかという、
私たちの生活基盤そのものを考え直させるような著書だ。
「この本を書くきっかけを作ってくれたのは、出版社ミシマ社の三島邦弘さんです。
たとえば出版というビジネスも東京中心に成り立っているところがあるけれど、
もうそういう時代でもないはず。
取次会社が決めた本をまちの本屋に置いて売れるかといったらそうじゃない。
三島さんが東京というものに象徴しているのは、
そういった形骸化したシステムや思考習慣で、
それらに拠らない場所という意味で“地方”という言葉を使っていると思います。
つまり東京の中にも地方はあるし、地方にも東京がある。
そして、どこで生きるかというのは、僕のテーマでもありました」
この本には、地域のファシリテーター、プランナー、デザイナーなど
さまざまな人たちが登場するが、生き方は違えど、彼らはみんな自分の役割と仕事を、
自分の生きている場所にきちんと見出している人たちだ。
「彼らの共通点は何かというと、考えながら話すということ。
自分が感じていることを確かめながら話すというか、
実感を大事にしているんだろうなと思うんです。
実感を大事にするということは、
一方で違和感をスルーしないということでもあると思います。
それって人間としてすごく健やかですよね。
ある意志や意図を持って自分の人生の時間を埋めていこうとする。
違和感のあるものに囲まれて生きていると、
僕は自分のある部分が死んでいく感じがするんですが、
彼らは、そういう違和感が自分の人生にたくさんあることには
耐えられない人たちだと思います」
西村さんは東京生まれ、東京育ち。
それでもなぜかずっと東京以外のところで暮らしたいという気持ちがあるという。
「自分でもなぜだかよくわからないんですけど。
でもそれは、僕が30歳のときに会社を辞めたことと密接に関係していると思います。
僕が会社を辞めた理由のひとつは、このままずっと会社勤めを続けていると、
会社から仕事をもらう能力しかトレーニングされないと思ったから。
会社にいないと仕事が手に入らなくなるというのは実はこわいことで、
仕事を自給自足できるようになりたいと思ったんです。
それと東京を離れてみたいという気持ちはすごく近いものがあって。
都市の人たちは毎日ドリルのように買い物という行為を反復していて、
何かを自分で作って手に入れるというトレーニングをしていない。
生きていくために必要な水とか食べ物が、
ひとつのチャンネルでしか手に入れることができないのは、とても危うい。
生きていくうえで、サブシステムが必要だと思うんです」
西村さんは現在、東京以外の拠点となる場所を具体的に探しているところだという。
都市部と離れたところでものを作ったり、暮らしを作っていくときには、
都市のシステムの中では見えなかった、自分の暮らしの全体像が見えてくる。
それが、地方で暮らすことの最大の利点だと西村さんは考えている。
「いまの時代って“モダニズムをもう一度”だと思うんです。
モダニズムは近代合理主義と訳されていますが、
そこには非合理なものに対する怒りがあったんですよね。
なんで僕らは猫足の椅子に座らなくちゃいけないんだ?というように、
形骸化してしまった習慣や意匠に対して異議申し立てというか、
ゼロから見直そうということをやったから、一旦シンプルになったわけです。
装飾を排することが目的ではなくて、いま一度考え直そうという動き。
いまはまた、これまでの当たり前を
もう一度見直そうというタイミングなのではないかと思います」
たしかに、震災後は誰しも自分の暮らしについて
見直す機会が増えているのではないだろうか。
また西村さんは、全国のいわゆる限界集落といわれる地域を回った年下の友人の言葉が、
とても印象的だったと話す。
「彼は旅に出る前は地域活性をテーマにしていたんですが、
行ってみたら、地域はなかったと。あったのは家族だったというんです。
ところどころに感動的な家族がいて、
その家族は個人では持ち得ないようなエネルギーを持っている。
いい家族がいると周りもいい影響を受けていて、
ひとつひとつの家族の集まりが地域を形成しているように見えたそうです。
だから地域のコアにあるのは、家族なのかもしれないなと感じています」
profile
YOSHIAKI NISHIMURA
西村佳哲
にしむら・よしあき●1964年、東京都生まれ。デザインオフィス「リビングワールド」代表。プランニングディレクター、働き方研究家。公共空間のメディア作りや、デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションなどを手がける。多摩美術大学、京都工芸繊維大学非常勤講師。
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