連載
posted:2016.12.9 from:岐阜県羽島市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
これまで4シーズンにわたって、
持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。
第5シーズンは、“100年企業”の貝印株式会社創業の地である「岐阜県」にクローズアップ。
岐阜県内の企業やプロジェクトを中心に、次世代のビジネスモデルやライフスタイルモデルを発信します。
writer profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:石阪大輔(HATOS)
綿織物などを石の上に置いて木の棒で叩くと表面がなめらかになって艶が出てくる。
こうした「艶つけ業」として1887年に始まったのが、
現在の〈三星テキスタイルグループ〉。
糸や生地をつくったり、染色や加工などを含め、多角的に展開している。
現社長の岩田真吾さんは5代目。
異業種の他社で会社員を経験後、2009年に三星に戻ってきた。
「業界的に素人目先で工場を歩いていると、
もちろん商品となる美しい柄の生地などがたくさんあるわけですが、
一方で、短くなった糸もきれいだなと感じたんです」
商品をつくる過程で生まれてしまう端材やゴミ。
しかし岩田さんの目にはきれいなものだと映った。
のちに〈mikketa〉というブランド/プロジェクトになる原点だ。
「こうしたものはもちろんリサイクルとして使われることもあります。
しかし、ただリサイクルすればいいという気持ちにはなれませんでした。
それでは、“美しいな”という感情がどこかにいってしまいますから。
つまり価値が下がってしまうと思ったんです」
美しいものを、美しいまま活用したい。
ただリサイクルするのではなく、おもしろいことがしたい。
そう思っていたときに、IAMS(情報科学芸術大学院大学)の小林 茂教授を介して
〈TAB〉の山下 健さん、横山将基さんに出会った。TABは建築設計事務所。
住宅、オフィス、店舗などの設計や改装などのほかに、
家具やインテリアなども手がけている。
だから毛糸というやわらかい素材にはあまり馴染みがなかった。
「樹脂や和紙などに毛糸を混ぜ込むことができるのではないかと思いました。
ゴールは見えていなくても、まずは板状にすれば、後々、加工がしやすいですからね」
と言う横山さん。
樹脂製作は羽島市のプロスパー、和紙製作は美濃市の丸重製紙に依頼した。
「商品化は見越していましたが、実際にどうなるかわかりませんでしたから、
とにかくおもしろがってトライしてみる環境が必要でした。
そういう意味では横山さんをはじめ、話を受けてくれた職人さんたちも、
新しい取り組みの心意気を感じてくれる人たちです。
樹脂もたくさんの種類を試したし、毛糸もいろいろな含有量を試しました。
丸重製紙さんには『これ本当だったら異物混入ですよ』と笑われたり。
一緒につくり上げていく精神を持った人たちでよかったです」(岩田さん)
結果的に、材料も製造も、岐阜県内で賄えた。
岩田社長いわく「閉じているつもりはまったくない」が、
岐阜にはそれだけものづくりの素地が集積しているということだろう。
特にトライ&エラーを重ねる必要がある段階で、
しかもそれが実際のプロダクトである場合には、距離的な近さは意味を持つ。
「近いからすぐに確認しやすいし、細かな修正もしやすかったです。
みなさん、その場で『もうちょっと毛糸増やしてみる?』って、
すぐにやってくれますからね」(横山さん)
毛糸の色と分量は調整できるが、柄となる毛糸の動きはコントロールできない。
うまく分散することもあれば1か所にかたまることもある。
「意図(いと)できない。糸(いと)次第」と岩田社長。
だから同じ商品はふたつとない。
気に入った柄を見つけたときは、「みっけ!」と言って買ってほしい。
ペンスタンドは糸の巻き芯を利用している。
柄はつくったものではなく、もともとの巻き芯の柄のままである。
不思議とユニークで“使える”柄が揃っている。
「巻き芯の工場がわざわざデザインしているわけではないと思うんですよね。
おそらくこれ自体も余った紙を再利用していると思います。
でもストライプとかハートとか、かわいい柄があるんです」(横山さん)
Page 2
mikketaとは、ひとつには三星毛糸の略称ミッケ(=mikke)と
TABの頭文字のTAを合わせたものである。
ロゴデザインは、下部が少し隠されたデザインになっている。
するとmikketaが「mikke+α」と読める。
mikketaのコンセプトには
「製造過程のなかで見過ごされてきたアレコレをmikke(発見)して、
デザインを+α(工夫)することで、日常生活を彩るアレコレに変えていきます」とある。
発見と工夫の大切さとおもしろさを伝えたいという思いだ。
「そもそも発見と工夫をしないとデザインはできないと思っています。
コミュニケーションして、その人の持っている感覚を受けて、
発見して、デザイン(=工夫)する。
『おまかせします』とかよく言われますが、
それでもどんどん話していくと
『思い描いていたのはそれじゃないですか?』という何かが
立ち上がってくるんです」(横山さん)
話を聞かれている側も、発見ができていないことが多い。
だから一緒に発見していく。
「発見というフェーズは、人とのコミュニケーションなど多数で行われることが多く、
工夫はその後の個人ワークで行われる。
それをまた発見フェーズに持っていって……、その行き来ですよね」(岩田さん)
ただし発見を工夫にまでもっていく行動力のようなものを、
なかなか持つことができない。
「mikketaは“見つけた!”という発見だけではないのです。
みんな日常的に発見はしています。『これ、かわいい』というのも発見のひとつ。
でもそこで何らかの工夫をしてプロダクトまで持っていって初めて、
人はおもしろいと思ってくれます。
『きれいな糸があって、かわいい芯があって』と話しても『ふーん』で終わってしまう。
工夫へ向けたがんばりが価値を生むと思っています。
もちろん売れるかどうかもわからないし、つまらないものができてしまう可能性もある。
でも人々の前に出してみると、また発見があるかもしれないし、
それが価値につながっていくのです」(岩田さん)
B to Bビジネスが主である三星テキスタイルグループのなかで、
mikketaの売り上げはそう大きいわけではない。
そのなかで、どう位置づけているのだろう。
ひとつは認知させることだ。
「うちの生地は世界的なメゾンブランドでも使ってくれています。
B to Cであるmikketaをきっかけにして、日本に生地の産地があること、
しかも意外と身近にあることなどを伝えていければと思います」(岩田さん)
もうひとつは視点や考え方を鍛えられるということ。
そうでないと、いくら老舗でも大企業でも簡単にはやっていけない。
「創業当時の艶つけだけをやっていたら、いまはないですからね。
時代に合わせて守るべきは守り、変わるべきは変わる。
自分とは違う人と、勇気を出して話してみること。
頭がかたくならないためには重要なことです」(岩田さん)
「現代は、ものをつくる人と買う人の距離がすごく離れてしまいました。
だから洋服もものも大切にしなくなってきています。
岐阜は比較的まわりにものづくりに携わっている人が多いので、ものづくりが身近です。
必然的にものを大切にするようになりますよね」(岩田さん)
それこそ、父親が地元のメーカーに勤めている、工場に勤めているという環境がある。
農業や食の世界と同様に、工業でもだれがつくっているかわからないという状況は、
ものを大切にしなくなる原因のひとつになっている。
三星テキスタイルグループでは、地域の防災にも協力している。
「防災協定を結びたいと町内会に申し出たところ、
『20年以上、避難地域をつくるためにいろいろな会社を回ったけど、
会社側から言われるのは初めてだ』と言ってくれました」
羽島市のバックアップを得て、防災協定を結ぶことになった。
震災があったときは敷地内を一時避難所にでき、
状況によっては市の食料や水などを搬入する場所となる可能性もある。
さらに来年度は避難訓練も町内会と一緒に行う予定で、
より地域との密接な関係性を築ける場ができるようになる。
ビジネスとしてはグローバルにも出ている企業が、
町内会というローカルの単位とともに行動できるとは、かなり柔軟性がある。
mikketaが持つ発見と工夫は、
企業全体の成長にもフィードバックされているようだ。
information
mikketa
三星テキスタイルグループ
住所:岐阜県羽島市正木町不破一色字堤外898
information
貝印株式会社
貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』でも、岐阜を大特集!
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ