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岐阜の豊かな植生が、
世界一のアロマの産地になる!

貝印 × コロカル GIFU NEXT
vol.002

posted:2016.8.10   from:岐阜県高山市  genre:ものづくり / 活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  これまで4シーズンにわたって、
持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。
第5シーズンは、“100年企業”の貝印株式会社創業の地である「岐阜県」にクローズアップ。
岐阜県内の企業やプロジェクトを中心に、次世代のビジネスモデルやライフスタイルモデルを発信します。

editor’s profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:石阪大輔(HATOS)

香りの原点は裏山に!

国産アロマブランド〈yuica〉は、
木工家具をつくっている〈オークヴィレッジ〉の敷地内にある。
かつて俳優の菅原文太さんが住んでいたという建物が事務所だ。
yuicaの代表は、オークヴィレッジと同じく稲本 正さん。

かつて日本中の森を回ってその魅力を
『森の旅 森の人 —北海道から沖縄まで日本の森林を旅する』という
本にまとめた稲本さん。
これが好評で、次は世界20か所の森を回り、『森の惑星』を執筆することになった。
そこで世界の森のどこへ行けばいいかと相談したのが、
当時イギリスの〈キューガーデン〉園長だったサー・ドクター・プランス氏だった。
そのときに、プランスさんから
「木が100年、1000年と、どうして長く生きているのか?」と問われた。
その答えがアロマだという。
つまり、木はアロマを出して、自分にとって悪い害虫ははねのけ、良い虫は引き寄せる。
その話を聞いて、稲本さんはアロマにも注目することになった。

yuica代表の稲本正さん。陽が入る事務所の裏山にて。

稲本さんの著作。日本と世界の森を回った。

yuicaの香りの原点は裏山だ。つまり身近な森。そこには多様な木が生えている。
まずはそれらを採取し、簡単な機械で精油(エッセンシャルオイル)を抽出し始めた。
とにかくたくさんの木々を試した。もちろん失敗したものも多い。
プランスさんは
「世界の森のなかでも、日本は温帯林として一番生態系が豊かである」という。
もちろんアマゾンも生態系は豊かだが、熱帯だ。
やはり温帯の人間には、温帯由来のものが合う。

「日本は国土の7割近くが森林で、森林率世界3位です。
実は日本はアロマをつくるのにすごく適しているのです」という稲本さん。

かつて日本人も香りに敏感であった。
yuicaというブランド名は「結馨(ゆいか)」という造語が由来だ。
「馨」には、声という文字が入っている。
日本には“香りを聞く”と表現する聞香(もんこう)という豊かな伝統文化も残っている。
しかし戦後の海外からの香水やアロマ文化の流入、そして無臭の流行から、
日本人の香りに対する意識は次第に薄れていった。

「本当は、においというものはそこらじゅうにあるんです。
だから無臭という概念はそもそも矛盾しています」

こうしてyuicaが誕生。国産であり、和のアロマはまだ珍しい。
身近な森の原材料から抽出された精油は、合成香料ではなく天然のものだ。
飛騨の森がぎゅっと凝縮されている。

和のアロマウォーター。

yuicaは開発段階から、単に香りがいいというだけでなく、
香りが体に及ぼす影響などのエビデンスも研究、集計している。

「五感のなかで、視覚は脳の大脳新皮質を働かせます。
一方、嗅覚は大脳辺縁系を働かせます。
悪い菌を抑える免疫機能、消化液などが働く内分泌など、
無意識に行われている機能は大脳辺縁系が司っているんです。
ところが現代社会では、視覚から入ってくる情報が圧倒的。
つまり大脳新皮質ばかり活性化させてしまって、大脳辺縁系が弱まりがち。
どんなに頭のいい人でも、気分がすぐれないときには情報は入ってきません。
両方のバランスが大切なのです」

香りは予防医学になる。パソコンやスマートフォンを見ることの多い現代生活において、
視覚だけでなく嗅覚も駆使して脳のバランスを取ることで、
漢方のように生活習慣のなかから病気を予防する。

敷地内を歩いていると差し入れのスイカを切っていた。従業員みんなが寄ってくる。

菅原文太さんが手入れした明るくて美しい森。

アマゾンと飛騨に、同じ香りがあった

yuicaでは、ヒノキやスギ、モミ、アスナロなど、
日本人になじみのある木のアロマがラインナップされている。
なかでもyuicaを代表する香りとなっているのが、
クロモジ、ニオイコブシ、サンショウだ。
サンダルウッドやローズウッドとは違い、どれも一般的に日本に生育しているもの。

クロモジという木は、楊枝に使われる木として知られる。
高級な和菓子などで、皮がついたままの楊枝が付いていることがあるが、
あれはクロモジの枝を削ったもの。
特に西日本などでは、お茶の席での楊枝のことをクロモジと呼ぶくらい。
わりとどこでも生えている木だが、アロマを取ってみるととても香りがいい。

この成分を調べてみると、リナロールという成分が多く含まれていた。
これはアマゾンに生えているローズウッドに含まれる成分と同じで、香りがよく似ていた。

「よくよく考えると同じクスノキ科なので、似ていてもおかしくないのですが、
アマゾンの木とうちの裏山の木に、同じ成分が含まれているとは驚きました。
ローズウッドは、かつてマリリン・モンローが使っていて有名になった香水
〈CHANEL N°5〉の主成分でした」

実際のクロモジの木を手に取り、斑点があることから「黒文字」という名前になったと説明してくれた。

集められた木々は、すべてトレーサビリティに対応。

甘酸っぱい香りのするニオイコブシを調べると、
“世界で一番いい香り”と言われるゲラニアールという成分が含まれていた。
これは成分名からも推測できる通り、
フランスの高級ブランド〈GUERLAIN(ゲラン)〉の香水にも使われているものだ。
シャネル、そしてゲランの香水と、
同じ成分が取れるという飛騨の森は、なんとも豊潤で不思議だ。

またサンショウは、yuicaが世界で初めて精油の抽出に成功したものだ。
サンショウはミカン科。
実が緑色の若いときに種ごと擦りつぶしたものが、うなぎなどに使う粉山椒。
しかし時間が経って赤くなってくると、種が硬くなって山椒としては使えない。
yuicaの精油は、そのときのわずかな赤い皮だけを集めて精油を取っている。
だから大量にはつくれない。

それほど大きくない抽出機のように見えるが、この規模は日本では最大級。

たとえペットボトルに入っていても、取れたての貴重なオイル。

森から採られてきた木や枝葉は、原材料ごとに粉砕される。
そして水蒸気蒸留法で精油を抽出。精油は重量比で0.1%程度しか取れない。
クロモジもニオイコブシも、群生ではなく点々と生えているため、
原材料が集まりにくく、しかもオイルが取れにくい。
かなり手間のかかる作業だ。

「うちは飛騨のものしか使いません。
なんで柑橘系をやらないかといえば、このあたりに柑橘がないから。
たとえば北海道にはラベンダーでやっているところもありますし、
四国では柑橘を使っているところもあります。
どうせなら、そういった地場を大切にしているメーカーと組んだほうがいいですね」

土地の財産を使っていくという思いをyuicaでも守っていく。
そうすれば特色のある日本各地のアロマが増えていくだろう。

「これから国産アロマも増えていくと思いますよ。日本は香りの宝庫ですから」

裏の山にあるツリーハウスは、木々の間から見える眺望も最高!

事務所の前には、アロマで使う木々の苗が。

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G7伊勢志摩サミットで配布された森香炉も!

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岐阜がアロマの一大産地に!?

オークヴィレッジでは40年以上飛騨に根づいて活動してきた。
yuicaも同じく飛騨を意識して活動していく。

「飛騨高山森林組合と提携して木を取ってきてもらっていますし、
持ってきてもらって買うこともあれば、
山主と話して、山の手入れをする代わりにタダ同然でいただくこともあります」

山を手入れしながら、山のことを知っている人たちと、持続可能な量だけ採取していく。
「アロマは新しい地場産業として育つ可能性が大いにある」という。
日本は世界3位の森林国であり、なかでも岐阜は日本2位の森林県。
植生の豊かな岐阜でアロマをやることに、大きな意味とメリットがある。

今年開催されたG7伊勢志摩サミット。そこではyuicaの森香炉が配布された。
伊勢神宮をつくりかえるときに出てきたヒノキ材を再利用したものだ。
中にはクロモジの香り玉が入っていて、ヒノキとクロモジがほのかに香ってくる。
そのさりげなさがいい。
飛騨の木工と香りが、日本の代表として世界にも羽ばたいた。

G7伊勢志摩サミットで配布された森香炉(非売品)。

リニューアルして商品として発売することになった森香炉。この「青海波」柄のほかに「麻の葉」柄もある。

「 “ローカルからグローバルへ”ということが盛んに言われていますが、
和の国産アロマは、まさに岐阜から世界に発信できるものです。
まだ国産アロマというものは認知度が低いかもしれませんが、
実はyuicaでは、レクサスブレンドを手がけていたり、
〈アマン東京〉で精油を使ってもらっています。
世界のアロマの宝庫=岐阜となればおもしろいですね」

日本に馴染みのなかったアロマ文化だが、岐阜の森には、まだまだ資源が眠っている。
それらが出会ったときに、ギフネクストが生まれてくるのだ。

生まれたばかりのヒメコマツ。新たな森の息吹。

information

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yuica(正プラス)

住所:岐阜県高山市清見町牧ヶ洞846番地

TEL:0577-68-3088

http://www.yuica.com/

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