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お客さんを招くために、
地域の人たちと初めてのコラボレーション

山ノ家、ときどき東京
vol.002

posted:2014.12.30   from:新潟県十日町市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  カフェ&ギャラリー「GARAGE Lounge&Exhibit」を東京に構え、
新潟県十日町市では「山ノ家カフェ&ドミトリー」を運営するgift_(ギフト)の後藤寿和と池田史子。
都市と山間部、ふたつの場所を行き来しながらさまざまなプロジェクトを紡いでいきます。
多拠点に暮らし、働くという新しいライフスタイルのかたち。

writer's profile

gift_

ギフト

2005年、後藤寿和・池田史子により設立されたクリエイティブユニット。空間や家具のデザインや広い意味での「場づくり、状況づくり」の企画を行う傍ら、東京・恵比寿にてギャラリー・ショップ「gift_lab」を運営。2012年、縁あって新潟・十日町市松代に「山ノ家カフェ&ドミトリー」をオープン。現在東京と松代でのダブルローカルライフを実践中。2014年秋に東京の拠点を清澄白河に移転。東京都現代美術館にほど近い築80年の古ビル1階に「GARAGE Lounge&Exhibit 」をオープン。東京でも “ある「場」”としてのカフェが始動した。

ちょっと東京の拠点のこと

gift_lab GARAGE 内部・Before

新潟の「山ノ家」を運営する ”gift_” の拠点「gift_lab(ギフト・ラボ)」は
この秋、創業から9年間お世話になった東京・恵比寿から、東京・江東区へ移転。
東京都現代美術館の最寄り駅 清澄白河駅から徒歩1分、
同潤会アパートメントと同じ頃に建てられた「清州寮」という
趣き深い築80年の建築で、元車庫だった1階を借りました。
そのまま「GARAGE」と名付けることに。

ここもマイペースにこつこつリノベ中。
引っ越して3か月経過するも、まだまだ途上。
さてどんなモノゴトをこのガレージに蓄積していけるのだろうか。

gift_lab GARAGE 正面・After

この新拠点、「gift_lab GARAGE Lounge&Exhibit」では、
本業である空間デザインの事務所に加えて、
恵比寿時代にも展開していたギャラリーの機能を強化、
そして、「山ノ家」と呼応するカフェ機能もつい先頃、試運転を開始。
正式発進イベントは2月に予定しているところ。

“Lounge & Exhibit” —— 平たく表現すれば、
Café & Galleryということになるだろうか。
かつて、この清澄白河に隣接する佐賀町に、
再生された建築の中で、現在進行形のアートを
1983年から17年間発信し続けた実験場、
既存の美術館でもギャラリーでもないオルタナティブスペース、
「佐賀町エキジビット・スペース」という「場」が存在していた。

そこを訪れることは大切な時間/体験であり、
はかりきれない刺激を吸収させてもらったものである。
今回、私たちが自分たちのささやかな場所を
Galleryではなく“Exhibit=提示する現場”と呼びたかったのは、
この先達へのリスペクトとオマージュであり、
ここが発信の器でありたいという願いをこめてのことである。

また、Loungeはゆっくりくつろぐ、という動詞でもある。
Loungeも、Exhibitも、常に「動詞」でありたいと願う。
何かが常に胎動し、うごめいていてほしいと思う。

さて、東京ではそんなリノベを進めながら、
今月も山ノ家へ向かうと今年は数十年ぶりの大雪でした。

すごい雪!

山ノ家をオープンしてから、
私たちは根雪が積もり始めるクリスマスにいったん山ノ家を閉じて、
年が明けてからまた十日町へ戻る。

今年は、地元の人も驚く数十年ぶりの師走の大雪。
例年だと、クリスマスまでは、雪が降っては溶けてしまい、
あまり積もらないのだが、今年は既に積雪3m超えで、
屋根の雪下ろしは、3回も行った。
雪祭りの雪像用の雪が足りなかった昨年とは大違いである。
外装リノベ中だった2011年、雪国での冬を初めて経験してから、
今年で4度目の冬となるけれども、
まだまだ雪のゆくえはまったく読めない。

2012年晩秋。まだ雪は降らない。

晩秋の山ノ家周辺。

初雪が降り始めるのはたいてい11月。
「山ノ家」が始動した2012年の11月も、秋はしんしんと深まっていったが
まだ雪が降り始める気配はない。

その頃、私たちは、賑わった大地の芸術祭の夏を見送って迎えた
まったく人の気配が途絶えた晩秋の松代の商店街で、
呆然とした日々を過ごしていた。

とにかく人通りがない。
お客さんがいない。
まったくのお手上げであった。
10月に収穫されたばかりの棚田のおいしい新米も食べていただく相手がいない。
(このエリアは魚沼産コシヒカリの生産地)

どうしたらいいんでしょう?
思いあまった私たちは、この松代の空家に私たちを巡り会わせた
張本人であり、自ら、果敢にさまざまな地域活性に取り組んでいる
地元の大先輩、若井明夫さんに訴えた。

真剣に私たちの話に耳を傾けてくれる若井さん。

まだまだ残念ながら「山ノ家」は地元の人たちには知られていない。
何をしようとしている、何者かも、あまり伝わっていない。
ましてや、この現在無人のままの空間がいったい何のための場所なのか
伝えようがないのである。

やはり今は、自分たちの価値観に共鳴してくれる都市圏の人々=ヨソモノに
ここの日常の魅力をきちんと紹介して、とにかく「来てもらう」、
この場所を「発見してもらう」しかないんじゃないか、という結論に至った。

とにかくいつ降り出すやらわからない初雪の前に
人が参加したくなるようなイベントをしよう。

「うちの田んぼの脇で、うちの棚田のおいしい新米食べてもらおうよ。
羽釜で焚火で炊いてさ」
若井さんが言った。

羽釜(はがま)の前で微笑む若井さん 。

日ごとに冷気を帯びていく晩秋の風景を眺めながら聞いた、若井さんの言葉。
彼の言葉そのものが、エネルギーを発していて、
寒風の中で温かい焚火に手をかざすように、じんわりしたのをまだ憶えている。

新米をめぐるワークショップ

申し遅れたが、若井さんは「発酵」研究家というか実践家である。
いち早く「どぶろく特区」の制度を活用して、国内でもいの一番に
自家製どぶろくの製造販売をリーガルに開始した人物。
余談であるが、このどぶろくがまたとてもおいしい。

残念ながら、一般人がどぶろくをつくるのは違法である。
では、ワークショップをするなら、
どぶろくをつくっている若井さんを見学?
いや、参加者にはやはり自分の手でつくってもらいたい。

では、新米で甘酒をつくろう。
新米の玄米と糀だけでつくる甘酒。
いいね。

「米のとぎ汁の発酵液って知ってる?」と若井さん。
何と言うかヨーグルトの上澄みみたいなやつですよね。
うんうん。
「これ万能なんだよ
食器でも顔でもからだでも洗える」
へえ。
「とぎ汁と塩と砂糖でつくれるよ」
何だか化学実験みたいですね。

発酵中の甘酒 。

結局、「米をめぐるワークショップ」は、
一泊二日の泊まりがけのワークショップツアーとして計画した。
1日目は、若井さんを講師として、玄米甘酒ととぎ汁発酵液をつくる。
そして、近くの温泉でゆっくりあたたまって、
若井さんに昔の田んぼづくりの話を聞きながら夕ごはん。

到着して、若井さんが甘酒づくりの準備をしている間、
参加者のみなさんには紅葉した松代城山周辺に点在する
大地の芸術祭の野外設置作品を見学散策していただくことにした。
その案内人は、山ノ家の斜め向かいに住む、
(当時)小学六年生の鈴木大貴くんにお願いすることにした。

当時の大貴くん 。

大貴くんはリノベの最中からよく山ノ家の様子をのぞきに来ていたのだが、
この無人状態が続く10月以降の山ノ家カフェの唯一の
「お客さん」だったのである。
「入ってもいい?」
いいよ。
「宿題してていい?」
いいよ。
「このゲームが終わるまでやってていい?」
ちゃんと晩ごはんまでにゴールしてね。

彼は、とても自然に、ものおじせずふらりと山ノ家に入って来ては
のんびりと居心地よさそうに時間を過ごして、
じゃあねと帰っていく。
ほぼ毎日通ってくれていたと思う。
その頃の山ノ家は、
彼の毎日の訪問のみが存在理由だったと言っても過言ではないくらいであった。

そして、大地の芸術祭がスタートした年に生まれた彼は、
芸術祭をこよなく愛していて、よく公式図録を持って来ては
私たちに作品の解説をしてくれていた。
「作品見学散策のガイドをどうしよう?」ということになった時、
私は迷うことなく彼を推薦した。

そして、2日目は、朝から近隣の山できのこ狩り。

樹上のきのこ。

地元のタクシー会社の代表できのこ狩り名人の村山達三さんを
若井さんに紹介していただいた。この名人にきのこ狩り講師をお願いする。
採ったばかりのきのこできのこ汁を大鍋でつくる。
その間に火をおこして羽釜で新米を炊く。
クライマックスはもちろんこの炊きたてごはんをみんなでほおばること。

羽釜で炊きたてのごはん。

行程が決まると、講師のみなさんにスケジュールを承知していただき、
大急ぎで告知の準備を進めた。
すでに開催予定日の3週間前であった。

山ノ家としての初めての大イベント、
地域の方たちといっしょにつくっていくワークショップ。
たった3週間で、果たして参加者は集まるのか……

Vol.3につづく

information


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山ノ家

住所:新潟県十日町市松代3467-5
TEL:025-595-6770
http://yama-no-ie.jp
https://www.facebook.com/pages/Yamanoie-CafeDormitory/386488544752048

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