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建築デザイナー・関祐介さんの旅コラム
「お好み焼き発祥の地、
神戸のにくてんを味わう」

旅からひとつかみ
vol.018

posted:2021.5.15   from:兵庫県神戸市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。

text

Yusuke Seki

関祐介

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第18回は、建築デザイナー、関祐介さんの地元である神戸のお好み焼き巡り。
神戸はお好み焼きの発祥地といわれ、
店舗や人それぞれに強いこだわりがあるようです。

茶道にも通じる(!?)お好み焼きの原点

先日友人と喧嘩した。ぴえん。
理由は京都で食べたお好み焼きの味について。
こうやってテキストに書くのもまじバカバカしい。
だけど、お互い譲れない部分があったのです。
私にとってお好み焼きはローカルフードなので、
それぞれお店の個性があれば多少焦げていたりしてもいいという認識なのだけど、
彼は違った。理想の味、焼き方があるらしい。
そしてその持論をわざわざひけらかしてきたので、
お酒も入っていたのでそこで衝突しました。
ちなみに私は神戸生まれ、彼は大阪生まれ。

それだけ思い入れが個々に存在するお好み焼き。
元々のルーツは千利休が好んだという「麩の焼き」とよばれる料理。
茶道にも通じる(ほんまかいな)。
そこからもんじゃ→にくてん→お好み焼きへと進化しているらしい(進化なの?)。

さりげなく入っている「にくてん」というワード、
これが戦前の神戸で生まれたお好み焼きの前身です。
薄く引いた生地の上に具材を載せて焼く重ね焼きスタイル。
そのあとに現代のお好み焼き
(生地にキャベツやネギ、天かすなどを混ぜ込んだ通称「混ぜ焼き」)となります。

そんな背景をもつお好み焼き。
その発祥といわれる私の出生地、神戸にあるお好み焼きの名店を旅しました。

次のページ
「耳」があるお好み焼きとは

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地元の名店、〈ゆき〉と〈ハルナ〉

まずは私のホーム〈ゆき〉。

お好み焼きのゆき外観

ファサードからして渋い。
そしてたこ焼きを焼いているところを見たことがありません。
肝心のお好み焼きは、にくてんスタイル。
薄い生地の上に刻んだキャベツやお肉を載せて焼いてくれます。

ここの特徴は、ピザのように耳的な余白を残したデコレーション。
私も空間の余白の在り方を考えながらデザインを進めるので、
この姿勢には非常に共感します。
その意思を尊重し、自分的にこの箇所にソースを塗るのは御法度としています。

ひと口食べると、生地のテクスチャがクリスピーでいて少しカツオの香り、
中から瑞々しいキャベツの食感が合わさって軽い食べ応え。
食べ進んでいくうちに厚めの豚バラ肉が旨みと満足感を加えてくれます。
食べ物は食感も大事な要素なんだなあと教えてくれるお好み焼き。好き。

2軒目は東京の友人・田中開くんが教えてくれて、ちょっとジェラったお店。
なんで地元の人よりおいしいところ知ってんのよ(笑)。

〈ハルナ〉。
なんでか女の子の名前の店多いですよね、
関西のお好み焼き屋さんって。

「焼」ってこんな漢字だっけ?

「焼」ってこんな漢字だっけ?

ハルナは、まず鉄板が美しい(見上げるとフードの中も美しいです)。
熱に耐えてきた歴史があるせいか、若干真ん中の部分が盛り上がっています。
私のなかでは〈豊島美術館〉の屋根の形状のほうが
この鉄板に寄せてきているなという見解。

まったく曲面の美しさが伝わらない写真の下手さがウケる。

まったく曲面の美しさが伝わらない写真の下手さがウケる。

お好み焼きのスタイルは、ここもにくてんスタイル。
このハルナのお好み焼きは私史上いちばん生地は薄く、キャベツの千切りも細いです。
オーダーはこちらも月見焼(月見半熟で)。

奥の焼きそばは焼き手の賄いでした(笑)。

奥の焼きそばは焼き手の賄いでした(笑)。

この店独自の焼き方がラードを使うこと。しかも塊で。
この塊から溶けた油を使ってお好み焼きや、焼きそばを温めていきます。
脂の鮮度まで考えているこのお店はすごいと思います。

鉄板で焼くラードと焼きそば。

そしてそのラード、最終的にこうなります。

にくてんの上に載ったラード。

なんだこれ(笑)。

生地に動物性脂分を染み込ませたいのですね。
このアイデア感や気の使い方は、建築のデザインや施工でも利用できそうな気がします。

そして、一見ミルクレープのようなお好み焼きもここまで薄くなります。

1軒目の〈ゆき〉と違い、こちらはミルクレープを食べているよう。
全体的にしっとりしていて、
中のキャベツも生地のテクスチャと混ざり合って少しどろりとした食感。
ラード乗せの効果は絶大で、他店よりもお肉の分量は少ないのですが、
それを忘れさせるほどに脂の香りによる重厚感があります。
ソースは酸味が強めでおいしい。
ちなみに使ったラードは直接は食べません(笑)。

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神戸のランキング1位登場!

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盛りだくさんなモダン焼き!

そして最後。
食べログは無視できません。
神戸でお好み焼き屋さん部門第1位のお店がこちら。
〈長田本庄軒三宮センタープラザ店〉。
女の子の名前でもないし、丸亀製麺の運営会社によるお店が神戸でトップという事実。
建売住宅のほうが結局のところいい!
とクライアントに言われたような気持ちになりましたが、気を取り直して臨みます。

〈長田本庄軒三宮センタープラザ店〉の外観。

チェーン店特有の手描きフォントって似たものが多いですね。
いろいろ気になりながら、オーダーしようとすると……ガーン!
メニューにお好み焼きが存在していません。昔はあった気がしたんだけどな……。
再び気を取り直してお好み焼きに近いメニュー、
ぼっかけ玉子モダン(月見)をオーダーしました。

モダン焼きというのは、薄く焼いた生地の上に、
ソース焼きそばを載せて焼く広島風お好み焼きにも似ているスタイル
(広島風はキャベツや糸もやしと、味付けしない麺が載ったものという認識)。
ちなみにモダン焼きの名前の由来は、
いろいろ載って「現代風」という意味のモダンではなくて、
「盛りだくさん」の略でモダンなんだぜ。

〈長田本庄軒三宮センタープラザ店〉店内の様子。

焼きそばの量と生地の大きさに差がありすぎておもしろいけど、大丈夫なのかな。
個人的にはもう少し鉄板をきれいにしたい。

完成したぼっかけ玉子モダン(並)。700円。

完成したぼっかけ玉子モダン(並)。700円。

これがモダン焼きです。盛りだくさん!
生地とそばはなんとかまとまった模様。
厚みもあって、ビジュアルの満足度は高いです。
食感は、焼きそばのようにすすって食べることはないので、
麺のもちもち感がダイレクトに口に伝わります。
ほかのお好み焼きと違い、ソース味が外側からと中のそばからも広がるので、
ソースを食べている感覚。
麺と生地との一体感もあって食べ応えはありますが、
やはりお好み焼きとは一線を画すもの。

ほかにもいろいろお店はあるのだけど、
神戸に来ることがあれば、にくてんスタイルのお好み焼き、食べてほしいです。
ソースに惑わされずに、食感を感じてほしい。

尾道には、砂肝が入った尾道焼きというものがあったり、
岡山には牡蠣がぎっしり入ったカキオコ、高松には鳥のモツが入ったお好み焼きなど、
瀬戸内沿いにはいろいろな「シン・お好み焼き」が存在するようです。
文化の広がりはおもしろい。

それにしてもお好み焼きって、
どう撮ってもおいしそうに見える魅惑の食べものだと思いませんか?
私もそういう空間を設計できるようにがんばりたいな。

profile

Yusuke Seki 
関祐介

〈Yusuke Seki studio〉主宰のデザイナー。〈スニート(Sniite)〉や桜新町にある〈オガワコーヒーラボラトリー(OGAWA COFFEE LABORATORY)〉など、数多くの空間デザインを行っている。

東京と京都の2拠点生活を送っており、京都にはスタジオと町家〈せきのや〉があり、町屋を使用したアーティスト・イン・レジデンス的な活動を行っている。

Web:Yusuke Seki studio

*価格はすべて税込です。

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