連載
posted:2021.3.15 from:香川県小豆郡土庄町 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
writer profile
Hikari Mimura
三村ひかり
みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島の中でもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
https://homemakers.jp/
あの大きな震災から10年が経ちました。
私たちは震災の1年半後に小豆島に移住し、いま農業を生業(なりわい)にしています。
都会から地方に移住して農業をしたい!
そう思っている人が少なからずいると思います。
移住して農業をするには何から始めたらいいか?
時々そんな質問をされることがあるのですが、
「農業」とひと言でいっても規模も形態もさまざまで、
そのスタイルによって適した地域や勉強すべき内容、
取り組み方もまったく違うので、答えはひとつじゃないです。
ここでは、実際に小豆島という離島に移住して
8年間農業に取り組んできた、いまの私たちが思っていることを書きます。
10年前の3月11日、私は名古屋のオフィスビルで働いていました。
ぐわーんぐわーんと船に乗っているみたいな感覚がして、それがあの地震でした。
その日は急いで子どもを保育園に迎えに行ったのを覚えています。
それから数日、テレビやネットでさまざまな報道を見ていて、
地震という自然のとてつもない力の怖さ、
一瞬でなくなってしまう普段の生活の脆さを感じ、
直接被害を受けなかった自分が何をできるのかなど、さまざまな思いがめぐりました。
いろいろ考えたなかで、いまでも頭の中に残っているのは、
人は「買う」ということにすごく依存して生きているんだなと感じたこと。
物流がストップし、スーパーが営業できず、食べものが買えない。
野菜を買うために行列ができて、並んでも数が足りなくて買えない。
誰かが用意してくれたものを「買う」ことで生活してる。
いざ買えなくなってしまったら、当たり前だと思っているいつもの生活が
すぐにできなくなってしまうんだなぁと。
そのとき、もっと生きる力を身につけたい、
生きるために必要なものを自分の手でつくれるようになりたいと漠然と思いました。
なんでもかんでもお金を払って買うんじゃなくて、
少しでも自分で生み出せるようにする。自分たちが食べるものをつくりたい。
その思いが、私たちが農業を始めたひとつのきっかけです。
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小豆島に移住してきてから私たちが始めた農業は、
農業というか、どちらかというと農的な暮らし。
自分たちが食べる野菜をつくれたらいいね! で始めました。
小豆島には祖父の家と畑があり、私たちはその家で暮らし、
家のすぐ横にある3畝(せ)ほどの畑を耕すところから。
完全なる農業素人! からのスタート。
とにかくなんでもやってみる!
畝(うね)をつくってみる、種をまいてみる、
落ち葉で堆肥をつくってみる、原木シイタケを育ててみる。
年間の作付け計画なんてないし、いま思えばまったく効率的じゃないし、
とにかく思うままにつくってみたい野菜を育てていました。
そんなふうにして半年くらい過ぎ、農業っておもしろいなと思うようになった頃、
「青年就農給付金(現在は農業次世代人材投資資金)」という
新規就農者に対する補助金を受けたらどうかという話をいただき、
農業に本格的に取り組んでみよう! という流れに。
補助金を受ける条件として農園に研修に行く必要があり、
香川県の〈よしむら農園〉さんに1年間、週に1〜2日研修に通いました。
ちなみにこのとき、たくちゃん(夫)は36歳、私は33歳。
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いま思えば、この研修がなければいまの私たちはなかったように思います。
基本的な栽培方法から必要な機械や資材のこと、
1日の流れ、1年の流れ、とにかく学ぶことだらけ。
1年間の研修では全然足りない。
本当は2〜3年くらい研修させてもらったほうがよかったのかもしれないけれど、
小豆島ですでに農業を始めてしまっていたのと、
島から船に乗って週に1回研修に通うのは大変ということもあり、
1年間で研修を終えました。
生活の糧として農業を始めたいならば、農園での研修は絶対にしたほうがいい。
それがいまの私たちが伝えたいこと。
何も知らない状態で農業を始めることもできるけど、とにかく時間がかかる。
わからないことだらけだから。
私たちはいまのこのかたちになるまで8年もかかってしまった
(いまもまったくもって未熟で試行錯誤続きですが)。
青年就農給付金があったこと、野菜の販売収入以外に、カフェ営業や
シロップなどの加工品の販売による収入があったことでなんとか継続してきましたが、
それがなければ生活が成り立たず、農業を続けることを諦めてしまっていたかも。
将来あんなふうな農家になりたい、あんな栽培方法をしたいという
自分の目指す農家さんのところで働きながら学べることって、
すばらしい経験だと思います。
学ぶだけでなく、農業仲間というつながりもできる。
このつながりが意外と重要で、のちのち農業に関して話をできる
貴重な存在になります。
自分たちが農業を始めてしまうとなかなか畑から離れられなくなってしまうので、
始める前に研修に行くのがいいかなと(もし行けるなら、
いまからでも私は農家に研修に行きたい!)。
地方に移住して農業をしたい! 何から始めたらいい?
いまの私たちがおすすめするのは、まずは憧れの農家さんの野菜を食べてみる。
こんな野菜を育てたいと思ったら、その農園を訪問し(農家は忙しいので、
事前に連絡をしてから行きましょう)、ここで働かせてください! と伝えてみること。
将来的に自分が農家として独立したいことも話したうえで。
そこで働きながら学んだことと人とのつながりをベースに、
自分たちの農業スタイルを築きあげていくのがいいんじゃないかと。
日本にはすばらしい農家さんがたくさんいます。
まずはぜひそんな農家さんに出会うことから!
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