colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

空き空間を自由に彩る、
持ち運べるインテリア
〈プレイスメイキングキット〉

リノベのススメ
vol.197

posted:2020.5.28   from:静岡県富士市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Yusuke Katsumata

勝亦優祐

かつまた・ゆうすけ●〈勝亦丸山建築計画〉代表取締役。1987年静岡県富士市生まれ。工学院大学大学院工学研究科(木下庸子研究室)修了。静岡県富士市と東京都北区の2拠点で、建築、インテリア、家具、プロダクトデザイン、都市リサーチ、地域資源を生かした事業開発等の活動を行っている。
http://katsumaru-arc.com/

勝亦丸山建築計画 vol.4

静岡・東京の2拠点で、建築設計、自治体や大学との取り組み、
都内のシェアハウスの運営などの活動をする
〈勝亦丸山建築計画〉の勝亦優祐さんの連載です。

場づくりをサポートするプロダクトをつくりたい

イベント「商店街占拠」は毎年夏に3年連続で開催した。
立体駐車場でのイベント空間は、毎年つくり直していた。

イベントのために材料を集め、DIYでつくり、保管できるもの以外は捨てる。
材料として買うものは最小限にし、廃材や、もらいもので賄ってきたが、
それを運んだり、組み立てるのにも労力がかかった。
つくる過程はたくさんの楽しみや学びを与えてくれたが、
限りある時間や力をより重要な部分に注ぎたいとも思っていた。

「商店街占拠」の設営風景。

「商店街占拠」の設営風景。

また「富士市まちなか再起動計画」で、商店街のオーナーさんと話していると、
「いまのところ賃貸借契約をするつもりはなく、募集はしていないけど、
イベントなどの短い期間であれば使ってもいいよ」と言ってもらえることもあった。
契約や金銭が絡まないことは皆決断しやすいらしく、何よりこちらも頼みやすい。
そういった一時的な空間(機会)を「資源」として捉えてみると、
次の行動が見えてきた。

遊休空間(資源)がたくさん眠る商店街。

遊休空間(資源)がたくさん眠る商店街。

一般的に建築家は施主(クライアント)に依頼されて建築を設計する。
もし、建築家が自分のつくりたいものを設計して自分で使っていたら、
それでは商売ではない。
「やりたいからやる、やってから考える」という気持ちの良い精神は好きだが、
商売とは、自分が提供し明示する価値と他者が受け取る価値を一致させることだと思う。

5年前の2016年、まだ依頼していただく仕事も少なかった頃、
私と丸山裕貴で設計事務所として商売を成立させながら、
社会課題を提示、解決する活動の方法について話していた。
その後、園田聡さんとの出会いをきっかけに、
私たちは初めて自分たちのお金を投じてものをつくろうと決断することになる。

丸山裕貴と勝亦優祐

次のページ
「プレイスメイキング」とは?

Page 2

「プレイスメイキング」園田聡さんとの出会い

あるときFacebookのフィードを見ていると、
大学時代の先輩である園田聡さんがプレイスメイキングの一環で、
静岡市のまちなかで屋台を出したり、芝を敷いたりして、
道路でなにやらおもしろそうな社会実験をしている様子を見つけた。

「プレイスメイキング」とは、都市生活を豊かにするための都市デザインの手法。
そこに暮らす人々の多様なアクティビティの生まれる
プレイス=居場所をつくることを目的としている。

まずは目標設定をして、社会実験を行い、
検証を通じてニーズやエビデンスを把握しながら体制やルールを整えていく。
みんなで行うまちづくりをロジックに体系化し、再現可能性を追求しているのが特徴だ。

私はすぐにイベントに駆けつけ、その日初めて園田さんと出会い、
意気投合し、夜まで語りあった。

「商店街占拠」では、人々の活動を集積させる仕組みづくりとして
「立体駐車場+人々のアクティビティ」を「建築」に見立て、イベントをつくっていた。
園田さんもまちの中でアクティビティをつくっていたが、
プレイスメイキングとして場づくりの実践からさらに踏み込んで分析も行い、
実際の公共空間の企画や設計、制度設計のための材料収集をするところまで
射程に入っていることに驚いた。

話し込んでいるうちに、そのような社会実験のための
モバイル家具をつくろうかという話に展開していき、
私と丸山でモバイル家具の企画をまとめることにした。
プロジェクト名は園田さんの「プレイスメイキング」という活動と、
ユーザーが自分でつくるという意味で「キット」を合わせて、
〈プレイスメイキングキット〉に決めた。

製作にあたり、さまざまな方にレンタルの発注や制作費の寄付、
材料の提供などをしていただきながらプロジェクトは進んでいった。

制作にあたって寄付をいただいた園田聡さん(左下)、高野哲矢さん(中央下)、麻生洋平さん(右上)、中川あゆみさん(左上)。丸山裕貴(右下)と勝亦(中央上)。

制作にあたって寄付をいただいた園田聡さん(左下)、高野哲矢さん(中央下)、麻生洋平さん(右上)、中川あゆみさん(左上)。丸山裕貴(右下)と勝亦(中央上)。

小さく始めよう。箱(建築)ではなく中身をつくる

「商店街占拠」や「富士市まちなか再起動計画」のときにイメージしていたアイデアは、
自然とプレイスメイキングの文脈に馴染んでいたように思う。
一時的な空間を、誰もが気軽に自由度が高く使えるようにするためには
どうすればいいか。スケッチをしながら企画書をつくっていき、
「持ち運べるインテリア」という企画が誕生した。

プレイスメイキングキットのコンセプト

プレイスメイキングキットのバリエーション

キットにどんな機能を持たせるかを考えていった。
人が座れたり、テーブルになったり、
お店のようなカウンターになったり、日陰をつくったり。
企画を考えていると、どんどん人の振る舞いや、天気、
地面のテクスチャ、身の回りのものに敏感になっていき、
「外部はなんて過酷な環境なんだろう」とさえ思ったものだ。

キットの使い方、利用シーンを想像してみる。屋外だけで使うことを当初は想像していたが、屋内の利用はけっこうありそうだ。

キットの使い方、利用シーンを想像してみる。屋外だけで使うことを当初は想像していたが、屋内の利用はけっこうありそうだ。

一度にトラックに積載できるように、トラックの荷台寸法からキットのサイズを割り出した。企画時は2トントラックを考えていたが、実施段階では地方で所有率が高い軽トラックに積載できるようにし、キットのひとつひとつは箱状のユニットになった。

一度にトラックに積載できるように、トラックの荷台寸法からキットのサイズを割り出した。企画時は2トントラックを考えていたが、実施段階では地方で所有率が高い軽トラックに積載できるようにし、キットのひとつひとつは箱状のユニットになった。

ユニットごとに家具としての企画を考える。こうして生まれたアイデアが、「持ち運べるインテリア」という企画にまとまっていった。

ユニットごとに家具としての企画を考える。こうして生まれたアイデアが、「持ち運べるインテリア」という企画にまとまっていった。

次のページ
プレイスメイキングキットの3つのポイント

Page 3

地域の課題や資源×自分の課題や資源で考える
〈富士紙管株式会社〉との協働

富士市の主要産業は製紙業である。「紙のまち」としても有名で、
衛生用紙においては国内でも大きなシェアを持っている。

富士市の製紙業はペーパーレスや紙の新たな使い方を模索していた。
私たちは富士商工会議所の鈴木優彦さんに
〈富士紙管株式会社〉の赤澤英郎さん(当時の代表取締役)をご紹介いただき、
企画内容をプレゼンしたところ、快く材料を提供していただくことができた。

紙管という材料は、クラフト紙のような表面で、水には弱いが、
筒状の形状で体積のわりに軽く、強度もある。
加工性もよく、プロダクトのコンセプトと相性がいいと判断し採用した。

製作風景。富士市の〈Lumber Yard〉に工房を借りて制作した。

製作風景。富士市の〈Lumber Yard〉に工房を借りて制作した。

完成した〈プレイスメイキングキット〉のラインナップ。屋台、ベンチ、テーブル、可動いす、3人がけベンチなど。

完成した〈プレイスメイキングキット〉のラインナップ。屋台、ベンチ、テーブル、可動いす、3人がけベンチなど。

大小の紙管を組み合わせてデザインし、プレイスメイキングキットが完成した。
完成したキットのポイントは3つ。

1.適度に持ち運び性が高いこと 
軽トラックに大人ふたりですべて積載可能で、
各ユニットは大きめのキャスターがついているため、
現地では大人ひとりで移動でき、通常のエレベーターにも載せることができる。
特別なイベント、数日~数か月の空きスペースの活用などを想定。

2.バラバラに配置しても統一感があること 
屋外や空き店舗などの空間のインテリアとして機能させるため、
マテリアルや形状で統一感を強めに出す。

3.有償のレンタル 
使用していないときの保管の手間や倉庫代をユーザーは支払うことなく、
また購入でないので初期コストを小さく収めることができる。

プレイスメイキングキットをトラックに積載

次のページ
プレイスメイキングキットはどう使う?

Page 4

レンタルの運営。イベントや店舗用のインテリアとしての活用へ。

試作として完成した1台のプレイスメイキングキットは勝亦丸山建築計画が所有し、
レンタルを受け付け、レンタル料をもらう事業とした。

最初に利用していただいたのは、工学院大学と
小田原市役所の有志職員で組織されている〈小田原Laboratory〉
小田原の商店街にて開催された「軽トラ市」というイベントで初お披露目となった。

運搬の際、強風や雨に煽られヒヤヒヤしながらも無事到着。
軽トラに載った状態で養生を解くと、そこに紙管の塊が現れ、
その場にいた人たちは皆驚いていた。

そのスケール感は神輿のようだと誰かが言っていた。
「これから何かが始まるぞ」という高揚感が生まれ、
主催チームの団結感をつくりだしていた。

この塊が、屋台ひとつ、ベンチ7つ、テーブル2台、可動いす12脚、大きな黒板2枚、3人がけベンチ4つに分解される。

この塊が、屋台ひとつ、ベンチ7つ、テーブル2台、可動いす12脚、大きな黒板2枚、3人がけベンチ4つに分解される。

それぞれが配置されて、設営完了。すべての家具はすでに組み上がっているので、設営は簡単。

それぞれが配置されて、設営完了。すべての家具はすでに組み上がっているので、設営は簡単。

商店街の駐車場がみんなのラウンジに。デザイン性としても統一感のある空間に。

商店街の駐車場がみんなのラウンジに。デザイン性としても統一感のある空間に。

小田原Laboratoryの企画「ストリートラウンジ」として、
商店街の一角の殺風景な空間にプレイスメイキングキットが配置され、
あっという間に市民のくつろぎ空間が生まれた。

屋台では本が販売され、買い物をする人もいれば、
椅子やベンチに座って談笑する人、ランチやドリンクを楽しむ人も。
紙管の丸みやクラフト紙のナチュラルな素材の効果か、
ゆったりと人が集うピースフルな風景がそこには広がっていた。

小田原の〈mame元café〉さんでも、3か月~半年間、仮設店舗のインテリア・内装としてキットを使っていただいた。

小田原の〈mame元café〉さんでも、3か月~半年間、仮設店舗のインテリア・内装としてキットを使っていただいた。

建築会館ホールでのイベント「Parallel Session」にて。

建築会館ホールでのイベント「Parallel Session」にて。

次のページ
公共空間のプロジェクトで大事なこと

Page 5

プロジェクトを振り返って

本文を執筆するにあたり、園田さんとZoomで呑みながら当時を振り返った。

2016年にプレイスメイキングキットをつくった頃、園田さんは大学の博士課程を終え、
プレイスメイキングの論文を書き終えたところだった。
論文を書きながら、プレイスメイキングが
机上や都市観察のみで語ることができないと思っていたそうで、
静岡市や小田原などのまちで、まるで薬の治験のように、
プレイスメイキングキットを使って実証実験を行ったという。

covid19の影響で全国的に緊急事態宣言が発令されているため、オンラインでの対話。

covid19の影響で全国的に緊急事態宣言が発令されているため、オンラインでの対話。

都市の公共空間は不特定の人々を対象にするので、
建築とはつくるロジックが大きく異なる。
公共空間の利用者が都市にコミットしやすくするロジックとして、
住む人の感覚や動きに適合した「ヒューマンスケール」であること、
そして地域によって独自のやり方を考える「オーダメイド」であることを
大切にしているとお話をうかがった。

プレイスメイキングキットはこれらの文脈を促進させるような
プロダクトになっていると思う。

園田さんは現在、大阪市の〈ハートビートプラン〉で
コンサルタントとして活動されている。

最近ハートビートプランでは自主事業で
山口県にシェアハウスやビールのブルワリーをつくっているそうだ。
コンサルティングのみでなく、実際にまちの一事業者として
地域に根づいていくスタイルをとてもリスペクトするし、
自分たちもそうあり続けたいと思う。

事業者としての挑戦。レンタル家具からシェアハウスへ

運搬の固定や雨の日の養生はかなり大変だった。

運搬の固定や雨の日の養生はかなり大変だった。

建築家としてクライアントワークだけでなく、
リスク(開発費数十万円と出資などの資金調達、企画、設計、製作のための人工など)
をとって、社会に切り込んでいく。そんな初めての自社事業は
家具のレンタル事業だったが、その道のりは簡単ではなかった。

すでに原価は回収できているが、現場に設置の相談をしたり、
輸送の手配や受け渡しをしたり、現地の設置、撤収、現物の修繕、倉庫費用など、
運営の手間とコストと金銭的な利益を考えると、
一事業として継続させる枠組みがまだ確立できていない。

しかし、おもしろくやりがいを感じているプロジェクトなので、
私たちの手が空いているときに随時対応している。
2019年に竣工した弊社設計の静岡県富士宮市の
〈富士山ゲストハウス掬水〉のラウンジ什器としても使用中だ。

建築家の自主事業がどのように社会の課題にアクセスし、
継続性を持ちながら、ひとつの事業として成り立ち得るのか。
商店街占拠では活動を集積させる仕組みづくりを実験し、事業費は一度に約30万、
プレイスメイキングキットでは建築の中身のみをつくり、事業費は約50万だった。

次回の東京でのシェアハウス事業では、さらなるチャレンジとして
実際に建築に手を入れていく。事業費は約500万円。
勝亦と丸山が30歳になる年でそれぞれ年収は約180万だった。

information

プレイスメイキングキット

事業主:勝亦丸山建築計画

企画:勝亦丸山建築計画+園田聡

設計:勝亦丸山建築計画

制作:勝亦丸山建築計画

完成:2016年

Web:http://katsumaru-arc.com/02_works/1611_pmk.html

Feature  特集記事&おすすめ記事