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廃墟ビルをリノベーション。
家賃収入を生み、商店街の新しい拠点
〈マルイチビル〉へ

リノベのススメ
vol.193

posted:2020.3.27  from:静岡県富士市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Yusuke Katsumata

勝亦優祐

かつまた・ゆうすけ●〈勝亦丸山建築計画〉代表取締役。1987年静岡県富士市生まれ。工学院大学大学院工学研究科(木下庸子研究室)修了。静岡県富士市と東京都北区の2拠点で、建築、インテリア、家具、プロダクトデザイン、都市リサーチ、地域資源を生かした事業開発等の活動を行っている。
http://katsumaru-arc.com/

勝亦丸山建築計画 vol.2

静岡・東京の2拠点で、建築設計、自治体や大学との取り組み、
都内のシェアハウスの運営などの活動をする
〈勝亦丸山建築計画〉の勝亦優祐さんの連載です。

vol.1でお送りした静岡県富士市でのイベント「商店街占拠」に続き、
同じく富士市の中心市街地の吉原商店街にあるビルの改修プロジェクトをお送りします。

富士市の中心市街地の吉原商店街

まちの真ん中に取り残されたコンクリートの建物群

静岡県富士市の吉原商店街には、約700メートルにわたり一直線に
コンクリートの4階建てほどの建物が並んでいる。
火事が起きやすい中心市街地の不燃化のため、
約50年前に国が建て替え整備を後押しした時期に、一気に建て替えが行われた。
歩道上には、商店街組合によって設置、維持されているアーケードがあり、
雨の日には重宝する。

東海道の14番目の宿場町「吉原宿」として栄えたまちで、
木造の古い建物や蔵はコンクリートの建物の後ろに
曳家(建築物をそのままの状態で移動する建築工法)されたので、
通りからは見えなくなっている。
車で移動している地元の人は知らない人も多いだろう。

後ろに控えている木造の建物も気になるが、
私は経年変化したコンクリートという素材の風合いがなんとも好きだ。
もちろん耐震などの安全性や現代の建築基準法に合わせた
改修の必要性などの課題はある。

まちで一番ヤバいビルが立ち上がる

マルイチビル改修前

吉原商店街の立体駐車場で行ったイベント「商店街占拠」の1回目が終わった頃、
立体駐車場のオーナー佐野荘一さんと商店街のビルを見て回っていた。
商店街の表通りに面する築50年ほどの
4階建て(改修前は屋上の倉庫部分を含めると5階建て、
今回の工事で5階部分は減築し、4階建てになった)の廃墟ビル
〈マルイチビル〉は、商店街にある建物の中でも最もひどい状態だった。

中はカビだらけで、窓は割れ、サッシはサビ落ち、
落下の危険性もあるため針金でグルグル巻きの状態。
増築されたであろう屋上の倉庫には「助けて……」と言わんばかりに
傷んだダルマが顔を覗かせていた。

1階の元飲食店。

1階の元飲食店。

1階の元割烹旅館。

1階の元割烹旅館。

「マルイチビル、どう思う?」と佐野さん。
壊れた天井のスキマからは、型枠の木の模様が転写されているコンクリートが見える。
そんな素材としてのコンクリートに魅力を感じて、
「僕は好きです。コンクリートがかっこいいし、
一番ヤバいところから手をつけるのはいいっすね」と回答した。
「よし、やるか」と佐野さんの決意を皮切りに、このプロジェクトは立ち上がった。

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ビル、買っちゃう!?

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値段は車1台分? カジュアルにビルを買う

マルイチビルのオーナーは商店街で小売の店舗を営んでいた。
数年前までは1階のみ最後のテナントの居酒屋が入居していたが、
退去してからは廃墟となっていた。毎年固定資産税が出ていくだけで、
更地にしても相場通りには買い手がつかない建物であり、
ほかにいい選択肢もなく、悩みの種になっていたという。

佐野さんはこのビルを借りるのか、買うのかを検討していた。
相談したのが熊本の山野工務店の山野潤一さん。
彼は熊本市内で活動する建築家で、まちなかの建物を
飲食店やショップとして再生させ続けている。

山野さんの「人のビルに改修費を出すよりも、自分で買ってやったほうがいいよ。
思う存分できるから、買っちゃえよ、ビル」というアドバイスのもと、
佐野さんは購入の決意を固めた。
オーナーと佐野さんは長い間同じ町内で親交があったため、
交渉はスムーズに進み、土地と建物を合わせて、約600万円で売買が決まった。

かつては商店が集積し、地価や家賃も上がり、アーケードを整備したり、
再開発で共同ビルが新築された吉原商店街。
いまでは土地の価値は下落し、築古の建物自体は無価値に等しく、
更地化のために解体分はマイナスの評価を受ける可能性もある。

マルイチビルは、土地面積20坪で価格相場が坪40万なので、
約800万から古屋つきのマイナス評価で約600万という考え方で金額が決まった。
中心街の真ん中にある4階建てビルが、土地と建物含めて車1台分程度の金額であった。

改修するうえでは、さまざまな人が多様なスタイルで参加できる、
人々をウズウズさせるような“余白”をつくることを描いた。
それはできあがる空間やその工程、運営を総合的にマネジメントすることで
可能になると考え、すべてをできるだけオープンに、この感覚を多くの人とシェアして、
楽しみ続けられるような建築企画をつくっていった。

解体しながら図面を復元していく

図面を探して、オーナーや、新築時と改築時の施工業者に問い合わせたが、
竣工図(契約後に発生した設計変更などを反映し、
竣工時点の建物を正確に表した図面)もそのほかの図面も残されていなかった。
内装が残っていたため、図面を復元しようにも、コンクリート躯体の形状がわからず、
どこに床や柱、梁があるのかわからなかった。

まだ構想も定まっておらず、もちろん工務店とも契約をしていなかったため、
自分で内装を解体してみることにした。
もちろん初めての作業で道具もなく、たくさんの人々の手を借りて、
図面の復元をしながら解体しつつ設計をするという、なんとも効率の悪い方法ながら、
毎日がたくさんの発見と新しい知識が身についた時間だった。

大工の友だちには解体のコツや現場のことを教えてもらった。
壁を壊すことも、床を剥がすこと、天井を落とすこと、
大量の重たい瓦礫を仕分けすることも、すべてが新鮮で楽しい経験。
解体途中には展覧会をやりたいという人に出会い、「蜜会」という展覧会も実施された。
倉庫のダルマは、地元の神社でしっかりと供養してもらった。

展覧会「蜜会」

展覧会「蜜会」のようす。

展覧会「蜜会」のようす。

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テナントはどう構想する?

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空間の中にハコを配置する

最初に1枚のスケッチを描いた。
このビルは、シンプルな鉄筋コンクリートの「ラーメン構造」と呼ばれる構造形式で、
各階のコンクリートの床の上にそれぞれ小さなハコを配置した。
ハコの形状は場所ごとにバリエーションがあり、
本棚やベンチ、収納、天窓のなどの機能を持っている。

以下の3点の理由から、ハコのアイデアを採用した。

1 ハコの部分とそれ以外のスケルトン(コンクリート部分)の

素材のコントラストをつくり、空間を調整するため

2 運営によってDIYや小規模の改修をしながら、進化させる余白をつくるため

3 最低限のイニシャルコストで、廃墟から最低限の機能を整備するため

初期構想段階のスケッチ。

初期構想段階のスケッチ。

1階は貸しスペースとして、展示や小さなイベントや店舗のテスト出店ができる。
新規出店が少ないエリアなので、運営しながらテナントリーシングを行う
ハードルが低い仕組みを想定していた。
2〜3階はコワーキングスペース、
4階は富士山の見える屋上がセットで使える飲食店を構想した。

初期段階では知識がないこともあり、
リノベーション時に大きな制約となる法律(建築基準法、消防法、条例等)や
構造を意識せずに構想を作成した。効率の悪い進め方だったが、
建物の高さによって変わる空間の風の流れや光の質、眺めに微細な違いがあること、
それらに対応してどのようなアクティビティをしたら
「最高に気持ちがいいのか」を純粋な気持ちで考える機会になった。

「商店街占拠」のときも感じた、吉原商店街の屋上という特別な空間。
シャッター商店街とアーケードという少し閉ざされた空間から建物の中を登っていき、
最後にはものすごく開けた終着点(屋上)が待っていて、
遠景として圧巻の富士山から駿河湾まで望め、
中景には工場夜景、近景には廃墟のビル群を見下ろすことができるのだ。

設計の最終案では既存の5階は減築し、飲食店は2階にする案に落ち着いたが、
屋上の可能性は今後も探っていきたいと思う。
そして、ついに着工。

足場がかかり、スケルトン解体段階の外観と1階内観。

足場がかかり、スケルトン解体段階の外観と1階内観。

内装の解体が終わりスケルトン状態の3階。

内装の解体が終わりスケルトン状態の3階。

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総工費は…?

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安全性を担保しながら、デザイン性と自由度を探る

工事で難度が高かったのは、解体と耐震補強だ。

静岡県は東海地震の被害を最小限に食い止めるため、
建物の耐震化を呼びかけており、マルイチビルのオーナーも、
建物ユーザーの安全性を最重要課題として耐震補強を行った。
しかし鉄骨のブレースは見た目に痛々しいし、
補強壁をつくると短辺方向に1スパン(支柱と支柱の距離)しかない建物では
圧迫感が生まれ、プランの自由度が失われる。

そのほか、コストや隣地との壁の近さなどを考慮した工法など、
総合的に検討した結果、炭素繊維で柱を覆い、構造を補強する方法を採用した。
さらに、容積率をオーバーしていた5階部分を減築し、
建物の自重を減らす方針は構造的に有利に働いた。

炭素繊維(緑の部分)で補強された柱。

炭素繊維(緑の部分)で補強された柱。

床や木部の塗装など、仕上げ工事はコストを抑えるために
私や施主、地域の協力者たちで行うことを提案した。

一番大変だったのが、建物内部に出てくるコンクリートの壁と天井部分。
劣化したコンクリートの表面は粉っぽいため、4フロアすべて掃除したうえで、
粘性のある透明塗料でコンクリートの表面を塗装した。
そのときは夏真っ只中。エアコンは設置されていたものの、粉塵が出て、
換気の必要があったため、エアコンは使えず暑さで倒れそうになりながら塗装をした。

総工費は耐震補強込みで約3000万円、土地建物取得費用を合わせると3600万円となる。
住宅金融支援機構のデータによると、新築住宅の建築費の全国平均は約3308万円。
住宅を建てるコスト程度で地方中心エリアに家賃収入を生むビルを持つことができる。

こうして、2015年11月になんとか竣工にこぎつけた。

竣工時、表面の凸凹をそのままに白く塗りつぶした外観。(撮影:干田正浩)

竣工時、表面の凸凹をそのままに白く塗りつぶした外観。(撮影:干田正浩)

左:1階と2階をつなぐ吹き抜けとなった階段室の黒板塗装壁面と既存階段。(撮影:干田正浩)/右:4階ワークスペースの「ハコ」。屋上への階段兼ひな壇ベンチ。(撮影:干田正浩)

左:1階と2階をつなぐ吹き抜けとなった階段室の黒板塗装壁面と既存階段。(撮影:干田正浩)/右:4階ワークスペースの「ハコ」。屋上への階段兼ひな壇ベンチ。(撮影:干田正浩)

5階部分を減築し広くなった屋上から眺める富士山。(撮影:干田正浩)

5階部分を減築し広くなった屋上から眺める富士山。(撮影:干田正浩)

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建築家としての仕事のポイント

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事業家をサポートするため、建築家はなにができるのか

最終的に、1階はイベントで活用できるレンタルスペース、
2階に店舗(飲食店)、3〜4階にはコワーキングスペース、
屋上は休憩スペースという構成になった。

完成と同時に私は4階のコワーキングスペースの入居者第1号として、
いまでもここを拠点に活動している。
そしてマルイチビルは完成からもうすぐ5年が経ち、変化を続けている。

暗かった路地にやさしい光を届ける1階の「ハコ」。(撮影:干田正浩)

暗かった路地にやさしい光を届ける1階の「ハコ」。(撮影:干田正浩)

その変化をつくり続けているのは、2階で〈Bird-old pizza house〉を経営しながら、
マルイチビルの運営を行う田村逸兵さんだ。
2015年にオープンして以来、ユーザーの意見やニーズを観察しながら、
DIYで各階のスペースの使い方を変容させている。

また、隣接する路地でブロックパーティーなどさまざまなイベントを企画し、
マルイチビルが常にどのような場所になったらいいのか、
どんな人に声をかけようかを考えている。

そしてマルイチビル完成から4年以上が経ち、周辺エリアにも変化が生まれてきた。
吉原商店街周辺に新規出店した店舗は飲食店を中心に27店舗あり、
特に2019年に入ってから14店と急増している。
マルイチビルのオープンが、この流れのひとつのきっかけになっていたら、
こんなにうれしいことはない。

マルイチビル2階〈Bird-old pizza house〉を経営する田村逸兵さん。

マルイチビル2階〈Bird-old pizza house〉を経営する田村逸兵さん。

店の内装は田村さんのDIY。ピザはクリスピーな生地で具はいつもジューシー。

店の内装は田村さんのDIY。ピザはクリスピーな生地で具はいつもジューシー。

佐野さんや田村さんのように、エリアに変化をもたらすような事業をつくりだす人々は、
常に先駆者だ。彼らの挑戦的な態度を
いかに建築家の仕事としてサポートできるのか? を考えた結果、
いくつかの押さえるべきポイントが見えてきた。

まずは、ローコストであること=建物を再生させるオーナーの負担を軽減させること。
これは、工事費の何%という一般的な建築家の報酬のいただき方と相性が悪い。

建築家は質の高い空間を提供することが職能であるが、
「とにかく最低限のコストでちょっとだけ質を求めたい」
というニーズにはうまく応えることができない。
設計の相談を受ける際に、何度か
「職人さんに直接依頼したほうがコストを抑えられますよ」
とアドバイスすることもある。

次に、既存の建物の状態には、見えない法規的な強い制約がかかるということ。
当時の私は知識不足で、的外れな基本構想をつくったり、
非効率な進め方をしたが、建築の改修計画には専門知識があることによって、
素早く実現性の高い構想を組み立てることができる。
このビルの設計において、建築再構企画の
佐久間悠さんのブログには大変お世話になった。

このエリアで事業を起こしたい人をサポートするために、
その人に適した既存建物を検索し、素早く建築企画を立て、
ローコストにそれを実現させる建築家としての能力を身につけていこうと思っている。

information

map

MARUICHI BLDG.1962 
マルイチビル

住所:静岡県富士市吉原2-11-6

Web:https://www.maruichi1962.com/

事業者:富士山まちづくり株式会社

企画設計:勝亦丸山建築計画  

構造:永田構造デザイン

耐震補強設計施工:コンステック 

施工:カーポス工作所

解体・仕上げ工事の一部:地域のみなさん、オーナー、設計者

構造:鉄筋コンクリート造

階数:地上4階

延床面積:257.91㎡

竣工写真:http://katsumaru-arc.com/02_works/1511_mrb.html

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