連載
posted:2019.10.9 from:福岡県八女市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Hironori Nakashima
中島宏典
なかしま・ひろのり●1985年 福岡県山門郡生まれ。有明高専建築学科卒業、千葉大学大学院修了。2010年より(公財)京都市景観・まちづくりセンターにて、京町家の保全活用、地域まちづくり支援に携わり、2014年に福岡・八女にJターン。まち並み(歴史的な建物)と森(林業)に関連した活動を行う。NPO法人八女空き家再生スイッチ事務局(2014年~)、福岡の森八女の木プロジェクト(2016年~)、歴史的建築物活用ネットワーク(HARNET)事務局(2013年~)、先斗町まちづくり協議会事務局・まちづくりアドバイザー(2014年~)、京都造形芸術大学非常勤講師(2014年~)。
前回に続き、八女の林業活性化をテーマにお送りします。
市民のみなさんにも、まちづくり団体や建築業界にも、
八女で良質な木材製品が生産・加工・利用できていることを知ってもらいたい。
とはいえ、「八女の杉が良いので、ご利用ください!」と口頭で説明しても、
実体験する場がなければ、その良さは誰にも伝わりません。
そこで前回ご紹介した〈里山ながや・星野川〉のほか、
市庁舎、オフィス、賃貸住宅、ホームセンター、
まち並みの修理やイベントなどさまざまなシーンで八女杉を活用し、
八女杉の魅力に触れていただく機会を増やしています。
これらの取り組みは、林業の川上~川中~川下まで、
つまり森のつくり手から製材所や工務店、そして使い手までを含めた
関係者で構成するチーム〈福岡の森八女の木プロジェクト〉が主体となっています。
このチームをつくるために、森林組合や製材所の集まりに何度もお邪魔して
意図を説明し、先進地視察にうかがってノウハウを聞きつつ課題を共有し、
八女杉を利活用するためチーム一丸となって動き始めました。
まずは地元で八女杉の良さを認識してもらうため、
八女市本庁舎の一室(約33平方メートル)を、八女杉を使って木質化リノベーションし、
〈八女市移住定住支援センター〉を設置することになりました。
昭和45年に建築された事務室の天井材を剥がし、
杉板のルーバー(細長い板を枠組みに隙間をあけて平行に組んだもの)を設置し、
八女杉でオフィス家具を制作。お子さん連れのファミリー向けに、
少し遊べるよう八女杉のブランコも設置しました。
単純に木をたくさん使えば良さが伝わるものではありません。
床はモルタル仕上げにし、スギ材との対比・バランスを図ることで、
木の良さを引き立てる空間となりました。
工事は、里山ながや・星野川でも活躍いただいた、
八女市星野村在住の大工・今村俊佑さんを中心に、
地元の若手の職人さんたちが工事を行ってくれました。
こうして2017年に八女市移住定住支援センターがオープンし、
八女の移住希望者をお迎えする空間が完成しました。
市庁舎の廊下を歩いていると、途中から杉の香りがほんのり漂います。
そして突然現れる木の温かみある空間に驚いていただき、
八女杉に癒されつつ、ゆったりと話をしていただけています。
何より日頃から、市役所職員のみなさんに打ち合わせなどで
積極的に空間を活用していただいていることがうれしいです。
建築関係者の方からは、
「これ、八女の木? よか木目をしとるやんね!」という声が聞かれるようになり、
八女杉の良さが少しずつ見直されていることを実感しています。
林業者から製材所、工務店まで、業界全体が有機的につながったチームで
実績が生まれたことも大きな成果でした。
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vol.1~3でご紹介した〈旧八女郡役所〉でも八女杉の活用が行われています。
旧八女郡役所の北東部の空き部屋を八女市が借り上げてリノベーションし、
「林業6次産業化拠点施設」とすべく、工事が行われました。
事務所空間には、八女の杉を活用した内装材や家具を設置し、活用方法をアピール。
既存の空間を尊重しつつ、新たに床、壁、テーブル、パーティション、
照明などのデザインを一新しました。
この空間でも、福岡の森八女の木プロジェクトが主体となって、
林業をはじめ森や木に関心を持ってもらうためのイベントを実施しています。
これまで、杉の枝葉を使った「クリスマスリーフづくり」、
かつて山仕事をする人たちが煎じて飲んでいた杉の葉などを使ったお茶の試飲、
杉の板へのお絵描きワークショップなどを実施しました。
さらに、外部の駐車場塀にも、私たちが用意した
八女杉の板材を活用していただきました。
福岡都市圏で八女材を使っていただく計画も進行中です。
福岡市の賃貸マンション6室のリノベ案件の床に、八女杉を張っていただきました。
それぞれ事務所や住居として利用され、
すぐに満室となるほどの人気ぶりでうれしい限りです。
こうして八女市外での活用も見据えて、
八女域内での使用量より多く伐採を進めています。
福岡市は八女市から車で約1時間圏内(約50キロ)の都市。
今後もリノベ案件で積極的に「福岡の森」の共通資源である
八女材(スギ・ヒノキ材)が使われるよう、提案していきたいと考えています。
福岡市のオフィスでも活用されました。
〈福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)〉のオフィスにて、
2017~2018年の期間限定で、八女杉を使ったテーブル、パーティション、
オフィス用移動式床材などを設置・利用いただき、
会員をはじめ、福岡都市圏を訪れる多くの方々に、
八女材のオフィス家具を見ていただき、実際に利用いただくことができました。
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ホームセンター〈グッデイ〉さんの新店舗の什器にも八女杉を利用いただきました。
新店舗では、レーザーカッターをはじめ、
自由に工作できる設備やサービスが整う〈Gooday Fab〉があり、
そのオシャレな店舗空間の一画に什器が設置されています。
さらにグッデイ主催のキャンプイベント「FUKUOKA MACHI CAMP PARTY」に、
2017年と2018年の2回、ワークショップとして参加させていただくことになりました。
会場は福岡市の舞鶴公園です。
八女杉を加工・製材する際に出てくる端材を提供し、
自由に工作していただくワークショップ。
親子連れの参加者が椅子やテーブルをはじめさまざまな作品をつくり、
笑顔で持ち帰っていただきました。
特に、小径木(間伐材を加工した径の小さい丸太材)が子どもたちに大人気!
椅子・テーブルの足に使われるなど、大好評でした。
そのほか、大工道具である鉋(かんな)を使って八女杉を削って箸をつくる体験や、
大工の今村俊佑さんの協力で行った「小さな家づくり体験コーナー」、
杉の葉線香をつくる〈馬場水車場〉による、杉の葉をこねた「線香づくり体験」など。
子どもたちに喜んでもらえるとともに、杉を身近なものとして
活用法を知っていただく貴重な機会になったと思います。
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福岡県内での活用が少しずつ広がる八女材。
関東圏でも活用されることになりました。
里山・ながや星野川の関係者の推薦で、2018年に茨城県つくば市に新築された
〈春風台の板倉長屋〉にて八女材を活用いただけることに。
設計は、板倉構法を考案された安藤邦廣さん主宰の〈里山建築研究所〉。
メゾネット建築(1階と2階が同一住戸)の4戸長屋×2棟で、
木材量は約150立米(約57トンで、運搬用の大型トラック7台分)となりました。
土台や床材には八女のヒノキ材を、それ以外の木材はほぼ八女のスギです。
担当された大工職人さんに話を聞くと、
八女の杉はこれまで使った杉に比べて格段に重たく、
持ち上げや加工に苦労されたとのこと。
つまり、目が詰まった比重の大きい材で強度も高いということでしょう。
八女の杉の特徴を教えていただいた貴重な機会となりました。
福岡の豊かな森づくりにつなげるため、
説得力あるプロモーションとして実施してきた事例づくりやイベントの数々。
ユーザーや建築業界の一部の人から、地場産材を使いたいという声を聞く機会が
増えてきました。林業の川上から川下までのストーリーを含めて、
材の特徴や魅力を丁寧にお伝えできれば、
しっかりと共感いただけることを実感しています。
これからも八女杉の木目の美しさを生かした内装建築材を、
店舗やオフィス、住宅向けに提供していきたいと考え、さまざまな製品を準備中です。
次回は、八女杉を活用してリノベーションしたゲストハウスについて紹介していきます。
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