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まちにできた
小さなイタリアンレストラン。
地元を元気にしたい店主の思い。
medicala vol.5

リノベのススメ
vol.061

posted:2015.2.15   from:大分県竹田市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

Tadafumi Azuno

アズノタダフミ

1984年大阪府生まれ、福岡県育ち。2007年名古屋市立大学芸術工学部卒。会社勤務後、2010年より1年間の世界一周旅。帰国後、2011年から都内でフリーランスとして活動開始。現在は長野県下諏訪町を拠点に妻のカナコとmedicalaとして活動中。呼ばれた地方で住み込みながら空間つくりをしている。代表作に東京都蔵前のNui.、山口県萩市のruco、長野県下諏訪町のマスヤゲストハウスなど。
https://www.facebook.com/medicala

medicala vol.5
水のまちのイタリアンは本場さながら

前回はマスヤゲストハウス後編ということで、
解体古材を使ったリノベーションの面白さについて書きました。

今回紹介するのはつい最近、2014年11月〜12月の上旬にかけて
施工に入ったプロジェクト。
大分県竹田市のまちの中心、
四つ角にある元クリーニング屋さんの建物をリノベーションした、
イタリアンレストラン「Osteria e Bar RecaD(通称リカド)」のお話です。

「Osteria e Bar」とは、イタリア語で「気軽なレストランとバー」という意味。
カジュアルに訪れてもらいたいという思いに加え、
「RecaD」とは、「Re=角」の意味で、「マチカドの再生」を表しています。

つまり、コンセプトは「人々が集うマチカドの再生」。

昔と比べて活気がなくなってしまった竹田のまちを
「この場所から元気にしてきますよー!」
というオーナーの想いから、このレストランは生まれました。
オーナーは、桑島孝彦さん。
僕らは愛を込めて「クワマン」呼んでいます。

こちらがクワマン。竹田の市内で行われるイベントに出店しているときの様子。

1982年3月生まれの33歳です(2014年12月時)。
東京のイタリアンレストランで修業後、
2012年に「地元竹田市を面白くしたい!」とUターン。
竹田に帰ってきてからは、実家が営む「お米とお酒のくわしま」を手伝いながら、
移住者に空き家を紹介する仕事をしたり、
地元のイベントに屋台を出店したりと、竹田の中でいろいろ動きながら、
ゲストハウス(!?)を始めるために物件を探していました。

そうなんです。もともとクワマンがやりたかったのはゲストハウス。
クワマンと僕は東京のゲストハウスで知り合い、
その後、連載でも紹介したNui.や、
rucoの工事に手伝いにきてくれたクワマンに、
「アズくんにいつか竹田のゲストハウスのデザインをしてほしい」
と声をかけてもらいました。

しかし、なかなかゲストハウスに合うような物件が見つからない。
Uターンして2年経った頃、
レストランにするとちょうどいい物件に出会えたクワマン。
そこで、まずはイタリアンレストランから始めてみることに方向転換!
今回のプロジェクトが始まりました。
もちろん、志はゲストハウスをしようと考えていたころと変わらず、
「竹田を面白くしたい」ということ。

少し話が変わりますが、僕らは常々、
人がまちを訪れるには「3つの理由」が必要だと思っています。
例えば、会いたい人がいる、行ってみたい場所がある、
行ってみたいお店がある、食べたいものがある……など。
なんでもいいのだけれど、3つくらい理由があると、
じゃあ実際に行ってみようか、となりやすい。
会いたい人がひとりいても、
行ってみたい場所がひとつあっても、
わざわざそこまで足を伸ばすまでにはいかないことが多いのではと。

僕らにとって竹田市は、
会いたい人=クワマンがいる、
行ってみたいところ=ラムネ温泉(後ほど詳しく)がある。
しかし、僕たちがそれまで持っていた理由はふたつだけだったから、
なかなかいく機会がなかったのですが、
今回、物件が見つかったタイミングにたまたま九州にいたので
「近くまできたから」という3つ目の理由を携え、
ようやく初めて竹田を訪ねました。

竹田市の紹介を少し。
大分県竹田市は、大分市と熊本県阿蘇市のちょうど真ん中あたりにあります。
どちらからも車で1時間かからないくらい。
市町村合併のため、その面積は大きく、
また集落が分散されているためひとつの集落に多くの人が集中しておらず、
人口密度は52.6人/㎢(平成22年度、竹田市統計より)。
ちなみに長野県下諏訪町は313人/㎢(平成25年データ、下諏訪町統計より)、
東京23区は14,693人/km²(平成27年1月現在、東京都統計より)。
竹田市の人口は下諏訪と同じ規模の約2万3千人。
日本の市の中で見ると75歳以上の高齢化率は全国2位。
(合併前は全国1位だったみたいです)
そんなお年寄りが多いまちですが、
昨年地域おこし協力隊を18人を受け入れたり、
移住者やUターン者がいたり、アーティストインレジデンスを行っていたりと、
まちづくりへの取り組みが活発なまちでもあります。

文化的な遺産としては、難攻不落の城であった「岡城址」が有名です。
(よく天空の城のある竹田城があると勘違いされますが、
竹田城は兵庫県、竹田市は岡城)
クワマン曰く「岡城に攻め込むつもりで行ってみるとスゴさがわかるよ」
と説明するくらい、岡城は強い城だったそうです。
また、滝廉太郎の「荒城の月」の舞台は岡城であることも有名です。
(「荒城の月」が流れるトンネルがまちなかにある)

個人的には、藤森照信さんの設計した「ラムネ温泉」があったので、
竹田市は行ってみたいまちのひとつでした。
焼杉の外壁、銅葺きの屋根の可愛いかたちをした建築です。

ラムネ温泉。

後からわかった竹田の魅力は、なんと言っても「水が豊富」なこと。
竹田市は広いので、市内のいろんな場所で温泉に入れます。しかも安い。
そして、湧き水もたくさんあります。
「竹田湧水群」という場所があり、数種類の湧き水が楽しめ、
それぞれ味が違うため地元の人は「お気に入りの湧き水」があったりします。

竹田市の紹介はこれくらいにして、
オーナーの紹介と、プロジェクトの経緯について説明します。

クワマンが見つけた物件が、こちら。

工事前の外観。

Page 2

クワマンの見つけた物件は、地元の建設会社さんが買い取って、
城下町の景観に合わせた外装工事を行い、
その建物を使ってイタリアンレストランをやるという話でした。
立地的には無料の駐車場も近く、利便性もある場所。
クワマンにとっても外装工事費がかからないので
イニシャルコストを抑えられることは魅力でした。

ちなみに、竹田市では景観に合わせて外装を修繕する場合、
その工事費の一部を市が負担してくれるという補助金制度があるそうです。
僕らは、外装工事に関係する内部の修繕が行われた後、
工事に入ることになりました。

クワマンから竹田について話を聞いたり、
自分たちで竹田の人と関わってみたりしていくと
だんだんと「リカドのあり方」が見えてきました。

クワマンと話をしていて、「いいなー」と感じたのは
こだわるところとそうでないところのバランス感がすごくいいこと。
地元を盛り上げたいというコンセプトを持ちつつ、
竹田のひと・ものだけでつくろう! ということだけにはこだわらず、
「これまで出会ってきた自分の身近な人たちとも一緒にお店をつくりたい」
というクワマンの想いが、感じられました。
竹田のいいものはもちろん使うし、
でも他の地域にいいものがあれば、積極的に取り入れる!
外から竹田に来てくれるひとたちにも、
竹田に住んでいるひとたちにも、楽しんでもらいたい、そんな感じ。

打ち合わせの時に見せてもらったリカドのメニューには、
竹田の自然をイタリアンの知識で有効活用したり、
地元の食材を上手に活用しているものがたくさん。
例えば「長湯の炭酸水(超硬水)で茹でたパスタ」や
「久住塩トマトと湯布院ウラケンさんのモッツァレラのカプレーゼ」など。

メニューはこんなラインナップ。

さらに、水の宝庫のまちですから、さまざまな種類の水を使いわけます。

『竹田市には、祖母山・久住山・阿蘇山と、
三方を偉大な山々に囲まれていて水の宝庫と言われています。
その水にも特性があって
久住山系の水はカルシウムが多く甘め
祖母山系のお水はカリウムが多くさっぱりした飲み口
そして長湯の水は超硬水で飲むにはとても重い水です
各水の特性を考えるといろいろな調理に役立ってくれます』

リカドfacebookより。

水に関する知識もすごいですが、特に長湯(竹田市)という地域に
超硬水(コントレックスよりも硬い水)が湧き出ることが
竹田とイタリアンの相性の良さを物語っています。
日本の湧き水は基本軟水ですが、ヨーロッパでは硬水がスタンダードです。
イタリアンの要、パスタは硬水で茹でるのと、
軟水で茹でるのとではアルデンテの感じが全然違うみたいです。
貴重な硬水を使って茹でられたパスタが食べられるのも、
竹田の自然の恵みです。
こういった情報はfacebookで公開されて地元の人たちに情報提供し、
「竹田の湧き水、もっと使って楽しみませんか?」
というメッセージも投げかけています。
メニューリストを見せてもらって、
熱意を受け取った僕らのモチベーションはあがりました。

クワマンの想いを後押しできるようデザインと工事を進めていきます。

空間のデザインの方向性を決める

クワマンが持っていたお店のイメージは静岡のバール・ビスク
僕は行った事はないのですが、googleで検索してその雰囲気をなんとなく把握します。
この、バール・ビスクのどういった部分が好みなのかを
ヒヤリングしていってイメージが固まってきました。

「直線的で無骨で男らしいイメージ」

僕が持った印象は言葉に表すとこんな感じでした。

イメージを具現化するためには、材料や素材を手に入れなければなりません。
お店づくりには、その人がいままで経験してきたこと全てが詰まってきます。
クワマンにはいままでの経験や人とのつながりを全て、
素材探しや材料探しに生かしてもらいました!
ここで全員は紹介できませんが、作り手のみなさんを紹介していきます。

まず最初に決定したのが、竹田の陶芸家・高木逸夫さん
トイレの洗面ボウルを制作していただくこと。

高木さんの工房で釉薬のサンプルとしてマグカップを見ています。

陶芸家にオリジナルで洗面ボウルを制作していただく場合、
制作期間が1か月はかかることが萩の経験からわかっていたので、
とにかく早く声をかけました。
また、排水部分の加工も簡易にし、高木さんの負担を減らして
楽しく取り組んでもらえるようにデザインを工夫しました。

「お客さんが洗面ボウルと同じ釉薬が
使われたカップを実際に手に取れるといいよねー」
なんて僕の提案が発端で、
洗面ボウルと同時にリカドで使うコーヒーカップも依頼することに。
洗面ボウルは内側が青い釉薬、外側が白い釉薬。コーヒーカップはその逆です。

完成した洗面ボウルがついたトイレ。

コーヒーカップ。

そして、今回出入り口のドアの取手の革やレザーのランプシェードの制作は、
クワマンの古くからの友人、
福岡の革作家、cokecoの田中立樹さんに依頼しました。
実際に福岡のアトリエまでみんなで会いに行って制作を依頼し、快諾していただきました。

cokecoに行ったときの様子。

田中さんにお願いしたレザーのドアノブやランプシェード。

また、cokecoの近くにはEARLY BIRDというアンティークショップがあります。
ここはクワマンの友人でもあり、Nui.の時にお世話になった、
store in factoryの原佳希さんの仲間のお店でもあります。
こちらでリカドで使うアンティークのドアを購入しました。

わかりにくいですが、購入したアンティークのドア右。左はオリジナルで制作。

竹田の職人さんで、
今回大活躍だったのがクワマンの同級生で鉄鋼屋の由布くん。
バーカウンターの椅子のベースや、
棚などの取り付け金具の制作などを依頼しました。

特に椅子の出来は本当にスゴくて、「商品化しよう!」との声も。
由布くんは普段は家具などの制作ではなく、
イノシシを捕らえる檻(!?)などの大型のものを制作している鉄工所の人です。
普段作ったこともない家具を快く制作してくれて、僕らは本当に助かりました!

鉄工所で夜な夜な試作している様子を見学

試作一号。

改良して完成した椅子たち。座面は10種類全て違うもので制作しました。

こちらの座面は竹田の和紙作家さんの和紙を使いました。帆布とちくちく縫い合わせて補強したんですが、これが大変な作業でした。

ご紹介できないほどたくさんのひとに協力していただき、
リカドのピースは集まっていきました。

今回これら集まったピースを組み上げて行く施工部隊はこちら!!

後列左からタロウ、アズノ、クワマン、ショウヘイ、前列左からノリ、カナコ、サユリ。タロウ以外はクワマンとは初対面ですが、僕らの現場を手伝いたいとのことで遥々集まってくれました。

ショウヘイは大工として東京から、
ほかの3人は手伝いとして、タロウは神奈川から、
ノリは長野から、サユリはベルギー(!?)から参加してくれました。
4人をコアメンバーに加えて6人体制で
随時手伝いにきてくれる人も受け入れつつ工事していきます。

Page 3

11月4日に着工したものの、
先に入っていた外装工事のスケジュールが押してしまい内装工事に取りかかれず、
現場の外でできる作業をします。
古材の製材、椅子の座面制作、カウンター材の加工など。
いつも通り地味で根気のいる作業ばかりが続きます。

パレットの製材。製材後の切り口をエイジングして塗装しました。

休憩のひとこま。現場の斜向いに借りていた作業場。

椅子の座面制作。グラインダーを工夫してロクロになるようにしました。

なんと萩からrucoのオーナーのアッキーが手伝いにきてくれました!

竹田の銘木屋さんに眠っていた古材の「桁」をカウンター材として加工しています。

ちょうど現場の外でできる作業が残り少なくなってきた頃、
外装工事がひと段落。早速内装工事に取りかかります。
ここからは目の回るような忙しさで、そしてさらに続く地味でしんどい作業。
ひとつひとつみんなで黙々とこなして行って、
少しずつ空間の表情が見えてきます。
そんな地味な作業の中でのビッグイベントがカウンター設置!!
「桁」を加工したカウンターは推定200kgほど。
大人6人でギリギリの重さですが、
タイミングよくクワマンの甥っ子の高校生が通りがかり手伝ってもらいました!
いい現場はこういう引きの強さがあります。

カウンター設置工事。

手伝いにきてくれた高校生。

天井を古材でヘリンボーン貼り。

綺麗な天井材をグラインダーで削る地味でしんどい作業。

グラインダー作業後のサユリ。木屑まみれです。

カウンター設置後は、棚の制作や下地作りなど、
細かい部分の制作で大工のショウヘイは追われていきますが、
ほかのメンバーは左官や塗装作業に明け暮れます。
今回の仕上げでmedicala的に新しい試みは「鉄板」を使用したこと。
普通に鉄鋼を扱っているところならどこでも買える、普通の鉄板。
図面に合わせた切り出しをお願いして、カウンターの腰壁の仕上げにしました。
竹田の職人さん(この時は電気屋さん)からは
「こんなもんが竹田でもできるんじゃー!」と関心してくれました。

鉄板設置工事。見守るのはクワマンのお母さん。

鉄板施工完了。かなりいい感じです。

こんな感じでバタバタと1か月で駆け抜けた工事は無事に終わり、
Osteria e Bar RecaDは竣工しました。

Page 4

この原稿を書いている時、ちょうどcolocal編集部の方がリカドを訪問。
「カウンター席の距離感がちょうど良く居心地が良かった」
との報告をくれました。

リカドの席は全部で19席。
そのうちカウンター席は10席で、L字のカウンターになっています。
このL字という部分がミソで、
L字の方がI字よりも人の「たまり」の部分ができやすく、
他の人との会話が弾みやすいです。
これはリカドというお店が求める役割の中でも大事な部分なので、
クワマンには少し無理を言ってキッチン設備を減らしてもらって
L字を実現しました。

ほかにもここはレストランだから料理がしっかり並べられるように
カウンターの奥行きが600mm弱と、しっかりとったことや、
キッチンとの境目に壁がないことなどが、
(カウンターにはよくちょっとした仕切り壁がある)
キッチン内にいるクワマンとの距離感を
ちょうど良くさせているのかもしれません。

お客さんと距離感よく話せるカウンターもリカドには大事な要素。
まちのコミュニティをつくることにもなるし、
ひとりでお店をまわすことを考えると
オープンキッチンで店内全体が見渡せるというのは必須なんです。

いつも書いていることですが、
お店は竣工したら完成ではなくここからが始まり。
僕らができるのはその時実現し得る・考え得る最高の空間を用意することだけ。
この先この空間をどう利用していくかはオーナーの腕にかかっています。
1か月間クワマンと一緒にお店をつくってクワマンについてわかったことが、
ちょっと駄目だけど憎めないとこや、抜群においしい料理をつくるところ、
いろんな人に支えられていて人が集まってくる存在だってこと、
竹田が本当に好きなんだなってこと。
そんなクワマンだから、
ここもさらに「良い空間」になっていくんだろうと期待してしまう。
それは、きっとクワマンのことを知っているひとみんなが。

だから、リカドを訪れたひとはきっと竹田を好きになる。
ちょっと駄目で、でも憎めないクワマンと、
文句なしにおいしいリカドでのごはんを理由に、
ぜひ竹田に遊びにいってみてください。

information


map

Osteria e Bar RecaD

住所:大分県竹田市竹田町498

TEL:0974-62-2636

営業時間:17:30〜24:00

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